ふんさいっ! Konara Angle 9/20 13:31
誤字脱字等有りましたら指摘お願いします。
今、私は捕獲員の鬼灯さんの後を着いて歩いています。そうしなければ警察に捕まると遠回しに脅され、説得されたからです。だから、私は後を着いてあるっているのです。どんどん、野次馬の人溜まりが出来ている鞠藻の家から離れていきます。背後から、鞠藻の家の方向から救急車と警察の両方が混じり合ったサイレンが聞こえてきました。野次馬の中の誰かが呼んだのでしょう。そのサイレンが聞き、鬼灯さんは、顔出しておいた方がよかったかと独り言を一回呟いていました。それを左斜め後ろからじーと見ていました。
沈黙。
どことなく、気まずい雰囲気です。何か話した方がいいのでしょうか。
私も何を話せばいいのか、とういうか、私から話して良いのか。その機会、タイミングが来る気配を察することもできません。気まずいと感じているのですが、そう感じているのは私だけで、別に鬼灯さんはどうってこともないかもしれません。そんな人生経験が少ない十四歳の私には難しい状況でした。
二人の足音と雨が降る音、鞠藻の家の前に集っている白と黒と赤の車が鳴らすサイレン。住宅の中に住んでいる人の小さく低い鼓動。そして、鬼灯さんの鼓動の音、そんな、おかしな意味の沈黙が続きます。
ふと、疑問が浮かびました。こんな疑問が浮かぶのは現実逃避かもしれませんが。
それは置いといて、話を聞くだけなのに鞠藻の家から、こんな遠く離れたところまで行って話を聞く必要があるのでしょうか?
確かに鞠藻の家の近くで話を聞くと野次馬が何かしら話に割り込む、茶々入れるかもしれないので、そこから離れた場所に行って話を聞くという事は分かります。でも、こんなに離れなくてもいいんじゃないかと思うのです。尾行されているからかなと考えましたが、耳をそばだてても鬼灯さんの他に近くの道路に立っている人間らしき心臓の音は聞こえません。
やっぱりおかしい。ちょっと不安になってきました。
「あの……どこに行くんですか?」
もう遅いような気がしますが、おそるおそる尋ねます。
鬼灯さんは振り返って私を見て、「ん? 交番に向かっているんだが、こっちじゃないのか?」と確認するように聞き返しました。
私はすぐに、ああそういうことかと自分だけ納得し、合ってますよと返答して、自分が考えていたことが杞憂だったと少しだけ安心しました。
「……なあ、どうして魔女になった友達を助けようとしたんだ?」
さっき私が訊いた質問により、鬼灯さんは、何かを感じ取ってくれたみたいで、鬼灯さんの方から、気まずい沈黙を打開してくれました。案外、気が利く人だなと感じました。そう訊かれた私は、話すと言って、こう着いていっているので、応えないわけにはいきません。
「それは……、友達だからです」
なんて理由にならない、抽象的な返答。テストだったら部分点すらもらえないでしょう。
「困っているから助けて、って言われてか? それとも、本当は手伝わなければ殺すぞ、って脅されて、仕方なくやったとか、そう言う感じか?」
鬼灯さんは、私が鞠藻の事を庇っているのではないかと疑っているようです。私の返答が悪いのでそう思われてもおかしいなことではないのですが。
「それは……、たぶん、違います」
曖昧にぼやかします。それを訊いた鬼灯さんは「はっきりとはしないんだな。自分でも良く分からないってことか」と分析しました。
「脅されてはいませんでしたが、やっぱり、あの姿を見て、怖いとは思いました。私もそうはなりたくない、だから、殺されたくなくて、その場から逃げ出したくて、友人の機嫌を損ねないように、助けようとしたのかもしれません。そう思ってしまったことは認めます。でも友人は――――鞠藻は泣いて助けてってわたしに言ったんですよ」
助けてって、と私は強調するためにもう一度言いました。
「その感情に偽りはない。そう思って私は助けることにしたんです」
「それで助けるか? たかが、中学生二人が死体を隠そうだなんて、無理な話で、すぐに見つかって、捕まるって、すぐに分かるだろ?」
「でも、それでも、私は、助けようとするんです。助けられなくても、助けようとした事が、大事になってくるのだから」
友達を助けるのに、理由も正しさも正義も何もいらない。ただ純粋に助けようとした。だから、助けられなくても思いは届く。
そんな綺麗事を言えたなら、どんなに楽になれるのでしょうか。
そんな言葉を心の底から込めていうことなんて、私には、できません。自分のことが大事で、人に好意をもって見られることも大事な欲張りな私は、感情も損得でしか考えていないのです。だから、助けようとしたけど、駄目に終わるという、最善策を選んだのです。
「まあいいか、嘘か本当かは、伊達さんに頼めば一発だし」
鬼灯さんは追求するのを諦め、さらっと言いました。
…………って、おい。
「それは、どういうことですか? わたしを嘘発見機みたいなものにかけるんですか?」
「ん? そこまで、重っ苦しい事はしないから安心しろ。ただ、そういう能力の系統の能力者が、知り合いにいるから、その人に頼んで、真偽を確かめるんだ」
言っていることの根本は同じです。この人は悪魔でしょうか?
「……卑怯者」
「何とでも言え。で、本当の事を白状する気になったか?」
「何をですか?」
「何で、助けるか」
どうしてここまで食いついて来るのでしょう。別に訊かなくたって鬼灯さんの未来は変わるわけではないのですし。ていうか、後でその嘘発見機みたいな能力を持った人に無理矢理私の記憶、感情などなどを読みとらせるんですから、今ここで訊かなくてもいいじゃないですか。
「……助ける理由となった大部分を占めているのは、殺されると思ったからだと思います。本当に殺されると感じたから、相手を逆撫でしないように、上手く逃げたかったからじゃないかな、と思います」
私は白状しました。お得意の嘘をついてもいいと思えたのですが、後でバレることは確定済み――――って、鬼灯さんが例の能力者と知り合いっていうのが嘘の可能性だってあるじゃないですかっ!? 失敗した!?
もう言ってしまったので前言撤回なんてできやしません。後の祭りです。もう堪忍して最後まで言うことにしました。
「だって、わたしは、鞠藻の幼なじみを奪ってしまったんですから、恨まれて殺されてもおかしくありません。だから――――」
「まて、話が飛びすぎだ。ちゃんと説明しろ」
そういわれ、私は鞠藻と鞠藻の幼なじみ、つづじとの関係を鬼灯さんに話しました。
「……なあ、その鞠藻って魔女になった子って、こう言っちゃあ悪いと思うんだが、計算深くないか?」
「…………」
「なんだか、おまえとその幼なじみの関係をこれ以上進めないようにしているみたいに、わざと、監視してる、邪魔しているみたいに聞こえ――――」
鬼灯さんが最後まで言い切る前に、私は口を挟みました。
「それは、わたしも、なんです」
「……どういう意味だ?」
「わたしが、告白の時、そう、返事をしなければよかったんですよ」
あんな風に、気軽に、うん。って言わなければ良かった。そうすれば、鞠藻が告白するチャンスがあったはずです。私にフラれて傷心になったつづじに鞠藻が優しく受け止め、告白する、という展開もあり得たはずです。
私がそんな気遣いすら、できなかったから、こんな結果にならなかった。
でも、鬼灯さんはそれは違うと反論しました。
「そういうもんは、速いもの勝ちだろ? 告白するのに躊躇っていたおまえの友達の行動力が遅かったからなんだから、おまえが罪悪感を感じることはない。どっかの甘ったるい恋愛ドラマじゃないんだからな」
「だって、鞠藻、友達だって、告白する前からフラれるって決まってるってわかっていたなら、何したって無駄じゃないですか」
「じゃあ、おまえはその幼なじみが好きだったから、返事をしたのか?」
「……たぶん、違います」
そう自分で言って、はっ、と気づきました。鬼灯さんは言いました。
「分かったか? 告白する前にフラれるって決まってるなんて、分かりっこないって事」ぶっちゃけ、物事なら、何にでも当てはまるんだけどな。と鬼灯さんは蛇足を付け足しました。
「確か、そうですね。やってみないと、分かりっこない、ですよね」
私はそうかみしめるようにその言葉を復唱しました。