おうのうっ! Konara Angle 9/20 12:38
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鞠藻に電話した後、私は家に遊びに来たつづじと一緒に、椎が買ったゲームを椎が部活から帰ってくるまでやっていました。その間中、私はつづじと白熱したバトルを演じていました。隣にいるつづじに今日はなんだか様子がおかしいと感づかれないか、自分の心臓が、私みたいな能力の欠片すら持っていないつづじにも聞こえるんじゃないかと思うくらいバクバクと鳴り、変な緊張でコントローラーを握る手から汗が出ていました。
そして、私の演技は成功し、つづじは何事もなくゲームに熱中してました。本当の所、私の演技力より、つづじが鈍感なだけじゃないかと思いましたが、結果オーライということにして、深く考えずに次の行動に移るため、椎の帰りを待ちます。
一時間くらい経って、部活から帰ってきた椎により、強制的にお開きになる展開となり、潔くつづじは家に帰ると言いってくれました。内心ガッツポーズして安堵しました。
その後、私はすぐさま滅多に着ないレインコートを着て、つづじが通るであろう道から遠回りして、肉屋に向かいました。お母さんにはつづじが忘れ物したから届けてくると嘘をつきました。
肉屋に着いて鶏肉を一キロ購入し、急いで鞠藻の家まで、鶏肉が入れてあるレジ袋を腕と共に振りながら、自分が出せる全速力で雨の中を走り抜けました。
鞠藻の家に近づくにつれ、一気に人の数が増えていることが能力によってわかりました。
一つ一つの心臓が気まぐれなメトロノームが鳴らすように刻む、リズムがバラバラに私の耳、頭に入ってきます。そして、あの耳鳴りのようなノイズは聞こえません。私の中で嫌な予感がよぎります。
ようやく着いた鞠藻の家の前には、沢山の色とりどりの傘を差した人々が、何か違う生き物のように群れて、溜まり場が出来ていました。鞠藻の家を見ると私が午前中に来たときには、何事もなくあった窓ガラスが、どうしてなのか全部無惨に割られて、家自体はそんなに古くはないのに、どこか誰にも使われていない廃墟のイメージが第一印象として頭に浮かびました。
私はその光景の前で、愕然としていました。つまり、こう集まっているということは鞠藻が――――
「――――そこのレインコートの女の子」
目の前にいた若い男の人は私に声をかけてきました。はじめは私に声をかけているのだと気づきませんでした。
「おい、大丈夫か?」
「え、あっ、はい。だ、大丈夫です」
少し狼狽えながら平然を装いました。その男の人は私が持っている肉屋の名前がプリントしてあるビニール袋をまじまじと見ていました。その視線に気づいた私は、すぐさま、背後に隠しました。その反応を見て男の人は私に尋ねてきました。
「もしかして、ここの家の子と知り合いか?」
「……はい。そうですが」
「なら事情を訊きたいから、ちょっと着いて来てくれるか? ここだと目立ちすぎる」
「…………」
「ん? 嗚呼、そうだよな。知らない奴に着いてこいって言われて、ほいほいと、着いて行かないよな」
そういいながら男の人は自分のポッケに手を入れて、何かを探していました。
「げ、俺の携帯がない……。また光さんが勝手に盗ったのか……。まあいいか」
男の人は刑事物のドラマとかでよく見る、黒い手帳を私の顔の目の前に出して、開きその中身を見せてきました。それを見た私は、そこにかかれてあった文章を口から漏らしてしまいました。
「機関。捕獲員、ろく、の、おに、とう?」名前は読めませんでした。
「むのほうずきだ」と男の人――――捕獲員の鬼灯さんが訂正し、「これで信用してくれるだろ?」と言いました。
一瞬、心臓がドキンッとなりました。変な汗が体中からでてきます。幸い、雨が降っているので顔に汗が見えても、雨のせいだと騙すことができます。でも、私は内心、ビクビクと怯えていました。
この魔女を捕まえる捕獲員の目には、私が魔女になった友達を匿っているのだと映っているのです。だから、こう雨の中を走ってこの家に向かってきた私を関係者として事情を訊こうとしているのです。私がした事、魔女である鞠藻を匿おうとしたことがバレてしまうのではないか、私も両親を喰い殺した鞠藻と同じ犯罪者となるのではないかと頭をよぎり、大変な事になった思いました。
でもここで、本当のことは言うことが出来ません。そう鞠藻と約束をしたのですから。だから、私は逃げる口実を模索し、揚げ足を取るようにいいました。
「わたし、そんな捕獲員の手帳なんて見たこと、ありませんから、信じられません」
私がぶっきらぼうに言うと、痛いところ突かれたと鬼灯さんは苦笑しました。
「確かにそうなんだろうけど、これ以外に身分証明になる物がないからなぁ」と鬼灯さんは考え込みました。
「じゃあ、これで失礼します」と言い、これ以上は関係ないからと物語るように、くるっと鬼灯さんに背中を向けて元来た道へと戻ろうとしました。
「まあ待て。この事に関係がないなら、本当にいいんだが、もし関係があったらな。えーと、例えば、食べ残しを片づけろとか、助言したら、普通に警察に捕まるからな」
そういわれて私は止まりました。これは単なる脅しだと思い込もうとしても、もし本当だった場合は――――いや、本当でも嘘でも、捕まることには変わらないのではないのでしょうか? 私は鞠藻のやってしまった跡が怖くて、そう助言してしまったのですから、私に非はないとまでは言わないとしても、どう処分されるのでしょうか?
いや、それは捕まってから、嘘がバレたときに、問われる問題ですから、今は全く関係ない話のはず、です。
でも、ここでこうやって立ち去るのは、本当に疑われてしまうのではないかと頭によぎります。
寧ろ、話した方がいいのでは? と思いました。そうすれば、余計に、疑われることも、怪しまれることもなく、軽く済むのではないかと考えてしまいました。
「今回の魔女、お前の友達だな。そいつは、魔女になったから、両親を襲った訳じゃないかもしれない。嫌だったから殺したのかもしれない。もし、そうだったら新たな被害者がでるんだぞ?」
鬼灯さんは私にそういいました。私は鞠藻がどこかに行ってしまったことに、嫌な予感がしていました。もしかして、誰かを殺しに行ったのか、誰かを襲いに行ったのか――。そう思うと、私は、そんな事をする鞠藻を止めてあげなくては、助けると約束はしたけど、これ以上鞠藻にそんなことはしてほしくないと思います。
鞠藻との日常のために、鞠藻が魔女だという伏せるか、それとも、鞠藻の人としての心を助けるか。
私は、友人のためになる、と“私が”思う方を選びました。
「……ごめんなさい。嘘ついていました。だから。信じて鬼灯さんに着いていきます」と私は観念したよう言いました。
「そうか、信じてくれてありがとな」と鬼灯さんは微笑みました。私はなんだか、ちょっと負けたような気がしました。
「どこに行くんですか?」
「ここだと、野次馬が多すぎて訊きづらいし、話しづらいからな。静かで、誰かに訊かれない所まで移動するだけさ」
鬼灯さんは鞠藻の家の前に屯している野次馬から離れて、私に近づいてきます。
「そういえば、名前は?」
「佐藤こならです」
「“こなら”か」
鬼灯さんが初めて私の名前を呼びました。この時は名字ではなく、名前を呼ばれても特に何も感じませんでした。鞠藻に指示してしまったとことで、共犯と思われていると怯えていたから、それ以外は何も考えることが出来なかったのです。
「じゃあ、行くか」そういって鬼灯さんは歩き出しました。
私は、その後を、どこかの罪人のように、少しうなだれながら、ゆっくりと着いていきました。