おうのうっ! Striga Angle 9/19 19:05
誤字脱字等有りましたら指摘お願いします。
魔女草のトップ、鈴とナンバー2の紫苑は、暴力の魔女、葉々子が逃げた後、例の男の子を探しに、雨雲によって月が隠され、月明かりのない暗い夜道を歩いていた。
紫苑は昨日見た天気予報で、明日には雨になることを知っていたので、早めに例の男の子を捜索を切り上げ、泊まるネットカフェを探そうと思い、途中からそこを目指し闇雲に歩いていた。
空が明るい方向に向かえば、大体はネオンや看板、街灯によって昼のように明るく照らされている国道や大きな通りがあるので、そこに向かえばネットカフェくらい一件はあるだろうという適当な算段で向かっていた。明るい方を目指して歩いていたのだが、どうやら途中で道をはずれたらしい。道なりに進んでいくと、明るい方からどんどん遠ざかって行き、そして今に至る。
一方で、鈴は街灯もない、暗い夜道で、何かよからぬものが見えそう、聞こえそう、動きそうなので、怖くてビクビク小動物のように怯えていた。
(強制的に)先頭を歩いている紫苑からは、後ろを歩いてる鈴の表情は振り返って確認しようが暗くてわからない。だが声色からして泣き出しそうになっているのが知りたくなくとも、わかる。
「ね、ねぇ、ししし紫苑ちゃん? くく暗いし、ああ足元みえないくてあ、あ、あ、危ないから、て、て、手を、つつつなごうよ?」
紫苑は毎度の事なので特に反応もせずにただ呆れていた。
「……あなた、それでも自衛隊を壊滅一歩手前まで陥れた魔女ですか?」
「ぐずっ、東城さんなら、東城さんなら、いっつも危ないからって、手繋いでくれるのに〜」
「私より年上なんですから、しっかりしてくださいよ」と紫苑は呆れながら言った。
「紫苑ちゃん。それは偏見だよぅ。年上でもしっかりしていない人だって沢山いるんだからぁ」
「いや、それは胸張って言うものじゃないでしょ?」寧ろ、恥じれよ、と内心でつっこむ。
「紫苑ちゃんにだってさぁ、怖いものとか嫌なものとかあるでしょぅ? それを押し付けられたら嫌な思いするでしょぅ? なら、今のわたしの気持ちがわかるはずでしょぅ?」と鈴は本格的に泣き始める。
「何ですか、その三段論法は? 分かりましたから、泣かないでくださいよ」大の大人がみっともない、とは喉の少し手前でなんとか止まり、言ずに済んだ。
「手繋いでくれるのっ!?」紫苑は無視した。鈴はうっ、うっ、とすすり泣き、草むらで何か物音がするとぎゃっ!? とビビっていた。
紫苑はこれ以上進んでも、道が分からなくなるだけだと見切りをつけて、元来た道を戻ることにした。
振り返ってみると、そこには、前方と同じ暗闇。
「………………」
暗すぎて、元来た道すら戻れなくなっていた。
「…………今日、泊まれるの?」紫苑が明らかに迷っていると察して、心配になった鈴が訊き「分かりません。最悪野宿ですね」と紫苑は真顔で素っ気なくすごい決断をした。
「明日雨なんでしょっ!? 風邪引くから必ず泊まろうよっ!?」
「大丈夫です。私たちは魔女なんですから、風邪なんて引きませんて」
「心配するところが違うっ! それに女の子二人で野宿だなんて危ないってっ!」
「私を誰だと思っているのですか? 血煙の魔女ですよ? そんなことを私たちにしようとする輩は、私が文字通り、血煙にしてあげますって」
「何その自信!? どうして、紫苑ちゃんはいつも血生臭い解決案しかないのっ!?」
「じゃあ、近くの民家に押し入って泊まりますか?」
「絶対に住んでいる人を血煙にする気だよねっ!? それっ!?」
「流石の私でもそんなことはしませんよ。鈴さんの前では」
「わたしが居なかったら、やる気だったんだーっ!!」
「どれ、犬でも探しましょうか」
「急にどうしたの!? 捕まえたわんこを何につかうの!? 民家の人を脅すために、目の前でそのわんこを血煙にする気なの!?」
「ええそうですよ。犬が嫌なら猫にしますか?」
「肯定したーっ!! その前にわんこかにゃんこの問題じゃないっ!」
「あのー、そこの漫才しているお二方」
きゃあきゃあ騒いでいた二人の後ろから、男の子が話に無理矢理入って声をかけてきた。その男の子は年は小学五、六年、薄い青のポロシャツに迷彩柄のカーゴパンツ、白いスニーカーを履いていた。鈴はその声が探していた男の子だと分かるとふるふると体をふるわせながら喜び、その男の子の名前を叫んだ。
「葛く〜んっ!!」
抱きついた。
葛の顔は双丘に埋もれた。
やれやれと紫苑はゆっくりと二人に近づいていく。
鈴は小学生並の背の低い葛の頭を両腕でホールドして、合いたかったよ〜、見ないうちに大きくなったね〜、と言っている。葛は鈴の胸に顔を埋もれて窒息しそうになり、ジタバタもがいていた。
「で、そこのマセガキは何のようか?」
紫苑が軽蔑の冷たく鋭利な視線で、鈴の胸で顔を潰されている葛を睨む。
葛は顔を上げ「なんでそうなるんだよっ!?」と突っ込んだ。
ようやく葛は鈴のホールドから解放された。それから、みっともないから、そんなことしないでくださいと、割ときつめに紫苑に怒られしゅんと落ち込んで大人しくなった鈴が訊いた。
「葛くん、わたしたちに何かようなの?」
「そうだったんだけど、僕は君たちがどんどんと離れて行くから、不安になって追ってきたんだよ」
今回は君たちの手を借りないといけなくなっちゃってね。人手がたりないから。と葛は付け足す。
紫苑が「そっちには、黒宮さんや中野栄さん、捕獲員のエースだった詩髪杏がいるじゃないか?」と疑問を言う。
「ふきと杏は、君たちが勧誘に出遅れた魔女の方に行っていて、まだこっちに来ていないんだ。なんかごたごたがあったらしいよ? だからこっちにいるのは椿だけ」
「椿さんだけで十分じゃない? あの人十分強いし」と鈴が言う。
「確かに能力や強さだけなら、椿だけでもいいんだけど、人手が足りないんだよ。これは能力強さ云々の問題じゃないからね」
「それで、私たちは何をすればいいんだ?」と面倒くさそうに紫苑がきいた。
「帰らずに、いつも通り勧誘活動をしていて欲しいんだ。そうしたら魔女を一人、君たちの魔女草にあげるよ。能力は申し分ないくらい強いのをね」
「ありがとう! 葛く――――」鈴は葛に抱きつこうとしたが紫苑に止められてた。紫苑がどうしてなのか訊く。
「どうしてそこまでしてくれるんだ? それに魔女って、あの葉々子っていう暴力の魔女をか?」
葛が暴力の魔女に会ったんだ、と言って続ける。
「えーと、理由はいつも辛い仕事を手伝ってくれるから、日頃のお礼もかねてだね。そこは素直に受け取ってよ。僕があげようと思っていた魔女は、暴力の魔女じゃないくて、生まれたばかりの魔女なんだけど、そっちも欲しいならいいよ。いらないからあげる。ところで、その暴力の魔女のことなんだけどさぁ、君たち、僕と椿の名前を暴力の魔女に教えた?」
「いいえ」「教えてないよ。わたしの名前も知られてたんだけど、葛くんが教えたんじゃないの?」
暴力の魔女に葛が名前を教えたのではないかと考えていたのだが、どうやら違うらしい。
「君たちも名前を言われてみたいだね。もちろん僕も暴力の魔女とは繋がりないし、僕からも鈴の名前を流してないよ。――――となるとやっぱり……」
「やっぱり?」
「いや、こっちの話。気にしないで。というわけだから、いつも通りよろしくね」
「あ、葛くん。わたし、能力使っていい?」
鈴が葛に能力を使っていいか確認を取る。
「分かった。いいよ。僕からお父さんに説明おくから。でも、むやみやたらに使わないでね」
そういって葛は着いてきて二人に言った。紫苑が警戒した。
「このマセガキ、私たちに何する気だ?」
「……いい加減に信頼してよね。五年前からのつき合いなんだから。君たち今日泊まるとこないんでしょ? だから僕が泊まっているところに連れってあげるよ」
そういった葛のあとを、柔らかく暖かい寝床の誘惑に負けた魔女草の二人は素直に着いていったのだった。