おうのうっ! Marimo Angle 9/20 11:16
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急に母の血液で赤く塗られた固定電話の電子音が鳴りました。
自分はそのとき、重かった母をお風呂場にやっと運び終え、父を運ぼうとしていたのですが、母より重い父の体は、どう頑張ってもそのままでは運ぶことができず、解体してから運ぼうと、包丁で腕や足、首を切ろうしました。首は何とか途中まで切って、後は捻り切って取れたのですが、他の部位は、骨が硬くてうまく切れなかったので、肉を骨からそぎ落として運ぶことにしました。魚の三枚おろしのように骨と肉の両方が見える状態なっていきたところでようやく運べる重さになり、うんしょ、うんしょと運んでいる最中に、その音が自分以外いない家に鳴り響きました。
慌てて片づけを中断し、首と肉がない父を床に置き、電話の前に行きました。見るとこならちゃんの家からでした。ほっとして、受話器を取ります。
「はい、苦竹です」
『鞠藻? 大丈夫?』
やっぱりこならちゃんからでした。
「うんそうだよ。こならちゃん、どうして家に帰ったの?」
こならちゃんは自分のご飯、魔女としての餌としてお肉を買ってくると言い、買い物に行ってくれたはずです。それなのに何で家に帰ったのか、ああそうか、お金足りなかったんだ。と思い、そんなに買わなくても大丈夫なのにと、自分のことを気遣ってくれる気の利いた友人をなんだか嬉しく、誇らしく思いました。そして、そんな友人を騙していることに胸が痛みました。
そう思いながら自分はこならちゃんからの返答を待ちました。
『(こなら〜、つづじ君が遊びに来たわよ〜)』
受話器の向こうからこならちゃんのお母さんの呼ぶ声がはっきりと自分の耳に届きました。
届き、理解できました。
受話器を握る手ががたがたと震え始めました。体中に悪寒が走り回ります。立っているのもやっとでした。
『(分かったからっ!)鞠藻、聴いて、肉屋に行く時に、ばったりつづじとあって』
キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。
『それでわたしがへまって、きょう、まりもとえいがいけなくなったっていっちゃって』
キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。
『ツヅジガアソボウッテサソッテキテ、コトワレナイジョウタイダッタンダヨ』
キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。
『mousukoshishitara、shixi-gakaettekurukara、sonotoki、ohirakinisurukara、soregaowattara、massakinimukaukara』
キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。キタクナイ。
こならちゃんの発していた言葉は、早口の英語のリスニングみたいで、混乱している自分の頭には、聞き取ることができない言語になってました。
『それまで、待ってて?』
ここで自分は我に返りました。
あの時と同じでした。全く同じでした。
好きな幼なじみが友人を好きになって告白して恋人同士になったことを知った時と。
その友人の口からそのことを吐き出された時と。
友人に幼なじみを盗られた時と。
同じでした。
「………………分かった。それは、仕方ないもんね」
『ほんとにごめんっ! 後で必ず行くから』
「分かった」
友人が先に電話を切りました。切れるまでに友人の母のつづじ君が待っているよ〜という声が聞こえました。
自分も同じでした。
嘘をつきました。
「あ、あ、あ、あぁ、あ?」
同じ対応で、した。
友人が嘘をつくわけありません。だってつづじとつき合うときになった時もちゃんと自分に包み隠さず話してくれたじゃないですか。だから、肉屋に行く時、偶然つづじと出会って、遊ぶことになってしまったなんて、なんらおかしくはありません。
本当にそうなの?
友人が嘘をつくわけありません。おかしくありません。間違ってもいません。間違いではないのです。正しいのです。それが正しいのです。絶対にそうです。それ以外はありえません。
二度目だよ?
本当、です。嘘、つく、わけ……あり、ません。
嘘つき。
嘘?
「全部、真っ赤な、嘘、なの?」
崩壊。
「――――――――――――」
自分は狂って叫びました。
そして、家にあるものすべてをめちゃくちゃにしました。
だって、全部嘘なんですから。嘘は壊さなければいけないのですから。
「これもっ!」
割れないように飾ってあった、小学生の時に行った修学旅行で友人とお揃いで買ったコップをつかみ投げ捨てました。壁にぶつかり粉々に光を乱反射させて飛び散りました。
「これもっ!」
友人に勧められて買ったアーティストのアルバムを全部床にたたきつけて、丁寧に力を込めてすべて割りました。
「これもっ!」
友人がおみやげにくれた沖縄の星砂の瓶も、
「これもっ!」
額縁に飾ってあった幼なじみとの写真も、
「これもっ!」
友人と幼なじみと三人で行ったゲーセンのクレーンゲームで取ったぬいぐるみも、
「これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ! これもっ!」
アルバムもデジタルカメラもパソコンもテレビも本もランドセルも制服も時計もテレビも花瓶も絵も水槽も金魚も照明も椅子もテーブルも食器も、
思い出も、
何もかも、
自分が作り上げた、嘘。
父の趣味の野球の金属バットで、家中の自分の嘘を、めちゃくちゃにしました。
「鞠藻ちゃんっ!? 何が――――」
「これもっ!」
騒ぎを聞きつけてきたのか、いつも優しく、会うたんびに手作りのお菓子くれる隣のおばさんの頭をおもいっきり、たたき割りました。
おばさんは目玉と鼻血を飛び出しながら倒れまていきました。まだ、粉々になってないのでなるまでたたき潰しました。
まだ、自分が作り上げた嘘が、残っています。
「全部、全部、全部――――」
嘘なんだ。
†
「まだ爆発するには、ちょっと早いわ。もっとピンポイントにやってもらわないと」
†
「はあ、はあ、はあ」
死体がもう一個増えて、もう処理がめんどくさくなり、諦めることにしました。
この騒ぎを聞きつけて、窓ガラスがすべて割られた家の周りには話題に飢えている野次馬が増えてきました。
「――壊してあげる」
無駄な抵抗もしない邪魔な野次馬どもの間をするするとぬって行き、返り血と硬いもの殴ったせいか凸凹になった金属バットと新しいゴルフクラブをずるずると引きずって行きます。
「壊してあげる。わたしの一番の嘘の――」
返り血で真っ赤に染まった服を着た自分は、
「こならちゃんを」
笑いながら呪いたい程、憎悪してる友人を殺しにずるずると歩いて行きました。
†
鞠藻の魔女としての能力は、支配。
鞠藻は自分の視界にいる生物の行動を支配することができる能力である。動きを止めさせれば、逃げることも悲鳴もあげることもできなくなるのだ。
あのハスキー犬や鞠藻の母や隣人もすべてこの力によって逃げられずにやられたのだった。
その能力は、鞠藻のうまくいかないことを支配したいという願望が魔女としての能力になったのかもしれない。