うそつきっ! Konara Angle 9/20 08:58
誤字脱字等ありましたら指摘お願いします。
次の日。
朝の七時半くらいに起きて、朝食やら済ませたあと、何を着ていこうかうんぬん悩んでいたら、いつの間にか、八時半になってしまいました。ガッテム。
ボーダーのニットのワンピースに黒のレギンスを着て、その他の支度をして、外は残念なことにザーザーと雨が降っていたので傘を差しながら、鞠藻の家に徒歩で向かいました。今日、試合でベンチのつづじのやつは、試合が中止になって喜んでいるのでしょうね。
一人で行くなら、バス代をケチって自転車でショッピングモールに向かうのですが、こんな雨ですし、それに鞠藻が自転車を持っていないため、私もバス停まで徒歩になります。時々、鞠藻のお母さんかお父さんがショッピングモールまで送ってくれたり(しかも帰りも迎えに着てくれたり)して、とても楽ちんなのですが、私的に気が引けるので遠慮したいです。
ややあって、鞠藻の家の前まで、何事もなくつきました。左手首にしている腕時計をみると九時三分を指しています。鞠藻は時間に厳しい人ですが、これくらいなら許容範囲でしょう。
ザーザーと雨が降っています。でもその音は聞こえるはずです。
「あれ? 誰もいない?」
いつもだったら、私の能力によって、家の中にいる人の分、鞠藻と鞠藻のお母さんとお父さん、計三人分の鼓動の音が聞こえるはずなのですが、今日は、鞠藻の家からはそのような鼓動の音は聞こえませんでした。強いて言うならザーとノイズ独特の砂嵐のような音が聞こえてくるのですが、たぶん耳をそばだてすぎて、雨の音がそう聞こえるのだと思います。
苦竹家の車庫には、前に乗せてもらったことがある灰色の車があるので、中に人がいることは確かです。きっと私の能力の不調なんだろうと思い、苦竹と掘られて研磨され、黒光りしている石の表札の脇にあるインターフォンを押します。
すぐに『………………どちらさまですか?』と鞠藻の声が聞こえました。やっぱり私の不調でした。
「こならだよ」そう簡潔に述べると、鞠藻は『中に入って』とか弱い声でいいました。
どうして中にいれるのかとちょっとだけ疑い、雨降っているし、中で待たすよねと考え、特に疑うことなく鞠藻の家の扉を開けました。
前かがみになって、吐きました。
今朝食べた朝ご飯を、玄関の床にびちゃびちゃと吐きました。
吐き終わった後、もう一度見ました。夢でも幻でも幻覚でも蜃気楼でも映像でも模型でもありませんでした。
現実でした。
みまごうことなく現実でした。
「ねえ、こならちゃん?」
その廊下の奥から泣き疲れ窶れきった顔で鞠藻がでてきました。けれど彼女の心臓の音は、まだ私の耳に届きません。ノイズが酷くなっていく一方でした。私は体中恐怖と気持ち悪さで震え、胃の中すべて吐き出しても足りなくくらいの吐き気がまだ襲い、体が思うように言うこと聞いてくれません。
「……何、これ」
私は一方的に鞠藻に訊きかなくてもいい質問をします。
「おかーさん。と、おとーさん」
鞠藻は表情を変えないまま平然と答えました。やっぱり、その通りでした。
「どうして、こうなったの?」と私が訊きます。
鞠藻は「わたしが、魔女になったわたしが、やったの」といいました。
魔女? 鞠藻が魔女? 魔女って、あの?
「人喰いの、魔女になったの」
人喰いの魔女。
そう、鞠藻は自分の存在を確かめ確認するように呟きました。
「ねえ、こならちゃん」
疲れきった顔で返り血で汚れた服で私に近づき、現実を吐いて進入を拒んで出た、私のとしゃ物の前で、私と目線を合わせるために座って、私の右手を血にまみれた両手でそっとつかみ、自分の胸、その内側に心臓がある場所へ押しつけました。
服は濡れていて想像以上に冷たく、一瞬その冷たさに驚いてビクッと驚きました。体温がまるで感じられない。それくらい冷たかったのです。
冷たさよりも、その奥にある動いている物。それは動いてませんでした。もしくは、ありませんでした。
ノイズが頭の中でガンガンと痛いくらい鳴り響きます。
鞠藻は、やっと表情を、変え、泣きながら、尋ねました。
「どうしたら、いいの?」
その後ろには、人と思われるものが、二つ仲良くぱっくりと中を開いて並んで置いてあり、その中の部位は花火のようにまき散らさせてフローリングの床、壁紙、天井間で飛び散り、真っ赤なアートとなっていました。そのグロテスクなアートからは血とその他諸々の物の臭いが強烈に放っていました。
私は答えずに訊きました。
もう、この凄まじい光景に、思考回路は簡単にショートして、頭では何にも考えられない状態だったのです。それに鞠藻が近く付くにつれてノイズが増し、その大音量よって、さらに頭が使い物にならなくなるほど痛かったからもあります。
後から気づいたのですが、これが、彼女にとって正解だったようです。
「……鞠藻はどうしたいの?」
そう訊きました。
鞠藻はか弱い声で言いました。
「……助けてほしい」
そういわれた私はすぐに行動に移すことにしました。
「よし、今日はショッピングモールに行くことを止めよう」
何の躊躇いもなく、あっけなく、友人を助けることになりました。
どうして人喰いを助けるんだとか、そんな詳しく無粋な理由は必要ありません。理由なんて“友達だから”という簡潔で不都合な理由で済みます。
損得勘定でやれる程、それは、甘いものではないのです。
外はザーザーと雨が降っています。
その雨が、私の嫌いな甘い世界を壊さず、トロトロと溶かしていきました。