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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第二章 Mywonderworld Breaker
61/121

うそつきっ! Marimo Angle 9/19 18:13

誤字脱字等ありましたら指摘お願いします。

 家に帰ってからすぐ、夕ご飯の支度を台所でしている母にただいまも言わずに、自分はお風呂場の脱衣所に一目散に逃げ込みました。そのわずかな間、夕ご飯を作っていた母には会わずに済みました。

 すぐに犬の血、肉片、脳漿がかかった制服を破るように脱いで、洗濯機の中に投げ入れ、近くにあった洗剤をあるだけ、入っているだけ、だばだば洗濯機の中に入れて、蓋を閉めて、蛇口を捻り、洗濯、強のボタンを連打しました。洗濯機が汚れを、全てを、洗い始める為に動き出したところで、ひとまず安堵し、緊張の糸が切れて、強ばった体の力が抜けて洗濯機に寄りかかりながら、ずるずるとその場に座り込みました。

 ふと目線が近くなった床を見ると、後先考えずに洗剤を入れたせいか洗剤の空のボトルや空箱が転がっています。その空になったボトルには漂白剤と書かれていました。他にも混ぜるな危険と書かれています。一瞬、硫化水素がでるんじゃないかとちょっと焦りましたが、どうせ魔女なんだから死なないかと、簡単に諦めました。

 

 魔女。

 心臓がない。人を食べる。体温がない。ちょっとやそっとじゃ死なない。

 そして、超能力が使える。

 そう、こならちゃんのような能力が、自分にも使えるのです。だけど、自分が持っている能力は、人をも簡単に殺す能力なのです。

 人を簡単に喰い殺すための能力なのです。 

 自分が空想の怪物になり果てるなんて考えもしませんでした。そんなの自分とは全く違う、遠くに生きている自分とは全く関係もしない生き物がなる、テレビの中の怪獣みたいなものだと思っていたのでしょう。だから、魔女になった子があの機関の収容所に入れられるの拒むのが全く理解できませんでした。みんなの都合のために個人を捨てるという意味を一方的にしか考えられなかったからです。

 今、その個人を強制的に実感して、個人を捨てるという意味を理解しました。 

 そんなの、誰だって、どんな人だって、無理で、考え方によってはそれは刑罰なんじゃないですか?

「鞠藻、どうかしたの?」

 脱衣所の鍵がかかっている扉の前で、母が自分の安否を確認しにきました。すぐに帰るや否や、脱衣所に飛び込むように逃げた娘の様子を見に来たのでしょう。

「何でもないよ」と虚勢を張っていいました。

「何でもない分けないでしょ! 急に洗濯機を動かすなんておかしいわよ!? 何があったか説明しなさい!」

 おかしいのでしょうか?

 誰がおかしいのでしょうか?

 本当に何でもないのでしょうか? 

 

 違う。

 何でもなくない。

 助けてほしい。

 こならの幸せとつづじの幸せを、自分の幸せと塗りかえ、喰い潰した嘘つきな自分を。

 魔女になった、こんな自分を。

「ねえ、おかーさん」

「……どうしたの?」

「わたし、魔女になったんだ」

「………………それは、ほんとうなの?」

 自分は鍵を開けて、扉の少し開けて、その間から右手を母に差し出しました。母は震えながら、魔女になって、血流が回らなくなり冷たくなったの右手に触れて、手首の動脈を指で押さえて脈を測り始めました。

 もちろん、心拍数、0。

「ねえ、おかーさん。わたしはどうなっちゃうんだと思う? 昔、わたしに噛みついた犬しか食べていないけど、この先、誰かを襲って、食べちゃうのかな?」

「………………」

「ねえ? 答えてよ。おかーさん」

 言われた通りに、ちゃんと言ったよ? 

 初潮が始めてきたときのように、優しく、ちゃんと、教えてよ。

 その時と今は同じ状態だよ。

 同じ血塗れだよ。

 だから、だから。

 


 助けてよ。



「いやぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁ」




 母の選択は、逃亡でした。


 †


「おっと、危ない。誤爆するところだったわ」


 †


 ぐぅ〜。


「――お腹空いた」


 がちゃりと自分はその壁を開けて、受話器で110すら押せなくなっている程、取り乱している母の元へとのっそり向かいました。その途中、台所で包丁を三本を持ち出しました。手で肉を剥ぐのは難しいとあの駄犬で気づいたからです。受話器の前で泣きながら、怯えながら、今から魔女になった娘をあの機関に引き渡そうとしている母がいました。体に力がはいらないせいか座りこんで、怯えて、恐怖に泣いています。

「ねえ、おかーさん。わたしが今一番欲しい物、分かる?」

「は、え、ほ、んとは、元に戻りたいんでしょ? だか、ら、鞠藻、あな、たは、政府の、ところに、いっ、て戻る、治療、方がある、はずよ? だから、そこで、治して、もらうのが、一番、なのよ?」

 泣きながら怯えながら、母はほざきました。

 母は、自分の命のための選択をしました。

 それを聞いた自分は落胆し、とても悲しくなりました。

「残念でした。わたしが一番、欲しかったのは」

 


「誰かの、こんな嘘つきでも、知って、愛して、差し伸べてくれる、そんな人の、温かい手だよ」

 

 そんな都合の良い幻想が一番欲しかったのです。


「おかーさん。掠りもしなかったね」

 包丁で切られた首からスプリンクラーのように血管から血吹き出し、固定電話と自分、辺りを真っ赤にペインティングしながら、母は車に引かれたヒキガエルの最後の声みたいな、気持ち悪いうめきごえを上げながら倒れました。


「愛よりも、自分の命が大切だよね」


 そうだよね。おかーさん?

 

 でもね、自分は、違うんだよ。

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