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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第一章 Shall We Dance With Cannibalism?
6/121

あんぐらっ! Masaki Angle 9/18 11:57

誤字脱字などありましたら指摘お願いします。


 ばにらさんには僕のパーカーとハーフパンツを貸した。僕自身背がそんなに高くはないし(低いとは言わない)、細いので服のサイズも小さいので、多少大きくても、そこまで目立つことはないと思ったからだ。着替えた彼女は元の体のラインが良いからなのだろうか、男物とは思えないくらいうまく着こなしていたから、何か問いつめられない限り、怪しまれる心配はない。

 少ししてから、僕らはばにらさんの衣類と食料の買い出しに出かけた。

 行き先は近場のショッピングモールにした。そこなら大抵のものは全てそろっていると言っても過言ではないくらい、いろいろな店が入り交じり、女性物の服を扱っている店なら沢山あるからだ。一階にある食品売場で食料の買い出しもできる。食料の買い出しをするのは、一人増えて、家にある食料が底つきそう、というわけではなく、家にある分では足りない食品があるからだ。それを買いに行くためでもある。なんと言っても彼女は魔女なのだから、僕と全く同じ物を食べるわけにわけにはいかない。

 二十分ぐらい住宅地を歩き、ショッピングモールに着いた。ショッピングモールの中に入ると、魔女がまだ彷徨いていると注意がテレビ等で流れているせいなのか、いつもは平日でもそれなりに賑わっているのだが、買い物客がほとんどおらず、閑散としていた。

「取りあえず、これくらいでどうにかして服とか肌着とか、必要な物を買ってきて。食べ物は僕が買ってくるから」

 そういい、ばにらさんに三万円を渡す。ばにらさんはそこまでしなくていって遠慮し、渡された三万円を僕に押し返してくる。僕はばにらさんに触れないように注意しながら、取りあえず受け取った。

「……こんなにいらないよ。服はこれでいいし、肌着とかは……我慢するから。それにこんなに借りても返せないし・……」

「いいから、いいから。はい」

 一瞬で返された三万円を、ばにらさんに触れないように着ているパーカーのポケットに素早く突っ込んだ。

「全部使いきってもかまわないよ。ばにらさんにあげるつもりで渡したんだから。じゃあ僕は食品売場に行ってくるから、買い物が終わったらここで待ち合わせって言うことで」

 一方的にばにらさんに集合場所を伝えて、僕はばにらさんに追いつかれないようにそそくさと一階の食品売場に向かった。

 ばにらさんに三万を渡すことに、ためらいなんてモノは微塵もない。だから、心配すること何もない。別に彼女がそのまま三万を盗って、どこかに消えたとしても、僕は騙されたと腹をたてたりはしない。そのままいなくなったら、なったで、僕はそれでいいし、なんだ嘘だったか、と笑い飛ばせる。たった、それだけで済むと考えられるなら、僕は罪悪感を感じることなく、明日を迎えられるのだ。三万で済むなら、僕にとって、安いものだ。

 

 僕にとって、魔女である彼女を救えない罪悪感の方が、自分の命と同様にも重いのだから。

 

 すぐに食品売場についた。そこには業務用の冷凍食品も置いてあり、何より値段が安いので、僕は自炊や、時たま、弁当のおかずを買いによく足を運ぶ所だ。

 僕は魚介類のコーナーに向かい、安く、そして、量が多い生魚もしくはある程度保存の利く冷凍物を探す。牛とか豚、鳥でもいいのだが、沢山の量を買うと結構値が張るし、それにその行動が直接的過ぎて魔女を匿っているのではないかと怪しまれてしまう。だから、量も値段もリーズナブルな魚介類にした。

「何かお探しのようですね」

 しばらくすると定員だろうか女性が話しかけてきた。僕は振り返ってその店員を見た。

 話しかけてきた女性は若く、二十歳前半くらいだろうか、長いストレートの黒髪、灰色のワンピースに黒のレギンス着ていて、僕と同じくらいの身長でにっこりと微笑みながら僕を見つめている。僕は一瞬、動揺した。綺麗な人、どこかの令嬢みたいだ、とそんな好印象な第一印象が浮かぶ。

 そのあとなぜか、この女性にずっと前に会ったような気がする。何時、何処で、何で、どうして会ったのかは思い出せない。

 それよりもおかしなことに気づいた。

 ところでこの人は声をかけてきたんだ?

 この服装からして、絶対にここの店員ではない。そんな服装でも少なくともここの店のロゴが入ったエプロンをしているはずだ。

 じゃあ何で話しかけてきたのだろうか?

「あのー、あなたは誰ですか?」

 僕が恐る恐る尋ね、その女性は右手に手に持っている落ち着いた色合いのバックから、黒い手帳らしきもの取り出して僕に見せた。

「私、こういう者なんですよ」


 心欠落障害調査機関

 

 捕獲員


 有佐 百合子


 機関の捕獲員っ!

 僕は内心で動揺した。こんなに近くに捕獲員がいるとは思いもしていなかった。迂闊だった。体中から冷や汗が出てくるが動揺を表情に表さないように注意しながら、気を紛らわす用に僕は平然を装い、尋ねた。

「その、捕獲員が僕に何のご用ですか?」

「ちょっと気になって声をかけたんですよ。まあ、一種の逆ナンだと思いください」

 ナンパでこの捕獲員手帳を見せるのかよ。合コンで自己紹介するときのネタだと勘違いしていませんよね? 確かに食いつきはいいかもしれないけど。

 内心、この理解不能な状況に耐えきれず、泣きそうになった。

「……すごいブラックジョークですね」

 僕は恐れず突っ込んでみた。

「ええ。うふふ」

 百合子さんは笑った。良かったと、何故か僕は安堵した。

「実は、魔女が餌につられてこう生物が並んでいる食品売場にやってくることがあるので、餌につられてきた魔女をあわよくば捕まえようと、ここで張り込んでいたのですが、やっぱり来ませんね」

 百合子さんは、勝手に、何故、ここにいたかを親切に説明してくれた。

「はは、そうなんですか」

「あなたも気をつけてくださいね。まだ魔女が彷徨いているのですから。――それと、どこかであなたとお会いした事がありませんか? 本当は、どこかでお会いしたことあるな~と思って、声をかけたのですが……」

 急に百合子さんは僕にどこかで会ったかと訊いてきた。

 当の本人、僕は、これは本当にナンパされているのだろうかと緊迫感のないことをちらっと思っていたりしていた。絶対に無いな。うん。

「へ? さあ、僕にはさっぱり――っ!?」

 そうだ、思い出した。

 この人は、あのときの新人捕獲員と言っていた人だ。

 僕はあのことを思いだし、体中がふるえ出し、脂汗が止まらなくなる。呼吸も荒くなっていく。苦しい。くそっ、余計なことまでも思い出してしまった。

 百合子さんは首を傾げて、何処で会ったのか思いだそうとしている。思い出せないのか僕に尋ねてきた。

「あの、失礼ですが、お名前は?」

 僕はつっかえながらも答えた。

「遠藤 雅樹、です」

「エンドウ マサキ……、っ!? あの時の……」

 さすがに名前を聞いて思い出したようだ。そりゃ、一回聞くだけで、記憶に残るよな。あれは。

「ええ、そうです。あの時の馬鹿なガキですよ……」

 僕は皮肉に、そして観念するように言った。

「あの……ごめんなさい。その、あの事を思い出させてしまって」

「いいんですよ。気にしてない、とは言い過ぎですけど、ある程度はなれましたから」

 そう強がるように僕は言った。

 本当は全くなれてもいないし、最近になってさらに悪化してきたのだが、百合子さんに心配はかけたくはないないので、虚勢を張ることにした。

 百合子さんは心配するように言う。

「そうですか。ここであったのも何かの縁ですし、何かあの事で心配な事とかありましたら、私に連絡してください。携帯電話は持っていますよね? はい。これが私の携帯番号とメールアドレスです」

 そうして僕はされるがまま、会話の流れで、携帯を出し、百合子さんの携帯番号とメアドを登録する。

「他の人に、自分が辛いと思っていることを言葉にして吐き出すことで、気持ちが楽なるらしいですよ? それは、人それぞれだと思いますが、私でよければ、いつでもお相手になってあげます。それにあの事の話なら、少なくとも一般の人よりは、詳しく事情を分かっていますので、気軽に連絡してください」

 そう百合子さんが心配してくれている中、僕の頭の中であの光景がフラッシュバックして何も考えられなった。胃の中で何かが暴れて、口から逃げ出そうとしている。

 一刻も早く、この場から立ち去りたい。

「ありがとうございます。僕、ちょっと急いでいるんで、それでは」

 僕はそういってこの場から立ち去ろうとした。思い出話に花を咲かせるべき雰囲気なのだろうけど、その思い出が絶対に他愛もない話に発展しないし、ここで長々話すべきで内容ではない。そんなことを話していたら僕が発狂して、死んでしまう。

 唐突に百合子さんは僕を呼び止めた。

「あ、そうだ。もう一つ。お節介かもしれませんが」

「はい?」

 僕は振り返って、百合子さんを見た。

 

「魔女に食べさせる餌は切り身より、内蔵系の方が喜ばれますよ?」

 

「…………」

 僕は固まった。

 気持ち悪さも、さっきまで何考えていたのかも、すべて吹き飛んだ。ある意味、最高に効果的な治療方法だった。

 動揺するな。もしかして、完全に疑われているのか、これは会う人全員にこうやって鎌を掛けているのか、もう分からない。だが、動揺だけはしてはいけない。そう自分に言い訊かせる。

 だが、引っ込んでいた吐き気が再び強くなり、嗚咽する。

「大丈夫ですか?」

 百合子さんが心配して近づいてくる。その表情は子供を諭すようなそんな微笑みで僕を見ていた。

 寄ってくるなと言わんばかりに僕は、大丈夫です、と突き放す口調で言い、百合子さんから距離をおいた。

「それと、さっきのは凄いジョークですね。びっくりしましたよ」

「ええ。うふふ」

 百合子さんは笑っていた。性格悪いな、と感じた。

「では、お仕事がんばってください」

「はい。お体にお気をつけて。あと、気軽に電話やメールしてくださいね。なんでも相談に乗りますから」

 僕は一目散にトイレへ、逃げるように向かい、個室に入り、吐いた。殆ど胃液しか出てこなかった。口の中に胃液の味が広がる。

 そこでうずくまり、恐怖が体から去ってくれるのをひたすら待った。

 三十分後、だいぶ気分が楽になった僕は何事もなかったように、トイレから出て、ばにらさんとの待ち合わせ場所へと向かう。

 たぶん、彼女は僕と違って、ちゃんと買い物をしているだろう。

 でも、少し足が震えていた。

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