うそつきっ! Marimo Angle 9/19 17:46
誤字脱字等ありましたら指摘お願いします。
自分は嘘つきです。
「なあ、明日本当にお前ら応援にくるのか?」
隣でつづじがあたふたしています。なんか、可愛らしい。
「え〜。こならちゃんだけの方がいいの? 彼氏さん?」
「いや、こならだけとか、そういう問題じゃなくてな……」
この慌てっぷりから察して、つづじはやっぱりベンチのようで、試合に出してもらえるかどうか、わからないようです。活躍もないのに、彼女が応援に来るなんて、彼氏としてはとっても苦痛なのでしょう。
「ふふ、嘘。明日はこならちゃんと一緒に、映画見に行くの」
「なんだよ……。慌てて損した……」
自分はその落胆したつづじにふふ、と笑いました。
こならちゃんとわかれた後、気がつくと辺りは、どんどん暗くなってきたので、つづじと一緒に帰ることにしました。つづじの家と自分の家は同じ方向なので、途中まで一緒に帰ることになります。
「なあ、鞠藻」つつじが、急にもじもじしながら、訊いてきます。
「何?」
「あいつ、何か欲しいものあるって言ってなかったか?」
つつじにそう聞かれ、そういえば、こならちゃんの誕生日が近いことを思い出しました。つづじはその日に、こならちゃんにプレゼントを渡すつもりなのでしょう。
彼女への“想い”を。
「プレゼントは自分で決めなさい。それにわたしも渡すんだから被ったら嫌でしょ?」
「そうだよなぁ。でも、女子が好きなものってどういうものか、さっぱりなんだよな」
「取り合えず、iPod nanoをプレゼントしてあげれば、大抵の女の子は喜ぶよ?」
「………いや、性別関係ないだろ? ていうか、お前が欲しいだけだろ」
「うん。だから、私の誕生日まで覚えておいてね。足りないならバレンタインデーの時に義理チョコもあげるから、そのお返しも含めて、その合計で」
「さいですか……」
「うん」
おしゃべりしながら歩いていたら、いつの間にか,つづじの家が見えてきました。楽しいと、時が立つのは早いものです。
「じゃあ、また来週な」
「うん。また来週」
そういって、つづじと別れました。
自分はとぼとぼと自分の家を目指して歩いていきます。
「つづじの鈍感」
取り合えず、鈍感なつづじを罵ってみます。声に出すと、なんか悲しくなってきました。
こならちゃんは、自分の事を大人っぽいと言ってくれました。自分としては、こならちゃんの方が何十倍も大人だと、感じるのですが、自分のことは、自分が一番わからないものなのかもしれないと思いました。
こんなわからない自分が、嘘で塗り固めた自分が、大嫌いで仕方がありません。
いっそ殺してしまいたいくらいです。
つづじがこならちゃんと付き合う事になったとき、こならちゃんは、自分に付き合うことになったと、わざわざ報告してきました。
冷静になって考えてみれば、それはこならちゃんが、信頼できる友達だから嘘をつかず、隠し立てせずに、打ち明けてくれたことだと思います。だけど、そのときの自分の心中は、そんな友情を打ち切るかもしれないのに、嘘をつきたくないからと、覚悟して話してくれた友人を、叩きたいほど、いっそ殺してしまいたい程、憎みました。
なんで、自分は我慢しなければいけないのか、自分の方がつづじを好きなのに、何で? どうして? と嘆きそうになりました。
でも、ここでそういったら、自分の負けで、この先の関係は総崩れ。
すべて、何もかも失ってしまう、と感じました。
だから、自分は感情を押し殺して、よかったねと言いました。偽りのほほえみを浮かべて、祝福しながら、内心、憎みました。
そして、その日の夜、一人で泣きました。
友達、幼なじみ、幸せ、日常、崩したくないもの全ての為に、自分の想いをすべて、撃ち殺しました。それはとても痛くて、冷たくて、氷柱を体にぐさぐさ刺しているような、心が穴だらけになっていく痛みでした。
だから、自分は嘘つきです。嘘をついて、大切な友と、大切な彼の日常を守っているのです。自分の心を、嘘の明るい色の包帯でくるんで、傷を隠して続けているのです。その日常が続くことを喜びと偽って、傷ついて、その傷を嘘の色の包帯で巻いて隠して、生きています。
いつか、その傷が、致命傷になってしまう。その時まで。
「あなたの人生って、ほんと、つまらないわね」
急に、背後から、女性の声が聞こえました。自分は声がした方へ振り返ります。
そこには闇夜に溶けるような黒いロングコートと黒い帽子を被った全身真っ黒な髪の長いとても怪しい女性が立っていました。表情は暗くて見えませんでした。
「あなたは、誰、ですか?」と自分がおそるおそる尋ねます。が、その黒い女性は答えませんでした。
「好きな友人のために、好きな幼なじみのために、自分を押し殺すって、聞こえが良いけど、案外つまらないものね」
「……?」
この人の言っている意味がわかりません。きっと、自分は不審者にあったのだと思い、この場から逃げようとその女性に背を向けようとしました。
「それって、絶対に負けるから、そうやって逃げるのよね?」
………………ホドケオチル?
「そんな自分が、悲劇のヒロインになったときの建前を言うためにわざと逃げたのよね? あなたは?」
ウソガ、ウソノイロシタホウタイガ、ホドケオチル?
「“逃げる”を選んだことで、負けることなく、逆に勝っちゃったのよね? あなたは?」
イヤダ、イワナイデ。ソレイジョウハ、
「だから、その幼なじみと付き合った友人は、あなたの想いを知っているから、可哀想なあなたのことを思って、進展も、何もできずに、それ以上は進めないようにあなたがしたのよね?」
「やめてっ! そんなの嘘よっ! そんなのこれっぽっちも思ってないっ! あなた、私のことなんて知らないくせに、何勝手なことを知っているように言ってるのっ! 私はっ! 私はっ、私は、」
自分は何故か叫んでいました。どうして、こんなにイライラしているのかわかりませんでした。
きっとこれは、子供が正論を言われて、だだこねているようなものでしょう。だから、その先は、
「私は? その先は、何?」
私は――――
支離滅裂で、言い返す言葉は、すべて、言い訳にしか聞こえません。
あれ?
私は――――何?
「あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!?」
ぐちゅっ。
「あなたは嘘つきよ。とっても意地汚い、ね」
自分は嘘つきです。
とっても嘘つきです。
どうしようもない、嘘つきです。
†
「お母さんがやることは、ホントつまらないわ。もっと刺激がほしいのよね。話がハチャメチャになるくらいの時限爆弾みたいなのが、ね?」
†
ぐう〜。
「――お腹、空いた」
気づいたら、自分は何故か、道路の真ん中で寝転がっていました。何が起こったのか、記憶にありませんでした。痛みも特に何も無いので、何にも無かったのでしょう。そう言うことにしておきました。
ばう。ばう。ばう。
横目で、庭に放し飼いされている灰色と白のハスキー犬、名前は確かゴン。何年か前、逃げ出した時に自分の右足に噛みついた犬、その毛と肉の塊を見ました。その犬は庭を囲っている鉄製の黒い柵から口の先を出して自分に一心不乱に吠えています。
それが、とてつもなく、美味しそうに見えました。
ゴンは急に吠えるのをやめて、その場に伏せをしました。
自分はゆっくりとその餌に近づいて庭を囲っている鉄製の柵の間から腕を延ばし、ゴンの目玉のある場所に人差し指と中指をひっかけて、ずるずる引きずり、柵ぎりぎりまで寄せて、両手で毛皮をはぎ、でてきた頭蓋骨を近くにあった石で割って剥がし、脳漿と脳を堪能しました。豆腐みたいな触感で舌の上でとろけて舌触りも良く、とても美味しかったです。
一つ食べ終わって、次は中身を食べるために口の中に手をつっこんで、中身をぶちぶちと引きずり出しました。今まで柵が邪魔だったので食べづらかったのですが、かき出して中身を取り出したので、非常に食べやすかったです。中は味はとてもまろやかで噛みごたえのあるとても美味しいものでした。
あと残ったゴンの体から染み出る赤い体液をすすりながら、ちびちびと毛と皮を剥いで、堅い筋を食べてました。これも以外といけます。
ある程度満腹になったところで、我に返りました。
目の前にある自分が、今さっき美味しく頂いた頭がぱっくりと割れたワンコの残骸を見ました。
そして確認するために血に染まった手を胸に当てました。
その中にある心の蔵はありませんでした。
やっぱりさっきの出来事は夢ではなかったようです。
「私は、やっぱり、魔女になったの?」
自分はその場から逃げ出して、一目散に家に帰りました。