うそつきっ! Konara Angle 9/19 17:29
誤字脱字等ありましたら指摘お願いします。
「――ふざけるなって言いたくなるよね」
私は鞠藻と下校途中に寄った公園のブランコに座って、ぶらぶらしながら、グチります。
説教は、とある一人の可哀想な加害者でもあり、先生の怒りの矛先を無情にも向けられ、被害者にもなった奴が、先生から急に問われた質問(その子に対して、どう思うのか?)の回答を、沈黙という答えを出したせいで、先生の怒りのエネルギータンクにガソリンを追加で注いでしまって、一時間に渡り、最後は原稿用紙二枚以上の反省文という重い宿題で解放されました。畜生。
ていうか先生、今日は大事な職員会議だったのに、間に合ったんですか?
そんな、自分の身まで削ってまで、改心させなくてもようと、熱をいれなくてもいいのに。
そんなことしても、彼らには、無駄だって言うのに。
だって、誰一人、罪悪感なんて、感じとれるはずもないんだから。
その後の掃除は通常通りあって、鞠藻と帰る約束をしていた私は一人、ぽつねんと図書館で暇をつぶし、鞠藻の掃除が終わるのを待ちました。少しして掃除が終わった鞠藻が、おわったよ〜と、図書室にやってきました。私は、途中まで読んでいた本を借りて、一緒に下校しました。その時には空はきれいな茜空になっていました。
で、この小さい体中を巡り巡る、うっぷんをグチで晴らすべく、こう寄り道して道草食っているわけです。
「でも仕方ないじゃない? みんな年頃なんだから」と鞠藻は苦笑いで言ました。鞠藻が苦笑いだったのは、私が一方的に先生の悪口を言っていたからでしょうね。
「そう思える鞠藻がすごいと思うなぁ。私なんかすぐにイラッとくるのに」
鞠藻は一瞬きょとんとして「そう? 自分ではそうは感じないけど」
「感じないからこそすごいんだよ。大人っていうのかな? わからないけど、なんかそれがすごい」
みんなより、一歩進んでいる。先に進んでいるのに、後ろを向いて、私たちのことも見ている。私は手前ある出来事を処理するだけで精一杯で、周りを見ることすらできないのに、それ以上をそつなくこなしているこの友人が時々、すごいなーと思うときがあります。
「そうなのかなあ? こならちゃんの方が大人な感じがするけどなあ」
「それは違うよ。私はただ冷めてるだけ」
このまま人格論(?)を討論してても、鞠藻が謙遜気味に自分のことをいうだけで、一向に終わる気配がないので、結論が出ないまま、ぶっつりと終わらせます。
「明日さぁ、部活とかなくて暇だから、どこか買い物にでも行かない?」
「うん、いいけど、こならちゃんは、明日のつづじの試合の応援しにいかないの?」
確かに明日、野球部は大会があって、大きな球場で試合をやると、彼からから言われていましたが、
「なんか、来るなって言われた。せっかく部活も休みだから、行ってやろうと思ったのに」
きっとつつじはベンチなのでしょう。もしかしたら、そのベンチにすら入っていないのかもしれません。そんな出るか、出ないか、わからない試合なんて見られたくないですよね。
鞠藻が言います。
「ふーん。じゃあ、新しくできた方のショッピングモールに行こうよ。映画も見たいし」
あの鞠藻が好きな俳優が出ている、恋愛物の映画だなと頭の中で浮かび、鞠藻にタイトルを言ってみたら、それ、それが見たいのと返してきました。私は前にその原作を読み、どんな風に映画化されているか気になったていたので、その案に乗ることにしました。
「わかった。明日、何時くらいに鞠藻ん家に行けばいい?」
「九時くらいに着て。その時間に行けば、お昼のに間に合うから」
「オッケー。……ん?」
私は誰か、公園に近づいて来る人の鼓動が、徐々に聞こえてきました。この音の感じは――
「つづじ?」
鞠藻が公園には行ってきたその人物を見つけて言いました。
「正解。やっぱりすごいね。こならちゃんのその超能力」
「まあ、ね」
こんなちんちくりんな私でも、一応、超能力者とかっこよく呼ばれる存在であるのです。その能力というものが、自分の周辺にいる相手の心臓の鼓動を聞くことができるというもので、どんな壁があろうが関係なく、近くにさえいれば心臓の鼓動を聞くことができるものなのです。と、威張れるほど、かっこいい物ではないですが。
この地味な能力は、何の役に立つかというと、このように近づいてくる親しい人の姿を見ることなく、誰だか当てることができるのと、ストーキングされていることに、一早く気付くことができる、あとは曲がり角で出会い頭にごっつんこ、というシチュを回避できるくらいです。
ろくな使い道が全くない、ぶっちゃけ、マジシャンがやるマジックの方がすごいし、かっこいい。そんなつまらない能力です。
私が他の人に、この超能力のことを伝えても、信じてくれずに終わることが多いのですが、この友達はすぐに信じました。ついでに、そういう契約やら、うまい話があったら、絶対に私か、誰か他に信用できる人に相談してから決めなさいと教えてあげました。
泥だらけで、所々茶色に汚れた白い野球のユニフォームを着た、重松つづじが近づいて来ます。
「あれ? こならと鞠藻じゃん。こんな時間まで何してんの?」
つづじは私たちとは別なクラス、といっても三クラスしかないんですが。そういうわけで、つづじはあの説教のことを知らないみたいです。
「うっぷん晴らしてたんだよね〜?」「ね〜」
私と鞠藻はおかしくてケラケラと笑いました。つづじは一人置いて行かれたように首を傾げています。
それから私たち三人は他愛もない話をしました。内容は先ほどあった説教のことですので、特筆することは特にありません。あえていうなら、女子二人分のグチをつづじが一方的に聞く、という部活終わりの肉体的にも、精神的にも、疲れきった彼にとって、さらに精神的にくる辛い状態でした。
そうして、話していると、辺りが茜色の夕焼けから、少しずつ、暗くなって夜がやってきます。
「暗くなってきたから、先に帰るね」
私がおひらきの合図となる台詞を発しました。この三人の中で、私の家が一番遠いのです。
「うんわかった、じゃあまた明日ね」
「うん、また明日。つづじも明日頑張れよ〜。鞠藻といっしょに応援しにいってやるからな〜」
置き土産がてら、つづじを茶化しました。私は走って、二人から遠ざかります。
「えっ!? お前ら、明日くるのかっ!?」慌てているつづじは、隣にいた鞠藻に尋ねます。
「うふふ、つづじ、四番なんでしょ? 楽しみだな〜」鞠藻もいい性格してます。
「本当に来なくていいからなっ!?」
つづじの叫び声が聞こえました。
う〜ん。青春っぽい。
†
私たちの関係は、どういうものか、知りたい方と思いますので、簡潔に説明したいと思いますね。
三角関係です。
きゃー。
………………。
えーと、詳しく説明すると、私と鞠藻が友達で、鞠藻とつづじが幼なじみ。そして、私とつづじが付き合ってます。
そんないびつな三角形。
確か最初は、私と鞠藻と友達になって、鞠藻にくっついてきた、つづじが、何かの拍子に私に惚れてらしく、必死に書いたと思われる恋文を私に手渡したんです。今時、こんな手紙を書く人なんているんだと思いながら、彼をここまで駆り立てるほど、私のことを想っているんだ。と、色々考えている内、ここでフったらつづじが自殺すんじゃないかと感じて、次の日、私は、うやむやに返事を返してしまいました。つづじがその返事をイエスと勘違いして、喜んでしまいした。そして、私はあとに引けない状態になって、もういいかと、いうことになって、この関係図形が形成されました。
それから、付き合っていると言っても、まだ恋人らしいことは何もしていません。
だって、心から好きじゃない人と、キスとかできる程、私は大人じゃありませんし、はなっからそういうことは、全くわかりません。
わからないくせにこんな遊びをしているのです。
でも、わかっていることは一つだけ。
鞠藻はつづじのことが好きだった、ってことです。
知ったというか、私が付き合う前に直接聞いたのですが。
鞠藻につづじに告白されて、そして付き合う事を報告しました。いずれバレるよりは、先に話した方がいいと思ってのことでした。
その報告を聞いた鞠藻は、微笑んで、よかったねと祝福してくれました。
そのとき、私はこの人には勝てないと感じました。
だって、鞠藻がつづじを好きといった時、私は彼を貶していたんですよ? それなのに、鞠藻は私たちが付き合うというのに、好きな人を盗られるというのに、私がまじめに考えていないというのに、自分を押し殺して、彼の幸福の為に、祝福したのです。
感服です。私には、いや、同年代の子たちには、そんな選択をできる子なんていません。すごすぎる。そのくせ私は、幼稚園児くらいのちっちゃい子みたいに幼稚すぎて、情けなすぎると身に染みました。
そんなことがあって、それでも、私は彼を好きにはなれず、私たちの関係はそのまま続いています。
大人でも壊れる、簡単に拗れる図形なのに、たった一人の大人な彼女が守りきったのです。
私はなんだか自分自身が惨めに思えてきました。
鞠藻に優しさに頼りきって、この日常を繋いでいるだけの他人任せの私が、惨めで、そして、この状態で何処まで生きていけるのか、わからなくて怖いのです。
だから、怖くないように、崩れないように、悟られないように笑い合います。
友人の優しさに甘えて、私は平然と嘘を吐き続けます。
私の甘ったれで嫌いな世界は、甘そうで頑丈で、どこまでも平凡に回り続けていくようです。