おしまいっ! Hunters Angle 9/19 07:12
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「…………雨か」
ポツポツと鬼灯の顔に曇り空から落ちた雨が当たる。長い間、仰向けのまま硬いアスファルトのうえに寝そべっていたせいか、体中が痛い。流石に早く怪我が治る能力を持っても、持続する刺激には回復が追いつかない。
雨がさらに強く降り出した。その雨は冷えた鬼灯をさらに冷やしていく。
鬼灯は起きあがらずにただ曇り空を眺めていた。時々、目に雨が入り空が滲むが、気にせずに眺めていた。なんとなく起きあがるのが億劫でしかたがない。そんな気分だった。
すると急に曇り空が傘によって隠された。
「鬼灯さん」
自分の名前を呼んだ少年は持っている傘を鬼灯の顔に雨が当たらないように差してくれている。その隣には、その少年が雨に当たらないように、少年よりちょっと背の引く少女が傘をもう一本差している。
「なんだ、榊といちりか」
この二人は鬼灯の同僚にあたる捕獲員の桐里榊と矢本いちりである。確か百合子がこっちに応援にくるって手配してたな、と頭の片隅で思い返す。
鬼灯は起きあがることなく話を進める。
「こっちに来るの早すぎないか?」
「何言っているんですか。もう朝の七時ですよ」
うんざりとした口調で榊は言った。
「……そうか。わざわざ来なくても、俺の携帯にかければいいだろ?」
「鬼灯さんの携帯が、ずっと圏外でつながらなかったので、こうやって探し回っていたんです」
鬼灯は携帯を取り出して無事かどうかを確認した。無惨にも金槌で潰されていた。きっとあの道化の魔女の仕業だろう。これではいくらかけてきても無駄だ
意識がうつらうつらになりながらも、鬼灯は発する。
「なあ」
「はい?」
「俺さ、母親が娼婦で、俺がどこの男とやって出来たのか、分からないそんな子でさあ。母親は、俺が小さい頃から邪魔で邪魔で、仕方がなかったんだろうな。いっつも殴ったり、蹴ったり、切ったり、落としたり、煙草の火を押しつけられたり、色々と虐待されてたんだ。でも、俺って、能力で怪我の治りが異常なまでに早いだろ? それのせいで、俺が虐待されているって周りの人は誰一人も気づけなかった。しかも母親は、それをいいことに、どんどん虐待はエスカレートして、まあ、色々酷いことをやられた。一番酷かったのは熱した油に手をつっこまされたことかな。あれは治るのには一週間はかかったな。そんなゲスな母親は、俺を機関に売り込めば金がもらえると、どこからか知ったらしく、未練なく、中古品を売るみたいに、俺を簡単に売り飛ばした。俺としては、機関に引き取ってもらったあとの生活の方がよかったから、文句よりは、皮肉にも売り飛ばしてくれたことを心の底から感謝しているけどな。それは置いといて、それから俺は虐待されていた分の時間を埋めるように、雑学として本を読むようになったんだ。その中で、虐待された子供は、その子供が大人になって、自分の子供が出来て親になっても、その子供を虐待するケースがあるっていうのを知ったんだ。そのときの俺は、俺みたいな不幸な奴が増えるなら、俺は一生独身でもいいって思った。自分の子に対して、あのゲスと一緒のことをしてしまうのが嫌だった。それにどこの馬の骨とわからない父親と性病かかっているかもしれない母親から生まれた俺が、子供を作るなんて、その子供がそんな奴らの遺伝子を受け継いでいるのが可哀想で、だから、そんなことはしないって、このまま独りで生きてやろうって息巻いた。強がったってみたんだろうな。だから、気づかないフリをしたんだ」
「……それをどうして、ボクたちに言うんですか?」
「言いたい奴に、言えなかったから」
「…………そうですか」
「それと傘はいらないから、持ち帰ってくれ。あと、もう少したら帰る。先に戻ってろ」
でも、と榊が言おうとしたが、隣にいたいちりに止められる。
「じゃあ、先に戻ってます。傘はここに置いておきますね」
榊といちりは、鬼灯を置いて、先に戻っていく。遠ざかる足音が鬼灯の耳にはいる。
すると誰かが近づいてきた。
「……いちり、どうした?」
何故か、榊の隣から絶対に離れることをしない、いちりが寝そべっている鬼灯の元へ傘も差さずに戻って、鬼灯を見下ろす。
「……女々しい」
「…………」
「……どこで泣いたって、格好悪くはない。寧ろ、人前で、格好悪いからって、平気な振りして、泣かない方が、私には、感じ悪く見える、気がする」
「……確かに……そうだな。でも……、だから、先に行っててくれ」
「………うん」
いちりはそれだけを言って榊の元へと向かった。
鬼灯の耳に雨がアスファルトに当たる時に鳴る音しか聞こえない。
まだどんよりとした曇り空だ。今日一日止みそうにないくらい空を覆い隠しているが、雷は流石にならいだろう。
止めてあるバイクは大丈夫かどうか榊に訊けばよかった。どうせ、盗まれてても、あいつと一緒に乗るために買ったようなもんだから、もういらないか。
「……はぁ」
雨は何も流してはくれない。
所詮、只の高い高い上空から降ってくる、水滴だ。
「俺は」
大切なもの、の愛し方が分からくなって、自ら手で、壊したくなかっただけなんだよ。
怖かったんだよ。
また鬼灯の視界が滲む、雨が強く降り出して、目に当たるのだと鬼灯は偽った。
高い高い上空よりも、遙か遠くからは、何も落ちては来ない。
そこに向かって行ってしまった、愛おしい彼女の想いが、その欠片が、そこら落ちてくるのを鬼灯はずっと待っていた。
雨は降り続いた。
きっと、止む日は――
<Shall We Dance With Cannibalism?> Closed