あんぐらっ! Masaki Angle 9/18 10:37
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ちなみに僕は高校生のくせに一人暮らしを満喫している。
元々は別のマンションで叔父さんと叔母さん、その二人の息子の従兄と、四人で暮らしていたのだが、叔父さんが地方へ転勤、その息子の従兄もこれまた同じ地方の大学へ入学、叔母さんもそれについて行った。そのため、僕ひとり、ここに残して、部屋は、前のマンションよりも、狭い一人暮らし用の部屋を借り、ここに住むことになったのだ。僕としては、トイレと風呂場が別であれば、なんでも良かったので、最近出来たばかりのきれいなこの部屋は、かなり満足している。
なんて都合の良い設定?
違う。
この部屋は、檻のない牢屋だ。
どう考えても、あの家族には、僕という異端者は邪魔だったのだ。
だから、一人、ここに、残したのだ。
もう人生の最後まで、僕に、出会わないために。
[10時37分]
「はあ、雅樹の家に来てもつまんないな?。なんでゲームとか、パソコンとか、トランプとか、人生ゲームとか、ドミニオンとか、サンダーストーンとか、カルカソンヌとか、操り人形とか、マンガとか、えっちな本とか、ないのかな?」
僕と珠奈は部屋にある数少ない娯楽道具のテレビを見ていた。
珠奈は部屋に上がるなりベッドにダイブ(年頃の女の子として、その行動はいいのか?)して、一悶着あったが、それにも飽きたのか、今の彼女の興味は僕がつけたテレビへと移っている。
「なんで、エロ本を遊び道具としてとらえているんだよ? それと操り人形を二人でやるのは辛いよ」
操り人形は確かに面白い。しかし、ある程度人数がそろわないと面白くない。ていうかその前に持ってない。
「え? 男友達の部屋に入ったら、えっちな本の捜索するは、よくある展開でしょ? あ? そうか、雅樹はアニメとかも見ないもんね」
エロ本を見つけて目読、みたいな展開はあるかもしれないけど、遊びのジャンルとして確立してねーよ。……その辺、疎いからわかないけど。
珠奈はテレビから、部屋にある数少ない娯楽――『手軽で、美味しい、弁当のおかず』というタイトルの料理本を読みはじめた。うん、友達の部屋でやることなくなった奴の末期症状だな。
僕は、珠奈からテレビの画面に視線を向けた。テレビの中では、ひっきりなしに魔女について、評論家たちが熱いディベートを意味もなく、繰り返していた。チャンネルを変えても、他の局もそんな感じの討論番組で、僕好みではなく、ちっとも面白くない。そりゃ昼だもんな。若者の感性にはちょっとばかり無理がある。
だから生放送で評論家がダブルブッキングしてないかな? と、見るくらい、超強引な楽しみ方で暇をつぶす。要するに、全く面白くない。
こういう評論家たちは偉そうに言っているだけで、特に何にもしないで、訴えかけて、ただ出演料もらってんだよな。何のために討論やってんだよ(ギャラのためだけどね)。お茶の間の方々に共感を与えさせたって、あんたらが言っている通りになることなんて、有りもしないだろと在り来りに心の中で罵る。
そろそろ別な番組に変わっているかなーと、再びチャンネルを変える。さっきまで見ていた討論やらとは違い、魔女についてニュースキャスターが事細か丁寧に分かりやすく説明していた。まあこれもよくあるタイプの物だ。新型インフルが流行った時にどう対処すれば良いのか、お茶の間の細菌とウイルスを同じ物と思っている無知な方々に講義する為の物だろう。
その間、僕と珠奈は会話をすることなく、ただ暇つぶしに、僕はテレビを見て、珠奈は本を読んでいた。
ついに暇になり過ぎたのか、この場の気まずくもない、何ともいえない空気を変えたいのか、珠奈が本からを顔を上げて僕に話しかける。
「魔女ってさ、あたしと同じくらいの年の女の子が突然なっちゃうんだよね?」
「世間一般的にはそう言われているね。なっちゃうというよりは勝手に改造されるの方が正しい気がする」
仮面ライダーやサイボーグ009みたいにと僕は例を挙げた。珠奈はピンとこなかったようで反応が薄い。なんだかショックだった。
「それにしても、魔女が人を襲って食べるは、その魔女の意志でないって強調しすぎじゃない?」
珠奈が疑問を呈する。僕はテレビの討論家よろしく答えた。
「どちらも被害者、ってことを暗示させたいんだよ。魔女に襲われた方の遺族が、魔女の方の親族ともめ事を起こさない為にもね。魔女の方も理性を失って、人を襲っちゃうらしいから、食べたくて人を襲う訳ではないし」
「ふーん」
「そもそも、魔女になりたくてなるわけではなく、何者かに襲われてなるものらしいよ。それに人を襲う理由も、たまたま近くにいたのが、人だったから、という単純な理由だ。だから、そこは仕方がないというのか、なんというのか。魔女になった子を同情してやるべきだと僕は思うんだけどね」
珠奈が反論するように言う。
「でも、魔女になれば、人を殺しても仕方がないってことにしたらさ、魔女になって、嫌いな奴を食い殺してやりたい、と思っちゃう子もいるんじゃない? ほら、それこそよくある二重人格になりすまして、殺人を行う、みたいな感じでさ。年頃の女の子なら、そう考える子もでてくるんじゃないかな?」
「年頃の女の子って……、珠奈は含まないの?」
こいつは何様のつもりだ? まあ人のことは言えないので追求はしないでおく。
「模倣犯が出てくるってことだよね? そういう身勝手な奴がいるから、成りたくないのに魔女になってしまった子が理不尽に叩かれて、可哀想になってくるんだよ」
「確かにそれは分かるけど――」
話を遮るように珠奈の携帯が鳴った。今流行りのアップテンポな曲だ。珠奈がお母さんからだ、と言い携帯を取り出して画面を見た。
「魔女がいるから家に籠もってろ。って書いてあるんじゃない?」
僕が本文を推測し尋ねる。珠奈は携帯を見ながら嫌そうな顔をした。
「うげっ、今日の夕飯の材料買ってきて。ついでに洗濯物溜まってるから、洗濯して、ってメールが着やがった」
この無頓着な親子はいったい何なんだ? 食われても文句言えないぞ? とは一切、口にはしなった。珠奈は、はあ、とため息をついてベッドから立ち上がる。
「なんだ、もう帰るのか?」
僕はわざと名残惜しそうに言った。早めに帰ってくれるなら、バレずにすむ。
「何っ? 買い物、手伝ってくれるとなっ!?」
珠奈がきらきらと僕に期待の視線を送ってくる。早とちりしすぎだろ。
「いやいや、珠奈の寄り道は絶対長そうだから、パス」
「けっ、期待したあたしがバカでした」
珠奈はそう吐き捨て、立ち上がり帰る支度する。ていうか寄り道する気満々だったんだ……。てっきりしないから手伝って、とでも言うと思っていたので身構えていたのだが、無駄になった。
珠奈は玄関の方へと行く。その後を見送りの体裁上、僕もその後を着いていく。珠奈が靴を履き、戸を開けた。
「じゃあな珠奈、また明日。って、明日も休みになるか」
魔女はまだ捕まっていない。捕まるまでは学校は休みになるだろう。勉学よりも命の方が大事なのは当然だ。学校側から見れば、もし生徒が襲われた時のクレームや訴訟対策なのだろうけど。
また冬休みが削られるのかと思うと、憂鬱な気分になるよね。そのくせ、宿題の量はそのままだし。
珠奈が手を小さく振って、閉めようとした。
「うん。バイバイ。あ、それとさ雅樹」
「ん?」
急に深刻そうな顔をして僕に忠告する。
「あんまり、魔女のことを哀れむって人前で言うのは止めた方がいいと思うよ。ほら、なんというか、そういう魔女の方をもつ人って、世間から避難されるし……」
「……分かっているよ」
魔女は殺人者と同じで哀れむ対象ではない。
憎むべき存在である。
そう言えるのは、食べる物は生きていた物なら何でもいいなら、人じゃなくてもいいじゃないか。牛でも豚でも鳥でも魚でも虫でも人以外ならなんでもいい。人じゃないと駄目、と言うわけでもない。それなのに人を食うのは、どんな理由であれ、人喰いの狂った思考を持った奴らと同じだ。
だから、魔女は犯罪者であり許すべき存在ではない。
とも、密かに罵られている。
でも、だから、
だからって、
その魔女を殺しても、構わないの?
珠奈を見送り(玄関までだが)、玄関が閉まった後、僕は部屋に戻り、隠していた家族の写真を取り出して見ていた。
これ撮ったの何年前だっけか。そんなことを思いながら写真を元の場所に戻した。いつまで女々しく持っているんだかと自嘲した。
次に浴室へと向かう。浴室に向かうのは浴槽を洗うためではないし、シャワーを浴びるためでもない。ましてや、洗濯する訳でもない。
もっと別な用事があるのだ。
僕は浴室の戸を開けた。
「もう行ったよ」
僕は、お湯も張ってない浴槽の中で座っている、ショートカットで、整った綺麗な顔、日に当たったら倒れそうなくらい体と細い手足に、血に染まった白と赤の斑のワンピースを着た僕と同い年の女の子、甘音ばにらさんに声をかけた。
「これから一緒に、ばにらさんの服や肌着を買いに行こうよ。その服をずっと着ているのは、気持ち悪いでしょ?」
「そうだけど、でも、これ以外の服なんて……」
「大丈夫。僕の服を貸すから。それに女物の服って、どういうのがいいのか、僕にはさっぱりだからさ、着いてきて貰わないと、どれ買ってきていいのかわからないんだよね。それなら、ばにらさん自身が選べば手っとり早いでしょ? それに、ほら、生活用品っていうのか……、女の子に必要な物も買わなきゃいけないでしょ? だから着いてきてくれる?」
僕としては服よりも、生理用品を買ってきてほしかった。僕一人で、それを買える知識も、勇気ない。そもそも魔女にそれはいるのだろうか? まあ、よけいなお節介だけど。
「…………うん、分かった、行く」
もう分かっているとは思うけど、
「……匿ってくれて、ありがと」
彼女、ばにらさんはそう言った。
彼女は、人を襲って食べたことのある、正真正銘の魔女だ。
僕はそんな彼女を匿っている。
それは何故か?
理由は単純。
僕が後で絶対に後悔をしないために、だ。