ひとくいっ! Tamana Angle 9/18 17:26
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雅樹は確かにそう言いました。
「何で珠奈は、燃えてないの?」
燃えるって何が?
私は理解できなかったので雅樹に聞き返しました。
彼は燃やせる物なんて持っていないし、何かの法則で発火し、着ている服が燃えるのかと思いましたが、化学とか物理学とかにはめっぽう弱いので、自分のしがない頭では推測すらたてられません。
「だって、珠奈は、魔女、なんでしょ?」
雅樹がそう言い、私は胸にあいた穴を誇らしげに見せつけてながら、どこをどう見ても、私が魔女じゃなかったらこんな風に生きている分けないでしょと言いました。
心臓がないのに生きているなんて、私の記憶の中では魔女くらいしか心当たりありません。現在の医学は進歩しているといっても流石に居ないでしょう。
「…………」
雅樹は今から自殺してもおかしくない程、暗い表情を浮かべています。
ここで私は気づきました。あれ、何かおかしい、そう感じました。
彼が魔女に何かしらの一物を抱えていることは確かです。見れば誰だって分かります。だからって魔女が彼の好みとは限らないし、一目惚れという線も、彼がそんな面食いなわけがないことくらい分かっていましたし、単純に、本当に救いたかっただけなんじゃないかとも考えられます。結婚しているお医者さんだって、結婚相手の怪我、病気の為だけに医者をやることなんて、そんなの宝の持ち腐れですし、ましてや、お医者さんの結婚相手が、同姓の患者さんに嫉妬するなんて、お門違いにもほどがある。そんな感じで私自身が途方もない思い上がりをしているように感じました。
じゃあ、何で私は、あの魔女に嫉妬したのでしょうか?
彼があの魔女に見せた笑顔って、いわゆる、営業スマイルと言うやつじゃなかったのではないでしょうか? それなら一応、親しい私が見れなのは当たり前です。それに服を貸したのだって、魔女が着ている服が血で汚れていたからで、新しい服を買うにしろ、彼が女物の服に詳しくないから、魔女自身に店に行って選ばせようと、目立たない服を貸してやったんじゃないでしょうか?
あれ? 全部、私の一人よがりだったんじゃない?
私はその自分の頭の中に出てきた仮説を確かめるため、恐る恐る訊きました。
魔女とかそう言うものとか関係無しに、私のことが好きか、と。
雅樹は口を開きました。
「――うん」
私は頭の中で何かが、また崩壊しました。
一瞬で間違いに気づきました。
私は、馬鹿でした。
大馬鹿でした。
どうしようもなく、救いもないくらい、大馬鹿でした。
こんな私を好いていてくれるのに、私がただ愛されたい、独占されたいと、何かも悪い方向に考えて、こんな行動に出てまでして、彼を奪い取りたかったと、酔っていた自分を八つ裂きに殺したくなりました。奪い取るもなにも初めから彼は私を見ていたというのに、勘違い、被害妄想までして、彼が魔女が好きなんだから、私も魔女になればかまってくれると思って、心臓を渡してまで魔女になって、それで、彼が救いたかった人を見捨てさせて、こんなことまでして……。
ああ、死にたい。
私は泣いていました。自らの愚かさに泣きました。冷たい冷たい涙でした。
こう抱き合っているというのに、彼には私の体温も鼓動も何も伝わらないことにも気づきました。それに捕獲員に捕まったら、それこそ彼にはもう会えなくなる。触れられなくなる。もう一生、こうして居られなくなる。それくらい分かっていたはずなのに自分の軽はずみな行動を恥じました。
前に、魔女になりたい、と思う子もいるんじゃないかな、と自分はそうはならないと高を括りながら言いました。馬鹿で単細胞、頭になにも詰まっていない私は、彼に好かれたいが為に、魔女になりたいと思いました。そして、心臓がなくなって、魔女になって、喜んで、後悔しました。恋する乙女は盲目とか言いますが、確かにそうだったと身にしみました。
悔やんでも、当たり前に、失ったものは、帰ってきません。
こんなんじゃ、もう駄目じゃん。
ぽっかりと空いた胸の穴にあったのは私の心だったのでしょうか?
その空洞から溢れることない黒く固まった血液は、私の邪悪な感情なのでしょうか?
私の愛情は、この体の体温のように冷たく、彼の心の体温を奪っていくのでしょうか?
分かりません。分かりたくもありません。取り返しのつかないことをしてしまったことを悔やんでも仕方がないじゃん、前向きに生きろよ、とドラマの主人公に向けて、呟いたくせに、自分が体験すると、こうも後ろ向きになりたくなるのだと、思いました。
彼はずっと譫言のように呟いています。
私は泣いています。
壊してしまったものは、戻りません。
分かっています。
分かっているつもりです。
でも、でも……。
「また、悩んでいるのね?」
彼の後ろ扉が開き、あの女性が近づいてきます。ああ、あの人は――
私は、その女性にいいました。
私の心臓を返してください、と。
女性はいいました。
「それはあなたが魔女になりたいと、私に頼んできたからしてあげたのよ? それにクーリングオフ制度なんてある分けないがないじゃない。病院で手術後にお医者さんにそんなこと言えると思う? 返す返さないの前に、あなたの心臓はもう、おいしく頂いちゃったから、もうないわよ」
私は喚き散らしながら、返して、返してと連呼しました。
女性は呆れたようにいいました。
「あなた、それは虫の良い話だとは思わないの? それに心臓を返したとしても、あなたの体の定置に戻すことなんて、私にはできないわよ?」
私は泣き崩れました。流石にここまでわんわん泣いていると、さっきまで、嘘だと狂ったようにぶつぶつ言っていた彼が気づき、後ろを振り返ってその女性を見ました。
彼はその女性を目を見開いて、驚いていました。
「……珠奈、この人は、誰?」
彼が訊いてきたので、簡潔に、私を魔女にした人と答えました。
彼は私が発した一言で、溜飲を下げたようでした。そして、飽きれ口調で言います。
「ああ、なんで珠奈が燃えないか分かったよ。そうか、そういうことなのか、そうだよな。僕がおかしいんじゃない、狂っているわけでもない、そう、えり好みして燃やしたわけではないんだっ!」
どんどんと飽きれ口調から、怒りのはらんだ強い口調に変化ていき、
「そうですよね?」
彼は女性を睨みながら、同意を求めました。
「ええそうよ。雅樹君」
女性は微笑みました。
どうして、彼の名前を知っているの?
「そうですよね――」
「捕獲員の有佐百合子さん」
雅樹は、その女性の名前を言いました。