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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第一章 Shall We Dance With Cannibalism?
36/121

ひとくいっ! Masaki Angle 9/18 17:21

誤字脱字などありましたら指摘お願いします。

 どんどんと殺し合っている二人から遠ざかっていく。

 これまで、ばにらさんを守るために行動したじゃないか? と体を奮い立たせようとしても、あのばにらさんの獰猛な肉食獣の目、人を喰おうとしている突き刺すような目を見たら、そんな腐った正義感も一瞬で吹き飛び、過去のトラウマ、魔女になった姉が、殺した両親を美味しそうに貪っている姿が代わりに浮かぶ。当然のように怯え、恐れ、珠奈に手を引かれ逃げていた。

 そんな僕の黒歴史を思い出したくないのか、現実逃避に近い感覚で、珠奈の様子がおかしいのはどうしてなのだろうか、と考えようかと思いこませたが、考えれば考えるほど余計に分からなくなっていった。そりゃそうだ。トラウマの方が強いもの。僕の思考に恐怖の墨をぶちまけて隠していった。あーあ、本当に情けない。

 何故か珠奈は僕が住んでいるマンションの方へと向かっている。そこには、ばにらさんの食べ残しがあって、今、警察、あるいは政府の組織が後片づけをしているころだろう。近づきたくないとには言えず、ただ黙って僕は、珠奈の後を着いてく。

 だが急に珠奈が立ち止まった。そこは誰もいない、古い空き家の前だった。

「どうしたの?」

 珠奈は僕をその空き家の中に連れ込んだ。

 空き家の鍵は何故か開いてあり、僕はされるがまま家の中に入れられる。

 靴置き場は広く、その先には廊下が続き、扉が三つあった。

 家に上がることなく珠奈は振り返り、深呼吸をし、決心が付いたのか、満面の笑みで僕を見て言った。

「あたし、雅樹のことが好きだよ。世界中で一番愛してる」

 僕はその唐突の告白にたじろいだ。

「な、な、なんで、急にそんなことを――」

「そんなことじゃない。あたしにとっては、一番、何よりも大切なことだよ?」

「――じゃあ、何で、こんな時に言うんだよ?」

 珠奈は話しながら僕に近づいてくる。

「今までは、まだ時間があるからとか、フラれたらとか、恥ずかしいからとか、色々と考えて、躊躇して告白でなかったけど、あのゴミが現れて、このままじゃ、雅樹を盗られそうで、何とかしなきゃ、って思った。でも雅樹があまりにも真剣にゴミのことばかり考えているから、本当に盗られちゃうって感じた。だから早く告白して自分の物にしなきゃって。でも、できなかった。雅樹を抱きしめたのに拒絶されて、ああ、あたしじゃあ駄目なんだなって思った」

「……珠奈」

「でも、今は違う。あのゴミと同じ条件で、雅樹好みの女の子になったんだ」

 僕は珠奈の言っている意味、意図が分かるが理解できない。そもそも僕好みの女の子って、珠奈なのに……。

 頬に汗が垂れた。

 ――ちょっとまて、ゴミっていうのは多分、ばにらさんのことで、ばにらさんと同じ条件って――。

「ちょっと待ってね。やっぱり好きな人の前でも恥ずかしいから」

 照れながら真知は上半身に着ているパーカーを脱ぎ始め、ついでに肌着とブラまで脱ぎ、半裸になった。


 僕は沈黙した。みとれていたと表現できるかもしれない。


 真知の二つの乳房の間、僕から見て右寄りに、ぽっかりと握り拳より一回り大きいくらい穴があった。貫通はしていないがその部分の中身がドス黒くみえ、くり貫かれていることがわかった。その穴からは肺と白い肋骨も見えた。そこからの出血はもうすでに止まっているようで、血が吹き出している様子もない。そもそも吹き出るようにするには、血液を送り出すポンプの役割の臓器が必要だ。それがくり貫かれているのだ。

 それがない。

 ない。

 ない=死

 死=動かない

 

 じゃあ、目の前にいる僕の好きな人はいったい、


何?


「恥ずかしいからそんなに見ないでよ。あとで他の所も沢山見せてあげるから。だってあたしは雅樹のものなんだよ。好き勝手にしていいんだか」

 珠奈の体が僕を真っ正面から抱きしめる。珠奈の胸の穴から出て黒く固まった血液が僕の服を汚した。珠奈の肌を直に触れた感触はそれなりに柔らかくすべすべしていて良かったが、温もりは一切感じられず、人は思えないほど、

 冷たかった。

 僕の口を真知の口で塞がれた。珠奈の唇は独自の柔らかさがあったが、

 つめたかった。

 僕の唇の間から唾液で濡れた珠奈の舌が進入して前歯に触れた。だけど、

 ツメタカッタ。

 前歯の奥の僕の舌に触れ、弄んで、口の中を舐め回している。やはり、

 Tumetakatta。


 ボクハ、コンナフウニ、オボレタカッタンジャナイノカ?


「ぷはっ」

 珠奈は満足したのか長い長いキスを終え、自分の唇に残る僕の唾液を舐めとり体を痙攣させながらこうふつとした表情で僕をなめ回すようにみた。だが珠奈は僕の様子がおかしいことに気づいた。

「……どう、したの?」

 まさかあたしとこんなことしたくなかったの? と言わんばかりに寂しげな表情で僕に訊いてくる。

 僕は、確認のために、訊いた。

「……珠奈は魔女になったの?」

 珠奈は屈託のない笑顔で返した。

「うんっ! 魔女フェチの大好きな雅樹のためにわざわざサバドに心臓を渡したんだよ? 痛くて痛くて何回も失神したけど雅樹が喜んでくれると思ったから頑張れたんだよ。大好きな雅樹の為に」

 僕は最後まで聞かずに訊いた。

「じゃあ、何で」





「珠奈は、燃えないの?」

「へ?」



 言ってなかったっけ。


 言ってなかったよな。


 僕は能力者で、その能力は、僕が触れた魔女を、再生できなくなる――死ぬまで燃やす能力だって。

 

 あと、その能力で、魔女を、人を、家族を、姉を、愛する人を、この手で、炭になるまで燃やして、


 

 殺したことあるって。

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