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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第一章 Shall We Dance With Cannibalism?
35/121

ひとくいっ! Striga Angle 9/18 17:04

誤字脱字などありましたら指摘お願いします。

「ちっ、一足遅かったか」

 真っ逆様は苦虫をつぶしたようなしかめっ面で、目的地にしていたマンションを見上げる。くららが言うには、この場所にはもう、魔女、捕獲員の気配はすでになく、立ち去っていったらしい。

「まだ近くにいるみたいです。早く行きましょう」

 くららは真っ逆様に早口で言った。真っ逆様も、ああと返事し、追いかける捕獲員から逃げるべく、この場所から離れた魔女を追う。


「おっ、魔女草の連中が来たぞ? 葛?」

「うーん。ちょっと待って、今いいところだから」

 

 そのもっとも会いたくないと言っていた奴の声がした方に、真っ逆様とくららはゆっくり振り返った。

「……政府の魔女かよ」

 真っ逆様が唸りながらふきを睨んだ。くららは真っ逆様の後ろに隠れて顔だけ出して、その最悪とも言われている二人組を凝視していた。

 顔だけ出しているくららが訊いた。

「わたくしの能力ではあなた方の気配は遠くにあるように感じるのですが……どういうことですか?」

 ふきの隣にいた葛がどこか得意げに答える。

「それは僕の能力で遠くにいるように感じているんだよ。詳しくは教えないけどね。それにしても君は魔女なのに僕と同じ探索系の能力ってのは珍しいよね。君が捕獲員に捕まらないで、魔女草(ストライガ)に入ったのは僕としては嬉しいかぎりなんだ。これからの物語には欠かせないものになってくるに違いない。うん」

 そいうわれくららは葛を睨む。

「……それはどういった意味ですか? 物語? あなたがこの出来事(・・・・・)をすべてを操っていると?」

 くららが聞き返し、葛が言った。

「ああ、とくに意味はないよ。でも、理由はある。それはね、僕の娯楽の為にやっているのさ。そういうと誰かが、なんて無益なことの為に人を玩具みたい言いやがってとか文句を言うけど、それはお門違いだと僕は思うけどね。君はどう思う?」

 顔だけ出していたくららは真っ逆様の後ろから出た。そして淡々と返した。

「わたくしに訊かれても困ります。あなたを論破するために食ってかかるために訊いたわけでもないので、なんと答えたところでわたくしにとっては別にどうでもいいことなんです」

「ふーん、てっきり、僕らが魔女草すとらいがを潰しくるだろうから、その相手の戦力の情報でも引きだそうとするんじゃないかな~と考えたんだけど、見当違いだったみたいだね。まあ僕たちが魔女草ストライガを潰すメリットなんて、あの模倣犯(コピーキャット)を殺した方が十分利益があるよ」

「そんなこと、潰れるときは何やっても潰れるんですから、訊こうが訊くまいが、どうってこともないです。それにあなたが言うことなんて信用しないと決めていましたから」

「それは名案だ。そうした方がいいよ」

「そもそもわたくしたちが貴方たち勝てる勝算なんて一つもないんですから」

「確かに――ん?」

 一瞬葛が嫌な顔をした。

「ちょっと待って。ふき、こいつら殺してみて」

 葛がふきにレストランでお水をもらう様な気軽な感じで、急頼んだ。

「いきなりだな。いいけどよ」

 ふきは躊躇いなく実行する。

 ふきは右手を真っ逆様とくららに向けて振った。


 すると二人はあっけなく首を切られた。

 心臓がないため切り口から派手に出血する事はなかった。

 重力に従って首と胴体が地面に落ちていく。

 

 ふきが訝しげにたった今、自らの魔女としての能力で作り上げた死体たちを不思議そうに睨みつけ、どう観察しても頭にピンと来なかったのか葛に訊いた。

「おい、こいつらあの魔女の幻影だったのか? それとも仲間割れでもして、同族殺したのか?」

 葛は感心するように言った。

「どうやら途中から道化の魔女が能力を使っていたみたいだね。僕らと討論して足止めさせようとしたみたいだ。僕が一瞬騙されるくらいだから、相当すごいと思うよ」

「お前を一瞬でも騙せるってすげーな。で、その能力使っているヤツが近くに居なくても、能力として機能できるのか?」

「今の十分機能している所を見ただろ? だから機能したってことだよ。昔の道化の魔女の能力は一人だけに幻覚を見せるものだったからね。まさか、二人同時に同じ幻覚を見せてくるとは思いもしなかったよ」

「同時同じもの見せるって簡単にできねぇのか? ほら片方だけにあたかも二人同時に見せてますよみたいに幻覚を見せるってな感じで」

「できないっていうか、そのやり方もできるんだけど、敢えて実用には難しい方を使ってきたんだよ。この場合、一人だけを騙すのは、騙せていないと同じことだ」

 ふきは理解できないのか不満そうにする。

「答えになってねぇぞ」

「道化の魔女の今の力量では、相手一人しか完全な幻覚を見せられないんだよ。五感のすべてのコントロールをするのは、一人だけでも十分難しいからね。それに僕らは二人組だから、ふきが言ったとおりに一人があたかも二人とも、幻覚にかかっているように見せられても、もう一人は相方が、幻覚で使い物にならなくなっているって気づくでしょ? その時点で、僕ら二人に道化の魔女は勝ち目なんてない。だから二人、同時に完全な幻覚を見せるよりは、それよりも簡単な二人同時に同じ物を見せ聴かせる、聴覚と視覚だけを操ったわけ。これだと不自然な点が多くて気づかれやすいから、僕はやってこないだろうと腹くくっていたんだけど、実際はまんまと裏をかかれて、引っかかったわけ」

「うーん、そうなのか」

「それと僕がふきに、こいつらを殺してみてって言ったのは、これが幻覚かどうか確かめるためなんだ。実際よく分かったらなかったし、触ろうとしても、離れて触れられないようになるように暗示されてだろうね。こいつら、ふきの能力を椿(つばき)と同じと考えているから、ふきが能力を使えば、なんでも首が切れて死んでしまう、なんてボロが出てくるんだよ」

「けっ、誰があんな首切り飛蝗と同じ能力かっての」

「そんなこと言わないでよ。仮にふきが駄目だったら椿にこの仕事を頼もうかなって考えていたんだから。それよりも、最初から逃がしてあげる算段だったのに、なんで逃げたのかなあ?」

「それだけお前と俺様が嫌われているってことだろ?」

 ああそうかもと葛は言ってニヤリと笑みを浮かべた。



 葛がべらべらと説明している間、このマンションの住民らしき男性が葛の目の前を通過した。そして、突っ立て話している葛を見て、


「――頭、大丈夫か? この子?」

 

 一人でぶつぶつ言っている葛を気味悪そうに横目で見て、関係ないと装いながら通過していった。


 ちなみに真っ逆さまの能力は、相手の五感すべてを別な情報に置き換えるものだが、真っ逆さま自身が近く居なければこの状況みたいな複雑な事は出来ない。いや、近くにいても出来やしない。複雑な状況の例としては、二人同時に同じものを同じ空間に居るように見せたりすることだ。

 その様な二人の意識をシンクロさせるには、一人の脳が右足を動かそうとした場合、その脳から出た指示、信号を真っ逆さまが感知し、もう一人の視覚にそう動かしたように見せる情報を置き換えなければならない。そうする場合、その二人の脳の信号を感知するため、必然的に近くに居なければならないのだ。そうしなければタイムラグが発生し、うまくいかなくなる。コンピュータの様に一回打ち込めば、後は自動でやってくれるのではないし、打ち込んだ膨大な数の指示をそっくりそのまま覚え、そのままやり続けてもらっても後々困る。こんなの、逃げる秘策としては到底使えない。敢えて使うとしたら、仲間割れを誘うくらいだろう。

 そもそも、真っ逆さまの能力では相手の脳からでた信号を、自分の脳が感知するなんて出来ないのだ。出来たとしても、頭からでる信号を理解するなど無理だ。“足を動かす”という信号が、伝わりやすい文字のまま頭の中に入ってくるわけない。その膨大な数の複雑な信号を処理するにも、人の頭ではどう頑張っても無理なことだ。


 そんな難しいことよりも簡単な足止めを出来る方法がある。


 それは、一人ひとりに別々な種類の五感の情報に置き換えることだ。

 これなら、別々に違う幻覚を見せるので、お互いに干渉させるわけでもないし、近くに居なくても相手の脳が勝手に混乱してくれる。

 

 というわけで、先に幻覚から醒めていたふきは、魔女草ストライガの連中は追わなくていいと葛から言われていたので、まだ幻覚から醒めず、一人、混沌とした似非説明をしている葛を放置して、煙草を買いに行ったのだった。



「あのチビのステルス能力、卑怯すぎるだろっ!?」

 真っ逆さまの能力により、葛とふきから振り切ることができた魔女草ストライガの二人は勧誘する魔女の元へと向かおうとしていた。 

「確かにあれは卑怯ですね」

 くららが疲れました。と額の汗を拭った。

「で、これから魔女を勧誘しに行くのか。あのチビ、魔女の居場所までも変えてるんじゃねーだろうな?」

「それはないと思います。真っ逆さまが能力を使った時、小さい方の場所がちゃんと関知できたので、もうあの人たちは使いものにならないでしょう。それよりも、たった今、その魔女と追っていた捕獲員が戦いを始めたみたいですね。その場にとどまっているように感じます」

「早くしないとな、うちらが勧誘するまえに、くたばって捕まるかもしれないからな」

「…………」

「どうした?」

「捕獲員なのか、ただの能力者なのか、わかりませんが……、魔女と捕獲員の戦いから、遠ざかるように逃げていく能力者が一人いるみたいで、その人を追っているのか強奪の魔女が近づいて、えっ!?」

「おい、本当にどうしたんだよ?」

 くららが血相を変えて叫んだ。

「この能力者っ、本当に、わたくしたちにとって危険な存在ですっ! わたくしたちの仲間にするかっ、もしくは殺さないといけませんっ!」

 面を食らった真っ逆さまはくららを落ち着かせようとする。

「おい、焦るなよ。ちゃんと話せって」

 だがくららは落ち着くことはなかった。

「真っ逆さまは、今戦っている魔女と捕獲員の方に向かってくださいっ! こっちの能力者は、わたくしが何とかしますからっ!」

 そう言うとくららはわき目もくれずにその能力者の元へと走って行ってしまった。

 相方が急におかしくなり、途中、呆然としていた真っ逆さまは一人取り残され、

「………おい、どこで魔女と捕獲員が戦っているか、訊いてないんだけど……?」

 ぼそっと呟いた。

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