うたかたっ! Houziki Angle 9/18 16:47
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急に百合子からメールで今すぐこのマンションに来て、と呼び出された。一人で魔女を捜して走って回っていた鬼灯は、進路換え、百合子のメールに張ってあった地図の場所に向かった。
そこにはマンションがあった。確か、こならが魔女がいないどうか確かめるために回るといっていたマンションだ。
鬼灯は、そこに着いて、愕然とした。
「……なんだよ、これ」
そこには、数時間前はちゃんと生きていたこならが仰向けに、片目を抉り取られ、無惨にもぱっくりと開かれて中を喰い荒らされて、放置されていた。
もちろん、息などしているわけがない。
こんな状態で生きているはずがない。
「私は、こならちゃんが生きている間、と言っても殺戮の魔女が、こならちゃんに最後のとどめを刺した時に丁度、ここに着いたんだけどね。だから、その時に私が近くにいたから、私の能力で脳死にはなっていないわ。でもこれでは――死んでいるに等しいわね」
百合子はたんたんと述べていった。
百合子の能力は、ひとことで言えば維持。百合子の近くにいれば生きた細胞は機能を失うことなくそのままの状態で保存され、固定される。つまり、栄養や酸素を失ってもそのままの状態で保たれる能力。生きている細胞なら、その形のまま、劣化することも、成長することも、活動することも、老いることも、朽ちることもなく、そのままの状態で保たれる。
捕獲員として百合子はこの能力を使い、魔女に切り落とされた捕獲員や警察、一般市民の腕や足の細胞を保存、固定することで、切り落とされた部位は常温だろうが何だろうが、腐ることなく、いつでも手術で繋げる状態にできるため、百合子は捕獲員の治療係になっている。
だが、今のこならのこの状態では、固定もなにもなかった。
「……お前は助けなかったのか?」
鬼灯は百合子に力なく訊いた。
「ここについた時に、丁度殺戮の魔女にとどめを刺されていたって言ったでしょ? こならちゃんを助けようにも、曲りなりにも、私より強いこならちゃんをいとも簡単に追いつめた殺戮の魔女に、一人で立ち向かうなんて無駄死にもいいところよ。ここからはどっちが悪いかの擦り付け合いになるけど、鬼灯君こそなんでここに来なかったの? いや、なんで一緒にいなかったの? そもそもどうして、あなたたちまで二手に分かれているのよ?」
「……それは、こならが分かれて探そうって提案してきたんだ。それに連絡もなしに、ここまでに駆けつけられないだろ……」
百合子はおかしいわねと言う。
「連絡もなし? 私にはちゃんと魔女を見つけましたので、回収班を呼んでくださいって、メールが来たわよ? 一人じゃないわよね? って返信したら、隣に先輩がいるんで大丈夫ですよって、返ってきたわよ」
「…………」
百合子はため息をついて、横たわっているこならに近づき、しゃがんで、こならの頭を撫でた。
「ほんと、この子は馬鹿ね。大馬鹿よ。鬼灯君に怪我させたくないからって、一人で魔女に向かって行って、返り討ちにされちゃうなんて。自分が死んじゃったら、怪我どうこうの、意味も何もないのに」
「……」
ずっと鬼灯は黙っていた。黙ってずっとこならの苦悶の死に顔をずっと見つめていた。
「私はこの不祥事を機関に報告してくるわ。鬼灯君はこならちゃんを襲った殺戮の魔女を連れていった男の子がいるから、その子と殺戮の魔女を追っかけて行って。早くしないと逃げられちゃうし、他の回収班や魔女草の連中に捕まったら、復讐すらできなくなる。その魔女を連れて逃げた男の子の名前は遠藤雅樹君。今日、わたしが電話で話していた子よ。写真があればいいんだけど」
「……大丈夫だ。そいつなら知っている」
さっき会ったと簡潔に説明する。
「そう。ならあとは任せたわよ。私の分まで……、お願いね」
そういい百合子はこの不祥事を報告するのと、鬼灯の為に自分の能力が届くぎりぎりの範囲まで離れようとしたが、思い出したように言った。
「そう一つだけ、鬼灯君に謝らないといけないことがあるの。聴いてくれる?」
百合子が立ち止まって鬼灯の方に向かい合った。
「私、前にこならちゃんからね、鬼灯君に告白したいんですけど、どうすればいいですかって訊かれたことがあったの。その時は、面白い事になりそうだったから、少しこならちゃんを茶化したりして、その場は終わったんだけど、こんな事になるなら、素直に応援してあげればよかったなーって」
「……お前、俺に謝ってないぞ」
「いや、止めた。気が変わったの。それに気づかない鈍感なフリをしていた鬼灯君も悪い。それにこれは――そうね、おあいこよ」
「……俺を責めないのか?」
「何を? 責めることなんて一つもないわよ? 少なくとも私からはね」
そういい百合子は報告しに鬼灯からは見えない所へ行った。
「……全てお見通し、か」
鬼灯はこならの横にゆっくりと腰を下ろした。
「お前、本当に馬鹿だよな。ちゃんと一人で無理しないで俺に連絡しろって言ってやったのに」
着ていたジャケットを脱ぎ、こならのぱっくりと開いた胸を隠すようにかけてやる。
「もうお前が後ろに乗らないのか……」
鬼灯はこならの顔にふれる。もう冷たくなっていたが、まだ皮膚は柔らかい。
「ごめんな。俺は――」
何分かその場にしゃがんでいた鬼灯は、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ、お前の敵討ち、復讐に行ってくる」
そういい、鬼灯は止めていたバイクの方へと歩き出す。
けたたましくエンジンをふかし、バイクは飛び出していった。
鬼灯の後ろは、空いたままだった。