うたかたっ! Masaki Angle 9/18 16:15
誤字脱字などありましたら指摘お願いします。
「俺の名前は六乃鬼灯、今年で二十二歳だ」
「僕は遠藤雅樹です。十七歳で一般的な高校生です」
自己嫌悪していた鬼灯さんが復活したので、気を取り直してお互い簡潔な自己紹介をした。
「そうか年下か。なら気兼ねなくきけるな」
いや、聞けないことなんて沢山ありますよ? 例えば――ごめんなさい。言いたくありません。察してください。
鬼灯さんは路肩にバイクを通行の邪魔にならないように止め、完全に話し込む気でいる。僕としてはこの捕獲員から一刻も早く逃げたいのにと泣きそうになっていた。だってこの人、僕のことを疑っているに決まっているじゃないか。
「この辺に魔女がいるって、たれ込みがあったんだけど、そのような奴、知ってたり、見かけたりしてないか?」
「うーん、そんな女の人は、知りも見もしなかったです」
声が裏返ることなく、自然に発することができたので、ひとまず、セーフ。
「急に知らないかと訊かれても困るよな。まず一目で魔女だってわかりっこねえし」
「じゃあ訊かないでください」
堪え切れずに、突っ込んじゃったよ。
「一応だよ。一応。形式上ってもんがあるんだよ」
本当にあるの? それ?
僕がどこか胡散臭そうだなと、訝しげに鬼灯さんを睨んでいたら、鬼灯さんは訊いてきた。
「突然だが、お前は魔女についてどう思う?」
「それはどういうことですか?」どうやら話題は尽きたようだった。
「ああ、そうだな、特に深くは考えなくていいぞ。どう答えてもいい、殺したい程憎んでるって言ったとしても、愛したいくらい助けたいと言っとしても、俺はお前が魔女を匿っているんじゃないかとか、そんな無粋な推測っていうか、妄想と言った方がいいか? まあ、ただ魔女について、どんな風に他の連中はどう思っているのか、個人的に訊きたいだけだ。ほら、学校の授業改善アンケートみたいなもんと思ってくれ。成績には関係ありませんから、好き勝手感じたこと書いてくださいってヤツみたいに」
「あれって、成績に関係ないアンケートって、謳っている癖に名前を記入しなければいけなくて、先生の目を気にして好き勝手書けずに、無難なことしか書けなくなる縛りがあるから、アンケートとして成り立ってないと思いますよ。無記名でも筆跡でばれるし」
「そういう事じゃなくてな、俺が質問しているのは、答えたくないなら答えないでいいという、選択肢もあるんだってことを言いたかったんだが、例え間違えたか。俺としては無難に嘘を返されても、こちらの為にならんし。そもそも、答えたくない、も十分な答えだからな」
「……」
うわ何キザっぽいこと言っちゃってんの、とは思わなかったことにして、僕はゆっくりと答えた。
「魔女について、ですか。僕は魔女は可哀想な存在だと思います」
「ほう」
「魔女はなりたくてなった訳じゃないのに、知らぬ間に魔女になってしまって、両親とか兄弟姉妹とか、身近な大切な人を知らない間に、殺して食べちゃって、自分の意志で悪いことしてなんて一切してないのに、犯罪者のように捕獲員に追われてたりするし、世間からも冷たい目で見られる。そう考えるだけでも、十分、可哀想だと僕は思う」
「確かにそうかもしれないな。それからもう一つ訊いていいか? もし、目の前に魔女がいたら、匿うか? それとも、捕獲員や政府、国に突き出すか?」
鬼灯さんがいきなり直接的な事を訊いてきて、僕は少し悩みながらはっきりと答えた。
「僕は……たぶん匿うと思います。理由は……言えませんが」
「そうか。てっきりエロいことしたいからとか言うと思ったんだが」
てめぇ、人が真面目に答えてるのにボケるとは、流石にはっ倒すぞ、とか微塵にも思わなかったことにした。表情は流石にひきつったが。
鬼灯さんは、楽しそうに笑みを浮かべ、ヘルメット被りバイクに跨った。どうやら、僕との会話を打ち切って魔女を捜しに行くらしい。
「答えてくれてありがとうな。ちなみに俺は、魔女は職業がてら居なくなって欲しくない。最後のは、魔女になったヤツが大切な人だったら匿う。だな」
「うわー。なんて自己中心的な回答」
魔女云々の問題じゃないじゃん。しかも一個目は答えられているのか怪しいし。
「だろ?」
そういい自信満々に言いのけた鬼灯さんは、バイクはエンジンをかける。
「あと、今度ここで魔女が居るってなったら、真っ先にお前疑うから、住所教えて」
「嫌です。というか、捕獲員なら、それくらい政府の権力でいくらでもどうにかできますよね?」
「それは面倒くさいんだよ。書類を書かなきゃいけないしな。じゃあな」
鬼灯さんは別れの挨拶をし、バイクを走らせ、すぐにUターンし、元来た道に向かって行ってしまった。この先が行き止まりかどうかを確認せずに元来た道を行ってしまった。……僕に道を訊いた意味ないじゃん。なんか、少しだけ悲しくなった。
どんどんと小さくなっていく姿を見送りながらふと思った。
「なんで僕は話しかけられたんだろ? ていうか、今回は見逃されたのかな」
一人残された僕はなんだかなーと、目的である大通りを目指しながら、何で鬼灯さんは僕に話しかけたのか考えていた。
「ああそうか」
大通りにたどり着く前にわかった。
「魔女を置いて家から出ることってまずしないよな」
鎌かけはたぶん形式上のものだったとして、家に一人魔女を置いて出るなんて、人を食べないように飼い慣らされたライオンの檻に鍵をかけないでいるのと同じじゃないか。飼い慣らされているとはいえ、勝手に出ていって、他の人を襲っちゃったらそれこそ一大事だ。
……って僕もかなり不味いんじゃないか? そういえば珠奈も一緒にいる……のかな……?
僕はばにらさんと珠奈(たぶん)が待つマイホームへ目指すべく、全速力で第一のチェックポイント、大通りへを探しに走っていった。