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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第一章 Shall We Dance With Cannibalism?
27/121

うたかたっ! Masaki Angle 9/18 16:11

誤字脱字などありましたら指摘お願いします。

「戻らなきゃ」

 さっきまで僕は、ばにらさんを部屋に残したまま、珠奈に外につれらて、自分の部屋の前でばにらさんを匿うか言い合っていたような気がするのだが、自分がいつの間にか逃げ出していたらしい。住宅地の中を見えないものから逃げるために、そこら中を走り回っていたようだった。珠奈と言い合っている内にトラウマの起爆スイッチに触れたのだろう。

 僕はあたりを見渡して、自分の現在地の位置を確認する。自分の経やがるマンションから遠くの、ここ数年で新しく出来た住宅地を僕は走り回っていたのだろう。見える範囲では主に一軒家の家と空き地がちらほらあるくらいで、閑静な住宅街と表現されて売られてそうだなと感じるくらいの静かな場所だった。ここら辺は偶に散歩するときに通るくらいで、あまり来ることがないため、大雑把にしか道が分からない。

 取りあえず、歩こう。そうすれば、いつか分かる大きな通りにでるさ。そう思って僕は歩きだした。

 そういえば、なんで僕は珠奈から逃げ出したんだろう。

 僕が魔女――ばにらさんを匿うといって、珠奈があんなに怒るとは思いもしなかった。見ず知らずの女の子を部屋の中に入れて、しかも自分の服を貸すなんて、どう考えても下心があると珠奈に勘違いされてもおかしくない。それに理由も語らないで察してくれだなんて、僕が珠奈の立場だったとしても、首を縦に振らないだろう。ちゃんと匿う理由を話せば納得してくれたに違いないが、僕は話せなかった。

「全部、僕が優柔不断なだけか……」

 深淵よりも深く溜息を吐きたい気分だった。すべて自分が弱いせい。一字一句間違いがなく、そごも嘘も見栄もない。自分のトラウマ、過去、その全てを知られるのが怖いからだ。

 そりゃフィクションの物語の主人公が、両親が死んだの隠すような、いくらでも美談にできるものだったら、誰かに知られても絶対に嫌われることもなく、寧ろ、優しく触れないでくれる。デメリットに働かないことの方が多いじゃないか。

 だが僕の場合は違う。そう格好つけて言うけれど、これと言っても特別なケースではない。僕と同じ立場の人には絶対に言えない立場の人なら、居ないようで、案外沢山いる。その人たちが同じ様に誰かに話したとしても、同情の欠片すらもらえない。非難され、罵倒され、陵辱され、晒されて、一生、べったりとレッテルを張られたまま、生きることになる。

 だから話すのが怖い。普通を失いたくない。

 話したところで何になるって言うんだ? 話し相手になってくれると言った百合子さんは、僕が犯したことの少なくとも三割くらいは知っているはずだ。けれど、こちらとしてはたかが三割程で、僕が犯した業を知った気になっては困る。得意げに年上の優しいお姉さんぶられても、僕が腹割って話したところで、この話題に相手が合わせられるわけがないのだ。理解できるなら、その人も、僕と同じ腐った人間になることを暗示しているようなものだ。

 ……まあ、やってみないと分からないから、頭ごなしに否定できないけど。

 でもやっぱり嫌だ。考えているだけで羞恥心で死にそうになってトラウマがまたぶり返し発狂したくなる。


 やっぱり無理だって、

 

 大好きな姉とセックスがしたくて、ザバトに姉を襲ってと頼んで、姉を魔女にし、姉が両親を無意識に殺して食べてしまい、心身共に弱っているときに、優しく励まして、その晩に姉が体を許した時に、近親相姦しましたなんて、口が裂けてもいえるわけがない。

 もちろん、珠奈やばにらさんにも。

 

 ほら、引いたでしょ?

 全然、憂う気持ちもないでしょ?


 何であんな事したんだろうかと思って、悔やんで、反省し、改心したといっても、もう二度としないと、心の底から謝罪し続けたとしても、許されるわけがないのだ。

 体の片隅にきっちりと刻み込まれて、無かった事にはされずに背負って生きなければならない。苦しみながら生きることが罰になるのだ。

 そういう類の話を人に話し、あなたは辛い人生を送ってきたんだね、なんて親身に言ってくれるのは弁護士と同類くらいしかいないだろう。

 だから話せない。話せ話せとしつこく言われ、渋々、信頼して話したところで、事情をすべて聴いた後に、ポイッと手のひらを返され、非難する側に着くのだ。

 それならまだ知らずに、お節介焼いてくれる方が何百倍もいい。自分の中の良心が許すならの話なのだが、これもこれで騙しているという罪悪感に潰されてしまいそうになる。


 なんだが、嫌になってきた。消えたくなってきた。


 お願いだから嫌わないでください。僕がばにらさんを救うのは、僕が犯した、償うことができない罪を、できなくても償うものであって、くだらない下心は一切ない。そんな下心があるなら……、こんなことは考えたくないが、一番近くに居てくれた珠奈としたいと思う。それにばにらさんに好かれたいなんてこれぽっちも思ってない。だって、すでに僕は十分に好かれている。

 

 ……そうだよ。こんな言い訳を焦れったく言うのは止めよう。

 淡泊に言えばいい。

 率直に言えばいい。


 

 僕は珠奈が好きだ。

 

 姉より。もちろん、ばにらさん、百合子さんよりも。

 

 誰よりも。

 

 だけど珠奈が僕が姉と近親相姦したって知ったら、当たり前のように僕を嫌うだろう。

 部屋に呼べるくらい仲良くなったのに、それに珠奈だって僕のことが……。

 それを崩してしまうのが怖かった。告白してフラれるよりも、ずっとずっと怖かった。少なくとも、告白してフラれたとしても、ぎこちなくではあるが、明るい性格の彼女なら、会話くらいはしてくれるだろうし、何より僕は彼女を見ているだけで、僕の気分は晴れる。それに彼女が僕に好意がないなら、仕方がないと割り切れる。

 だが、もし僕の過去を知られてしまったら、汚らしい汚物を見る目で見られて、話しすらしてもらえないだろう。そんな事が起こってしまったら、僕は簡単に自殺するだろうな。ボタン一つで、ぽちっと簡単に出来る、みたいに。


 でも、もし、例えば、僕が過去を話しても、文句もいわずに嫌悪もせずに珠奈が受け入れてくれるなら。

 辛かったよね。でももう耐えなくてもいいんだよ。あたしがそばにいてあげるからなんて言ってくれたら。

 僕は絶対に珠奈の優しさ、愛情、いや全てに溺れてしまうだろう。姉の時よりも酷く、何も考えられなくなって、溺れているのに、もがくことすら忘れて、どんどんと――。



「って、僕は何考えているんだろう」

 珠奈と恋人になりたい、珠奈にすべてを慰めてもらいたいという、甘えは何百回も夢想したことじゃないか。本当にそういう性的欲求は尽きないから困るなと自己嫌悪した。

 僕が彼女に求めているのはそんなんじゃない。ただ明く、楽しく、笑っていたい。それだけでいい。普通に愛し愛されたいだけなのだ。

 僕はどこまで歩いたのか、確かめてようとあたりを見渡した。

 だが、周りの景色、家の柄、名字の札すら変わってない。つまり……。

「一歩進んで、思慮に耽った……ってことか……はあ」

 誰か僕を馬鹿じゃねえのと罵ってくれたら、少しくらいは改心すると思うんだが。さっきから自己嫌悪しまくりだな。

 後ろからバイクが僕の方へ向かってくる音が聞こえた。僕は道路のど真ん中に突っ立っていて、流石に機動性優れたバイクでも通行の邪魔になるので、右の路肩へと小走りで避けた。

 ところが近づいて来たバイクは僕の左隣に止まった。

「そこの人。ちょっと道、聞いてもいいか?」

 バイクの運転手の男性は僕に道を訊いた。少し低い声とエンジン音が同時に聞こえた。僕はうなだれかけた体を声が聞こえた方に向かせる。運転手は二十代くらいの男性だった。敬語で答える。

「はい、いいですよ。なんですか?」

「この先は大通りに出るのか?」

 この人は、どうやら道に迷っているらしい。

「たぶん出ると思いますよ。今、僕も道に迷っていて、とりあえず大通り目指そうとしていたところなんで」

「まあ、俺は大通りに出るわけではないから、出ても出なくともどっちでもいいんだ。ただ行き止まりだけは、面倒だから訊いたんだよ」

「はあ……」

 だったら訊くなよと言いたくなる。バイクなんだから、行き止まりでもUターンしてくればいいだろうに。燃料代が無駄になるのかと自分の中で結論づけた。

「そうそう、もう一つ訊くの忘れてた」

 ……あれ?

 前にこういう風に鎌掛けられた記憶があるぞ? しかも今日の記憶だ。何このデジャビュ?

 というかあの政府機関は、魔女を匿っていると思われる奴を見つけ時は、そいつに鎌かけろと教育しているのか? この調子なら三度目もありそうだ。気が滅入ってくる。

 僕は勇気を振り絞って、ではなく、投げやりに訊いた。

「もしかして、あなたも捕獲員ですか?」

 一瞬、空気が凍ったような気がした。これは地雷踏んじゃったかなと思って内心ビクビクしていた。

 ある程度経ち、バイクの運転手は僕におそるおそる訊いた。

「……もしかして、百合子にあったのか?」

「ええ。同じ様に話しかけてきましたよ」

 ビンゴですね。

 あと、バイクに乗っている捕獲員の男性が、まさか、知らずに百合子と同じ手を使ってしまうなんて……と、呟きながら、うなだれ、自己嫌悪しているんですけど、慰めた方がいいのかな……?

 僕は狼狽えながらも捕獲員の男性に、鎌かけが一番効果的な方法ですってと、根も葉もないフォローをし、慰めてあげた。

 本当は僕が慰められたいのになーと溜息でそうになった。 

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