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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第一章 Shall We Dance With Cannibalism?
26/121

うたかたっ! Banira Angle 9/18 16:15

誤字脱字などありましたら指摘お願いします。

 ばにらは一人、助けてもらった恩人の雅樹の一室でぺたりとフローリングの床に直に座り込んで、雅樹の帰りを待っていた。

 雅樹さんの恋人(?)なのだろうか、珠奈さんが雅樹さんをつれて、外に出たと思いきや珠奈さんだけ戻ってきて、不機嫌な顔をしてわたしの経緯を色々と訊いて、わたしの受け答えの何かが気に喰わなかったのか、急に雅樹さんを探してくるっと言ってどっか行っちゃったし。

 ばにらは珠奈に言われたとおり、玄関の鍵を閉めて、元の部屋に戻ったあと、いつまでも借りた服でいるのは気が引けるので、買ってきた服、灰色のパーカーとジーンズに着替えた。あとはする事もないのでぼーと座り込んでいたのだった。

「……この後、わたしどうなるんだろう」

 ばにらは呟いた。

 いつまでここで隠れて入れるだろうか。そのタイムリミットは明日かもしれないし、明後日かもしれない。もしかしたら永遠に来ないかもしれない。そんな淡くすぐにでも消えてしまうドライアイスの煙みたいな夢、泡沫の願いは、ばにらの心の周りをもやもやと紫煙のように包んでいる。

 そもそも何で捕まるのが嫌なのか、ばにら自身も分からない。マンガやアニメ、色々なサブカルチャーの影響、それから得た似非知識で、捕まったら非道な人体実験され、薬漬けにされたり、体を生きたまま解剖されたり、はたまたは裸にされて辱めを受けさせられるかもと妄想して怯えているのだろうか。実際は魔女がほかの人々を襲わないように、個室で管理され、魔女を一般人に戻すために日夜研究が行われているはずで、そんなマッドな実験は行われていないと言われている。そもそもそこまでしたら、世間にバレたときのバッシングが国際問題にまで発展するため、そこまで危険を犯してまでやる研究者はまずいないし、いたとしても一人では到底無理だ。

 それに捕まっても受刑者みたいに、厳しい規則に縛られた生活を余儀なくされるわけでもない。動物園のライオンやトラなどの肉食獣が檻に入れられても、ストレスの少ない快適な生活できるように、魔女が人を襲わないよう管理される以外は、捕まった魔女たちは、多くことは自由に行動してもいいということになってる、と政府が国民から集めた税金を使って作ったパンフレットに書いてあった気がする。関係ないし、かさばるから一回流し読みしてから、即資源回収に出しちゃったから詳しいことは分からない。まさか、自分がなるとは思ってなかったし。

 捕まっても悪いことはされない。むしろ、人を襲わないよう管理してくれるならそちらの方がいいんじゃないかと時折、思ってしまったりもする。

 でも、どうしてだか捕まりたくはないのだ。

 確かに捕まれば両親、友達、恋人、その他諸々に会えなくなる。という訳ではないが、面会は全てモニター越しで行われ、時間制限すらあり、もちろん触れることすら許されない。それは面会しているとき魔女がお腹を空かせて理性を失い暴れても、面会人の安全を確保するためで、仕方がない事なのかもしれないが、これじゃあ刑事ドラマとかでよくある犯罪者と面会するみたいで、何か嫌だなって思ったりする。

 それに魔女か人間に戻す研究が行われているからといって、元に戻るとは限らない。魔女の寿命はまだ分からないが、下手したら死ぬまで一生、もしからたら魔女は寿命では死なず、永遠に人間に戻れない可能性だって否めない。その場合、政府に捕まった魔女は魔女収容所で一生を終えるに等しいことになる。魔女収容所の中である程度、自由が認められていても、やっぱり大切な人と直にふれあうことができないのは辛い。それなら魔女に治る方法が見つかるまで自由に人と同じように生きていたいと考えたくもなるだろう。まあ、わたしはどっちでも構わないのだが。だって親に捨てられちゃったし。

 なんで魔女になっちゃったのかなぁ。

 ばにらは自分の胸に手を当てた。何回やってもどくどくと当たり前になるはずの鼓動を感じられないし。体温もなく死んでいるように冷たい。

「はあ、やっぱり、わたしは魔女なんだよね」

 こう匿われているとなぜだか分からないが、また魔女になる前に日々、人に戻ったような気がする。

 なんて大げさなんだろうと思うが、心臓がないこと、体温がないこと、人を食べてしまったことが、今まで平々凡々だった現実を、自分にとってのフィクションのように曖昧で現実味のない物に変化し、遠く手を伸ばしても届かないような何万光年離れた場所にある、綺麗だな~と感嘆を漏らしていたフィクションが今、現実となっている。

 わたしは、現実フィクションではなく非現実リアルに、憧れているのだろうか。


 ピンポーン。


「はいっ!?」

 ばにらは急になった玄関のチャイムに驚き、声を挙げてしまった。玄関から宅配の男性がこれまた大きな声で話しかけてた。

「遠藤さん~。宅配便でーす」

 ばにらはしまったと狼狽えた。何で返事しちゃったんだろう。居留守使えばよかったのに。とさらに慌てふためく。

 ばにらは取りあえず荷物を受け取る事にしよう。もう返事しちゃったから居留守なんてできないし、印鑑はどこにあるか分からないけど、確かサインだけでもよかったはずだと軽い気持ちで、玄関へと向かい、鍵を開けて戸を開いた。

「はい……」

 だが、外には誰も立っていなかった。

「いやー、こうも簡単に開けられちゃうとやりがいないですね」

 突然、宅配の男性の声ではなく、高校生くらい女の子の声がした。 

「……え?」

 次の瞬間、戸のわずかな隙間から、部屋の中に缶の何か――バル○ンと書かれた赤い缶が三つ投げ込まれた。

「っ!?」

 ばにらは危険を感じ、とっさに戸を締め、鍵までして、姿形も見知らない敵の進入を防いだ。

「あ~あ。そんな密閉した部屋の中にいたら、バ○サンの煙で喉とか目とかやられちゃいますよ?」

「えっ――」

 バルサ○を部屋の中に投げ込んだ女の子が忠告した。投げ込まれた三つの○ルサンから、勢いよく吐き出される殺虫成分の煙が、徐々に部屋の中に充満していく。ばにらは煙を吸い込まないように息を止めて、殺虫剤が含まれた煙は目にしみるので目瞑ぶった。魔女は呼吸をしなくても生きていられる。ここはやり過ごせるのではないかとばにらは思った。

「いやー、すごいですね。人間がバ○サンの煙の中でじっとして入れるなんて。魔女ならずっと息を止めても大丈夫ですけどね」

 このままこの煙の中に居続けたら魔女と思われてしまうっ!!

 ばにらは目を開いて、戸の鍵を開き、四つん這いになりながら外に飛び出た。部屋の方を見ると、扉の間から火事みたいに白い煙が出てきていた。

「こういうのって簡単に引っかかるものなんですね。トイレやお風呂場の密閉した空間に逃げれば、別に部屋の中にずっと入れてもおかしいわけではないんですけど。やっぱり、焦っているからでしょうか?」

 ばにらが顔を上げると、そこには自分と同じくらい年の女の子が鉄線で作った輪を持っている。その輪にはこれまた鉄線が一本、首輪にリードをつけるように結んである。

「えいっ」

 訳も分からずにばにらの首に鉄線の輪がくぐされた。

「えっ? 何? これ?」

「この階までブロックを持ってくるの大変だったんですよ?」

 独り言のように女の子は呟き、マンションから、この町が一望できるほど開けた部屋の前の通りの落下防止のための手すりの上に置いてある、なんの筈もないコンクリで出来た穴があいたお馴染みのブロックの所まで移動した。そのブロックには鉄線が結ばれてあり、その鉄線をたどると、途中、円上に束ねらたあと、ばにらの首の輪につながっていた。

「えっ!?」

 このあと自分が何されるのか理解できた。

「このくらいなら切れますよね? 失敗しても首の骨が折れて意識が飛ぶこと間違いないですし、どちらにせよ任務完了です」

 その女の子はつらつら話し、落とす場所に人がいないかを確認して、

「下には誰もいないですね?」

「止め」 

 躊躇わず、押して、ブロックを落とした。


「さようなら。殺戮の魔女さん」

 女の子は笑顔で見送った。

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