まじないっ! Absorptionwitch Angle 9/18 15:04
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淡い水色のスウェット姿の魔女――楓は捕獲されるという恐怖に怯えながら、裸足で住宅地から街の方へと逃げ、狭い路地を走って逃げていた。
先ほど家に機関の捕獲員が楓を捕まえに訪れ、裏口から出ることで間一髪逃げることに成功した。街の方に行けば、こんな時でもある程度は人目がつき捕獲員も捕まえ難いだろうと考えて、向かってどこか隠れる場所はないか探し回っていた。
「はっ、はっ、はっ」
走っても走っても、呼吸は一定のままで、不思議と息が切れない。その事実が自分が魔女であること如実に表していた。
「何で、わたしがこんな目に遭わなくちゃいけないのよっ!」
楓は涙目になり、自棄になったのか大声で不満を叫んでしまった。すぐに慌て走りながら、周りに捕獲員がいないか確認する。遠くから捕獲員がバイクに乗って追いかけてきているのか、エンジンを吹かす音が徐々に近付いて聞こえる。その悪魔から逃げるために楓はさらに走るペースをあげた。
「もう、いやだ」
楓はついに泣き出して、嗚咽しながら、休むことなく、逃げていく。
どうしてこうなったんだろう?
放課後、遅くまで友達と寄り道していたからかな?
知らない間に、こんな心臓も体温もない体にされて、リウまで食べちゃうなんて……。
楓は路地から大きな通りへと出た。放課後、よく友達といっしょに寄り道する店がならんでいる見慣れた通りだった。今日はテレビに映った所に来たような、ここが現実にあるのと疑問に思う程、遠い世界に来た様な気がした。
思っていたより人通りは少なく、いつもなら平日でも交通量が多いのだが、今日は自分のせいで閑散としていた。
ここまま走って逃げても、相手はバイクだ。すぐに追いつかれてしまう。残念なことに楓の魔女の能力は筋力強化でないので、超人のように早く走ることはできない。寧ろ、楓自身、足は一般人より遅い方で、息が切れずに走れるからと言ってそんなに早くはない。
振り切る方法は一つだけあった。
それは魔女だからできる方法だった。
楓の頭の中に一つだけ、その方法が浮かぶ。もう躊躇っている時間もない。
楓は覚悟を決めた。
丁度、大通りを走っている車の前に、
飛び出て、引かれた。
ドンッ、と車に当たり、腰が先に当たったのか、まずそこが砕ける。その次にボンネットからフロントガラスの上を滑るように体が動いていき、勢いがついて、空中に投げ出される。後はアスファルトに右肩から落下し、ゴギッ、と骨がまた砕けた音がする。楓は立ち上がろうとしたが、止まり切れなかった後続車にまた跳ねられた。今度は真上ではなく、前に飛ばされた。骨が何本何カ所、折れたかもうわからなくなっていた。アスファルトをごろごろと体内の骨を削るように転がり、その体の中では折れた骨が凶器と化し、内部から肉を突き刺す。先に引いた車が止まっていたので、そこに勢いよくぶつかって、止まった。
楓の体は四肢はあり得ない方向に曲がり、体中の骨折によってできた内出血と打撲の痕が斑状にでき、折れた骨が凶器と化して、内側から肉を貫いて出血している箇所を多くあった。
運転手達が倒れている楓の元へと駆け寄った。その悲惨な姿に運転手達は絶句し、訳も分からずパニック状態のまま、懐から携帯を取り出して、救急車を呼ぼうとする。
「……救急車はいりません」
楓は、はっきりと述べた。
二人の運転手は目の前で起こった光景に唖然とした。
二台の車にはねられ、体中の骨が折れて、腕も足も首も体もおかしな方向に曲がっていた少女は、生まれ落ちた子牛のように、今、平然と立ち上がろうとしている。
楓の魔女としての能力は、吸収。
傷口に触れた相手の皮膚を溶かして、そこから結合し、結合部分から自分の細胞が相手の皮膚を喰い破って体内に進入、体内から中身を喰い散らかして自分の体へと吸収させる。
怪我をしていないと楓は一切、相手に攻撃できないのだ。
この状態で相手に抱きつけば、そこでけりが付く。
「わたしは、魔女なんです。今、とってもお腹が空いているんです」
楓は前髪を手でかき分け二人の自分を引いた運転手を睨む。片目は内出血で真っ赤に染まり、ぶつかった衝撃で鼓膜が両方破れたのか、神経が切断したのか、ちゃんと発音はできていた。睨まれた二人は腹を空かせた猛獣を前にして怯えるように、後ずさりして逃げようとしていた。この場から一刻も早く逃げなければと本能的そうさせているのか定かではないが、一歩一歩、楓から距離を置こうとしている。
「どちらでいいので、わたしを、車に乗せて遠くに」
そう楓が言った瞬間、頭に細い鉄線で作られた輪が、輪投げのようにくぐった。
「駄目ですよ。人を食べちゃ」
いつのまにか隣には自分と同じくらいの年の女の子が立っていた。声は聞こえないため、何を言っているのか分からない。
「あなたは――」
そういえば、私を追っていた捕獲員のバイクの音は?
「残念でした」
その女の子は楓の顔面に向かってスプレーを浴びせる。
スプレーが眼に入り、焼けるような激痛に顔を押さえてしまった。
本当にやらなければいけなかったことをすることなく。
「せんぱ~い。準備はいいですか?」
「OKだ。かっ飛ばせばいいんだろ?」
「はい、気にせずにガンガン走り抜けてくださいっ!」
楓はけたたましいエンジンをふかす振動を体で感じた。
「大丈夫ですよ?」
「へ?」
楓は聞こえていないのに何故か聞き返してしまった。
今から自分の首を狩り取る捕獲員に。
「首が切れる瞬間、気絶するらしいんで全く痛みはないみたいですよ? まあ、あなたは魔女なんですから、首と胴体をくっつければ生き返るんで、痛いとか死ぬとかは心配はしなくていいんですけどね」
急に細い鉄線の輪が強い力で引っ張られ、楓の首の肉に食い込んだ。肉が耐えきれなくなった。肉を裂き、切り落とした。
ここで楓の意識が、一端、なくなった。