まじないっ! Tamana Angle 9/18 13:56
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彼を後ろからそっと抱きしめたら、急にヒスって私を突き飛ばして、転がるようにどこかへ行ってしまいました。……私、間違ったことしたのかなぁ。いやぁ、あんな風に泣きながら、過去のトラウマに向き合っているような姿を見せられたら、抱きしめて、大丈夫だよとか言うのが一般的にだと私は思います。
一般的では無かったんですけどね。
すぐに彼を追おうと思いましたが、もう脱兎の勢いで行ってしまったようで、ここから下を眺めても、彼らしき人はいませんでした。残念。
彼の逃げ出す姿から、彼が話したくないと言ったトラウマは絶対に引かれる類の物だと簡単に推測できます。確かにその手の類は絶対に聞かれたくないですよね。私だって、ほら、……彼との、えーと、その、×××を妄想して、××××しているだなんて、口が裂けてもいえません。彼に知られたら、真っ先にここから飛び降りますね。そう思うと彼を問いつめてしまったことに少しだけ罪悪感を感じました。
ここにずっと立っていても仕方がないので、彼の部屋にいる、ゴミ、もといい、人喰いの相手をしなければいけませんね。こんな人喰いでも、彼が好むのなら勝手に捨てたり、なぶったり、切ったり、ミンチにしたり、ミキサーにかけたり、煮たり、あげたり、チンしたり、流したり、腐らせたり、肥料にしたりしてはいけないですし。
彼の部屋の中に入り、座っているゴミを見ます。一応話しかけないとこの場の空気がやばいというのか、生ゴミみたいに腐ってくるというのか――この表現は的を射過ぎているというのか、本当にどうでもいいですが、この場を取り繕って話しとかないと、後で彼にこのゴミはなんて陰口するかわかりませんからね。
他愛もない話しから始めることにしました。なんであなたは魔女になっちゃったの、てな感じで、みんなが魔女に訊きたがるベストテンの中で上位にランクインしてるものを訊いてみました。私もそれには興味があったからなんですけど。
で、その喋るゴミは、
「わかんない……、気がついたらなってた」
と可愛らしくほざきました。うわっ、これ絶対、オタク共に好かれるような口調だよ。何で私まで媚び売ってんの。キモッ。
こんなことを内心密かに思っている私は、とても嫌われそうな奴になってますけど、誰にも聞かれる訳ではないので、気にしない気にしない。
ここで会話が止まるとさらに空気がゴミのせいで腐って異臭を放ってくるので、受け手に徹しながら話を聞きいていきます。
「鼓動の音がしなくなって、さわって確かめても、鼓動しなくて、それでわたしは恐くなって、お父さんとお母さんに相談したら、急にバットで殴られて、何か注射されて意識がなくなって、気づいたらが覚めたら森の中にいたの」
なんてお約束な展開でしょうか。
今時こんな話つまらねーよ。携帯小説かっての。
敢えておもしろいところをあげるなら、ゴミの親がゴミを機関に引き渡さなかったのは、自分たちがラリっているのを隠すためで、ゴミに薬打って意識を混濁させてどこか遠くの森に捨てたところですかね。
ん? その前に魔女に薬って効くんでしたっけ? 確か心臓がとまっているから、薬がうまく体に回らないから効かなかったはず……。まあ、別に効こうが効くまいが、私には一切関係ないので追求はしないでおきます。
それは大変だったねと適当に終わらせ、本題に移ります。
彼のことどう思っているの、と。
唐突に訊かれてゴミは、生意気に狼狽えて、吐きました。
「優しい人だなって思う」
それが耳に入った瞬間、ゴミを殺したくなりました。
何ほざいてんだ? このゴミは? 私を見くびるのもいい加減にしろよ。ゴミ分際で。彼は誰にでも優しいんだぞ? お前みたいな、社会の汚物、汚点を拾い上げてくれる時点で、彼を神様だと感じないゴミがいるか? そんな奴はいねぇよ。
……。
こんなゴミと話したくない。生理的頭が受け付けません。直感で思いました。ゴミが彼を優しいと感じたようにね。
私は彼がどこか行ってしまったから探しに行くと、ゴミに言い、部屋から出ていきました。ゴミをそのまま彼の部屋に放置しておくのは気が引けますが、彼がそうしたいと言っていたので、施錠しておいてと忠告し、私は彼の元へと走りました。
階段を下り、マンションの外に出て、彼がどこに向かったのか探します。携帯に電話しても通じません。メールで、探しているから戻ってきてと打ち込み、送信。たぶん返信してくれないでしょう。
取りあえず、辺りを走り回って彼を探します。でもなかなか見つかりません。街の方へといってしまったのかと思い、そちらにも足を運んで見たのですが見つからず、途中で捕獲員の魔の捕獲劇があったらしく、野次馬やマスコミ関係が集まってきたりして街から離れるのが大変でした。
あっと言う間にもう少しで四時になる頃になり、流石にもう部屋に戻っているよなと、彼の部屋があるマンションへ戻ろうと思いました。帰り道で、住宅地を歩いている時、何故か涙が出てきました。さっきも泣いたような気がしますが、あれは演技に近いものだと言うことで、カウントしないことにしました。
なんで、彼は魔女の彼女を選んだのか。
ずっと前から近くにいた私ではなく、魔女でビッチのゴミを選んだのか、それが悔しくて悔しくてたまらなくなり、最終的にその場にうずくまり、声を出しながら泣いていました。
もういやだ。と泣き叫んでいました。それでも当たり前のように何も変わりません。
どうしようもないこの怒りを憎しみをゴミぶつけ、呪い殺そうとしました。そんな程度で変わってくれる、お安い世界に生まれたかったと都合良く嘆きました。
考えれば考えるほど、私は魔女になりたいと思い願いました。
だって彼は五年間も、一緒にいた私よりも、一瞬ちらっと見たゴミを選んだんですよ? 彼の琴線は魔女って火を見るよりも明らかじゃないですか。なぜ彼が、魔女にそこまで執着するのか、検討もつかないのですが、昔、魔女となにかしら合ったことは間違いありません。知られたくない過去が――。
魔女になれば、彼は、私にも優しくしてくれる。
誰よりも、あのゴミよりも。
でもどうすれば魔女に成れるのか、全く分かりません。
私は魔女になりたい、とさっきの彼のように狂ったように連呼しました。
魔女になって、彼に愛されたいと。
「あなた、なんだか可愛そうな子らしいわね?」
すると、どこからか女の人の声がしました。
座り込んでいた私は顔を上げると、目の前には、若い黒いコートを着た美しい女性が立っていました。
私は目の前に立っている女性に、あなたは誰ですかと訊きました。するとその女性は微笑んで、
「私はサバド、って呼ばれる、この世界で迷える女の子たちを、魔女にしてあげられる、唯一の存在よ」
………………え?
訂正。
世界はどうしてだか、都合良く、出来ているみたいです。