まじないっ! Striga Angle 9/18 14:10
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「やっとつきましたね」
腰まで伸びた黒い髪を揺らしながら、上にクリーム色のポンチョ、黒のキュロットパンツを着ている女の子は言った。高校生くらいの年なのか顔立ちは幼く、身長は低くも高くもなくその年相応の身長、長い前髪を後ろに流し、髪留めで止めているため、額が惜しげなく見えている。
「くそっ、なんでうちが勧誘しにこなきゃいけねーんだよ。鈴がリーダーなんだから、あいつがくりゃあいい話しだろ?」
その隣でいる白地の長袖のTシャツにブーツカットジーンズの女性が愚痴を吐いた。二十代前半くらいでショートカットで白髪、背は隣の女の子より少し大きいくらいだ。
「花木さんは別件で来れないと言ってたじゃないですか。それから天下の真っ逆さま(笑)がそんなはしたないことを言わない、言わない。あくまで自称可憐な乙女(爆)なんですから」
「おいコラ、デコ。毎回毎回、止めろって忠告してんのに、ごてーねーに各個、各個閉じまで言うとはいい度胸だ。しばき倒すぞ」
デコと言われた女の子――羽背くららはふざけるのを止めずに片言でなく返す。
「きゃあー、恐いですわー」
「……道化の魔女のうちよりも、ふざけてる魔女が存在するってどういうことだ?」
真っ逆さまと言われた白髪の女性は頭を抱えた。
「わたくしなんて毎回、花木さんに着いて行ってるんですよ? それに比べ、真っ逆さま(痛)なんて数回しかしていないじゃないですか? それなのにたかが数回で愚痴るとは。これだから、超現代っ子はダメダメ言われるんですよ。まあ、わたくしの方が年下ですけど」
「あとでお前が鈴のこと、クソビッチって罵ってた、って報告しておくからな」
「きゃあー恐いですわー、……名のある魔女なのに、その年でその痛々しい名前を名乗っているのが」
「張っ倒す」
くららは懲りずにいけしゃあしゃあと言う。
「まあまあ、こんなところで遊んでないで、迷える魔女を救いに行きませんと。ねえ、真っ逆さま(痴)?」
「お前が遊んでいるんだろっ! ところで『チ』ってなんだよっ!? 発音だけじゃあ、漢字わかんねぇぞっ!? まさか痴女の『痴』かっ!?」
「えーと、ここには、魔女がいーち、にー、さーん、よー人はいますね」
一人だけ盛り上がっている真っ逆さまを無視してくららは魔女を捜す。
「完璧にスルーしやがったな。それについての尋問は後でやるとして、四人って多くないか?」
「どうしてなんでしょ? わたくしたちみたいに組織でも組んでいるのでしょうか? あー。一人目は、近くに捕獲員らしき能力者が二人いるので、間違いなく追いつめられているみたいですね。今からでは、遠すぎて助けにいけない距離ですから、残念ですけど、この人は諦めましょう。それからもう一人は、えーと、この感じは――近くに嫌~な感じの能力者を連れているので、これは政府の魔女に違いないですね」
「うげっ、あいつらもいるのか?」
真っ逆さまは心底嫌な顔をする。
「いますね。残念ながら」
くららもはあとため息をついた。
「あいつらに会うと面倒ってレベルじゃないから、絶対に会わないようにしないと」
「わたくしも同感です。あと三人目は地面から少し浮いているように感じるので、建物、マンションの中にいるみたいです。動いているわけでもなく、能力を使って逃げているでもなし、何かを食べている様子でもないので、きっと匿われているのでしょう。こちらは少なくとも、わたくしたちが向かうまで安心ですね。最後の一人は、この感じは――うーん、どっかで会ったような……」
「どこかであった、つーことは、そいつは名のある魔女ってことか」
「わたくしが知っていると言うことは、大体はそういう事なりますね……、あっ! 思い出しましたっ!」
「誰なんだ? そいつは?」
「強奪の魔女。名のある魔女の中で、唯一、顔と身元が不明。わかっていることはその能力だけ、といわれている魔女です。能力は、確か首切り飛蝗と同じ系統、切り裂き系の能力だったと思います。それにしてもずっと身を潜めていた魔女が、ここにやって来るとは意外ですね」
「ふーん。そいつも勧誘するのか?」
「えらい時間がかかりそうですし、止めておきましょう。どう考えてもここまで一人でやってきたということは、模倣の魔女と同じ、一匹狼でやっていきたいタイプのように感じますし」
くららが模倣の魔女と言った瞬間、真っ逆さまはどこか寂しそうな顔した。
「……そうだな。わざわざ魔女草や、ほかの連中とつるまないで、一人で動いているやつは、ほとんどそんな奴だ」
ほとんどが、首切り飛蝗に首切られてブタ箱にいったけどな、と言う。
「あとサバドも一匹いますね。場所は特定できませんが」
「ふん、それは魔女が生まれた近くには必ずって言っていいほどいるだろ。サバドは出会ったらとっつかまえて殺すだけ。二の次さ。魔女草の第一の目的は名も無き魔女を捕獲員に捕まる前にうちらの組織に入れる。それだけさ」
「そうですね。じゃあ心優しい人にマンションで匿われている魔女を救いに行きましょうか。真っ逆さま(愚)?」
「さすがに今のは分かったぞ、デコ? いっぺん付き落とすぞ?」
「きゃあ、痛い中二風な名前にかけた、だだ滑りのギャクで脅さないでください」
「……ブラジルまで落ちろ」
二人の魔女は電波塔の上で、きゃあきゃあ騒いでいたが、その真下の道を歩いていた人たちは、誰も電波塔に上に魔女がいることに気づけなかった。
「痛いっ! ここから落とさないで! ああっ駄目っ! 能力使って本当にブラジルまで落とすのは禁止っ!」
人騒ぎしたところで、真っ逆さまはチンピラよろしく言った。
「よし、これぐらいで許してやらぁ。ところで、その魔女が匿われているマンションってどこだ?」
「あれですよ。ほら茶色の」
くららは指でそのマンションを指し示す。
「……米粒みたいな、あれ……か?」
「はいそうです。いやあ、真っ逆さま(老眼)でも見えるんですね?」
真っ逆さまは微笑み、そして下した。
「うん。宇宙の果てまで落ちろ」
魔女草。
組織の全員が名前がある魔女であり、名も無き魔女を助け、保護する、魔女に対して慈愛に満ちた集団である。
それと同時に、この国の唯一の防衛組織の自衛隊を壊滅一歩手前まで追いやった魔女、花木鈴を筆頭に、この国の中で一番厄介な戦力――能力を持った最強の魔女集団である。