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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第三章 Three Peace And ...
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たんぺんっ! そのいちっ!

 六万PV達成記念の短編を書きました。達成したのはずいぶん前になりますが……。

 今回は、

 step1 六万PVか、なんか変なの思いつかないかな……

 step2 六万、六、六歳……。

 step3 そうか! 幼女かっ!

 という三段論法で考えてできあがりました。全く論じてない。我ながらバカな思考回路だと自負しています。

 誤字脱字などなどありましたら指摘してください。では、始まり始まり〜。

「人は一人でも生きてはいけるよ。退屈で、寂しすぎて、死にたくなる人が多いだろうけどね」





 春。

 小学校の入学式から、幾ばくの日数が過ぎた日の朝。

 矢本いちりは学校へ登校途中で、ダッシュで逃げ出していた。

「……」

 真顔の全力疾走である。

 別に春になって暖かくなり、冬眠から目覚める生き物のように出てくる変質者や、ところかまわず吠えまくって威勢を保とうと必死な猛犬におそわれている訳ではない。

 逃げ出しているのだから、寝坊して学校の開始のチャイムに間に合わないからダッシュで急いでいるわけでもない。

 まぁ引っ張る意味もないので手短に理由を話すと、いちりは学校をずる休みしようと逃げ出したわけである。

 いちりは自宅周辺にある幼稚園に通っていなかったので、幼稚園のころのお友達とはもちろん別々の学校となってしまい、自宅の近くにある小学校入学と同時に知らない人の群の中に放り投げられた。そんな群の中でいちりは、人見知りゆえか、それともまだ日が浅いからか、一緒のクラスになった同級生は屈託なく仲良くしてはくれるが、まだ安心できるほど信用、信頼はできなかった。それに知らない人に話しかけられるのが怖く、さらに屈託なく声をわいわい話かけて仲間に引き込んでくる同級生が、さらに恐怖の相乗効果を生んで、いちりのティッシュのような軽くてすぐに破れるメンタルがすぐボロボロになるのは当然のことで。

 で、数日で学校に行くのが苦痛になって、登校途中で周りに誰もいないとを良いことにダッシュで逃げ出したわけである。

 それなら、家から出る前に嫌だ! 行きたくない! とかまあいろいろと親に駄々をこねて、学校をズル休みすればいいのでは? と思う所なのだが、いちりは家では良い子でいたいと思っていったので、そんな親に迷惑をかけることを言えるわけなかったのである。

 登校途中で逃げ出す方が、よっぽど迷惑と心配をかける、ということを考えつかない所が抜けているというか、年相応の行動といいますか。

「……どこにいけばいいの?」

 逃げだしたのはいいが、どこに逃げればいいのか分からず、目の前に見えた既知の道に取り敢えず行ってしまうのは、幼いいちりの性である。

「まあ、誰? 今走って行った子?」

「矢本さん家のいちりちゃんじゃない?」

「ああ、お母さんにべったりだった子ね。もう小学校に通うくらい大きくなったのね〜」

「早く学校に行かないと遅れちゃうわよ〜」

 まあ、既知の道には知り合いが沢山居るわけで、そんで、朝一にダッシュで走り抜けている小学一年生の女の子がいるとなるとそれなりに目立つ訳で。

「……っ〜!」

 いちりは情けない声を上げ泣きながら全力疾走で逃げてましたとさ。



 †



「あきらめるにはまだ早いって? 君は煎った種に水をやり続けている人に向かって、そんな残酷なことを言うのかい?」



 †



 春。

 何となくだが、死にたくなる季節。

 嗚呼、さっさと滅んでしまえばいい。

 そう思い、少女は座っているブランコを揺らした。

 揺れると同時にギシギシとブランコの錆びた鎖が軋む。

「どうしたら滅ぶのかしら? こんなくだらない世界」

 少女はつぶやいた言葉がとても現実的ではないことくらい分かっている。くだらない意味もない独り言だ。その顔に暗い笑みが浮かぶ。

「それは無理。そんなことが出来きた人など、歴史上に今まで存在しなかった。そもそも、そんな人が存在して世界を滅ぼしていたなら、滅んだ世界の後に、私なんて生まれることは絶対にあり得ないわ」

 ブランコの揺れ幅は大きくなっていく。

「誰かの人為的な行為で世界を滅ぼした実例はないが、不可能だということはない。誰ひとり達成できないだけ。それを阻む生きぞこないが沢山いるだけ。だったらどうすればいいの?」

 自虐的にいいつつも少女は考えた。

「嫌いな世界。壊したい世界。終わらせたい世界。いや、世界ではなくて、あの母と父と弟と消せばいいのかしら? 私の周りの世界を作っているのはあの忌々しい私の家族。その全員をこの世界から消せばいい。壊せばいい」

 恨みはその小さな体の中、黒く渦を巻いて、黒く黒く煮詰まって、さらに黒くなっていく。

 その黒い恨みは少女の知性を鋭敏にさせ、誰かを壊すこと特化し、さらなる破壊を生理作用のように生む。

「他人の世界を壊すくらいなら、それは簡単だ。人を殺せばいい。ナイフで心臓を突き刺せばいい。人の首を両手で閉めればいい。高所から突き落とせばいい。だが、私の殺したい人は死なない。人ではないから死なない。だから私の世界を壊せない」

 ブランコは止まった。

「殺せないなら、壊せないなら、殺せる壊せる兵器をつくればいい。何年かかってもいい。どうせその後の世界には私は――」


 公園に、もう一人の少女が泣きながら息を切らしながら入ってきた。


「それなら、まずは準備の実験をするべきよね? 失敗は許されないから」


 そして、ばにらといちりが出会った季節。


 最悪の始まり。



 †



「自殺はいけないことだ。社会のためにもなりやしない。あ、自分のためとは一言も言ってないよ?」



 †



「ふーん、そんな理由で学校へ行かずにこんな辺鄙な公園に逃げたのね?」

 わざわざ人目に付きやすい公園に逃げ込んでおどおどしていたいちりは、ブランコに座っているばにらに気づくと何故か誘われるようにばにらに近づき話しかけていた。話しかけられたばにらは笑顔でいちりの話をきいてうんうんと相づちをうち、気づけば二人、それぞれブランコに乗っていた。

「……うん。……えっと」

「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね? 私、ばにらっていうの」

「……わたしは、いちり。矢本いちり。でね、ばにらちゃん、ばにらちゃんは学校に行かないの?」

 そうきかれたばにらは話をそらすように言う。

「そうね、いちりちゃんは学校に行ける人って、どんな人だか分かる?」

 いちりは頭を傾げながら、ばにらの質問に答える。

「……えっと、小学生?」

「まあ、小学校に行くのだから、当然小学生よね」

 そう答えがかえってきて、すこしばにらはあきれた。

「……あ、先生も学校に入れるね。あと学校内を掃除している人とかも」

「言い方がわかりにくかったわね。学校の中に入れる人じゃなくて、小学校に入学できる人はどういう人かしらって聞いたの」

「……」

 言い直されて、ちょっと分からなくなってしまったいちりは難しい顔をして黙ってしまった。話が進まないのでばにらは言い出した。

「小学校に入学できる人の条件として、大きく二つあるの」

 ばにらは指を二本立てて、いちりの前に見せた。

「……二つ?」

「そう二つ。この二つの条件に当てはまっていれば、小学校に入学できる最低限の条件はクリアできるの」

「……うん」

 その二本立てた指を一つ折る。

「まずは一つ目は年、年齢ね。生まれた年から六年以上経たないと基本的に入れないわ」

「……基本的に?」

「基本的にっていうのは、例外もちらほらあるのよ。たとえば、日本にはないけど飛び級とか」

「……とびきゅう?」

 何かの遊びかといちりは思い、首を傾げる。その反応にばにらは呆れた。

「そこから説明しなければならないのね……。その説明をすると長くなるから、説明はしないわ。それに一つ目は重要なことじゃないの」

 二つ目も折る。


「二つ目は、人間であること」


「……人間?」

 首を傾げたいちりにばにらは聞いた。

「じゃあ、あの隅っこに生えている木。あの木はあんなにも高く成長しているのだから、生えてから六年以上は経っているわ。でも学校に行っていないでしょ?」

「……うん。でもそれは地面に生えて動けないから、学校にいけないんじゃあ……」

「じゃあ、あの黄色の屋根の家の庭にいるおっきなワンちゃん。よぼよぼで毛並みも悪いから生まれてきて六年以上は経っている、もうおじいちゃんかおばあちゃんみたいなわんちゃんよ。ちゃんと動けるのに学校にはいってないでしょ?」

「……」

 論破され、何を言えばいいのか分からなくなって混乱しているいちりにばにらは言った。

「そもそも学校って言うのは人間しか行くことができない、じゃなくて、人間用に作られたものなの。人間用に作られた場所にワンちゃんやネコちゃんが勉強しに行くってのはおかしいし、ワンちゃんネコちゃん用に作られていないから、行ってもなんにも意味がない。ほら、私たちが風邪を引いたからといってワンちゃんとネコちゃんの動物病院に行くのは意味がないってわかるでしょ? そんな所に行ってもワンちゃんネコちゃん用に作られた場所だから人間である私たちが行っても風邪を治してくれるわけでも、お薬を出してくれるわけでもない。そういうことなんだよ」

「……」

「わかった?」

「……うん。なんとなくわかった。けど――」

 いちりは聞いた。ばにらに聞いた。

「なんで、ばにらちゃんが学校に行ってない理由が、人間しか学校に行けない理由になるの?」

 ばにらは、笑顔のまま答えた。


「それは簡単。私が――人間じゃないから」

「……え?」

 もう一度、答えた。


「人間とサバドの、出来損ないだから」


「……サバド?」

 そういちりが知らない単語を尋ねても、ばにらは一人話続ける。

「あなたは知らない人と接するのがイヤだから学校に行きたくない、他の知っている人から学校をサボったことを怒られたくないから一人になりたい、でも、それは私にとっては、贅沢すぎる感情だわ。人間でも、サバドでも、何でもない私にとってはとても贅沢な悩みだわ。それを振りまいているあなたが嫉妬するほど憎くてたまらないの。壊したいほど、めちゃくちゃにして消し去りたいほどに」

 それまでの優しい雰囲気が一気に変わり、いちりは何かしらの恐怖を感じて声を出せずにいた。

「でも、殺しはしないわ。だって私の願いも叶えてくれるんだもの」

 そうばにらはにたりと笑った。

「その代わりに、あなたの願いを叶えてあげる。それが出来損ないの私の能力だから」



 †



「成功しない努力は、一般的に努力っていわないらしいよ? それはただの時間の無駄っていうんだってさ」



 †


 いちりは目を覚ました。どうやらうつ伏せのまま地面に倒れていたようで、土の臭いが直接鼻から入ってくる。頬が地面に直接ついて堅い砂と地面に当たって痛く感じる。顔を上げて辺りを見渡したが、視界には誰もいなかった。立ち上がり振り返ってさっきまで乗っていたブランコを見ても、話していた誰かはブランコには乗っておらず、風でゆらゆらと漂うように動いていた。

 何があったのか、思い返しても、いちりの記憶の中からさっきまで話していた相手の記憶が抜け落ちていた。

 思い返して思い返しても、思い出せない。

 確かにあったはずの物が急になくなったような気がして、いちりは不安になった。

「……う」

 泣きそう。なぜだか不安がどんどんと体の中に溢れてくる。その不安を振り払おうと無意識に涙が流れてくる。

 ぽたっといちりの頬から涙が流れ、地面に落ちた時にはもういちりは声を上げて泣いていた。

「どうしたのっ!?」

 心配した公園の近くに住んでいるおばさんが何事かと近寄ってきた――


『孤独の恐怖が分からないの? なら、いちりちゃんにも教えてあげるよ。その体をもって――』


 おばさんが近づく度、胸が、特に心臓が痛くなってくる。不安の苦しみはどんどんと心臓の痛みへと塗り変わって、あんなに早いペースで打っていた鼓動が痛みとともにゆっくりと静かに止まっていく。

 頭が痛い、息が荒くなる、吸っても吸っても空気が、呼吸がうまくできていない。そして、おばさんがいちりの近くに寄ればよるほど、体の力が抜けていく……

「ねえ、大丈夫っ!? 悪い人に何かされたのっ!?」

 おばさんが力なく地面に倒れているいちりの体を揺すった。

 いちりは何を言われているのかすら、分からなかった。ただ、世界が暗くなり、ぼやけて、そして何も考えられなくなった。

 

『知るといいわ。その孤独の怖さを、深さを……寂しさを』


 出来損ないの生き物に“自分以外の人が近づく心臓が止まる”呪いをかけられたいちりは、奇跡的にも一命はとりとめたが、榊に出会うまでその呪いゆえに人と接することはできなくなった。



 †



「生きるのは難しいのに、死ぬのは簡単って、ほんと嫌になるよね」



 †


 いちりは目を覚ます。まだ開けづらい瞼をこすり、あと何時間寝れるのか、時間を確認する。

 まだ時計の針は三時を指していた。三時間は寝れると思い、上げていた頭を崩れるように落とした。

 それにしても体がやけに暑い。心臓も何時より早く打っている気がする。嫌な夢を見たようなそんな曖昧なもやもやとした記憶の残滓が頭の中を漂っている。少しだけ思い返そうとしても思い出せない。

 まあ、嫌な夢をみたに違いはないから、思い出すこともないか。

 そういちりは割り切り、眠かったので思い返すのをやめて寝ることにした。

「……なんだ、もう起きたのか?」

 いつも隣で一緒に寝てくれている榊を起こしてしまった。いちりは寝ぼけたフリをして彼の毛布に潜り込んでそのまま寝ているが、彼はもう怒る気にもないようだ。じゃまとか健全じゃないとか言っている彼も、案外こういうのが好きなのかもしれない。彼のプライドもあるだろうから口には出さないが、いちりはそう確信している。

「……三時だから、まだ寝る」

「そうか」

 いちりは眠る。

 明日もどこにも行き場を与えられない魔女たちを捕まえなくてはならない。

 

 もう地獄のような孤独の日々はなくなり、こうして好きな人の隣にいれる日々が続いている幸せに包まれながら、淡く遠くに漂う、小さな時の大きな邂逅は、遠く彼方へ流れて消えていく。



 †



「生きる理由を他人に聞いてはいけないよ。その答えに洗脳されちゃうからね。生きる理由ってのは、自分で見つける方が良いよ。その方が一番信じられるし、一番長続するんもんさ。

 さて、こんな感じでボクの薄っぺらい人生の教訓らしきことを偉そうに宣ったけど、どうだったかい? 別に君の糧にならなくてもいいさ。ボクもそういうために言ったんじゃないし、自分の為に言うほどナルシストじゃない。ただの戯れ言の暇つぶし、それくらい、暇で暇で退屈な話だったってことさ。実際、暇つぶしにはちょうど良かったよね? まあ、そういうことでお開きとしようか。じゃあ、ばいばい。またね」

 早く寝ても十一時間後に起床するハクアキです。まったく早く寝る意味がない。

 そんなこんなで書いたとても短い物語です。春に更新する予定で春っぽい話にしましたが……忙しさにすっかり忘れて、ぜんぜん間に合いませんでした。ごめんなさい。

 ちょっと矛盾があるかもしれないですが、おもしろいと思ってくれたら書いた甲斐があります。

 次回は早く書けるようにがんばりたいのですがリアルが結構忙しいくて大変なのと、これとは別に同書いている物語が一つありまして、あともう一つ書きたい物語も一つあり……、時間が足りないです……。どちらも早くお見せできるようなものになるといいですね……うん、本当に(現実から目を背きながら)。

 長くなってしまいましたが、最初の掲載当初から飽きず見捨てずに読んでくれている読者様、おもしろいと思って一気読みしてくれた読者様、たまーに思い返して一気に読んでくれる読者様も、ここまでこれたのは間違いなくあなた方のおかげです。これからも亀よりもカタツムリよりもトロく、社会クズの私ですが、どうかよろしくお願いします。

 冬にでも続きができたらいいですね。うん。

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