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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第三章 Three Peace And ...
118/121

さいこうっ! Konara Angle 11/02 16:13

誤字脱字等ありましたら指摘お願いします。

11/02 16:13



 爆風に私の体はとばされ、固いアスファルトの上を跳ねるように転がって、勢いが弱まったところで自然に止まりました。

「……椿さん」

 ただでさえ、片目しかない視力がさらにさがり、視界がぼやけて見えてます。メラメラと燃え上がっている椿さんの車。模倣の魔女は何かしらの能力を使って燃料を引火させ、爆発を起こさせたようでした。

 わたしはゆっくりと立ち上がりました。体中に激痛が走り、見ると体に数本、金属片が刺さってしました。金属片が貫通や体の中でとまっているようではありませんでした。抜くと危ないと訊いたことがあるので抜かないことにします。

 視界が鮮明になってきます。メラメラと黒煙と炎をあげ炎上している車のそばには、あの模倣の魔女がいました。まだ炎を見てました。

 あの炎につつまれた車の中には椿さんがいて、その椿さんが完全に焼かれるのを待っているようでした。

 ガシュッ。

 車から体中が焼け焦げている椿さんが出てきました。車から離れたといっても、体からはまだ炎がちらちらとでています。

「殺す? あたしを殺す?」

「……」

 椿さんは能力で模倣の魔女の体を切ろうとゆっくりと腕を振りました。模倣の魔女はそれを左腕で受け止めると、その左腕から切り刻まれた傷がぱっと開き、大量の血が霧状に吹き出ました。

「でもあたしが殺す」

 その血浴びた椿さんの体は徐々にぼろぼろと炭になった皮膚がはがれ落ちて、肘や膝から体の関節から崩れるように折れて、地面に倒れ、ガラスのように粉々に砕け散りました。

「あなたの、能力は、前にもらったから、いらない」

 足下に転がった椿さんの頭だった塊を踏みつぶして、そういいました。

 一瞬で、相手を倒す、デタラメな能力。

「……こんなデタラメ、倒せるの?」

 足がすくみました。

 勝てるわけがない。こんな化け物を殺す化け物の相手ができるわけがない。

「次は、あなたかな?」

 にっこりと睨まれました。

「ひぃっ」

 わたしは悲鳴を上げながら、すぐさま逃げました。あんな化け物勝てるわけがない。椿さんですら、一撃でしかも一瞬で殺られてしまったというのに。

「ねえ? どこへ行くの?」

 急に前から、どこからともなく、模倣の魔女が出現して、私に抱きついてきました

「あ、」

「あなたの能力は、もってない」

 私は、すぐに離れようと、首に噛みついて能力を使いました、模倣の魔女の首の骨は私の能力によって簡単に砕け、粉々になり、神経を破損させ、頭からの神経伝達を断ち切ります。模倣の魔女は急に力が入らなり、その場に仰向けに倒れていきました。模倣の魔女は何が起こったか、分からず、体を動かそうと必死になって顔を歪ませていました。

「なんで動かない?」

 これで時間は稼げる。

 早くここから逃げよう。逃げて葛くんや百合子さん、ふきさんや杏さん、八鳥さんに助けを求めよう。

 逃げようと模倣の魔女から背を向けて走り出しました。



「ああ、そうか、骨が折れてたから、動かなかったんだ」




 パンッ。




 ブシュッ。




 私の体は急によろめいて、それは飛んでいる鳥が電柱や電線にぶつかって、墜落していくように、アスファルトに落ちていきました。

 グチャリと落ちた私の体はすぐに立ち上がることはできませんでした。動くこともできませんでした。

 私を中心に血だまりが広がっていくのを感じました。おそるおそる下半身を見ると、そこは空でした。

 辛うじて、皮膚と骨でつながっているだけの空。

 模倣の魔女が使った能力は、さっきのフルフェイスの男が使った能力で、その能力が私の腹部に当たり、腹部が爆発して、空になって下半身が動かせなくなったのです。

 そう分析して、

「――」

 私は吐きました。真っ赤な血を吐いてそこにうずくまりました。痛みが神経を狂わせ、鈍痛が頭中で激痛へと変換し、私の体は強い吐き気をうったえていました。

 それは、あの逆さまさんの能力で気を失ったときに見ていた夢のようでした。

「やっと止まったー」

 怖い怖い怖い怖い怖い。

 ゆっくりと粉砕した首の骨が完全に治っている模倣の魔女が私に近づいてきます。

「あ、おあいえ、ううあ、」

 口をぱくぱくさせて、一生懸命拒絶しますが無理でした、無駄でした。

「何言ってるのか、わかんないよ?」

 模倣の魔女は私の体をつかもうとした手を、私は動く上半身の腕で払いのけ、能力でまた骨を砕いてやりました。

「痛いなー」

 ガスッ、と頭部に衝撃が伝わると、私が感じていた痛みが、さらに倍に増して、もう何も考えられなくなるくらいの激痛でした。

 私は殴られたのでしょうか? 砕いたはずの腕……で。

「さーてどこから食べようか?」

 痛い、痛い。

 衝撃を受けた頭はもうきっと割れているのでしょう。

 私は何見えない世界でそう思いました。

 いや、もうとっくに割れていたのかもしれません。

 あの魔女を追って、マンションから落ちて地面にぶつかったあの時にすでに割れていたに違いありません。

 もう、いつ割れてもおかしくなかったのです。

 ああ、その時がきました。

 あの頭が割れたあの時に、最後に伝えたいと思ったのは一体、誰でしたっけ?

 思い出したくても、思い出せない記憶が、最後の最後になって思い出せたらいいのに……。



 †



「またここに来たんだ……」

 私は空っぽの世界また来ました。

 バイクが通り過ぎた跡しか残っていない、そんな場所。

 何も残っていない場所。

 また這い蹲って、置き去りにされた場所。

「ほら、僕に触れたから、死ぬ運命になっちゃったんだ、ってね。嘘だけど」

 見上げると、つい先日私が殺した、あの男の子が立っていました。

「どうして、こんな所にあなたがいるの?」

「僕の体の一部が近くにあるからだよ。多分、あのお姉さんを殺そうとしている女の人が僕の体の一部を食べたんだろうね」

「でも、あなたの体は、ちゃんと山吹さんに渡して、処理してもらったはずなのに」

「運んでいる最中におそわれたようだよ。僕の能力を奪いたかったようだけど、それは無理だったみたいだね」

「どうして?」

「お姉さんの周りに僕と同い年くらいの子がいたでしょ? その子が僕の死体に何かしたんだ」

 葛くんが? この男の子のに一体何をしたのでしょうか?

「何かって?」

「僕の元あった能力を、こうやってお姉さんの虚ろに現れることができる能力に変えたんだと思う。だから、僕はここにいることができる。そうして、あの女の人に元僕の能力をコピーすることを阻止したんだ。こんな能力、体が死ななきゃ使えないからね」

 元の能力、つまり、触れた人の運命を変えて、死なせる能力を模倣の魔女に手に入れさせないために。

「……じゃあ、あなたは生きているの?」

「分からない。一応意識はあるけど、こんな虚ろの中にしかいれないし」

「そう……」

「ねえ、お姉さん。僕を殺して、こうなって、僕は救われたと思う?」

 そう問われて、私は即答しました。

「全然」

「だよね。でも、僕にはそれ以外救いようが無かったような気がする。誰にも関わらないで生きても、すぐに餓死とかして、死んじゃいそうだし。それにもう、僕には生きていた理由も自分で消しちゃったようなものだし。これからその理由も増やすこともこの能力の所為で、できないし」

「それでも、何か、別な方法がある……気がする」

「そう考えるのは止そうよ。本当にあったとき、悲しすぎるし」

「……うん」

「あーあ。良い方向に僕の能力が運命を変える能力だったら良かったのに、そうしたら、お母さんもお父さんも死なずに済んだのに。そうしたら、簡単にお姉さんも救えたのに」

「救っても意味ないよ。こんな空っぽのわたしなんて。それにわたしはあなたを殺したんだよ? 名前も知らないあなたを。いとも簡単に。それに憎むべき相手でもあるんだよ?」

「普通の人ならそう思うだろうけど、僕はもう、普通じゃなかったから、それで良かったんだ」

 そういって男の子は歩き出しました。

「じゃあね、お姉さん、迎えが来た」

「……行かないでよ」

 そういって男の子は笑いました。

「違うよ。迎えがきたのは僕じゃない。お姉さんの方だよ」

 私に迎え? 一体誰が?

「お姉さんの中には黒い塊があるんだ。雁字搦めに鎖で何重にも巻かれた黒い塊。そこに閉じこめられていた人がお姉さんを助けてくれるよ」

 私を助けてくれる人って?

「僕は、お姉さんが起きる直前までに、その鎖を解いてくるからね」

「……どうして、そんなことを?」

「僕はこんな形になって死んだのかもしれない。でも、僕はお姉さんに救われたと思ったんだ」



 だから、そのお礼だよ。



 11/02 16:19



「いただきます」

 目を覚ますと私に手を合わせて、今から食べようとしている模倣の魔女が視界に入りました。やはり体は動かせませんでした。あの男の子が言っていたように、救われるわけがなかったのです。

 でも、頭痛はありませんでした。体中の痛みもありませんでした。

 ああ、そうか、私に苦痛を与えないように、痛みを消してくれたんだ。

 確かに、私は救われていました。それは、あの男の子に私がしたことのようでした。

 私はそっと、目を閉じて、これなら、大丈夫、と小さくつぶやきました。


 そうじゃないよ。お姉さん。


 どこからか声が聞こえます。


 ほら、鎖はほどけた。あとは、言うだけだよ。


 一体何を?


 そんなの分かっているくせに。


 だから、誰なの?


 それはね――


 その名前を聞いたとき、ああ、なんで忘れていたんだろうと、私は思いました。

 最後の最後に覚えておきたかったあの愛おしい人の姿、顔、名前を。

 本当に言いたかったあの名前を。











「鬼灯先輩」










「ん?」

 模倣の魔女が急に食べようとするのを止めました。

「どうして? 人払いの能力を使ったはずなのにどうして? 入ってこれるの?」




 ブロロロォォォ。




 バイクのエンジン音が私の耳に響きました。

 聞き慣れた、この音。一緒に乗っていた時ずっと近くでこの音と思い出す心臓の音。

 私の好きな人の心臓の音。


 相当スピードを出しているようで、爆音のように響くその音がなる方へ視線を向けると、一台のバイクがこちらに猛スピードで向かってきました。

「面倒なのがきた」

 そうつぶやいた模倣の魔女の頭は、猛スピードですれすれを走り抜けたバイクの後ろに乗っていた人が振った金属バットに当たって、歪んでグチャリと地面にたたきつけれられました。


 キィィィィィィ、と悲鳴のようなブレーキ音を上げながら止まる見慣れたバイク。そのバイクには二人が乗っていました。


「ナイス、フルスイング。鬼灯」

「杏さんも。代わりに運転してくれてありがとうございます」

「いいさ。後輩の頼みだからな。できることなら何だってしてやる」

「なら、昨日は聞き入れてくれなかったんですか? あのあと体中、打撲で大変だったんですよ」

「できる事っていっただろ? ごちゃごちゃ言わずに、早く降りてこならを早く助けろ。私は葛を連れてくる」

「分かりました」

 バイクを降りた先輩はすぐに私に駆け寄りました。

「じゃ、二人とも死ぬなよ」

 鬼灯さんのバイクを運転していた杏さんは来た道をUターンして、葛くんを連れにいきました。

「何で、先輩は、ここにいるんですか?」

「話はあとだ」

 そういい、私の体をゆっくりと優しく持ち上げて、道路の端の方へと運んでくれました。

「小指、喰ちぎれるか?」

 一体、先輩はなにを言っているのでしょうか? 私の頭がおかしくなってそう聞こえているのでしょうか?

 すぐに口に入れられた先輩の右手の小指。言われるがまま、噛みちぎろうとしましたが、肉を噛みきる力がありませんでした。

「無理か。なら」

 そういって取り出したナイフ。それ先輩は自分の顔の近くに当てて、深呼吸して、一気に、

「あぁぁぁぁぁ!!」

 叫びながら、左耳を切り取りました。

 溢れる血と耳と同時に切り落ちた髪。

 手で出血を押さえながら、先輩の回復能力で血が止まるのを待ちます。

「……血だとうまく行かないらしいから、これで我慢してくれ」

 そういい、ある程度出血が止まったら、切り取った自分の耳を手の上で細かく刻んで、自分の口の中に入れてかみ砕いて、そして、

 口移しで、私の口の中に入れました。

 魔女としての本能でしょうか、すぐに私は受け取った肉を飲み込んでしまいました。

 飲み込んだことを確認すると先輩は少し安心した表情になりました

「これで俺の能力がこならに受け継がれて、回復力があがるはずだ」

「……よく分からないのですが」

「あとは、葛って子供が来てから説明してもらえ。時間がないからな」

 そういい、先輩は立ち上がって、耳を切り取ったナイフを模倣の魔女に向けて。

「俺はこいつをどうにかしなければいけない」

 模倣の魔女からゆっくりと顔をあげて、

「痛いなぁ?」

 ぐちゃぐちゃになったはずの顔はもう元の顔に再生し、ニタニタと笑っていました。

「そっちはありふれてる能力だから、いらないのに」

「こちらからも願い下げだ」

 ゆっくりと立ち上がる模倣の魔女。

「お前、なんの為にこならをおそったんだ?」

 先輩は情報を得るためと時間を稼ぐために模倣の魔女に話しかけましたが、

「ん? 時間稼ぎ? そんなのつまんないよー」

 模倣の魔女は不満そうな顔をしました。

「真面目に答えろ」

「そんな、怖い顔で脅されても、弱いやつにほいほいと言う訳ないじゃん」

「やってみないとわからんだろ?」

「まあ、いいや。時間の無駄。殺そう」

 そういった途端に、すぐに先輩と距離を詰めて、腹部を狙って手刀を繰り出します。

「っ!」

 先輩は手刀を体をひねりながら、スレスレで避けて、隙をつき、切りかかります。

 が。

「これなら、死ぬよね?」

 手刀を繰り出していない方の手で作ったお粗末のあの銃口が先輩の体に狙いを定めました。

「面倒だっ!」先輩はその銃を手を払いのけて、銃口を自分の体からそらしました。

「むー。これならどう?」

 そのそらされた銃を自分の体に向けて向けて、模倣の魔女は、ぱんっと自分の体を打ち抜きました。

 体から飛び散る肉と血液。

「ちっ!」

 先輩は跳び去って避けようとしましたが、飛び散った範囲が広く、肉片と血液を体中に浴びてしまいました。

 体を支えるのは骨だけになった模倣の魔女は、バランスを崩してその場に崩れ落ちながら、言いました。

「そんで、切り刻むの」

 そういった瞬間に、先輩の体中につむじ風がおこったように切り裂かれ、血をまき散らしながら、よろめきました。

 息を切らしながらではありますが、先輩は足が痛みにふるえながらも立っていました。

 そして笑みを浮かべながら言います。

「……これだけか?」

 あまり攻撃が通じていない姿を見て、模倣の魔女は嫌な顔をしました。

「むー」

 飛び散った肉片や血液は、模倣の魔女を中心に戻っていき、骨に肉が徐々について、最後には元通りに回復していました。そのとき着ていた服は戻らず、全裸に近い状態でした。

「えっちー」

「……興味ねえよ。寧ろ、気味悪いわ」

 そう言うと、ポーチから何かをとりだして、ピンを抜き、

「さっきので誤爆しなくてよかった」

 模倣の魔女に向かってポイっと投げました。模倣の魔女はなぜかそれをキャッチしました。

「ん?」

 私は素直に手榴弾をキャッチした模倣の魔女の手の中で爆発するものだと思っていました。

 でも、何も起こりません。

「爆発物? 物騒だなぁ」

「……どうして爆発しない」

 そして、瞬間移動して、先輩の目の前に立っていた模倣の魔女は、

「自分で確かめればいいじゃん、ほら」 

 瞬時に移動して、目の前で手榴弾を突き出しました。

「本当にデタラメだ!」

 爆発する一歩手前で、模倣の魔女の体を蹴り飛ばして、できるだけ距離を取りましたが、先輩は模倣の魔女の手の中で爆発した手榴弾の爆風が容赦なく受けながらも、受けるダメージを最小限にしていました。

「なんなんだよ。今の能力」

 模倣の魔女は爆風をもろに受け仰向けに、爆風の力も加わって、アスファルトのうえに叩きつられていました。手榴弾をつかんでいた腕はなくなり、その傷口からは、血管がうねうねと飛び出しています。

「あははは」

「笑ってんじゃない。怪物」

 そのうねうねと飛び出した血管が腕の形を作り、その中心に白い骨が生え、肉が白い骨からにじみ出るように成長していき、最後には元通りの腕になりました。

「もういいや、感知と攻撃と回復の能力なんて。たくさん持っているし。それよりも、今の方が楽しいし」

 ニタニタと笑う模倣の魔女がゆっくりと立ち上がりました。

「何回殺せば死ぬんだか」

「死なないよー。んー?」

 嫌いなやつがこっちにやってくるなあ、と言い、模倣の魔女は先輩を指さしながら言いました。

「一撃で死ぬ能力と一瞬で死ぬ能力、どっちがいい?」

 先輩はその指先から何かがあると思いその指先の延長線からズレるように常に動いていました。

「どっちも同じだろ?」

「ああ、そうだね。同じだ。じゃあ両方でいいや」

 遠近を無視するように、先輩の首をすっと横になぞっていきました。


 ゴトッ。


 先輩の首がいとも簡単に落ちました。

 制御できなくなった体はそのままきり口から血を吹き出しながら、倒れていきました。

「――あ?」

 私の口からでたのは、そんな一文字でした。

 模倣の魔女の言うとおり、一瞬で、一撃で、先輩を殺しました。

「むー。本当に死んじゃったよー。これも避けると思ってたのにー。次の策も考えていたのにー」

 私は呆然としました。

 先輩も言っていたとおり、やっぱり、能力の一つ一つがデタラメで、

「あ、首が落ちても、嫌な奴の能力で復活したところで、襲うんでしょ?」

 回復力も桁違いで、

「うーん、動かないな」

 すべてが狂っているほど強力な能力。

「――!」

 私は絶叫しました。

 ままならぬ恐怖、先輩を殺された憎しみ、絶対的な暴力、すべてが混ざっていました。

「あっ、忘れてた。ちゃんと食べないと」

「来るなっ!」

 私は近くにあった石を模倣の魔女に向かって投げましたが、模倣の魔女はひょいっと避けました。

「目に当たったら痛いでしょ?」

 ゆっくり、ゆっくりと近づく、模倣の魔女は、ついに私の目の前まできました。

 もう駄目だ、そう悟りました。

 首を切りをとされた先輩を見ました。

 最後、なんだ。これが、私の最後なんだ。

 模倣の魔女の顔を見ました。笑っています。笑っています。

 憎い。

「さあどうやって、殺そうかなー、でもー」

 憎くてたまらない。

 でも、どうしようもない。

 涙は枯れてしまいました。

 叫ぶ声もかれてしまいました。

 ああ、殺された。

「嫌な奴来たから、帰る」

 そういい、模倣の魔女は私の前から消えました。

 私は、がくっと気絶するかのように眠りに落ちました。



 †



「ほら、お姉さんは救われたんだよ」

 男の子はそういいました。

「……救われてないっ! 先輩が、先輩が!」

「大丈夫だよ。先輩っていう人の体は首を切られただけで、綺麗さっぱり食べられてはいない」

「どうやって、そんな状態の先輩を生き返らせるの!? できっこないっ! 不可能だよっ!」

「できるよ」

「無理だよ……絶対に無理だよ……」

「できるよ。お姉さんは忘れたの?」

「……忘れた?」

「そう、お姉さんがどんな状態で生き返ったのかを。そして、あの出来損ないの人間に記憶を封印されたことを」

 私がこうしているのは、こうして生きているのは、出来損ないの魔女になって生きているのは――

「僕としてはもっと、お姉さんとお喋りしたかったけれど、もう目覚めなくちゃいけないね」

「え?」

「そうだ。僕の名前を教えてあげるよ。僕は名前は樹世海じゅせかい

「ジュセ、カイ」

「そうだよ。いつでも僕の名前を呼んで。そうしたら、ここに連れて行ってあげるから」



11/02 17:04



「大丈夫?」

 百合子さんが私の顔をのぞき込んでいました。

「わたし、生きてますか?」

「生きてるわよ。ちゃんと動けるように葛くんが治してくれたから」

「そうですか……先輩は? 椿さんは?」

 そう尋ねると百合子さんは目を伏せて何も言わなくなりました。

 私は節々が動きにくい体を動かして、立ち上がり、先輩の体が倒れているところで立ち尽くしている葛くんの元へとふらふらと歩きました。

「こならちゃん……」

 百合子さんが私を支えながら、葛くんの元へと一緒に行ってくれました。

「……葛くん」

「何だい? こなら?」

「私の言いたいことが分かるよね」

「ああ、分かっているさ。今、君の中にいる樹世がそういったんだろ?」

「……うん」

「どうして樹世が君の中にいるのか。気になるだろう? ちょっと説明するよ。君が姉さんに食べれられた時に、姉さんは僕に死体を魔女にして復活させないようにするために、呪いを仕掛けたようだけど、生きている人間にかけるものを死体にかけたものだから、うまく作用しなかったみたいで中途半端な効果しかえられなかった。それは今の君にはよく実感しているはずだ」

「うん。先輩のことを忘れていた」

「君の中一番を占めているものだからね。一番強くでて、そして、一番だから呪いの効果をよく効いてしまったから、忘れてしまったのさ。僕としてはこのまま忘れてもらってもかまわないかった。だけれど、姉さんの呪いの一部でもこちらに残しておくのは危なすぎる。だから、死んで姉さんの呪いから解放された樹世に、呪いを解く能力をあげたのさ。本人には能力を変化したって思っているだろうけど、実際は死んで呪いが解けて、その上に僕が能力を与えただけなんだけどね。僕はその能力を使って君の意識の中に入って呪いを解くように樹世に頼んだ。結果、君は鬼灯のことを思いだした」

「樹世くんがわたしの中にいるのは、そのために」

「そうだね。だけど居続けているのは、樹世は君を気に入っているからかな。意識を通じて人さえいれば、樹世はどこにでも行けるはずだから」

「……」

「こんなところかな? じゃあ本題に入ろう。こなら、僕に何をしてほしいんだい?」

 葛くんが私に尋ねてきます。私ははっきりといいました。

「先輩を助けてください」

「僕が彼の左目を奪って、能力を与えれば生き返ると?」

「そうだよ。わたしの時も葛くんが左目を取って能力をくれたから、助かった」

「困ったね。猫と一戦で、椿も炭にされたんだ。僕は鬼灯よりも、椿を治した方がいいと思うんだよ」

 椿の方がどう考えても強いしね、と葛くんが言いました。

「二人ともは助けられないんですか?」

「こならを先に助けたからね。僕の力ではあと一人分が限界さ。それに体も一つしかない」

「それでも助けて欲しいです」

「椿を見捨ててかい?」

「……」

「まあいいさ。恨まれるのも、憎まれるのも、すべて君が背負うのさ。僕はただ言われたとおりするだけだ」

「……椿さんは?」

「椿は残念だけどここで諦めてもらうよ。あと一人助けられる力しかないし」

「そんなの……」

「駄目だって? エゴイズムは良くないよ。それから、何でもするからとか、決まり文句とかは言わないでね。そういったら僕は、鬼灯を諦めてか、あの猫を倒してきてって頼むだけだから」

「……分かった」

「うん、じゃあ、鬼灯を助けてあげよう。その対価として、君には椿を助けなかったことの罪を背負ってもらうよ。まあ気持ちの問題だけどね」

「うん」


 そういい、葛くんは先輩の顔に近づいて、左目を取り出して、口の中へと、放り込みました。



 †



「椿が死んだのか? なんで助けなかった? 葛の意味分からんやつで助けられただろ?」

「ふき……、意味分からんやつってねぇ……。こならとその彼氏を治癒したら力を使い果たしてね、無理だったんだ」

「なんでそのこならの彼氏なんて助けてんだよ? フツー戦力的にも椿助けるだろ?」

「まあ、普通はそうなんだけどね。でも、元から次椿が死んだら治せないから無理だったんだ」

「はあ、意外だな」

「椿が死にかけたのはこれで三回目で、そろそろ、椿の体自体にもガタが来ているようだったから、これ以上は復活させても意味ないだろうなって、前々から思っていたんだよね。だから、復活させなかった。僕の作る魔女やらは出来損ないだから、僕が何回も復活させるのはできないんだ」

「そうなのか、つまりは椿の自業自得ってやつか?」

「いいや、今回は運が悪かったとしか言いようがないね」

「椿のことは大体納得した。それで、何んで代わりにこならの彼氏を治癒してんだよ? 椿が減ったから駒が欲しかったのか?」

「それもあるよ。あとは本当は僕が背負わなければ、いけない椿の死をこならに背負わせたかったっていうのもあるね」

「……黒いな」

「黒くない。限りなく白だ。ちゃんと僕はこならの言うとおりに彼氏を治癒して、治した。そうしてあげた対価として、僕が背負うはずのモノを代わりに背負ってもらった。そいうことだよ」

「……何となく納得がいかないな」

「だろうね。僕もそうやられたら、納得がいかないと思うよ。まあそれが対価だから」



 †




「うまく機能していないとおもったら、死体には効きにくいのね。でも、椿を殺せたことだし、さらに捕獲員からまた一人引き抜かせたから良しとしましょう。あとはこちら側の魔女の補充と、イライラするバカカップルを殺すために、桜が使っていた捨て駒を洗脳してテロでもしてもらいましょうか」

「ねえ、ここあ。こちら側の魔女の補充って……どこに魔女がいるの?」

「ああそれ。周りに沢山いるじゃないの。優秀な能力を持った魔女草ストライガの魔女とか、警備がザルの魔女収容所に詰め込まれている魔女が」

 

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