さいこうっ! Konara Angle 11/02 11:20
評価してくださった方ありがとう御座いました。これからも面白いものを書いていきます。
誤字脱字等ありましたら、指摘してもらえると助かります。
†
「私は、そんなことを思ったことは、今までなかったような気がするわ」
そう百合子さんはいいました。私はため息をついて言います。
「それ嘘じゃないですか? 女として」
「そうかもしれないわね。物心つく前に父親に、『大きくなったら大好きなパパと結婚する』とか言っていたかもしれないから」
「……」
私は茶化されていることに少し怒ってきました。こっちは少し背伸びして、恥ずかしながら訊いたって言うのに。
膨れっ面をしていたのか、私を見て百合子さんは笑いました。
「あははは。別にこならちゃんの反応が面白いからって茶化しているわけじゃないのよ?」
「じゃあ、一体どういうわけで茶化すんですか?」
「その話題から離れたいから、っていうのが一番の理由かな。私の中の黒歴史なのよ。そういう気持ちっていうのが」
そう百合子さんは暗い表情をして、話をやめてしまいました。
誰にも知られたくないことだって誰にでも沢山あるのは分かっています。でも、私は百合子さんの知られたくないことが、私がいったことであることが、少しだけ悲しく思えてきました。普通は知ってほしい事なのに、恥じて、しまい込んでしまわないといけなくなったことが。
「じゃあ、もう、百合子さんは、そうは思わないんですか?」
私がそう尋ねると百合子さんは少し考えていいました。
「さあ? 今は思えないと胸張って言えるけど、これから先、心変わりしてそう言う気持ちが芽生えるかもしれないから、分からないわ」
「そうですか……」
「まあ、私が××××のことは眼中にないから安心して」
「っ!? な、なななにを言ってるんですか!?」
「あはは、本当に面白いわね。こならちゃんは」
11/02 11:20
私は椿さんにつれられて、事件があったマンションの契約駐車場の前でおろされました。
周りは一軒家が多く密集しているだけで、特に変わっている点をあげる方が難しいんじゃないかと思うくらい、普通の所でした。
「こんな所でも、殺人は起こるんだね」
ふと上を見上げて、事件が起こった部屋と思われる所をずっとみていました。簡単に見つけれた理由として、他の部屋のカーテンが日差しも強くないのにしまっていたのに対して、その部屋の窓と上下左右の部屋の窓には何も掛かっていなかったのです。マスコミや勝手に写真に映らないようにカーテンを閉めているのでしょうし、部屋の周りが空き部屋になっているのは、あの部屋で何かがあったということがわかります。
「こんなところにいて、榊くんやいちりちゃん、伊達さんや光さん、捕獲員の人たちに会って一体何になるんだろう」
そう一人呟きました。葛くんが考えていることは想像もつきません。どこまで手を伸ばして操っているのか分からないほど、クモの巣のように巨大な見えない糸を張り巡らしているのです。
マンションの入り口の方から、一人の女性がこちらに向かって走ってきました。近づくにつれ、その女性が私とほぼ変わらない同世代であることが分かりました。
私から少し距離を置いて、その女の人は捕獲員の手帳を見せながら話しかけてきました。
「捕獲員です。ちょっとお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
見知った顔ではないので、どうやら、この人が私と百合子さんの代わりに入ってきた人のようです。榊くんやいちりちゃん、伊達さんや光さんのような顔見知りの人たちと会わなくて良かった気がしました。
葛くんに言われたとおり、捕獲員の前に顔を出したので私のノルマはこれで果たせたはずです。
この人には悪いのですが、私がいなくなってからすぐに新しい人が入ってきたことに対して、ちょっと不愉快だったので、私はひねくれて答えました。
「嫌だって断ってもいいかな?」
「それなら、あなたが怪しいと思うだけですよ。あなた……もしかして、魔女ですか?」
そう訊かれて私ははぐらかしました。
「うーん、違うような、足りないような、そんな感じかな」
「……はぐらかなさないでください。肯定ととらえますよ」
「じゃあ、どちらともいえないが、わたしの答えになるね」
「ちょっと失礼して」と苛立った口調で話していた女の人はおもむろに私の左手首をつかみました。
「……脈がありませんよ」
左手首をつかんだまま、睨みつけてきました。
私はその左手首に捕まれたままの手を払い除けます。
「心臓がなくても、魔女じゃないこともあるんだよ。それに脈が無くても心臓は動いているって病気あった気がする」
「……でも、私はあなたを魔女だと思います」
女の人は中に透明な砂が入っているペットボトルを取り出して、ふたを開けました。
「体温が、全く感じられませんでしたから」
ペットボトル中から、砂が飛び出し、鞭のような軌道を描きながら私に向かってきました。この女の人はこの砂を操る能力者のようです。私はすぐ後ろに飛び去ってその鞭を避けました。
コンクリートの地面に叩きつけられた透明な砂はさらに細かく砕けながら、辺りにちらばっていきます。
この透明な砂、憶測ですが、ガラス片だと思われます。
「物騒だね」
この能力の類は、一カ所にまとめて同時に同じ方向動かすよりは、バラバラに拡散させ、相手の隙をついて最小限の攻撃をしつづけた方がダメージが与えられるもので、いちりちゃんも良く水をばらまいては、相手が防御できない背後をねらって攻撃するの頻繁にやっていたことを思い出しました。つまり、バラバラに砕け散ったガラス片が散乱する周辺にいるのは得策ではないということです。
だからといって、このまま逃げても私より早く操ったガラス片が追ってくるでしょうし。
こうなったら、覚悟を決めなければいけませんね?
そう、相手に何も、能力も使わせずに倒せばいいのです。ガラス片の攻撃よりも早く、私の能力を使って手と足の骨を粉砕すれば、歩いて追ってくることもなく、痛みによってガラス片の操作が集中で出来なくなるはずです。
私は逃げずに相手に向かって行きました。
「っ!?」
逃げ回ると思っていたのでしょう。私の捨て身の攻撃に驚いたようで、ガラス片で守るのではなく、両手で顔を守ってしまいました。
私の狙いは命ではなく、能力の無効化と足止めです。
その顔を守った腕に向かって、私は右手を伸ばしました。
これで相手の両手の骨は私の能力で粉々に粉砕するはずです。
あと、数センチで手が届く――。
「はい。そこのお二人さん、こんな所での殺し合いは、止めといた方がいいぞ?」
急にパチンッと音がしたと思ったら、視界が一瞬で暗闇に包まれました。
†
遠くで誰かが笑ってます。どこか困ったような顔で笑っています。
その人の近くにはバイクが止まっています。
私は嬉しそうにその人に近づいて行きました。その人は私に向かってヘルメットを少し山なりに投げてきて、私は落とさないように両手でキャッチ。その投げてきたヘルメットをいそいそとかぶりました。
私がヘルメットをかぶっている間、その人はバイクにまたがり、エンジンをかけて、ふかして、私が後ろに乗るの待っていました。
私は落ちそうになりながらもバイクに乗りました。
「××、どこへ行くんですか?」
私が楽しそうに訊きました。
「――――」
その人は、何か言いました。
「それはいいですねっ!」
私が、いえ、私じゃない私がそういいました。
私は、遠くからその二人、私と誰かを見ていました。
私は近づこうとしました。でも足は動きませんでした。足はちゃんとあって、こうやって、二つの足で立っているのに、どうして近づけないんだろう?
私は足下をみました。
足はちゃんとあり、腕だってちゃんと二本ありました。
でも、私の中身はなく、お腹は空洞で、肋骨がぱっくりと開いていました。
ぐちゃり。
私は崩れ落ちました。血と残った肉片が飛び散りました。すぐに立ち上がろうとしましたが力がうまく入りらなくて、その場でもがきました。
這い蹲って、私と誰かが乗ったバイクに向かって、手を伸ばし、叫ぼうとしました。でも声は出ませんでした。理由は分かっていました。私の中は空っぽで、声を出す器官もすべてなくて、ただ床に這い蹲るだけの、死に損ないだと頭で分かっていました。
でも、私は叫びました。声にならないで、唾液と血液をとばしながら、懸命に叫びました。
バイクは轟音を轟かせました。その誰かがギアをガチャンと変えました。
行ってしまう。空っぽの私を置いて、誰かは、すべてを知っている私と一緒に、届かない世界へと走り去ってしまう。
私は叫びました。私は手を伸ばしました。叫んで叫んで、泣きわめきました。
「――――」
誰がが違う私に言いました。
「はいっ! ちゃんと掴まっています!」
違う私は誰かの体に手をまわして、ぎゅっと掴まりました。その瞬間空っぽの胸が苦しくなって激痛となり、身体を裂いていきました。
バイクがゆっくりと動き出し、徐々にスピードを上げて、這い蹲る私から遠ざかって行きます。
私は泣いていました。
置いて行かれた空っぽの私は、一人、泣いていました。
轟音は少しずつフェードアウトしていき、空っぽの私の泣く音以外は聞こえなくなりました。
ふと、私は気づきました。
「空っぽでも涙は出るんだ」
11/02 13:19
嫌な夢から逃げるように私はばっと起き上がりました。
「うぁっ!? い、いきなり起きるから、び、びっくりしたよお〜」
変な声を上げた近くにいた女の人のことは今はほっといて、嫌な夢を見て息苦しい中、現在置かれている状況を確認しました。すぐに車の中、さっき、いきなり現れたワゴン車の車内あると理解しました。
ワゴン車の中には私を含め四人乗っていると思われます。人数が不確定なのは、見渡して乗っているのは三人だけでどこかに隠れている可能性もあるからです。隠れているからといって私に対して利益になるとは思わないのですが、その可能性も考えておくのも、万が一のことがあったら意識していたことで対処できるかもしれないので、少しだけ意識してようと思いました。
そして、もう一つ気がかりなのは、能力を使っても心臓の音が一切聞こえなかったことです。
「あの逆さまさん。この子起きましたよ」
私の隣にいた女の人は運転している方に顔を向けて言ったので、たぶん運転しているのが逆さまさん(?)なんでしょう。というか、逆さまって名前、私の名字よりも痛々しいですね……と同族嫌悪しているとき、逆さまの単語に引っかかるものがありました。
「逆さま、逆さまって、……もしかして道化の魔女の真っ逆さま!?」
道化の魔女こと、真っ逆さま。
正偽の魔女、花木鈴さんが率いる魔女草の魔女。
私が素っ頓狂な声を上げると逆さまさんは言いました。
「うちって、捕獲員の間でそんなにユーメイな名前なのか? なあくららどう思う?」
助手席に座っていたくららと呼ばれた女の人は冷ややかなことを言います。
「それは真っ逆さま(愚)が、自分のことを痛々しい名前で叫び、やっていること言えば、花木さんの劣化版の能力で捕獲員をからかっているだけですから、捕獲員の間でも痛々しいピエロって呼ばれているんじゃないでしょうか? そ一発屋の芸人みたいで有名にもなりますよね、インパンクトが強すぎて」
「拷問決定」
ぎゃにゃーっ! と助手席で悶え苦しむくららさんを気にもかけずに逆さまさんは私に声をかけてきました。
「お前が捕獲員から、葛が引き抜いたっていうこならか」
「いえ、引き抜かれたっていうか、魔女に食べられかけたところを葛くんに助けてもらったっていうか……」
引き抜かれるほど、私が重要な人物であるとは思えないのですが。
「ふん、お前の隣にその引き抜かれる原因を作ったのがいるんだが、それについてはどう思う?」
「「え?」」
声が重なり、お互いに顔を見合わせるとすぐに思い出しました
「「あの時の私を食べ(捕まえ)ようとした捕獲員(魔女)だっ!?」」
あのとき、私が捕まえようとして返り討ちにあったあの殺戮の魔女がなぜここにっ!?
私が即座に臨戦態勢をとろうとしたら、急に体が動かなくなりました。
どうして、と自分の体をよく見ると、さっきまで巻き付いていなかったロープが体にぐるぐると巻き付けてありました。
「こんなところでけんかすんな、事故るだろ」
どうやら逆さまさん能力を使って私が動けないようにしているようで、この体に巻き付いているロープは幻覚であり、本当に巻き付けられているわけじゃないではないのに全く体が動く気配がしません。隣に座っていた殺戮の魔女も私と同じようにロープに巻かれていて、私と同じようにジタバタもがいていました。
ここで争っても意味がないということを実感されられたので、素直に従うことにしました。
「けんかはしませんから、このロープほどいてくださいよ」
「いいよ。くららに幻覚見せるだけで相当面倒だからな」
ハンドルから右手を放し、指をぱちんと鳴らすと、体に巻き付いていたロープは跡形もなく消え、体を自由に動かせるようになりました。
「もう、何で私までロープで縛るんですかぁ」
同時に開放された殺戮の魔女が逆さまさんに言うと、
「ばにらもやり合えば危険すぎるからな。自覚しろ」
そういえばこのばにらさん、葛くんのお姉さんなんですよね。顔立ちも葛くんに似ていますが、口調とかは全然似ていませんね。心臓の音も全くしないので魔女であることは確かなんですが、なにか違和感があります。
この人と、葛くんが争っている言っていて、それにこの人に負けるともいっていました。でも、そんな雰囲気は全く感じ取れません。むしろ今運転している逆さまさんの方とやり合っていると言った方がしっくりくると思いました。
逆さまさんが言います。
「何でうちら、魔女草に連れていかれているのか、理由は葛から訊いたか?」
「いいえ。全く」
葛くんは何か用事はあるとは言っていたもの、魔女草に連れて行かれるなんて一言とも言ってませんでした。
「ちっ、なんであのガキは言わねえんだよ。説明するの面倒だな。まあ、お前を拉致監禁するわけでもないし、用が済んだらちゃんと葛のところに返すから、気軽にしていてくれ」
そういわれても気軽になんてできるわけないじゃないですか。隣には葛くんの姉で私の食べたばにらさんがいるんですから。
「えっと、私に何かご用なんですか?」
「ちょっとこれからのために必要なモノがあってな、それを手に入れるために鈴から葛に頼んでもらってたんだよ。で、そのモノをくれるから、ここにこいっていわれて行ってみたら、お前がその言われた場所にいたわけ」
「そうですか……でも、葛くんからは魔女草にあげるモノなんて、受け取ってませんよ?」
「そりゃあそうだ。お前なんだから」
「……え」
まさか私、葛くんに売られたの? そして、一体なにされるの? 解体とか? と少し顔がこわばりました。
「だから用が済んだら、ちゃんと帰すからっていっただろ? 殺しも拷問もしねぇよ。ただ、お前の血液が少しだけ欲しいだけだ」
「そ、そうですか、少し安心しました……」
てっきり、逆さまさんがいったことをされるんだと思いましたよ。
「それだったら、あげますけど……、一体何に使うんですか?」
私の血液がそんな希少価値が高いものだということを、知りませんし、そうとも思えません。それとも葛くんが作った魔女だから必要なのでしょうか?
「ちょっとした実験に使うんだよ」
そう逆さまさんが言いました。
「ちょっとした実験って言っといて、本当は、変態的な嗜好であるがゆえ、私たち他の魔女草の魔女の血では欲求を満たすことができず、こうやって他の魔女の血を騙し取っているのですよ。ねえ、真っ逆さま(変態)?」
「取り敢えず、気を失え。永遠に」
ぱちんと音がすると、くららさんが急に寝てしまったように見えました。……逆さまさんのくららさんに対する扱いがすごく恐いんですけど。それにくららさん、さっきまで逆さまさんの能力による拷問を受けていたのに急に会話に混じってこれたのでしょうか……。
「変なことには扱わねえよ。ただ、燃えるか燃えないか、試すだけだから」
「燃える?」
私はその言葉の意味が分かりませんでした。
燃える? 魔女の血は火には燃えないのでしょうか?
その単語を聞いたような、聞いてないような――。
「詮索はしない方が身のためだ。まあ、もうすでにアウトかもしれないが。そん時は運が悪かったと思ってくれ」
「はあ、わかりました」
何となくですが、知りすぎると危ないような嫌な予感がします。隣に敵である葛くんの姉がいるからですね。
「よし。なら、ばにら、横にあるプラスチックの試験管とナイフあるだろ? それをとってこならに渡してくれ」
そう言われたばにらさんは、横に置いてあったプラスチックの試験管と小さいナイフをとって、私に渡してきました。
「そん中にいれてくれ。大体五分の一くらいでいいぞ」
そういわれて、試験管のキャップをあけ、ナイフで親指の腹を切ろうとしましたが、両手にモノを持っているため切るのが難しく、あたふたしていると、ばにらさんが試験管を持っていてくれました。
考えてみれば、私たち敵同士なんですよね。
「……ありがとうございます」
「……いえいえ」
何となく、気まずかったです。
親指の腹にナイフの刃をあて、一拍おいてから、スパッと切りました。心臓がないとはいえ、血はでるみたいで、すぐに切った一文字から玉のような血が溢れ、こぼさないようにばにらさんが持っている試験管に血を入れました。
不思議と痛みは感じませんでした。痛覚はうちが能力で遮断してあげているからと、言われ納得しました。
ぽたぽたと試験管に血液がたまっていきます。
「そうか、おまえは葛が作った魔女だから回復能力はないのか」
包帯持ってくればよかったと逆さまさんがいい、
「しゃあない、くららの服でも使うか」と寝ている(?)くららさんの服を解体しようと目論んでいた時に、ばにらさんが控えめな声で私に言いました。
「あの、このハンカチ、使いますか?」
白いハンカチを取り出して、私の前に突き出します。
「いや、いいですよ。血がついて駄目になっちゃうし……」
「返さなくていいですよ。前にひどいことしちゃったし……。いや、別に、これで、あんなことしてしまったことを、チャラにしようとしているわけじゃないですよ?」
「いや、わたしだって、ばにらさんのことを、ほら、捕まえようとしてたし……」
「いや、実際私も、その、怪我っていうか、あの、怪我、させちゃったし……」
「……」
「……」
ああ、気まずい。
「面倒なやつらだな。生き残っているんだから、過去のことは水に流せよ」
逆さまさんがため息をつきました。
11/02 14:53
「ここでいいのか?」
血を逆さまさんに渡したあと、私は葛くんたちが使っている部屋から二駅離れた場所で降ろしてもらいました。
「はい。さっきメールで訊いてみたら、ここで降ろしてもらえって返答があったので」
「てことは、うちら魔女草にも本拠地を教えたくないのか。鈴も知らないみたいだし」
「そうなりますね。でも、葛くんが何考えているかは分からないですけど」
「よからぬことを考えていることは確かだ。それに巻き込まれなければいいと願うしかないが」
逆さまさんはそういい、駐車していた車にもどっていきます。
私はその後ろ姿に声をかけました。
「あのっ!」
「……何だい?」
ちょいちょい、と手招きをして、近づいてきてくれた逆さまさんにいいました。
「ばにらさんは、葛くんの姉ですよ」
逆さまさん一応伝えておいた方がいいと思って言いました。すると逆さまさんは意外なことにそのことを知っていました。
「ああ、鈴から聞いているよ。今日も影でコソコソやれないように連れてきたんだから」
「……そうですか」
「うちのこと心配してくれてありがとな、じゃ」
逆さまさんが振り返って車へ向かう途中、再度、私は訊きました。
「あの、私のことを覚えていますか?」
あの時、模倣の魔女に家族を喰殺され、そして、私が食べられそうになったときに助けてくれた、優しい友達思いの魔女。
すぐには言い出せませんでしたが、姿や雰囲気が変わっても、私はひと目見たときから分かっていました。
その魔女は、笑いながらいいました。
「だから言っただろ? 過去のことは水に流しなって。それが一番苦しまずに済むんだから」
道化の魔女は、すべてを嘘で取り繕ったまま、私の前から、去って行きました。
「血、ありがとな」
車の中から、そう声が聞こえて、もと来た道を走っていきます。
私は、その後ろ姿を見えなくなるまでずっと見ていました。
「やっぱり、優しい人だ――」
ドクン。
何か、今走り去っていく車の中から、小さな鼓動が聞こえたような気がしました。
「まさか――」
あの中に私の知らない人間が隠れていたのか、それとも、周りの人たちの鼓動の音を聞き間違えただけなのか。
色々と考え、逡巡したのち、最終的に後者を選び、葛くんたちが待っている部屋へと帰らなければと去っていった車から背を向けて歩き出しました。
背中に冷たい違和感を感じながら――
†
「まず新しく手には入った駒から減らしていくことから始めましょうか」
11/02 15:18
歩いて帰っている途中で、フルフェイスのメットをかぶった人たちが私を囲むように現れました。左右後ろ前、四方向、計四人が私を囲み、逃がさないように塞いでいました。
特に目立った武器を所持しているでもなく、不気味な威圧を私にかけてしました。
「何かごようですか?」
明らかに逆さまさんに接触したことをしったばにらさんは私を消そうとしているのだと思います。やっぱり私は逆さまさんに接触したことで何かを知ってしまったのでしょうか。それとも逆さまさんが言っていた、”もうすでアウト”な状況になっているのでしょうか。それとも血を渡してしまったことでばにらさんにデメリットが生じてしまい、その反感を買ってしまったのでしょうか。
何はともあれ、ここから逃げ出すことが先決です。
「私たちと一緒についてこい」
合成音声のような声でそのフルフェイスを被った人たち全員が一斉に言い出しました。訊いていて人間味がなく、気味が悪いです。
「もちろん、断ることはできますよね?」
やんわりと相手の気をさかなでないように言いましたが、
「それはできない」
と断られました。
「ちょっと急いでいるんですが?」
と再度いいましたがダメだったようで、
「つべこべ言わずについて来い」
一番近くにいた人が私の腕をぐいっと力づくで引っ張ってきました。
力づくでくるなら、私も力づくで対処します。
私の腕をつかんできたその人の腕の骨を能力で粉砕、力が入らなくなった腕を払って、さらに背中に回って背骨を粉砕して倒しました。
「ぎゃああああ!!」
骨を粉々に砕かれた痛みと下半身が動かなくなって上半身だけジタバタしている人からはちゃんと人間の声がしました。操られて痛みを感じないような体になっている人ではないらしいです。ちゃんと私の能力が効くことを実感し、少しだけ安心しました。
すぐにこの場から逃げる為、囲んでいた人たちの間、倒れ込んでいる人によって空いている間を通り、走り去りました。
囲んでいた人々の内、二人は骨を粉砕され騒いでいる人を二人がかりで押さえつけているようで、もう一人は走り逃げている私に向かっていいました。
「待て。待たなければ」
後ろを振り向かずに走っているので、一体何をしてくるのか検討もつきませんが、銃などの跳び道具を使われでもしたら避けるのは大変です。
私は前方の右手にある小さな通路に逃げ込もう思いました。確か、あの道は行き止まりにはなっていなかったはずです。
その路地を右に曲がろうとしたとき、
「ぱん」
誰かが口で破裂音を言ったのが耳に入りました。
ブシュッ。
私の右腕が弾け飛んだのと、同時に。
次回も来週更新します。