さいこうっ! Konara Angle 11/01 18:48
誤字脱字等ありましたら指摘してくれると助かります。
†
「うーん。私にそんなこと聴かれても、答えられないよ」と鞠藻は苦笑いしながらいいました。
もうすぐ冬が近づいているのか日が落ちるのが早くなり、綺麗なオレンジ色の世界が公園と遊具を一色に染ようとしています。
私たちはその公園のブランコに座りながら、いつも通り部活の終り、まだ部活を続いているつつじを待ちながらだべっていました。
「わたしたちには、まだ早いじゃないのってこと?」
「そういう生意気なことじゃないけど、私もやもや過ぎてわかんないってことにしておきたいんだ」と鞠藻は訂正していいました。
「だって、そうでしょ? そういうもやもやした気持ちが、自分の中にあるんだってことに誰も最初は気づけないモノで、初めてその気持ちの正体、名称に気が付いてしまったら、もやもやとした形のなかったモノは、ハッキリとした形になっちゃって、もう気づかなかったころには戻れない。知らないままの方が良かったなんて思っても、忘れることなんてできない」
「でも、そういう気持ちがあるってことくらいは、映画やマンガやドラマとかの物語でずっと言われているじゃん。言われたり、見たりしたら仏府は気づかない?」
「それは、自分にとって、あくまで他人の中に存在するものなんだよ。自分ではない誰かはそう思うけれども、自分の中にはない。だから憧れるし、ときめいたりするんだと思う」
「わかるなー。マンガとか読んでるときもこういうことしたいなーとか思う」
「でも、自分はフィクションだって頭の中で理解しているから、物語の中でそういう気持ちはないと思いこんで自分の中の気持ちは気づけない。ずっと気づかない。終わったときになってから気づいて、きっと、後悔するんだ」
途中から鞠藻は自分のことを言っているようでした。
「……鞠藻は後悔したの?」
言ってから訊いてはいけないことを訊いてしまったことに気づき、口を閉じました。
「さぁ、後悔したかな? 分かんないや。でも、気づかないなら、気づかない方がいいよね」
その存在に気づいてしまえば、それが過ぎ去ってしまったあとなら、後悔して暗い気持ちになって、憂鬱になるけれども、すべて、気づかなければ、いつも通りでいられるし、後悔も憂鬱も苦しい思いをしなくてもいいのです。思い悩むことすらなくなるでしょう。それは楽とはいえないかもしれません。マイナスよりはプラス、いや、ゼロの方が良いに決まっています。
きっと、そういうことなのでしょう。
「たとえば今日一日、変な寝癖が付いていたこならちゃんのように」
「えっ!? それ早く教えてよっ!」
鞠藻は笑いながら、ここ跳ねているよーと言いました。
†
「やっぱり死体に呪いをかけるのは難しいわね」
†
11/01 18:48
「やあ、おかえり。だいぶ時間がかかっていたけど大丈夫だった?」と私たちが部屋に戻ると、葛くんは私と百合子さんが一ヶ月軟禁されていた間に暇つぶし用で読んでいたマンガを読んでいました。
八鳥さんが疲れたーとぼやき、時間がかかった説明をします。
「ちょっと、回復能力が高いあの捕獲員に会ってね。杏がボッコボコにしていたら時間がかかったんだよ」
「へえ。それは面倒くさいことに。今回は関係者全員の記憶を消すのは大変だから、死んだことにしたんだけど、化けて出たにしといた?」
「ケータイに写真をプレゼントしてあげた」と八鳥さんはニヤリと笑っていいました。
「それまた面倒くさいこと……。後始末は八鳥がやってよ? 僕にはよけいな手間は省きたいから」
「分かった。善処を尽くすね」
分かってないよね……と、げんなりとうなだれる葛くんでした。
「そんなことより、人に仕事押しつけて、自分はマンガ読んで楽しているとは良い度胸だな、ちょっと表へでな」と葛くんに向かってメンチ切る杏さん……。さっき私より強い奴がいて、そいつの言いなりになっている、みたいなこと言っていたような気がするんですが……。その強い人って、葛くんのことなんですよね? それでも喧嘩売るって、言ってることとやっていることがめちゃくちゃ過ぎるでは……。
「や、やめてよ、杏。本当に君とやると、一週間くらいまともに動けなくなるんだから……」
葛くんも困ったようにいいました。私の頭では、この人たちの力関係がどうなっているのか混乱しかけています。
面倒くさそうな顔をして、八鳥さんが言いました。
「そういえば、まだふきは来てないの?」
「連絡がない――ていうか、ふき、僕の携帯壊したから連絡がないんだっけ……。まあ、ふきがやられる訳ないし、その内来るでしょ。それまで待機かな?」
その待機という言葉に杏さんは不機嫌な顔をしました。
「おい、百合子の奴が今日食べないと危ないといっていたぞ。そういえばあいつ何処行った?」
「百合子には別の急用の仕事っていうかちょっとしたことを頼んで行かせたから、ここ周辺にはいないよ。ついでに食べ物もあげたから、理性を失ったりはしないと思うけど」
「そういう問題じゃない。今日の夕食は、約束の時間に遅れた葛が焼き肉をおごりで食べに行くことになっているんだ。な、八鳥?」
「今日は冷麺が食べたい気分」と八鳥さんもいいました。今の時期に冷麺って……。
「何時の間にそんな約束を……。お金なら余分に持っているから一回くらいは大丈夫だけどさぁ、ご飯を食べれないこならは一人留守番してて大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ。それに、ふきさんがここに来るなら、一人は残らなきゃいけないですから」
「それもそうだ。でも、ふきが帰ってきたら自分も食べる言ってこっちに来ると思うけどね。あーあ、本当に姉さんは面倒だ」
やれやれと嫌な顔をして葛くんは愚痴をこぼしました。
「なんだ、ふきは葛の姉の相手してるのか? それじゃあ、ふきの能力では時間がかかるよな。ところで、なにふっかけられたんだ?」と杏さん。
「どうしてだかしらないけど、僕に宣戦布告してきたんだよ。なんだか僕と母さんに勝つってね。正直なところ、どこら辺で勝つとか負けるとか、基準がよく分かんないけど」
「随分と他人事のように喋るね? 葛くんはその勝負に勝ち目があるからそんな余裕綽々なことを言うの?」
八鳥さんはどこか楽しそうに言いました。葛くんは、にやりと薄気味悪い笑みを浮かべながらいいました。
「いいや。姉さんが思っているような勝ち目はないけど、相手がやってくることはだいたい読めてるから、その心構えだけは随分と前からできてるって、それだけだよ。どう足掻いても今回は勝ち目って物は、僕にはない。だから、最初から、負けることを前提に、その負けた代償を被害を最小限にすることと、次の試合に向けて、こつこつと下準備を進めることだけを念頭に置いて行動するのさ。次は先手必勝ってね」
「遅れをとってるって自覚してんのかよ。で、具体的には何をするんだ? あの猫でも殺すのか?」
「あれはもっと早くから殺さなければ意味がないものだよ。強いし、しぶとすぎるからね。君の弟だって、手に負えずに返り討ちにされていたじゃないか? あんな猫を殺すよりも、もっと手間がかからない方法で攻めようよ」
「じゃあ一体何するんだい? 手間と時間がかかるのは自分でやってね。私たちがこき使われるのは嫌だよ?」
そんなことしないよ。もっと楽な方法さ、と葛くんがいって続けます。
「魔女草に今いる、遠藤雅樹をこっちに引き抜くのさ。簡単だろ? 彼の能力は火炙りの刑で魔女草側と姉さん側にはやっかいで扱い辛いけど、今の僕らの組織は、魔女でも人間でもない能力者、僕が作った能力者の椿やこなら、魔女だけど人間に寄生している八鳥がいるから扱いやすいことは確かだ。それに彼が逃げ込んだ先、魔女草にはこちら側の鈴もいるからこちらに引き抜きやすい。一番の問題点は姉さんも近くにいることだけど、相手は魔女になりきろうと無理をして、やすやすとは動けなくなっているから、使い捨ての魔女を手駒として動かしてるけど、こちらも質では負けてない。十分戦えるさ」
私が知らない固有名詞が出てきたので、葛くんに詳細を訊きます。
「その遠藤雅樹さんって? 一体誰なの?」
「知らない? 百合子あたりの捕獲員は知っているはずだけど、機関内部にも箝口令がしかれたのかな。それくらい機関にとっては厄介なイレギュラーだからね。簡単に説明すると、彼、遠藤雅樹は、魔女だけを殺せる能力を持った能力者なんだよ」
「魔女だけ……」
「そう魔女だけ。自分の体に触れた魔女の体を固形燃料のように発火させて、魔女だけを焼くんだ。魔女特有の回復能力も追いつかない程の業火でね。数年前くらいに魔女になった姉を焼き殺して、捕獲員に身柄を確保されたんだ。能力による偶然の事故、それに相手は魔女だったから正当防衛だったっていうことにされて、すぐに釈放されたけどね」
一般的に能力者は人を殺す能力を持たないといわれ続けられていることと、その能力が明るみにでたら、大変なことになりかねないから、能力を公開することはすぐに伏せられたのでしょう。
「そんな人を殺すかもしれない危険な能力者を機関が釈放した理由は分かるけど、なんで今まで、彼を葛くんたちが生かしいていたのかが、分からないだけど?」
葛くんなら、そんな危険な能力は見つかり次第すぐにでも、消しに行くと思うのですが。
「話を聴くとさ、彼はどうやら先天性の能力者じゃないらしいんだよね。先天的ではないとなると、考えられるのは姉さんが仕掛けたものになるんだ。あの頃の姉さんは母さんにべったりだったから、近くにいたんだろうね。どうでもいいけど。まあ、理由はどうであれ、僕らが直々に殺しに行く意味はないから殺さなかったんだ。だって彼は、魔女しか殺せないんだよ? 僕らが殺すのは、人間に危害が及ぶ能力者であって、魔女のみ殺せる能力者は対象外だ。それならわざわざやる必要のない手間は、効率よく省くべきだと思わない? そういう考えでしばらくの間、姉さんの干渉もなかったから、最近まではほっといたんだけどね。それが案の定、裏目に出てしまったんだよ。最近になって姉さんが彼の近くに接近し始めたんだ、これは彼を利用するじゃないかと、こならが姉さん殺されかけたあの町にふきといっしょに行ったんだけれど、姉さんの方が早くて間に合わなかったんだ。それに魔女草の魔女っていうか、僕のことが嫌いな魔女と戦闘になってね、大変だったよ」
「姉さんて、あの、わたしを食べた魔女のことですか?」
「そう殺戮の魔女と機関からは命名されているね。自らを魔女して僕の目を掻い潜るなんて驚いたよ。そういえば、こならは姉さんにやられたんだっけ?」
そういわれ、マンションから放り投げられ、お腹の中をさらけ出されたときのことを思い出してしまいました。
「うん、マンションから投げられたときはすごい怖かった。もう絶叫マシンも乗りたくないくらい」
「命綱なしとありじゃあ、全然感覚が違うだろうけどね。さっき言ったとおり、姉さんは魔女草の魔女として迎えられちゃったから、自由に動けないんだ。だから姉さん自体は警戒しなくていいはず」
動いてるのは猫と数人の使い捨ての手下の魔女くらいかな、といって葛くんは壁に掛けてある時計をみました。
「ふき、待っててもこないようだから、もう行こうか」
そう、杏さんと八鳥さんにいって、ふきが来る前に店に着いているから、その時にどこの店に入ったを八鳥がもっている携帯からメールするよ。ふきが来たら教えてやって、とわたしに頼み、三人で焼き肉屋に行ってしまいました。
11/01 19:28
葛くんたちが出て行って、どこの店に入ったかのメールが届き、三十分くらいたったあと、ふきさんが帰ってきました。それまでわたしは、葛くんが持ってきていた文庫を読んで暇つぶしをしていました。
帰ってきたふきさんの服やら髪やらにはべったりと返り血がかかっていて、すごい怪我をしているように見えますが、本人の様子から怪我してないようです。
「おかえりなさい。……酷い格好ですね」
「ああ、ただいま。やっぱり酷いか。ホント、あの猫を相手すんのは疲れる」
「ふきさんを疲れさせるって、一体猫ってどんな魔女なんですか? 模倣の魔女っていう呼び名とコピーする能力くらいは知っているんですが……」
「そうだな、一言で言うなら、デタラメだな」
「デタラメ?」
「そう、デタラメ。出会ったら相手すんな、逃げろ。先輩としての助言はそれだけだな」
と、体中、土や血まみれのふきさんはいそいそと脱衣所へと向かっていきました。
「そういえば、他の連中は何処行ったんだ?」
「焼き肉食べに行きましたよ。ふきさんは行きますか? 場所は裏通りのところの焼き肉屋だそうです」
「ふーん、葛のやつらが行ったのは何分前だ?」
時計を見て私は言いました。
「一時間は経ってないと思います」
「じゃあ行かね。もうそんな時間経ってんなら、今から行っても、着く頃には、ほとんど食い終わってるころだろ」
「それもそうですね。行かないってメール送っておきますね」
携帯を取り出して、八鳥さんにふきさんが帰ってきました。今から行っても着く頃には皆さんが食べ終わっているだろうから行かないそうです。と打ち込んで送信しました。
「おい、こなら、誰に送信したんだ? 葛の携帯は俺が持ってて、しかも壊れて使えねぇから、意味ねぇぞ?」
「さっき、ふきさんが葛くんの携帯を持っていることは本人から聞きましたよ。だから、八鳥さんの携帯に送っておきました。あと、葛くん、ふきさんが携帯壊したことも知っていますよ?」
「あ〜。葛、携帯壊れたの知ってどんな感じだった?」
「怒ってはいませんでした。すごいガッカリはしていたみたいですけど」
「帰ってきたら謝んないとなぁ。で、そっちの初仕事はどうだったか?」
そう聞き返されて、私は少しどもりながら喋りました。
「どうだったか、って。まあ、うまくはいきませんでしたよ」
「殺せなかったのか?」
「うまく殺せなかった……というか。苦しませて殺してしまったような気がします」
そう答えるとふきさんは苦い顔をして言いました。
「うまくねぇ。殺しに下手も上手もないと俺は思うが」
「もうちょっと、マシな方法があったんじゃないかって思うんですよ。その人が、自分の力でやってしまったことへの後悔とか、自分の力への恐怖とかに押しつぶされそうになっていることか、自分が殺される理由とか、少しだけでも理解させて、もうちょっとだけ、安心と納得とか、心が落ち着くような、悩まないような、そんな終わらせ方があった気がするんです」
こんなことを考える日がこれからも続くと思うと気が滅入ってくると、感じ少し落ち込みました。
「殺す相手が嫌々殺されるよりは、納得して死を受け入れさせるようにするってことか?」
「そうじゃないとやっていけない気がするんですよ」
「確かに。だが、全部自分勝手だろ。それ」
「へ?」
急にいわれて、私は呆気にとられてしまいました。
「今から殺す相手の後悔とか恐怖とか安心とか納得とか、今さっき出会ったばかりの自分が感じ取れるわけねえだろう? それを分かる為に話し合おうだなんて、カウンセラーでもメンタリストでも何でもないお前には無理な話だ。それに今から自分を殺そうとしてる奴に腹割って話すと思うか?」
「……」
「そういうことを一々考えんなって。考えたとしても、それはお前の中の想像であって、全くのデタラメだ。でっち上げたもんだ。そんなもんに振り回されるくらいなら、考えない方がいい。仕事だって思って割り切る。そうだろ?」
「……そうですね」
ふきさんが言うとおり、今日、あの男の子が思っていたこと、あの男の子の絶望というものを私が感知できたとして、それは、私の中の想像でしかないのです。想像は、自分の人生経験に基づいて構築され、男の子が吐き出した言葉を装飾するように継ぎ接ぎしただけで、本当の絶望にはほど遠いものなのです。もしかしたら、絶望すらしていなかったかもしれません。それくらい、相手の気持ちなんてすぐに分からないのです。
「でも……」
こんなに自分のことのように、悲しいと思うのはどうしてでしょうか。
11/02 08:12
ふきさんがお風呂からあがった頃に葛くんたちは帰宅しました。ふきさんが葛くんに見事に粉々に壊れた携帯を返して呆然としている葛くんに、八鳥さんは、よかったじゃない、機種変出きる口実ができて。これでスマホデビューだね。買ったら使わせて。と励ます気もない言葉を葛くんに言っていました。
そのあとは、葛くん、私、杏さん、八鳥さんの順にお風呂に入りました。葛くんとふきさんは今日は夜も遅く、今から帰るのが面倒だからということで、この部屋に泊まっていくようでした。そのあとはやることもなく、これといって見たいテレビ番組もなかったので、自分の部屋へ戻り、さっきほど読んでいた葛くんの本を読み終えたところで寝てしまいました。
次の日の朝、私は葛くんにとても面倒なことを頼まれました。
「昨日殺したこの死体を処分しに行ってほしいんだ」
と言われて思いついたのは、
「森とかに穴掘って捨てるの?」。
「違うよ。それだと毎回森に埋めに行かなくちゃいけないから、手間もかかるし、森が穴だらけの死体だらけになるでしょ? それに万が一見つかった場合、もみ消すのは難しいからね。だから、死体処理の業者に痕跡も残さずに処分してもらうんだよ。こならはその業者に死体を引き渡して貰いたいんだ。簡単な仕事でも、重要なことだからね」
ただ荷物を運ぶだけの人殺しよりも確かに簡単な仕事ですが、ちょっと、一人で行くのは心細い気がします。
「誰か一緒に付いていってくれるよね?」
「杏とかは別のことを頼んでもう行っちゃったし、僕もこれが終わったら出かけなきゃ行けないんだよね。付いて行けないんだけど、一人で大丈夫かい?」
「ちゃんと場所とか、その業茶の人とか教えて貰えれば、大丈夫だけど……これ、一人で持てるかな?」
杏さんは軽々と持ち上げていましたが、出来損ないの魔女である私は、これを持ち上げるのは難しいと思います。
「やっぱり一人じゃ無理か。移動するとき大変だものね。えっと今手が空いているのは――椿だけど、」
「椿さん?」
「そう、こなら携帯貸して。電話というかメールするから」
「うん。はい」と私が使っている携帯を渡しました。
「僕が椿と連絡をとっている間に冷凍庫から、死体をカートの上に出しておいてくれる?」
「わかった」
そう言われ、仕舞ってあるローラーカートを出して、私は大きい冷凍庫の前に立ち、蓋を開けました。そこには確かに昨日杏さんが軽々といれた麻の袋が有りました。
「持ち運べるかな?」
麻袋の口の部分をつかみ、持ち上げると、思っていたほど重くはなく、ゆっくりと持ち上がりました。私は完全な魔女ではないのですが、少しは筋力はあるようでした。でも、長くは持てなそうで、すぐに手が震えてきました。
「確かに、これじゃあ移動できないね」
床に落とさないようにローラーカートの上に置いて置き、葛くんのところへと運んでいきます。
「返信来たの?」
「もうすぐ来ると思うよ。椿には用事があるまで待機しているはずだから――今来た。三十分もしたらこっち来るってさ。その椿が来る間に、死体処理の業者のことについて話そうか」
「死体処理の業者って……」
聞く前から随分とマッドな雰囲気のイメージが頭に浮かびます。ていうか、私たちも随分マッドな組織なんですけど。
「仰々しく言っただけだよ。実際、ただの双子の姉妹さ。二卵生だから、若干似てないけどね。姉が能力者で、妹が魔女なんだ」
「……もしかして死体を妹に食べさせるの?」
「それだったら、ふきにでも食べさせたり、魔女草の魔女にでもあげたりした方が手間も省けると思わない?」
「……手間は省けるとは思うけど、ふきさんや魔女草の魔女が積極的に死体を食べたいなんて思う人が近くにいないから、そうやって趣味で食べたい人に渡しているんじゃないの?」
趣味は人それぞれなので、魔女じゃなくても人を食べたいと思う人がいても、おかしくはない。そんなおかしい世界なのです。
「理由は違うけど、死体を積極的に処理してくれる人だから渡してるってこともあるね。まあ理由としては、処理してるのは姉の方だからさ」
そう言われると、私もピンときました。
「つまり、その姉は能力者で、能力を使って死体を処分してるってこと?」
「そういうこと。実際、魔女に食べさせると、食べ滓が散らかって後かたづけも大変だし、骨までは食べれないからね。その分、能力を使えば骨まで綺麗に処分できる」
「その姉の能力って――もしかして、私たちが殺す対象の能力?」
「そう。死体を処分できる能力ってことは、人をも簡単に処分できる能力だ。ほって置いたら何をやってしまうかも分からない、危険な存在だよ。でも、こうやって使い道はあるから、生かして働かせてあげているんだ。死にたくないなら、言うことを聞け、そのかわり生かしてあげる、みたいな脅しの交換条件さ」
「……その人の人権って、ないにも等しいね」
「死ぬよりはマシでしょ? 黙ってこっちの言うとおりにしていれば、生かしてあげるんだから」
「まあ、そうだけど……」
さて、僕もこれから準備をしなくちゃ。姉さんに一回負けるならまだしも、負け続けるのは癪だからね。といって、葛くんは死体が乗っているローラーカートを自分が泊まった部屋へと持っていってしまいました。
「……」
葛くん、なんで死体持ってたんだろう……。
11/02 08:41
三十分後に椿さんがやってきて、私は死体処理の業者に引き渡す死体を椿さんの車に運び、葛くんに袋詰めされた死体を渡されて、先に部屋を出ました。出る直前に葛くんに呼び止められ、
「あ、そうだ。死体処理業者に会ってあと、例の変死事件が起こったマンションの近くに行ってよ」
「ん? どうして?」
「そのマンションに捕獲員が来ると思うからさ。様子を確認してきて」
「……分かったけど、わたし、知り合いに会って大丈夫なの? せっかく、葛くんが頑張っていたのに」
捕獲員がくるということは、いちりちゃん、榊くん、伊達さん、もしかしたら、光さんが来るかもしれません。
「その点は大丈夫じゃない。今までやってきたことが水の泡になって、下手したら、鈴とか百合子とか色々隠蔽していたものが、掘り返されて、こっちに被害が被るかもしれない。まあ、昨日の八鳥が撮った写真の所為ですでに台無しだけど」
「えっ、なら会わない方がいいんじゃ……」
「それでも、これからに備えて、使える駒も増やして置きたいんだよ。あとちょった頼みごとでもあるからね」
「人が増えるの?」
葛くんが言いたいことの真意は分かりません。素直に訊くという方法もあるけれど、素直に教えてくれる気もしません。
「まあそんな感じかな。痛手を被るけど、利益にはなるからさ。安心して。それに居なかったら居なかったでいいからさ」
「……分かった」
そういって、私は車で待っている椿さんのもとに行きました。私は助手席に座り、葛くんに後ろに積んである死体を死体業者に渡したら、例の変死事件が起こったマンションに向かうように言われたこと、椿さんに伝えました。
「お待たせしました。では、行きましょう」
「……」こくり、と運転席に座っている椿さんは頷きました。
椿さんは喋れません。正確には、あの日、私の世界が変わったあの日、模倣の魔女と闘った際に、体中切り裂かれ、その時に声帯も壊されてしまったそうです。その後葛くんが動けるまでには回復させたらしいのですが、私の内蔵と同じように、声帯は治らなかったようです。
これまで椿さんと二人きりになったことがなかったので、聞きそびれたことを訊こうと思いました。
「あの、椿さん、ちょっと訊いてもいいですか?」
「……」こくり、と運転しならが、椿さんは頷きました。
「あの時、あの模倣の魔女がわたしの家族を殺したあの時、椿さんは、その場に居て、模倣の魔女を殺すために、チャンスを待っていたんですよね?」
「……」こくり。
「わたしの家族が殺されている間も、居たんですか?」
そう尋ねると、椿さんは少し考えて、ゆっくりと頷きずきました。
「いや、別にその何でその場に居たのに早く助けなかったとか言って、責めるつもりはありませんよ」
椿さんが襲われた私の家族を守ろうと戦ったとしても、言っては悪いですけど、模倣の魔女に敗北をしているのですから、家族が殺される事実は変わらなかったのです。
「ただ、家族の最後が知りたかっただけです。苦しまないで逝けたのかとか、怖くなかったとか、そんな在り来たりで、ありふれた理由でしか、死んだ家族を想って心配できないんですよ。どうでした? 苦しんでいませんでした?」
忘れないために、思い出して、心配して、想う。愛しい死者にかけられる感情は、それくらいの空想の想いだけなのです。
そう訊いても椿さんは頷きませんでした。
11/02 09:03
椿さんの車に乗せられて着いた所は、民家やアパートが建ち並ぶ、ただの住宅地でした。椿さんは車がじゃまにならないような位置を見つけて路肩に停車させました。
こんなところで死体を引き渡すなんて、いくら見えない袋で覆い隠して死臭を消せたとしても、大きさからちょっと目立ってしまうのではないかと思って椿さんに訊こうとしたときに、一台の白い軽自動車が椿さんの車の後ろに止まった車がミラーから見えました。椿さんはそれを確認するとそそくさと車の外へと降りていきました。どうやらあの白い軽自動車が、死体処理業者が乗っている車のようでした。
私も少しは手伝おうと、車からを降りました。すると白い軽自動車の運転席から黒縁眼鏡をかけた二十歳くらいの女性が降りて、椿さんのところへと歩いて行きます。
「なんだ来たのは椿サンか。葛クンが来てくれると思ったんだけど、今日は来てないの?」
そう尋ねられた椿さんは喋ることができないので、首を横に振って、来ていないと伝えました。
「そして、そっちが噂の元捕獲員ね。話は葛クンに訊いているよ」
「えっと、鳥兜こならです。これからもよろしくお願いします」
「私は芥山吹、よろしくね。それから、畏まらなくていいよ。もっとフランクにさぁ」
「でも……一応年上ですし」
年齢を言うのはちょっと気が引けるですが素直に答えると山吹さんは淡々と喋り出しました。
「それもあるけどね。私、この仕事は、絶対に正しいことをやっているわけじゃないんだよね。外れて忌避され、憎まれるような反社会的な行為だ。そんな行為に礼儀とか作法とかは必要ないと思うんだよね。必要なのは自分の命を守る安全管理と自分の利益だけ。それが後の礼儀や作法になってくるんだと思うんだけど、今んところはそんなことを考えることはないと思う」
「はあ、そんなもんですか」
「そんなものよ。さぁさぁ、人通りが少ない場所って言っても一人でも見られたら意味もないから、長い立ち話は止めてすぐに仕事にしましょ。今日の仕事はなに? その麻袋に入っているものを処分すればいいの?」
そう急に話を変えられて、私は少し驚きましたが、処分するもののことを考えると、それが当然なのだと思います。
「あ、はい。そうです。これを処分してほしいと葛くんが」
「分かったわ。じゃあ、その麻袋を私の軽自動車に積んでくれる? 女一人の力じゃあ車に積むのは大変でさぁ」
そういいった山吹さんに私は、自分が手伝うと言おうとしたのですが、会話に混ざってなかった椿さんがテキパキと麻袋をさんの軽自動車に積んで、すぐに山吹さんに少し分厚い封筒を渡しました。きっと中にはお約束の札束が入っているのでしょうか。
「ご利用ありがとね。じゃあ先に行ってるから」
山吹さんはすぐに車に乗り込んで来た道とは逆の方向へと走っていってしまいました。
「……すごく早かったですね」
その会ってまだ十分も経っていない内にもう山吹さんは去っていったのです。手際がいいという理由から葛くんが脅しの他の理由で利用していることも分かります。
椿さんは頷き、同意してくれました。
これで、葛くんから頼まれたお使いは一つ終わり、次のお使いへと行かなくてはなりません。
「次は、変死事件があったマンションに行かないと」
椿さんの車に乗り込み、私はその変死事件が起こったマンションへと向かいました。