あんぐらっ! Masaki Angle ×××××
誤字脱字などありましたら指摘お願いします。
昔、僕は姉が好きだった。
いや、愛していた。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
「なぁ~に、マサちゃん?」
「お姉ちゃん、大好きだよ」
「ありがと。お姉ちゃん、とっても嬉しい」
僕がそう言うと姉は必ず笑顔になって、そっと抱きしめてくれた。
輝いていた笑顔が、柔らかく暖かい抱擁が、鼻孔をくすぐる甘い香り、姉のすべてが好きだった。
僕は何度もその快楽を味わいたくて、自慰行為を覚えた猿のように暇さえあれば姉に「大好き」と言い続けては、姉に抱きしめられて快楽に溺れていた。
その頃の僕は愚かだった。どうしようもない、愚かな子供だった。
あまつ、僕が「大好き」と言えば、どんなに姉は落ち込んでいても、すぐに笑顔になって元気になってくれるんだと、途方もない勘違いしはじめた。自分のげひな行為を正当化してまで思い込んだ。僕は姉にとっての大切な人――僕が姉を救って上げられる唯一の人間なんだと馬鹿な妄想に完璧に酔っていた。
友達からはべったりと姉にくっついている僕をシスコンと言って避難され、両親からは、異常なまでに姉離れできていない僕を変な目で睨んでいた。だが、僕はそんな視線になんて気にも止めていないし、ただ一線さえ越えなければいい。それくらい子供にだって分かると思い上がって、快楽に浸っていた。
だが、一瞬で理想は崩れ、海岸で作った砂の城が波によって削られて、バランスを保つことが出来ずに削られた方に倒れていくように、形を留めず、最後には波に全て均されて何も無かったように、綺麗さっぱりと無くなってしまう。
醒めない夢から醒めてしまった。
あの黒い、得体の知れない、サバドと呼ばれるヤツに言われてからだ。
「君、ちっとも面白くない人生を送っているのね? それって生きている意味あるのかしら?」
「?」
「分かりやすく説明すると、君の人生はありふれているのよ」
「……」
「そう、誰にでも考えられて、そして誰でも終わりが見える、そんな安い人生。それってつまらないと思わない?」
「……別に、それでいい」
「やっと口を開いてくれたわね。確かにそのままでも、今の君にとっては良いかもしれない。でもね、安っぽいと何年か経ったら意外と飽きるわよ? それもありふれている台詞をいうの。なんで飽きたんだろう? ってね」
「そんなことはない」
「決めつけない方が良いわよ? もし、その通りになったときに逃げ場を失うから」
「……」
「たとえ、君が飽きなくても、お姉さんの方から飽きちゃったら、君がどんなに頑張っても無理、無駄になってちゃうのよ? それに人間は神では絶対ない、そこら辺の生物と基本は同じなのだから、必ず飽きるように出来ているのよ。そうすれば多く、さらに強い子孫を産み、繁栄してくれるしね。それに近親の場合だったら、もっと早く飽きる可能性があるわね。ほとんど同じ遺伝子じゃあ、体が相手を拒絶するし」
「……どうして?」
「当たり前でしょ? 生物学的ことは、どうこうできないから我慢するしかないとして」
「それでも、そういう物語だってあるじゃん……」
「それはあくまで売り物のフィクションで、決まって事件やすれ違いがあって、必ずって言って良いほど、ハッピーエンドで締めるでしょ? その方が売れるからそうなっているの。それに比べて、現実は救いようもないバッドエンドが沢山ある。君だって、そんな気分が暗くなる物語なんて、つまらなくて飽きるし、わざわざ、なけなしのお小遣いを出して買うこともしないでしょ?」
「……」
「それにバッドエンドになる原因は、自分たちのせいではない方が多いの。社会とか、倫理とか、金とか、ホント、くだらないもので縛られて転ばされて、挙句自分たちの所為にされちゃうのよ」
「……」
「泣かない、泣かない。君はずっとお姉さんと一緒にいたいものね? 出来れば永遠に好かれていたいものね? でも実はね、それは簡単なのことなのよ。しがらみや倫理や社会を踏み越えて、永遠にお姉さんと一緒にいたい、その関係を続けたい、そうなりたいと願うなら、そうしても良い、と他の奴らに思わせられる程の特別なことをすればいいのよ。ああ君たちはそうするしかないんだ、みたいにね」
「……特別?」
「そう、君とお姉さんとの特別な力、生物の性を越える物を手に入れれば、ね? だから――」
僕はその時、姉を笑顔が頭の中で、浮かんだ。
そして、その笑顔が、体が、心が、全部、姉の全てが僕の為、僕以外には絶対に向けられず、独占できると、信じてしまった。
だから、僕は、
言われた通り、姉を呼び出し、サバドに売り渡して、特別を手に入れた。
そして、姉と僕は特別によって、永遠の関係になった代わりに、
姉は心臓を失い、魔女になって、理性を失って、両親を殺して、食べた。