しあわせっ! Sakaki Angle 11/02 11:30
誤字脱字等ありましたら指摘おねがいします。
11/02 11:30
目の前の現実が何がどうなっているのか理解できず、混乱している少しの間に、零華さんは魔女になったこならの前へとたどり着いているのが視界に入った。
「零華さん、こならさんに何か問いつめているみたいですね」
どういう風に問いつめているのか、知りたかったので、銀良君に尋ねる。
「読唇術とか、使えないの?」
「現在拾得中で、中学生の英語レベル程度の物だと考えてください」
零華さんは早口で喋っているらしく銀良君はその会話が分からないそうだ。気が高ぶるほど零華さんはこならと何か関係あるのか、こならが何か零華さんの琴線に触れることでもいったのか、色々憶測はできるが、たぶん後者だろうと思う。
「……ねえ、わたしたちも行った方がいいんじゃない?」といちりが言い、僕はすぐに賛成した。
「じゃあ、おれはここにいますね。この部屋から出るとこならさんの現在地が分からなくなるんで」と銀良君は言い、もし逃げたりりしたら、携帯に電話してください。どこから逃げたのか言いますのでと付け足した。
「ありがとう。僕たちに何かあったら機関に連絡して置いて」僕は借りた双眼鏡を返して、いちりの手を引きながら部屋から出る。
「お気をつけて」そういい銀良君が見送った。
階段を急いで転ばないように下り、マンションの外へ飛び出すようにでた。すぐに左に曲がって、百メートル先のこならと零華さんがいるコインパーキングに向かおうと走り出そうとするが、いちりに止められた。
「危ないっ!」
右側から自動車が走り抜ける。あと一歩踏み出していたら引かれていただろう。体から血の気が引いた。焦っているときでも注意を怠らないようにしなくてはと心の中で誓う。
そのシルバーのワゴン車はコインパーキングの手前でブレーキをかけて、減速して止まった。ちょうど二人の姿が隠れてしまった。引かれそうになってほんの少し突っ立っていたが、すぐに我に返り、再び走って向かう。
ガシャン。
ガラスの割れる音がした。零華さんが能力を使おうとしているみたいだ。
「いちり!」「……分かっている」いちりはバッグから唯一の武器である水が入ったペットボトルを取り出す。
「零華さんっ!」僕はそう呼びかけながら、コインパーキングの前に止まったワゴン車の前にでた。
「うげっ、捕獲員が四人も。一人は元だが、こりゃ面倒だ。おい、くらら。この辺には捕獲員が居ねぇんじゃないのか?」
「知りませんよ。最近わたくしの能力も不調なんですから」
「生理か?」
「そういうことしか考えられない真っ逆さま(アホ)こそ、そうなんじゃないですか?」
白髪で紺色のジャージを着た白髪の女性がワゴン車の運転席から降りて、先に助手席から降りたと思われる長い黒髪に赤いヘアバンド、薄いピンク色のワンピースにジーンズを着た高校生くらいの女の子の方へ歩きだした。白髪の女性はこちらをめんどくさそうな顔でこちらを見ていた。その奥ではコンクリートの壁に向かって光輝く鞭(彼女の能力でによってできたものだろう)を一心不乱に打ちつけている零華さんが居る。
「……零華さん、頭おかしくなったの?」いちりが心配そうに黙々と奇行を行っている零華さんに対していった。
「頭がおかしくなったわけじゃないよ。幻覚を見せられているだけだ。この魔女草の道化の魔女にね」
そう言われて白髪の道化の魔女はケラケラと笑い始める。
「へえ、うちの顔とあだ名、知ってんだ?」
「散々と見せられたからね」しつこく魔女草の魔女の写真を見せて覚えろと言ってファイルを渡してきた伊達さんに感謝しなくては。
「で、早速なんだけど、うちらをどうするんだ? うちらを説得して捕まえるか? それとも首切り飛蝗よろしく、首切って|魔女収容所(ブタ箱)に放り込むのか?」
「できることなら、捕まえたいんだけどね。今の僕たちだけじゃ、捕まえられる実力がないんだよ。人質も捕られてるしね」
僕が力付くでも、自分たちを捕まえてこないのに対して、道化の魔女は思い出したように言う。
「謙遜か? それとも、あれか? 魔女草の魔女には手出しするな、って言いつけられてんのか? 仮にもそっちには捕獲員が4人もいるじゃねえか? まあ一人はうちが幻覚見せているから使い物にならないし、もう一人はここに駆けつけるんじゃ遅すぎるからな。それでも、二対二。十分殺り合える数だ」
「そうだけど、それでも力の差が歴然だからだよ。こっちは二人で、そっちは四人じゃないか?」僕の能力なんて魔女相手に使い物無いならないから、実質一対四だけど、と心の中で付け足した。
道化の魔女隣に居た長髪の名前も知らない魔女が反応した。
「あなたも探知系の能力者なんですか?」
「まあそうだね。こんなかにこならと、あと一人、魔女が居るって分かっている」と僕はワゴン車の方を指さしながらいった。
停めてあるワゴン車は、正面のフロントガラスから見ても中に人が乗っている様子はないし、鼓動の音も、乗っている乗っていないとしても、魔女なのだから、心臓の鼓動は聞こえない。しかし、先ほど僕の前を横切った時に、後部座席に一人乗っていたのを確かにみたのだ。さらにここに来る発端となったこならまでいない。コンクリートの壁を飛び越えた訳でも、隠れているようでもない。消えたこならはどこに行ったのか。
「道化の魔女が能力をつかって、ほかに誰もいないように幻覚を見せているから、さっきまでここに居たはずこならが消えたんだ。もし、そのこならが逃げていないとしたら、いや、ここに来て、こうやって何もせずに逃げるなんて意味もないから、隠れているかあなたたちに捕まったかのどちらかに違いない。そして隠れられる場所といったらこの車の中だけだろうしね。あともう一人はこの中に仲間がいるのを知っているのは、さっき車の前を横切ったときに気づいてたんだ」
「ふーん」
「こならは、あなたちに捕まったのか、もしくは、仲間なのか、教えてほしい」
そういうと道化の魔女はニヤリと笑った。不気味な笑顔だ。
「おしいな」
「……違うのか?」
「まあそんなことはどうでもいいじゃねえか。それから、そこの女の子、手に持っている物を後ろに放り投げてくれよ。取りあえず話はそれからだ。どうせその水を操って後ろの奴みたいに武器にして使うんだろ? すぐに怪我なんて回復する魔女でもさすがに物理攻撃は痛いから、こちらとしてもあんまりくらいたくないんだよ。逆にそれで怪我したくなかったら、捨てな。ちゃんと捨てたら幻覚は見せても、怪我はさせないことを保証してやるからさ」道化の魔女はいちりが持っているペットボトルを指さして捨てるように言った。
だがいちりは、
「……いや」拒んだ。ペットボトルに入っている水はいちりにとっての唯一の武器であり、防御でもあるのだ。ペットボトルを手放すことは、もし、道化の魔女の口約束が果たされずに、話し合いではなく力付くになったときに、圧倒的にこちらが不利になるどころか、最悪、自分の身すら守れなくなる。
「遠くに捨てて」でも、僕は従うようにいちりに促した。
「……いいの?」不安そうに訊いてくる。
「それを使ってもかなう相手じゃないから」相手は、現魔女草三番目の実力者、道化の魔女だ。あの最強と近い同じくらいの能力を持っているのだ。相手は幻覚を見せて動けなくなった獲物を狩るのだから、物理的に体を守っているなんて、気休めにもならない。
「……分かった」いちりは素直に後ろにペットボトルを投げ捨てた。
「うんうん。良い子だ。じゃあ早速、本題に入ろう。新人の捕獲員じゃ、良い情報を吐いてくれないだろうし、丁度いい」
道化の魔女の口振りからして、僕たちから情報を引きずりだそうとしているに違いない。だが、それならこっちにだって策はある。
それは銀良君だ。
もう銀良くんの存在はバレてはいるが、魔女から十分に距離をとっているため、すぐに逃げ出せる位置にいる。それにこならの視点で遠くからみているであろう銀良君には、僕たちに何かあったら機関に即連絡してと頼んである。こならの視点、もしくは僕たちの視点から、僕たちが魔女草の魔女に遭遇したと分かった瞬間には、もうすでに機関に連絡してくれているはずだ。じきに他の捕獲員たちが集まってくるだろう。だから僕はそれまで時間稼ぎをすればいい。
「一体、何について訊くんだ?」何か魔女草が訊いて得なる話とは何なのか。あの変死事件に関わっているとされる魔女草ナンバー二の血煙の魔女こと、南宇美紫苑のことについて訊いてくるのだろうか。
「そう簡単に口を割ってくれると思わねえし、ガセネタをいう可能性もあるしなぁ。どうすっかなぁ。なあくらら、こいつら簡単に本当のことを話してくれそうになる脅しみたいな良い案ないか?」と隣にいるもう一人の魔女に訊いた。まさか自分に訊かれると思っていなかったのか、嫌な目つきで、道化の魔女を睨む。
「……色々空気とか雰囲気とか、ぶち壊しですよ? 真っ逆さま?」
「思いつかねえんだからしかたねえだろ?」完全に開き直っているし。
「サバドに脳細胞まで盗られたんですか? だからそんな残念な頭に……」
「ちげぇよ。昔からこうなんだよ」
「元からそんな残念な頭……」
「おいくらら、殺すぞ?」
なんか漫才を始めたようだった。その後ろで、まだ一心不乱にコンクリート塀に鞭を打ちつけている零華さんが、こんな変な奴らに先手を取られて、幻覚の所為で不能になっているのが、だんだんと不憫に見えてきた。
急にくいくい、と袖をいちりが引っ張る。何事かと振り返った。
「何?」
「……もう帰っていい?」
「それは僕が今一番言いたい台詞だよ」
やっとコント(?)が終わったのか、話が一行に進まないと気づいたのか、くららと呼ばれている魔女がとある提案した。
「じゃあ、こういう感じで脅せばいいんじゃないですか?」耳を貸してくださいと道化の魔女がくららと呼ばれた魔女の口元に耳を寄せてその脅しの案を訊いていた。
「お、それがいいな。楽だし」その案で決まったようだった。
僕たちは身構えた。一体どんな幻覚の攻撃が来るのか。ピリピリとした空気が支配していく。
道化の魔女は右手の人差し指をぴんと立てて僕らにを指した――と思いきや、僕らではなく少し上の空に向かって指示した。
「あの後ろのマンションの八階の部屋にいる捕獲員。今にも自殺しそうだな?」
「「っ!?」」僕といちりはすぐに振り返ってその八階に部屋を見ようと瞬間、本当は、はったりで後ろ向いた瞬間に何かしら攻撃してくるんじゃないか――と振り返りながら思ったが、そのことについては残念ながら杞憂に終わった。
振り返って八階をみると人影――ベランダに出て、鉄格子を登り、その外側に降りている今にも飛び降りそうな銀良君が目に入った。
本当に銀良君が自殺しそうだった。
「あれはな、うちがあの捕獲員に幻覚見せてんだよ。今バンジージャンプしようとしている気分なんだろうぜ。もちろん命綱がないけどな。あの高さから落ちても奇跡的に助かることがあるかもしれねえが、下は生憎オシャレな鉄の槍みたいな柵だ。そんなのに刺さったらまず助からない。串刺しになってお陀仏だ」
ケラケラと不気味に笑いながらいった。僕はすぐに反論する。
「いや、これは銀良君に幻覚を見せているんじゃなくて、僕たちに銀良君が自殺しそうな幻覚をみせているだけだじゃないか?」
道化の魔女はそれでも怯むことなく言う。
「べつにそれでもいいけどな。それならそれで、うちはあの捕獲員を落とすように仕向けるだけさ」
「くっ……」もしこれが僕らが見てるのが幻覚だった場合、ただのはったりであって要求に応じなくとも構わないのだ。しかし、それが本当で彼が見ているのが幻覚だった場合は、あの柵に向かって飛び降りてしまう。そして、とどめとして後ろで幻覚に操られているように、零華さんも人質に取られる。そうだった場合ことを考えると賭にでるのは危険すぎる。
「……わかった。要求に応じる」背に腹は代えられない。そう思い切った。
「まあ無難に安全な策を選ぶよな。じゃあ教えてもらおうか。ちなみに、幻覚で操っているのか、いないのかは、賭に出ない方が正解さ。実際は本当にあの捕獲員に幻覚を見せて、飛び降りさせようとしていたから、応じなかった場合は、本当に槍の柵にダイブだったよ。どれ、余談はこれくらいにしといて、質問タイムといきますか」
一体事件の何を訊いてくるのか――。
「早速訊くが、お前らが捜査しているその事件に関わった人物、その中で容疑者はリストアップされているか?」
「ああされているよ。その名前は――」
「名前はいい。それはこっちも検討がつくから」
その質問をするのは、こちらがどこまで事件の関係者を知っているのかを知りたかったのだろうか。
考える暇もなく矢継ぎ早に訊いてくる。
「じゃあその事件に関わっている、紫苑さんと、あと模倣の魔女について知っていることあるか? あるなら、洗いざらい言ってくれ」
血煙の魔女は事件に関係していると分かっていたが、最後の模倣の魔女について訊かれたとき、あの魔女も関係しているのかと反応しそうになったが、押さえることができた。いちりも無表情で一切顔に出てないので大丈夫だ。情報を自白させられてしまうと内心焦っていたが思わぬところで良い情報が手には入った。
「あの事件を犯した犯人が血煙の魔女で、その協力者が中崎漆だと機関では言われている」
「ふーん、模倣の魔女は今のところ関係ないってのが機関の見解か?」
「そう。今のところは。あの魔女がコピーして犯行を行った、って説がこれから出てこなければの話だけど」
「ふん。それ以外には?」
「あとはマスコミが発表した内容と同じだよ。僕ら捕獲員は警察じゃないんだから、魔女以外の詳しい情報は入ってこない」
「そうか、警察もまだ聞き込み調査とか検死とかの段階か。そりゃ無理ねえか。事件が発覚してからまだ数日しかたってねえし。じゃあ、あと一つだけお前らに訊きたいことがある。これは、事件に関係ないことだから、あくまでお前らの意見で答えろよ」
そう釘をさして道化の魔女は訊いた。
「もし十万くらいで、先天的な超能力や魔女の殺人能力が買えて、それが自由に使えるとしたら、買うか?」
つまり、自分の能力というものは、故意に買うものか、勝手に得るものなのか。というものなのだと僕は解釈した。
その答えを僕ははっきりと述べた。
「それは……買わない」
「おっ、以外だな。どうしてだ?」
「僕の、この能力だけでもう十分だから」
「使いこなせないからってことか?」
「そんな器用さのことをではないよ。言うなら意地を張っているって言った方がいいかもしれない」
この僕の能力がいちりの能力のように強い能力だとは思ったことはない。確かに心臓の動きを制御できるといっても、少しの間しか止めることはできないし、自分の身を守ることは無理に等しいだろう。でも、この能力のおかげでたった一人の女の子を救ったのだ。絶望の地雷源の真ん中に一人泣いていた女の子に近づいて手を差し伸べられたのだ。
それ以上の能力なんて、僕にはいらないし、それにもう両手がふさがっているから、追加の能力なんて持てやしない。
「いいね。その一途な志。うち好みだ。とても気に入ったよ」
「……どうも」
「お話中のところ失礼ですがあの真っ逆さま?」と道化の魔女の隣にいるくららと呼ばれた魔女が口を挟み、続けて言う。「そろそろ、あれが来る時間なんですが」
「お、もうそんな時間か。お前らがいると、ややこしくなって面倒だし、質問しても普通に返してきたところから、本当に何も知っていないようだったからな。じゃあ、もう用済みだ。ちょっと片隅で寝てもらうよ」
僕が何をするんだと言おうと口を開けると同時に、真っ逆さまがパチンと指を鳴らした。
すると世界が暗転した。
11/02 16:43
「で、お前ら三人はその事件現場のマンション付近のコインパーキングで、銀良だけが事件現場の部屋のベランダで気を失い、こならと魔女草の魔女三人には逃げられたわけか。で、一緒に逃げたところから、こならは魔女草に入ったのか、もしくは連れ去られたかもしれないと」
僕は今日あったことを報告し終えたあと、伊達さんがまとめるように言った。
僕たち捕獲員が道化の魔女の能力によってその場で気を失い、気がついたら、もう魔女草の魔女たちが乗ってきたワゴン車もなくなっていた。銀良君は八階の事件があった部屋のベランダで倒れ、ついでに案内してくれた警備員さんも気を失っていたため、倒れたまま一時間が経過し、コインパーキングで倒れていた三人が、犬の散歩で通りかかった人に救急車を呼ばれるまでは誰も気づかなかった。アスファルトの上で寝ていたせいで今も体中が痛い。マスコミの誰かが気づいてやってくると思ったのだが、なぜかその時はマンション付近にはマスコミは居なかったそうだ。多分あの道化の魔女が人を払ってたため、誰もあのマンションに近づけなかったのではと推測する。
病院のベットの上で気がついた四人は急いで機関に戻って、口裏合わせて、こならが魔女になって生きているということを伏せて今日起こった内容を報告した。そのことについて何らかの関係がある機関にこならが生きているという情報を言うのは危険だろうと考えての事だった。その後、報告書を書きながら、伊達さんに口で話しながらも報告していた。
今、オフィスには、僕と伊達さん、もくもくと報告書を書いていた零華さんがさっき書き終えた報告書を伊達さんに出して、席を立ってお手洗いに行ってきますと言い、さっき出ていったから、もうすぐ戻ってくるはずだ。僕の隣に座っているいちりは眠そうにこくこくと船を漕ぎながら報告書を書いている。銀良くんには近くのコンビニに人数分のコーヒーとお茶など買い出しにいってもらっている(ジャンケンで一人負けたから)。
寝られたら困るので、いちりの額にデコピンを食らわした。いちりはうっ、と呻いて、そのままディスクに突っ伏した。完全に落ちたようだった。もうあきらめよう。話を進める。
「なんでこならが事件現場に居たんでしょうかね」
伊達さんはこならが生きているのは本当だったか、と呟いた。
「本当にこならだったのか? 遠目でみたから見間違えたとかじゃなくて?」
「銀良君から双眼鏡を貸してもらって見たんですから、間違える方がおかしいんじゃないかと?」
「他人のそら似か、もしかしたらクローンとかもしれないな」
「前者は兎も角、そんなSFみたいなことが機関にできると思いますか?」
「無理だな。クローンをこそこそと作れる機材や施設、人なんか買ったり雇ったら、すぐに国にばれる。それ以前にそんな予算や裏金があるとは思えない」
「分かっているなら、あげなくてもいいじゃないですか。それに鼓動が聞こえなかったんですから魔女であることは間違いないですし、見間違えるなんてことはありませんよ」
「いや、もう、なんでもありな気がしてな」と呟き、話を続ける。「それにしても、魔女になって生きていたか。それならどうして生き返っているのかは納得ができるんだが、問題が一つ増えた」
「なんですか?」
「回収班に回収されたとき、いや、その前に鬼灯や百合子がこならが死んでいることを確認しているんだろ? つまり、こならは魔女に食われた後にサバドに襲われて魔女になったということだ。でも、死んでからでも魔女になれるのか?」
こならの遺体は回収班が回収し、遺族に元へと返された、と訊いているが、実際はこならが魔女になって生きていることからして、魔女草が介入したことは明らかで、遺族の元へは返されていない、ということになる。でもそれなら、どこで、こならがサバドに心臓を奪われ、魔女になったのだろうか。
「その前に回収班からこならは内蔵をほとんど食べられて死んでいたって訊いていますけど、たぶん正偽の魔女が介入して、そういうように殺されたってことにしたんだと思いますよ」
「最初から、つまり、こならが生きている間に魔女になったか、もしくは、そうならされたか。それを隠すように記憶を変えた、ってことか」
「でも、別にこならが魔女になったからといっても、隠すことではないと思うんですが……」
「裏で何かしらの陰謀があるんだろ。それ以外は考えづらい」
伊達さんは悩んで、「張本人に聞ければ、手っとり早いんだけどな」と諦めた。
11/02 17:12
こなら生存に関して話題は、零華さんが戻ってきたところで終わり、銀良くんがお使いから帰ってきたところで、自然とあの変死事件の話へと移った。
「榊さんの話と彼女たちの口振りからして、南宇美紫苑、あ、血煙の魔女が魔女草から脱退したのか、何か恨まれるようなことをしたのか、よく分かりませんが、敵対しているような感じですよね」零華さんは、途中魔女の本名をいい、訂正しながら言った。魔女の本名は、個人情報保護のため、人前で言っていけないことになっている。
「そもそも魔女草がどうして血煙の魔女を追っているんですかね? 能力が強いから手放したくないか、闇討ちみたいなことをされる前に消しておきたいからでしょうか?」と銀良君が首を傾げたのを見て僕が言う。
「魔女草は人を殺さない、食べないって宣言してるからね。その規律が元、もしくは現魔女草の魔女、血煙の魔女がこの事件で誰かを殺したとなると、自分たちの言っていた宣言が反しているって思われると、一般の人たちから非難があがるからじゃないかな?」
すると伊達さんが反論した。
「それはないだろ。魔女草が人を襲って殺す、殺さない関係なく、奴らが問題を起こせば真っ先に叩かれるのは、俺ら機関に決まっているさ。なぜ危険な組織を黙認していたってな」
「……じゃあ、模倣の魔女はどうなの? 魔女草と関係あるの? それに模倣の魔女は光さんがあと一歩まで追いつめて、重傷のはずじゃないの?」といちり。
「もうあれから一ヶ月近く過ぎているんだから、魔女ならそのくらい立てば、治っていて当然だろう。それに、やつにはやっかいなコピー能力がある。血煙の魔女の能力をコピーして、濡れ衣を着せるためにやったかもしれないって魔女草も考えているんじゃないか」これもキリがないなと伊達さんは呟いた。
「そういえば、あの骨だけの死体の司法解剖の結果は出てきたんですか?」解剖できるかどうかわからないですけどと零華さんは付け足した。
そういわれ、伊達さんはディスクの上の書類をがさがさと漁りながら、一枚の紙を探しだし、僕らに見せてくれた。
「ああ、それならさっきお前らが戻ってきたときに渡されて、中身を見る前に話を聞いていたんだよ。えっと、司法解剖の結果、飛び散った肉片、壁や床に付着した血液と骨と筋だけになった遺体の遺伝子が別人のものだと判明した。って本当なのか……」
その司法解剖の結果を聞き、全員が驚いた。
「え? もう一人、被害者がいるってことですか?」
「そういうことになる。もう一人、肉片の方の被害者は誰かと置いといて、続きを読むぞ。この骨と筋だけの遺体、骨格から若い女性らしい。この部屋で殺された訳ではなく、別な場所で殺されて冷凍庫で冷凍保存されていたもので、死後一年以上立っていると、骨に残った筋からわかった。肉片の方はDNA鑑定から、こちらも若い女性のものだとわかったそうだ。現在、行方不明のリストからDNA鑑定して照合、骨格から生前の輪郭を復元をして調べている……ややこしくなってきたな」
「これは来週のニュースは盛り上がりますね」と銀良君が不謹慎だが、本当のことを言う。
魔女草。こなら。模倣の魔女。この事件には、色々な組織が絡んでいるのがわかる。一体誰が何の為にこの事件を犯したのか、何を目的として、二人を殺して放置したのか、検討もつかない。
「遺体を冷凍って……考えただけで怖いですね」と零華さんと嫌な表情をした。
「……骨だけにしたのも、冷凍庫に入れやすくするためかも。骨だけなら折り畳んで入れられるし」いちりが言うと、その冷凍庫を想像した零華さんがさらに嫌な顔をする。冷凍庫を開けたら丸々人骨。絶対トラウマなる。
「そんなことよりも、肉片だけの方被害者の骨やら他のパーツはどこいったんでしょうね?」銀良君がいい、「肉片だけ置いて、そこから逃げたって考えられないか?」伊達さんが言うが、銀良君は「部屋に行って、能力使って見ても、そんな猟奇的に行動している輩はいませんでしたから、死んでいると考えた方が良いかもしれませんよ」
うんうん悩みながら、五人はこの変死事件について考えても、どれが正しいのかわからない。地中深くにある真相に近づこうと下へ下へ掘っているのだが、肝心の真相の形がわからず、そのまま掘り出したことに気づかないまま、堀進めてしまいそうだった。
ただ、僕は一つだけ確かことが言えた。
「ただ、ここまで来ると、魔女とは無関係な事で、僕らが捕獲員が出る幕ではないですよね」
僕らは捕獲員だ。刑事ではないのだ。
それは皆同感だった。
11/02 20:24
その後、伊達さんが上に報告書を出しに行って、今日の僕らの仕事は終わった。零華さんと銀良くんは、何かあるみたいでまだ機関に残こるようで、後輩二人には悪いが、お先に失礼させてもらった。
帰宅途中スーパーで食料品や生活用品を買った。昨日のバナナで、ほとんど食料が底をついたので、今日買わなかったら明日もコンビニや弁当屋で買ってこなくてはならない。別に僕はそれでもいいのだが、僕の母が、いちりちゃんにちゃんとしたもの食べさせないなら、一緒に住むぞといっているので、ちゃんと自炊している。そんな変な脅しをいう僕の母の本当の狙いは、いちりと一緒に住んでみたいという願望からだろう。家族が男(父、僕、弟)ばかりだから、女の子が欲しいと愚痴って、趣味の裁縫でフリフリの洋服作っては、まだ外見から性別の区別がわかりづらい幼少の頃の僕と弟が生け贄となり――女装させられ、欲求を写真を撮って発散していたのだが、もう二人とも着こなせなくなってしまった(僕らにとっては嬉しいかぎりだ)ため、母は最近いちりを実家に連れて来てとねだってくるのだ。いちりもいちりで喜んで母が作った洋服を着るので、母もいちりも楽しくて仕方がないのだろう。嫁姑問題には発展しなそうでなによりだ。
そんなこんなで、帰宅してから夕食は今から凝ったもの作っていたら遅くなってしまいそうだったので、作ってあるレトルトのミートソースを買って、パスタを茹でその上にかけただけのミートソーススパゲッティを作って食べた。
「いつごろ実家の方に帰ろうか?」と台所の流し場で僕は夕食の片づけをしながらいちりに訊いた。
「……年末、もしくは、年越してからがいいじゃない? どのぐらい休み取れるのかな?」いちりはソファに寝転がってテレビを見ていた。テレビには変死事件の速報が映っていた。内容は大体機関で聞いた話であった。
「三日は取れると思うけど。何かあったら休日返上になるのかな……」
「……それは嫌だね。サバドも年末くらい人を襲わないでゆっくり休めばいいのに」それは同感である。
片づけを終わらせて、いちりが座っているソファに向かう。いちりは寝転がっていたのを止め、普通に左側座り直した。僕はその空いた場所に座り、お風呂が沸くまで、本を読んでいるかテレビをみるか、どちらの暇つぶしをしようか迷っていた。
いちりが寄りかかってくる。
「……今日は一緒に入るんだよね?」
「今日も一緒に寝てあげるから、勘弁して」本を読むことにした。テーブルの上に置いてある文庫をつかむ。
「……もしかして、自信ないの?」と何故か心配そうにのぞき込んでくる。
「歯止めが利かなくなるから、我慢しているの」
そう僕がいうといちりが笑った。
「……わたし、大事にされてるね」
僕はいちりを大事にしている。
きれいな服を着させて、ガラスケースの中、手垢や埃がつかないように、きれいに飾っている。汚さないように、純白のままで、綺麗のままで、ただ外からそっと見て悦に浸っている僕がいる。汚さないように性的快楽を一人で慰めている。
それが世間が望む関係なのだ。世間が望む関係というものは、正しい。間違っていない。
潔白で、純白で、清らかで、健全で、美しいだけの形。そして、後ろめたい関係ではないこと。
「……榊が十八になったら、一緒に入ろうね。文句はないでしょ?」
僕は答えられなかった。答えてしまったら、自分が法律とか世間に左右される、決められた人間だと思われてしまうのではないかと頭の中によぎる。それは、どうしようもない、チキンだ。
お風呂が沸いたことを知らせるメロディーが流れた。
「……お風呂沸いたから、先入るね」といちりは着替えを持って風呂場へと行く。
姿が見えなくなると、久しぶりにいちりについて悩んだ。
僕は潔白でいたいだけなのか、僕自身の快楽のためにいちりを汚したくないから、きれいな存在でいて欲しいからか。そんな潔癖な感情で、どこまで行けばいちりは満足してくれるのだろうか。
ちゃんと愛して。
どこからか、いちりの声が聞こえた気がした。それは、僕の頭の内側から響いたようだった。
11/02 23:56
ベッドの上、すり寄ってくるいちりに布団を被せる。一緒に生活して、こうやって(いちりが寝ぼけふりをして忍び込んで)寝るようになったのはつい最近だが、実は僕はこうやって一緒に抱き合って寝るのが心地よいと感じているのかもしれない。ずっと前からこうしたいと欲求があったのだろうか。その全部の気持ちが不透明なのだ。しれないと言うのは、どうしてだが、心の片隅にこうしてはいけない。傷つけてしまうと思うところがあってそれが混ざり、感情を濁らせ、純粋に感じなくさせる。辛いものや冷たいものを食べて、舌が麻痺しながらも、甘いものを食べているような感じだ。
「……榊って、鈍感」急にいちりが言い出した
「なに急に」
「……深刻そうな顔でわたしを見ているから。その顔は好きじゃない」微笑んでと僕の頬に人差し指でぐいっと引っ張り強制的に微笑ませる。この顔がいいといちりは言った。
そうかなと無意識に自分の顔に触れてみるが、わかるわけがない。当たり前だ。
「……わたしを愛せているかどうか、ずっと考えているんでしょ」
「……」図星だったので何もいえなくなる。
「……言わなきゃ分かんない?」
「うん。言ってくれれば楽になるかも」と素直に言った。自分で考えると堂々巡りで、思考の終着点が見えないのだ。もうこうなったら、諦めて頼ったほうがいい。
「……そう。じゃあ言う。わたしはね、榊が離れたらすぐに死んじゃう面倒なわたしのことをすごっく大事にしてくれる。誰よりもわたしを大事にしてくれる。お父さんお母さんよりも、何百倍も大事にしてくれる。嫌な顔は――時々するけど、全部ちゃんと叶えてくれるって約束してくれる。こんな献身的な人は榊しかいない。だから、わたしは榊と一緒にいたいと想うし、好きだって真っ正面から言えるの。けど、わたしは受け取ってばかりなの。わたしも尽くしてあげたいって思うんだ。幸せな気分になって欲しい、喜んで欲しいって。だから、わたしは、心も体も榊に、あなたにあげたいって思える。その想いを伝えたいから、こうやってくっついて、伝わってって思ってるの」
僕はいちりのために尽くしてきた。それは、間違いないと胸を張って言える。でも、その献身が届いているかどうかは僕にはわからなかった。わかりたくても、この呪いがあるからそばにいるだけで、本当はもっと自由になりたいと思っていて、その本音を聞かされるのが怖かった。だから聞かないまま、ずっと、自分のその優しさをいちりにあげていた。全部とは言わないが、ほんの少しだけもらってくれたいいなと願いながら。
それはすべてが杞憂で、全部もらってくれていたんだ。
いちりはもらってばかりだから、わたしも何か尽くしたいと思って、僕の為に尽くそうとしていた。一人ではできないことが多すぎるいちりが僕に尽くせることと、考えたらそれくらいしかないことは気づけているつもりでいた。
でも、心のどこかで拒んでいた。してはいけないことだと、いう。お前はまだ世間を知らない性欲の有り余ったガキだと、いう。
それが、拒絶と考えられていたなら、いちりはどう思っていたのか。不安だったはずだ。こんなに許したのに、拒絶させられるなんて。好きではないのだ、と言っていることと同じではないか。そう思わせたくなくて、また自分の優しさを彼女にあげた。
全部、僕自身の自己満足なのだ。
「……」僕は、恥ずかしかった。死ぬほど、恥ずかしかった。その何の行為が誰の幸せなのか分かっていなかった。
「……榊? ねちゃった?」
僕は本音を言った。
「……幸せすぎて、死んじゃいそう」
「……それは良かった」
「なあ、いちり」
「なに?」
僕はぎゅっといちりを抱きしめた。絶対に離さないから覚悟しておけと言わんばかりに、そう抱きしめる。いちりは嬉しそうに僕の胸に顔くっつける。
お互いにそれ以上は何も言わなかった。それは言葉で伝えるよりも、深く染み渡るように伝わるものなのだ。
とくとくとく、と僕の大事な人の生きている音がする。
その刻むリズムが僕を眠りへと誘う。ゆっくりと、優しく、僕のすべてを包むように。
今日ほど深く眠れる日はないな、と思いながら、落ちていった。
†
「何あのバカップル。公衆の面前でイチャついたりして、部屋に入っても盛っているし。本当に吐き気がするし気持ち悪いわ。見ていて不愉快よね。そういう社会に不必要な物は、制裁を下して取り締めないといけないわね。社会の一員としてね。あなたもそう思うでしょ? ばにら?」
「……思わないよ」
次回は一週間後になると思われますので、その時は宜しくお願いします。