しあわせっ! Sakaki Angle 11/01 08:22
誤字脱字等が有りましたら指摘お願いします。
11/01 08:22
昼まで寝ると宣言しても、いつも六時半に起きているためか、その生活習慣が休日になったから長く寝れるという都合のいい体になってはいなかったのか、その時間帯になるとすぐに目が覚めてしまった。折角、ベッドで寝ているのだし、そのまま三度寝といこうかと思ったが眠れず、八時くらいまで横になったまま過ごしていた。その間、いちりは僕の隣でずっとすぴーすぴーと寝息を立てて寝ている。寝顔を見る限りでは幸せそうであった。起こすのも気が引けるので自然に起きるのを待っていたが、僕もさすがに暇になってきたので、いちりが起きる前に僕だけ起きることにした。
寝ているいちりは起こさないようにベッドから出ようととしたが、いちりは僕のパジャマをしっかりと握っていたようで、
「……もう、起きるの?」と起きてしまった。
「ああ、起きるよ。特にする事ないけど」
「……じゃあ、まだ一緒に寝よ?」さいですか。僕はもう十分寝たし、これ以上寝ると気持ち悪くなりそうなんだけど……。
「じゃあいちりが寝ている間に僕は朝食作ってるからさ」
「……イヤ、一緒に寝る」即答で言った。
いちりの駄々っ子が始まった。だからといって僕は怒る気にはならない。あきれている訳でもない。いちりの望むことはできるだけ叶えてあげたいと思っているからで、その分の見返りは返せないくらいもらっている。
「わかりましたよ。お姫様」と皮肉に僕はそう返した。怒る気はないが茶化す気はある。
取りあえず、ベッドから起き上がり、キッチンに向かい、電子レンジに水とマグカップを入れて温め、その中にインスタントコーヒーを入れ、スプーンで混ぜる。二分くらいでコーヒーを作って、ベッドの脇のサイドテーブルに置き、昨日テーブルの上に置いたままの途中まで読んでいた本を掴み、ベッドの上に寝そべる。いちりはどこか嬉しそうに僕の隣にすり寄ってくる。
「これならいいでしょ?」
「……うん」
こんな単純な出来事で、幸せを感じれるならまだ僕の感性は飽きて死んでいないということで、もし、このささやかな幸せが、テーブルの上に鮮やかに並ぶ料理の上に、うっと惜しく飛ぶハエのように、手で払って避けようとするモノへと変化してしまったら、そこが僕の感性の終着地点、死ということになるだろう。だから、そんな事にならないように、僕の感性が赤錆び付いてしまわぬように、部屋の中に閉じこもって、酸化しないように、酸素や光、手垢の多い外の世界に出ずに、じっと、彼女のそばに居続ける。世間知らずになり、彼女が一番だと思い続けたいと思う。新しい刺激なんて入りもしない。その刺激を手に入れるための冒険が怖いと思い続けるのだ。冒険に出ても、何も手に入れられずにすべてを無くしてしまうかもしれないと、最悪の可能性を考えるのだ。そうして、僕は彼女と共に二人だけの部屋に閉じこもる。ここが始まりで終わり。幸せの最大級。それ以上は絶対にない。それでいい。
持ってきた本をぺらぺらとめくり、読み進める。僕が今読んでいるのは、去年の終わりだった今年のはじめだったか忘れたが、映画化され、国民的有名男性アイドルグループの一人が主役をつとめたことで話題を呼んでいたものだ。本屋で見たとき(もちろん去年)二十万部突破とか帯に書いてあった気がするが、一年立てば、中古屋で百円でずらっと並べられて売られる始末。本当に世間は怖いほど熱狂し、恐ろしいほど冷めやすい。鉄と表現してもいいくらいだ。燃え方からしてマグネシウムと表現してもいい。狂ったように激しく燃えて、あっけない燃え滓になるところからして。
内容は、映画化しするくらいだから、それなりに面白い。たんたんとテンポよく展開が進むので読みやすいのが好印象だ。僕の中では、奇怪な専門用語やら理論をべらべら一ページ近く書かれている小説は読みづらくて仕方がない。なんだか小説ではなく専門書を読んでいる気がしてしまうから気軽に楽しめないし、そういうのは専門書を読んだ方がいいと思ってしまうところがあるから。
そんな超個人的な文章評論は放って置いて、これまた個人的だが、今売れている本(この前書店で新品で買った本は面白かったかったが、今読んでいるものよりは少し劣る。好みの問題だ)、中古でも映像化によって高値で売られている本よりも、百円足らずで売られている本の方が内容は面白いことが多々あり、なんだが悲しくなってくる。たかが百円で売られている本でもないような気がするのだ。でも本というのは中身が面白いからといって、高い値をつけられるものではない。話題や絶版にならない限り、どんな面白い本も、少し古くなれば百円ですら売れなくなる。一回読んで楽しんで、おしまい。あとは場所を取るだけのただの紙の束。売るなり、捨てるなり、酷評するなり、個人の自由。所詮暇つぶしの為の物。
つまり、内容は値段に関係ない、もしくは値段すら付けられないものなのかもしれない。それが悲しい現実だなと思う。
要するに新しいものと古く希少価値があるもの、流行っている物しか、皆、手を出そうとしないのだ。
でも、それでも、僕は手を出し続ける。安いからね。沢山読めるし。図書館に行って借りてきてもいいんだけど、ここからだと遠いから返しに行くのも億劫だし、その行くまでの分の電車賃を考えると買った方が安い。それに返却期限通り読み終わるか分からないし。それなら自動販売機で缶ジュースを買う感覚で百円で買っておいた方がいい。
「……音楽かけて」
隣で寝ているはずの急にいちりが急に僕に言った。寝ていうるんじゃないのか、言うと、音楽聴きたい気分なのと返ってきた。
「どれを?」サイドテーブルに置いたコーヒーに手を伸ばして掴み、一口飲む。少し冷めていた。もう半分以下になってしまった。
「……オアシス」
「こならが好きだったのを?」
「……うん」
僕はベッドから立ち上がり、部屋の端、テレビの隣に置いてある本棚の一角からオアシスのセカンドアルバムを探して引き抜く。本に比べてCDが圧倒的に少ないので、わざわざCDラックを買わずに本と同じ場所に収納してあるのだ。ケースからCDを取り出し、これまた中古で安く買ったCDコンポに入れ再生。
部屋の中にオアシスが静かに流れる。迷惑にならないよう隣の部屋に聞こえない程度の音だが、十分に聞こえる。
視線をいちりの方から本へと変え、読み進める。すぐに3曲目がかかった。こならがこの曲好きだったなと思い返した。
そういえばこならの葬式は身内だけの密葬だったため行けなかった。百合子さんの方もそうだった。そうであろうがなかろうがどちらの日も、魔女を捕まえるために地方の方へと行っていたため、行くことはできなかった。お線香すらあげていない。仕方がないといえば仕方がない。国民の平和の為に、若者が魔女に喰い殺されて、喰い殺した魔女も病気で故意でないと証明され無罪放免。その怒りを向ける矛先が機関に向かうのは当たり前だ。
ニュースでは、なぜ若者がこんな危ない仕事をやらなければならないのか、と議論し続けている。って、どの世代でも言えそうな気がするのは気のせいか? 要するに討論の題材というのは山のように転がっていて、その中の旬の話題に対して討論すれば視聴率も取れるってことだろう。だから評論家は一生喰っていけるのか。どっちに側に立ってもそれは体が向いている方であって、本当の立ち位置は中立に近いから。
またコーヒーに手を伸ばす。一口飲み込む。飲んでいるうちに量が少なくなったせいですぐに冷めてしまった。
「もう冷めたのか。寒くなってきたんだな」もう十一月だ。すぐに寒い冬がやってくる。
「……言ってくれれば、わたしの能力で温めたのに」いちりはもう完全に起きているようだ。単に僕にくっついていたいだけなんだな。構わないけど。
「冷えてもコーヒーはおいしいってコーヒー通の人が言っていたから、おいしいんだよ。きっと」
そういって僕は冷めたコーヒーを飲み干した。これも乙なもなのだと思った。
11/01 9:49
だらだらと一時間近く寝過ごしたので、朝食はトーストと冷蔵庫に残っていたレタスやトマトなどの野菜を切って、少し大きなボウルにいれて、ドレッシングをかけただけのサラダというお手軽(手抜きともいう)なものになった。そのかわり昼は外食でしっかりと食べたいと思う。
そのサラダのテーブルの真ん中に置き、二人仲良くソファに並んで座って食べていた。食事くらい向かい合って座ればいいと思うところだが、いちり曰く、こうすることで、僕とくっつけるし、同時に首を前に向けたままテレビもみれるし(今はついていないけど)、テーブルの上の料理もみれる。首を動かさないですべてをできるから良い、だそうだ。いちりがテレビっ子なのは、僕と出会う前の娯楽というものがそれしかなかったから、かじりつくように毎日みていたそうで、今も暇さえあればバライティを見て、クスクスと笑っている。
「今日はどうする? せっかくの休みだし、この近くに新しく出来たアウトレットでも行く?」新しく出来たといっても今日は平日なので、そちらに向かうバスも地下鉄もそれなりに混んではいないはずだ。
ニュースを見ていたいちりは眠そうに見える三白眼が僕の方を向き、もそもそと口に入っているレタスを咀嚼し、飲み込で、鷹揚なく言った。
「……今日は、出来れば、部屋でごろごろゆっくりしていたい気分」
「心臓止まるかもしれない覚悟で外に出たのに、どうしてそんな引きこもりに……」
僕は、いちりを障害が多い外へと、連れ出してあげられる唯一の人間じゃなかったのか……。以外とショックだった。
いちりはちょっとだけ慌てて訂正する。
「……えっと、その榊と一緒にどこかにデートしたいとは思ってるけど、その、お手洗いとか……」
「……あー、そうだね……」
僕はその重要な心配を忘れていたのだった。
ぶっちゃけたこと言うと、いちりは一人ではトイレに行けない。
もちろん、用を足せないと言う意味ではなく、トイレという空間に一人で入れないのだ。
一般的なトイレは男女別々になっている。そんなの言わずもがな当たり前だ。もちろん、僕たちも性別に偽りはないのでべつべつに使う。のだが、いちりは僕たちを引き寄せた呪いによって、僕から数メートルしか離れることができない。もし、数メートル以上離れてしまい、丁度近くに使用している別の人がいたら、たちまち呪いによって、いちりの心臓は止まってしまい失神して倒れてしまう。下手すると酸素欠で死に至ることだってありえるのだ。逆も然り、僕が用を足そうとしても、離れてしまったら、いちりの心臓が止まる可能性がある。もうこれはトイレごときの騒ぎでは済まないレベルだ。アウトレットモールのような大型店のトイレはかなり広い。簡単に数メートル離れてしまうだろう。だからといって、僕がついて行ける場所でもないし、これは説明しても無理がある。というか説明出来る自信が僕ら二人にはない。一応、回避方法として、車いすの人、赤ちゃんを連れたお母さん用の広い多目的トイレを使うしかない。これなら僕が個室トイレの前で待っていれば数メートル離れずに済む。だが、何も障害を持っていないいちりがそこを使うのは気が引けるらしい。あと、僕がドアの前で待っているという行為は、どう考えても、人目がなくなったら入って発展場として使おうとしている奴にしか見えない。つまり、僕の精神も耐えられない。
お互い、人の目が気になるのだ。
せっかくの休みなのにな……。ため息が出そうになった。
「じゃあ、何して過ごす?」
「……ツタヤでDVD借りて見よ。洋画の新作も出てると思う」
「そうするか。ついでに食品や日用品も買いに行かないとね。冷蔵庫の中身スッカラカンだったし。外で食べないなら昼食も何か買わないと」天気もいいから洗濯もしないとなーと窓の外、晴れわたる空を見て思った。いろいろ忘れないよう紙に書いておく。
朝食を終え、僕はパジャマから着替えるために、着替えを取ろうとクローゼットを開く。その間、いちりは洗い物をしている。
「……榊のケータイ、鳴っているよ」キッチンで朝食のトーストが乗っていた皿とサラダのボウルを洗っているいちりが言った。キッチンの方にあるコンセントで充電しているから、近くで洗い物をしているいちりが気がついたのだ。僕は、着替えを選ぶの止めてキッチンに向かい、充電していた携帯を開く。伊達さんからの着信だ。いやな予感しかしないが、もちろん出る。
「はい、桐里です」
『伊達だ。おまえら、まだ部屋にいるのか? それとも、どこか出かけているか?』矢継ぎ早に訊いてくる。何かあったようだ。
「ええまだ部屋に居ますよ。これから、二人で買い物にでも行こうと思ってたんですが」
『そうか。なら丁度いい。実はな、急な仕事が入って、機関の人でが足りないというか、前のこならや百合子の件もあって、複数で向かわなければならないことになってだな、今、他の手の空いている捕獲員がいないんだ。すまないが、これから機関の方に来てくれないか?』
「……いいですけど。何があったんですか?」
『警察から、魔女の能力によって殺されたと思われる遺体が発見されたそうだ。まだマスコミには発表されてないから、一般人に話すなよ。まだ俺もその遺体の写真を見ていないし、状況もさっぱりわからないから、魔女にやられたと断定はできないが、こんなに早い段階から分かるなら、多分そうだろう』
初めから魔女がやったと疑うということは、その遺体が、ただの人ではできないような、おかしな殺され方をしているということだ。
「そうなんですか。それにしても、最近こういうどっちがやったのかわからない事件が多いですよね」
最近、わざと猟奇的に見せかけて、人を殺しても罪にとわれない、理性を失っている間に殺してしまうので覚えていないことが多い魔女に、その罪の濡れ衣を着せるという模倣犯があとを絶たない。未然に防ぐ対策も取るにも、殺人自体防ぐのが困難なため、警察も頭を悩ませていると聴いたことがある。
『そうだな。詳しいことは機関に来てから話す。他に何か訊きたいことはないか?』
「他に……。じゃあ、この休日、キャンセル扱いになって別な日に取れるんですかね?」
『ならないと思っていた方が、取れたときに気分的に良いと思うぞ』高確率でならないのか……。
「はぁ。わかりました。しくしくと諦めますよ。それで、何時に着けばいいですか?」
『んー、一時前には着いて欲しい。何か動きがあれば、そこから直接、移動するかもしれないから、その準備もしておいてくれ』
「わかりました。では、一時に」
『ああ』
そういって切った。はあと再びため息が出る。
「……お仕事?」食器洗いが済んだいちりが訊いた。
「うん、また魔女が出て、人を殺したかもしれないってさ」やれやれと思いながら、壁に掛かっている時計を見た。十時十九分。伊達さんの口振りから急いでいるようだったから、一時までとは言わずに早めに機関に着いた方がいいと思った。
「……せっかくのお休みだったのに」
いちりは頬を膨らませて言った。
「仕方がないさ。その代わりにお給料もらってるんだから」
「……折角今日はいちゃいちゃしようと思ってたのに」
「いつだってしてるでしょ?」おそらく365日休む間もなくやっていると思う。やらない日があるとは到底思えないのだが。
「……じゃあ、そのかわりに、今度のお休みの前の夜に、やろ?」
ピンっといちりのおでこにデコピンをした。イテっとおでこを押さえる。
それはもう少し大人になってからのお楽しみです。
11/01 12:04
僕はシャツにジャケット、ジーンズを穿き、いちりはセーターにデニムパンツ、コートを羽織った。晴れているとはいえ、それなりに寒くなってきた。そろそろハロゲンヒーターを出さなくては。
着替えを済ませ、部屋の鍵も閉めて、僕たちは手を繋ぎながら、地下鉄の駅へ向かう。地下鉄で機関の最寄り駅で降り、問題なく着くことが出来た。時計を見ると約束の時間の三十分前だった。変死事件が起こったのだから、機関の周辺は慌ただしくなっているかと思いきや、以外とそうではなく、出入りは何にもない日と変わらないくらいだった。いつもなら魔女が発見されるとマスコミ関係者やらが建物の周りにいるのだが、今日は情報がまだ流れていないので一人もいない。良かった。いちりはマスコミの人たちに詰め寄られると緊張し軽いパニックを起こすため、その対応が非常面倒くさいから、いなくて本当に良かった。
中に入り、受付とは別の方、関係者以外立ち入り禁止の通路に立っている警備員に捕獲員の証である手帳を見せて通り、突き当たりを左に曲がるとエレベーターが二つある。そのうちの一つが丁度上の階から降りてきた。女性が一人出ていき、僕らが入れ違いにはいる。伊達さんがいるいつものオフィスがある四階へと丁度開いたエレベーターに乗って向かう。エレベーターには僕ら以外誰も乗ってこないで、扉は閉めた。ゆっくりと目的の階に向かって上昇する。
二人だけになったところで、いちりがつぶやいた。いちりはだいたい知り合いがいない時や他の見知らぬ誰かに聴かれている時は、ほとんどしゃべらないで黙っていることが多い。激しく人見知りするタイプだ。
「……今日は人多くなくて良かった」
マスコミの人混みに少し緊張していたらしい。ああ、良かったねと僕は返した。
エレベーターが目的の階についた。扉が開く。いつもと変わらぬ騒がしいさだ。機関の職員、研究員が束になった書類などもって通路をいったり来たりしている。ちなみに機関の中では研究者が一番多く、次に魔女による損害を対応、助言を専門とする職員、その次に魔女収容所に勤務する監察官、そしてやっと捕獲員である。もっと捕獲員の数を増やした方がいいのではと思うのだが、なれる人が少ないため、現在に至る。これはどうしようもない。ちなみに一番少ないのは、カウンセラーだ。専属の人が一人いたはずで、あと四人くらい交代制で魔女収容所に来ている。
通り過ぎる職員に挨拶しながら、エレベーターからすぐに右、通路をまっすぐ歩いて、奥から三番目の部屋に入る。節電のために電灯の数を減らした少し暗いオフィスには、八つのデスクが向かい合うように二列においてあり、そのうち奥の二つが綺麗に片づけられていた。先週までは花が飾ってあったが、もうその面影はない。すぐに新しい人がその場所にはいってくるのだ。
入り口に一番近い席に座っている、伊達さんが僕たちが入ってきたことに気づいて振り返った。伊達さんは何時もはラフな格好なのだが今日はスーツ姿だった。警察にさっき言っていた事件の書類でも取り入ったのだろう。
「おう、もう来たのか」
「早めに来た方がいいかと思いまして」
「ごめんな。折角の夫婦水入らずの休日に水を差してしまって」と謝る気がさらさらない伊達さんは僕たちに建前のようにいった。それはそうだ。本当に水を差したのは伊達さんではなく機関の方なのだから。もっと正確に言えばこんな事件を起こした魔女、もしくは犯人のせいだが。
「やるのことなかったんで別にいいんですけどね。それから、まだ夫婦じゃないです」正直な話、日用品の買い物以外予定はなかったから、これといって謝られるほどのことではない。それと一応、訂正はしておく。
「つまり、これからなる予定なんだな?」と伊達さんは、にやにやと笑みを浮かべて揚げ足を取りに来きた。
「……予定じゃなくて、確定事項です。結婚式には伊達さんも呼びますから、ご祝儀、よろしくおねがいします。所で、伊達さんのご予定はいつなんですか?」Vサインを突き出して、痛いところを尋ねたいちり。未だ独身の伊達さんに向かっての嫌がらせだな。以外に効いているようで、目が泳いでいた。
「頑張ってください。きっと良い人が見つかります」と棒読みで言ってあげた。棒読みでも、本気で言われようと、どちらにしてもダメージが大きい台詞だな。これ。
伊達さんは辟易するような顔をして、A4用紙が入りそうな封筒から写真を何枚か出した。
「さて、そんなよた話は止めて、早速だがこれをみてくれ。これが例の事件の遺体の写真だ」
僕はそのうちの一枚を受け取る。横からいちりがその写真を覗き見て、おー、ぐろい、と感情が皆無の喚声を上げている。
「これは――本当に酷いやられかたですね。これじゃあ性別も年齢もどこの誰なのかもわからないじゃないですか」
「だろ? どこの誰なのかは、俺達がうんうん考えても絶対思いつかないから、その問題は置いておくとして、警察はだな、これを魔女ではない、人間がやった可能性があるかもしれない、って疑っている――んだが、これは疑う余地なしだろ。これは」
その写真に写っていた遺体の第一印象は、骨だった。
白骨化した遺体ではない。ちゃんと赤黒い毛細血管が骨の間に根のようにくっきりと残り、はぎ取れなかった赤みががったピンク色の肉が所々に点在している、そう骨と血管のみの人体模型のような遺体が写っていた。体の骨と骨をくっつける腱や軟骨は残っているのか、ばらばらになることなく人の形を保ち、壁に張り付くように寄りかかっている。その周りにはまっかな血と肉が壁や床一面を染め上げて、どこまでが血なのかわからないほど血が飛び散っていた。
殺して肉をナイフか剥いで、骨だけにするなんて、ただの人ができるわけがない。例え時間をかけてやったとしても残った肉はどうするのか。これが魔女がやったと考えるなら、肉は綺麗に食べられたからないと言える。
「魔女以外ありえませんよ。これ」
「……わたしもそう思う」といちりも僕に合わせた。
「だよな。でも警察は一般人が、肉を剥いで殺したんじゃないかって疑ってもいるんだよ。いつもだったら、まだ機関にも認知されていない魔女が関わっていると分かったならすぐに手を引いて、魔女が捕獲されたところで動き始める警察がだ。おかしいだろ?」
確かにその点ではおかしいと思うが、一般的な殺人事件だと断定できる絶対的な確証があるからそう言うのではないかと僕は言った。
「ただの人間が殺した確証があるから、そういっているじゃないですか?」とそう僕がいうのを待ってましたと、伊達さんは言った。
「そうだ。あるから、警察はそう断定できずに困っているらしい」伊達は一枚の書類の封筒から出した。指紋の画像と拘置所に入れられた時に撮られたと思われる金髪の男の写真がプリントされている。名前は中崎漆、あとはその男の学歴と就職歴、そして、犯罪歴。
「こいつの指紋がその遺体があった部屋から見つかったんだとよ。まあその部屋を借りていたのがこいつなんだけどな」
「……その容疑者は、被害者が殺される前からその部屋を使っていたから、本当の犯人に濡れ衣を着せられたって考えられるよね?」といちりが発言すると伊達さんは否定した。
「それはない。こいつは血が付いた手で、その部屋の戸にべったりと触れて、部屋から出て行っている。こいつが犯人ではないであるかは決めなくても、どう考えてもこの事件に何らかの事で関わっていて、遺体がある部屋の中で何かしていたことは確かだ」
渡された書類を目で軽く見ながら僕は疑問点をいった。
「そこまでわかっているなら、警察だけが動けばいいじゃないですか? 魔女が関わってないなら、僕たち、捕獲員まで動く必要なんてありませんよ?」
捕獲員、機関は、魔女が関係していると断定できる事件にしか、独自の権力を発揮できない。魔女が関わってなければ、ただの魔女のことに詳しいだけの一般市民だ。それに普通の事件まで捕獲員が解決してしまったら、警察の意味がなくなってしまう。
「要するに両方が関わっている可能性が高いって警察は言いたいんだよ。一般人と魔女が手を組んで殺人を犯したってな。どうやってもなんの能力を持たない一般人が、こんな綺麗に爆発したように人を殺せる訳がない。でも殺人現場からは犯罪者の血の付いた指紋も見つかっている。この二つの事実から、魔女と中崎漆が手を組んでいる可能性が高いって警察は推考したわけだ」
「つまり、その容疑者が殺して、連れてきた魔女に喰わせた、と?」
「もしくは、容疑者が魔女を連れてきて、殺して喰わせた、か」
「……魔女が食べちらかした部屋に、容疑者が入ってきてしまった、とかも考えられるよね?」
「まあ、色々考えられることはあるだろう。今まで話したことをまとめると、警察の見解では、どちらも、この部屋に来て、何かしらアクションを起こした、ということになっている。警察はその誰がアクションを起こしたかを調べる、で、俺たち、心欠落障害捜査機関が調べるのは――どの魔女が能力で木っ端微塵にしたか」そういいながら、ディスクのファイル立てに挟まっていた中の淡い水色のファイルを取り出した。そのファイルは――
「警察から、人をこの写真の遺体のように人の肉だけを木っ端微塵に出来る能力を持った魔女が確認されていないか調べてくれと頼まれたんだ。写真の遺体の破損具合から、どんな能力を使えばそのような状態になるのか考え、調べた結果、機関内で能力が確認されている魔女の中から、当てはまる魔女をピックアップしたところだな、三人出てきた。その中で現在、まだ捕まっていない魔女は一人だけ。そいつは――」
そのファイル――魔女草の魔女の情報が書かれているファイルの一番前、正偽の魔女、花木鈴のページをめくり、次のページの魔女が目に入る。花木鈴と一緒に、国を脅し、地位を手に入れ、魔女草を作り上げた、魔女草二人目の功労者。
「血煙の魔女こと、南宇美紫苑。魔女草のトップ2。ここ二年くらい目立ったことはしていない。目撃情報がないからかな。本題の能力は、目に映った相手の体の一部を爆散させる能力だ。こいつが今回の俺らのターゲットってことだな。そういえば、この魔女、あの事件の時に、警察官四人、この遺体と同じようにして木っ端微塵にして殺したんだっけ」
伊達は、警察もこの魔女と何かと因縁があるみたいだな。と血煙の魔女の写真を見ながらつぶやいた。
掲載遅れてすみません……
私の愛機、ポメラDM20が逝きかけているのか、キーを打っても打っても反応せず、書きたい時に書けない状態です。ただでさえカタツムリよりも遅い速度で書いているのに、さらに遅くなっていて大変困っています(泣)。保障期間の一年過ぎてから壊れるなんて……。
頑張りますので、これからも応援宜しくお願いします。