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女王陛下③~チェイテ城の晩餐

ヒステリックな女の声がチェイテ城の地下室に響く。

「薄情で下品なゲス野郎め!醜い(しこめ)はくたばれ。フンッ」


罵詈雑言(ばりぞうごん)の嵐


「おまえはなんと醜女(しこめ)なんだい。チェイテの娘ども!」


ひぃ~


「お許しくださいませ。女王さま」


女王エリザベートは無気味な笑いをみせる


オホホ~


深夜のチェイテの地下牢に縛りつけた侍女。


エリザベートに鞭打たれ涙を流し許しを乞う侍女


泣き声を張上げても全身は縄でしっかり縛りつけられ身動きができないのである。


狂苦の拷問を受ける侍女


エリザベートのサービス(奉仕)に出した紅茶がぬるいことから罰を受ける。


「あなたはわからないの。不味い紅茶は貴婦人の口を汚します。だからいただけないの」


カルパチアの婢民のくせに

身分違いの侍女になりたかるとは生意気だわ


「醜女のくせに。賤しい女でお城で奉仕できると思いあがって」


高貴なる女王さまを辱しめやがった!


"お許しを…ご慈悲を"


泣き声は牢の至るところ響きわたる


「…申し訳ございません」

わあっ~わあっと泣く侍女

その泣き声は縛りの屈辱と空腹から次第に小さくなり

ついに…


侍女は二度と口を聞くことはなくなってしまう。


オホホ~


「あなたはよくできたお方ね。ようやく静かな貴婦人におなりになられてよ」


毒蛇のような目になるエリザベート。


側近の老婆(女中頭)に命じ気絶した侍女を"秘密の部屋(遺体安置)"に運ばせる。


「オホホっ。あなたは醜女じゃあないわ。充分に可愛いらしいの。チェイテの生娘そのもの」


若い男がいたら生娘に虜になるわ


だから…


狂女エリザベートは気に入り生け(いけにえ)に欲しかったのだ。


「イヒヒッ素敵な女性ね。可愛いい"死に顔"してもいますわ」


穢れを知らぬ処女の今にエリザベートはいただきたいのだ。


「正真正銘のバージン。素敵な香り。バージンの香り」


一段と幸せを感じ笑みをみせる。


貴婦人の微笑みは心底からの歓喜をみせた。


ぐったりする可愛いい侍女は延命手段を講じず。


静かに絶命していく。


「オホホ安らかにおなりあそばせ」


冷徹な毒蛇のような貴婦人エリザベートがあった。


オホホ~


「まあっ素敵な生け贄。可愛い生娘は幸せなことよ」

太陽の明るいチェイテ城の宮廷にはうら若く気品のある貴婦人のエリザベートがいる。


夜の地下牢にある女王エリザベートは"狂いの貴婦人"で毒のまわった獲物を味わうごとき執念である。


隣国弱小国家の使者が友好のために来賓する


ハプスブルク家から辺境の確保のため来賓あり


カルパチアというハンガリー=オーストラリア帝国の"辺境チェイテ"


首都ウィーンからの来賓は稀である。馬車の遠路旅の国王や女王は旅の疲れもいとわず来城している。


「我がチェイテにようこそ。今宵は晩餐でおもてなしをいたしますわ」


女王エリザベートはハプスブルクの末裔に恥じぬ最高料理と宮廷音楽を用意してみせる。


「帝国さまの領地国王さま女王さまにチェイテのもてなしを堪能させたいわ」


エリザベートはキラリッと瞳を光らせる。


『我がハプスブルク家の領地で一番の属州国家がチェイテと言わせたい』


妙なところで


異常な見栄を張るエリザベートである


チェイテでの最高のもてなしはハプスブルクの帝国の最高峰に


チェイテの宮廷での最高の晩餐はハプスブルクで見劣りしない


広大な潘土を持ち常に領地拡大をはかるハプスブルク家。


ウィーンの宮廷では場末のチェイテなど知る貴族華族など皆無であるかもしれない。


「我が帝国の皇帝がいるウィーンに負けぬ社交の場を」


チェイテは提供してみせます


首都ウィーンに喧嘩を売るに等しい無謀さである。


女王エリザベートは華やかが好き


贅を尽くした浪費が大好きである。


宮廷の晩餐を支える奉仕下僕の身だしなみから気を使う。


「気紛れなエリザベート女王さまがまたまた戯れ言だ」


お城にあるドレスや衣装をすべて化粧室に運べと命じる。


「簡単に運べというが」


古き歴史のあるチェイテ城には山ほどの衣類や布切れが在庫である。


「お城にある衣装を集めなさい。素晴らしい奉仕(下僕と侍女)人として気遣いなさい」


エリザベートが奉仕の衣装(ウエイター/ウエイトレス)を決めた。


「皆のもの。これを着るが良い」


衣装のデザインを決めつける。必要な着数を決めたら下僕らは徹夜覚悟でお針子(はりこ)となった。


「なあっ~女王さまはおかしいぜ」


そう思わないか。


行き当たりばったりな命令ばかりだ。


「どう考えても変なオバチャン。こんな素人の針子でチェイテ城の下僕全部の衣装(制服)を新調しろなんて」


お針子の数が少ないのに


ハプスブルク家の晩餐に新しい衣装を人数だけ間に合わせるのは無理な話


「慈悲というものがないなあっ」


新入りの侍女などは針を見ることも初めてである。


「素人ばかりなのは針の熟練者がいないんだなあ」


おい!


そういえば…


運針をしながら針子らはハタッと気がつく。


「今いる下僕と侍女。みんなチェイテに来たばかりだ。俺は1週間前に来た」


もう少し(数週間)前に奉公に来た下僕や侍女もいるはず


「そうだ!他の奉公さんはどこにいるんだ」


ざわざわ


どこに?


我々カルパチアの酪農家の娘。


知らないわ


「一口に言って歴史のあるチェイテ城は広いから」


作業など広い敷地の野良仕事もある。


「お城のあっちこちで分業しているのよ。下僕の仕事をこなしているわ」


しかし


まったく姿を見ないのは


「謎ねっ」


なにも


お城の中の綺麗な職務だけで下僕や侍女の奉公とは限らない。


女王や諸大臣・臣下の御付きとしてハプスブルクの領地にいくかもしれない。


下男が口を挟む。


「それか…だなっ。チェイテ城で役立たずは"暇"を出されて」


お城の裏口から


ポコ~ン


帰れ!


こっそり実家に帰ったりしている。


お城で経年奉公の下僕が見えない。控えではちょくちょく噂に出るのである。


その日に臣下が晩餐の命を下す。


「今宵は都ウィーンよりハプスブルクからの領地国王さまを来賓として迎えます」


ハプスブルク!


雲の上の皇帝とその臣下である。


「皆のもの。そそうが無き奉公を。心あるサービスを」


カルパチアの酪農家にいては一生涯かかってもお目にかかることはない天の存在である。


晩餐が予定された女王エリザベートもウキウキである。


昼まで寝ず早起きをする。

寝室から迷わず侍女の待つ化粧室へいく。


首都ウィーンからのハプスブルク来賓は楽しみである。


「さあっ侍女たち。我が美貌を!メイクを整えてちょうだい」


晩餐に合わせて入念な化粧をしてみる。


化粧の乗りがよく肌になじむ感覚である。


"にっこり"


朝の女王エリザベートは気分がよいのである。


普段の女王は寝惚けは酷くキィ~キィとヒステリックな狂女


侍女のやることなすこと気に入らない。


目を三角にして毒を吐く蛇だった。


「ホッとするわぁ。今日の女王の機嫌のよさ」


柔和な感じ


貴婦人風情


メイク担当の侍女は安心をして手馴れた化粧を施した。


「女王さま素晴らしいでございます」


オホホッ


女王エリザベートは鏡の中で微笑んだ。


機嫌のよいのは…


昨夜に


チェイテ地下室でたっぷり"秘密"を楽しみ上機嫌であった。


化粧の乗りが良いエリザベート…


サアッと寝起きし入浴する。風呂浴場まで侍女は奉仕としてついている。


「いつもなんだけど」


浴場担当侍女は声を潜めてしまう。


クンクン


「あのねっお風呂なのかしらっ」


クンクン


「臭いが…あるの。異臭が…するの」


(人間の)血のような臭い


お風呂全体から漂うのである。


控えで下僕らに血の臭いを話す。


「血の臭い?なんだそれ」

女王さまのからだ全体から

フンプン


異臭があります


血が臭いますの。 


「血のにおい!なんかの間違いじゃあないか」


老齢の女王は女王だが


「我々の母親ぐらいの年齢だけど。まだまだ女なのよ」


生理がキツいのじゃあないか


「えっ!生理?」


それにしては


血のにおいはいつもいつも

「月に一度ではなくてよ」

身体中からフンプン臭う


「肌を洗うんだけど血が染みついてモワッてしてくる感じなの」


からだに血を塗り潰したような感じ


「あまり言わないが」


エリザベート体臭?


「キツいのかも。常に香水を振りつけるから気がつかないだけかもね」


下僕らがエリザベートに近く寄る。


鼻先をクンクンとならすのである。


キツい香水は血の臭いなど消し去っている。


「オホホッ。晩餐は皆なの奉仕で盛り上げでございます」


ハプスブルク家の主賓はチェイテ最高のもてなしをしたい。


「チェイテ城の女王エリザベートさま。素敵な晩餐をありがとう」


ハプスブルク家の領地国王は喜んだ。


「どういたしまして。カルパチア山脈の大自然を味わっていただけましたら」


主賓を歓待することができてエリザベートは満足であった。


「ハプスブルクの帝国でチェイテは素晴らしい領地だと認めていただきたいのです」


エリザベート自身宮廷晩餐を楽しむ余裕である。


オホホッ


美味しいカルパチア料理と宮廷音楽隊で素晴らしいもてなしとなるはずであった。


「ハプスブルク家の主賓さまである。失礼のないように」


控えにいる奉仕(サービス)人はいずれも緊張でガチガチである。


カルパチア山脈の酪農家やチェイテ領地の娘らは一生涯で一度逢うかどうかの領地国王さまと女王さまである。


地酒のワインを注いだり


料理の皿を次々提供したり

宮廷音楽の奏でられる最中であった。


主賓の国王が子羊のソテーを小皿に盛ろうかとした。

子羊はカルパチア酪農の自慢であった。


「畏まりました」


侍女は我が故郷カルパチアの子羊を召し上がっていただきたいとサービスの手を出した。


「こちらの子羊は我がチェイテ領の名産でございます」


意気揚々と自慢な顔つき。

牛刀やら小刀やらを取り出し肉を切り小皿に刻む。


柔らかな子羊肉(ラム)は容易に小皿に取り分けられる。


しかし…


侍女が小皿に移す際にソテーの一部が不注意から飛沫した。


ベチャ


国王の礼服の袖あたり


「ハッ!」


申し訳ありません


侍女は非礼に真っ赤である。


あわてて取り巻きの下僕らがテーブルクロスを出し袖を拭く。


うん?


ハプスブルク家の国王はなんだろうかと悠然と構えている。


「ソテーが?よいよい」


礼服であろうが普段着のひとつ。


「洗濯すれば大丈夫であろう。それにしても子羊はうまいぞ」


カルパチアの子羊は極上もの。


「ウィーンの子羊より数段に深みがあり美味しいぞ」

袖をごしごし


きれいに拭き取れたら


「アハハもうよい。下がってよいぞ」


国王は多少の汚れなど気にせん


隣席で一部始終を見ていたのは


女王エリザベート


ムッ!


侍女と下僕の顔をしっかり記憶をしたのである。


「晩餐が片付きましたら」

女王に呼ばれる。


以後


その姿を見たものは宮廷にはいなかった。 礼服であろうが普段着のひとつ。


「洗濯すれば大丈夫であろう。それにしても子羊はうまいぞ」


カルパチアの子羊は極上ものであろう。 

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