女王陛下②~貴婦人エリザベート
チェイテの領地。大半が山岳であり放牧酪農が経済である。
牛や羊に山羊が高原に放たれのんびりとした牧歌的な山岳であろうか。
いやっ違う
現在のルーマニア・ハンガリーのカルパチア山脈の大自然は極めて厳しくある。
牛が草を食みすくすく育ち子牛が生まれとはならない。
チェイテの酪農民たる村民は常に貧困であり生活苦に悩まされていた。
冬の寒さと貧困はカルパチアに住む者には避けては通れぬ足枷だった。
山岳に女の子が生まれとしても裕福な暮らしは期待されない。
そこにチェイテ城からの御触れである。
『お城の下僕・侍女を集めたい。チェイテ城で』
喜んだのはカルパチア山岳の生娘たちとその酪農家。
生活苦から逃れるのは食い扶持を減らすこと。
「国王さまがお亡くなりになられて女王さまだ」
女城主となれば侍女として若い娘が必要なのだろう
「チェイテで働き美貌と優しさが満ち溢れている女王エリザベートの侍女になれば」
貧困の村民からは考えつかぬ華やかな世界が待っている。
「女王さまはハプスブルクだよ。ハンガリーオーストラリア帝国の王子様にミソメられるかも」
女王さまの侍女ならば
様々な貴婦人との交流を経て
素晴らしい嫁ぎ先が見つかるやもしれぬ。
「聞けば女王さまは気立てのやさしい素敵な方」
チェイテ領地の貧困な家族は娘をお城の宮廷に喜んで送り出す。
「働きなさい。チェイテで2~3年は働きなさい」
長く女王の侍女につけば
身だしなみを調え
侍女としての心得を貰えば
将来にはよき縁談も転がりこむ。
"玉の輿"を夢に見なさい
給金もたんまりいただける。
何もかも素晴らしい
励まされチェイテに出向くのである。
優雅な貴婦人の生活はハプスブルクである
上流階級の女性としての身だしなみ
女性エリザベートの下僕たる侍女の職務は雲の上の社会である。
「女王さまのような貴婦人になりたい」
チェイテ城の正門を女王の御付きとなるため
次々に毎週毎週くぐってきた生娘たちである。
夢と誇り
酪農貧困な家族の期待を担うのであった。
生娘らに憧れる貴婦人の女王エリザベート
侍女となるとさっそくに下僕となり女王の身の回りのお世話をする。
「どうしたこと?女王は朝はお姿がみえない」
チェイテの朝
大臣や臣下らはさっと起きて最敬礼をするというのに。
どうしたことか
女王エリザベートは滅多に朝は食卓テーブルに座らない。
昼食の銅鑼が鳴るような時間にようやくのっそりとベッドから起き上がる。
リーン
リーン
女王が目覚めたら侍女を数人呼ぶのである。
深夜遅くまで"女王さま余興"に耽けたあげく寝乱れ姿を化粧室で磨きあげる。
「女王さま。お呼びでございますか」
太陽は高くのぼり憧れの女王は情けないオバサンに見えてしまう。
「さあっお化粧よ。参ります」
侍女らに幻滅されても
オバサンに見えても
いたって寝起き悪く
不機嫌
エリザベートはあくびを繰り返し顔を洗いたい。
チャプチャプ
冷たい井戸の水
目を閉じてタオルを侍女からもらいたい
「うん?」
手をヒラヒラさせタオルを手渡しなさいと催促
侍女は気がつかない。いやっ何をしたらよいかわからない。
タオルとか高級な布地を見たことがなかった。
「早く渡しなさい」
グイッと奪い取る。
もう!
寒村の山娘の礼儀知らずが許せない!
フン!
「ボサッと立っておいでない。早く服をお脱がし!もう気がつかない下僕だね」
ザブッーと洗顔は老人そのものである。
化粧室でいきなりピシッとヒステリーが飛ぶ。
キンキンする声に恐がり泣き出す生娘もいた。
「ハッハイ畏まりました」
チェイテの下働きは新米の下僕や侍女である。
気紛れな女王をうまく機嫌を取ることなど不可能である。
ピシッ!
不馴れな侍女ら。見たこともないドレス服を手荒に脱がそうとした。
痛い!
ナイトドレスが肩口から引っ張ってしまう。
「痛いって言うでしょ」
キィイ~
深夜の余興たる興奮醒めやらぬ女王エリザベート。
眠気の世界をさ迷う
虚ろな目が生娘を睨みつけた。
ゾォ~
その目は冷血な蛇の目になった。
侍女は背筋がゾッとして"申し訳ございませんっ"ひたすら謝った。
「あらっ!あなたって」
謝りの仕方が気に食わない。
「お城に来たばかりの下僕のくせに」
礼儀を弁えぬ(生意気さを)覚える
憎悪と恐怖が入り交じった狂女。
化粧品をドレスを着飾ると昼食である。
散々怒鳴りまくっても…
食卓のテーブルにある女王エリザベートは優雅な貴婦人だった。
お城の重々たちの目がある宮廷の昼食は"虫も殺さぬお姫様"である。
「オホホっ今宵の味覚は最高な味でございますこと」
オニオンスープを一掬いして上品な口で呑み込んでいく。
昨夜に啜った処女の生き血に味覚がマッチしてしまう。
化粧室内の"事情を知らぬ"下僕たる侍女たち。
「まあっなんて素敵な女王さま」
女王の気品に溢れ
優雅で気高い
女が女に惚れる。
「上品さが仕草のひとつひとつに滲み出ていらっしゃいます」
色白に加えて美貌を携えた貴婦人。
ハプスブルク家の係累であるゆえ血統たる毛並みはよいのである。
「オホホっ美味しゅうございます。チェイテのコックは腕がよろしくて」
女王は上品な貴婦人である。
ナプキンを小さな口許に近くし汚れをこっそり隠す。
気品と高貴な輝きは寒村育ちの村娘には誰ひとりとして真似はできぬものである。
「女王さまの優しい笑い声。優雅で上品さがある」
侍女らは下僕の控えで女王の噂に華を咲かせた。
女王エリザベートはチェイテのアイドル。
「素敵な方?…そうね…だってハプスブルクの血筋をお継承きになられていらっしゃるんだもの」
寒村の父親や祖父母からよく聞いた偉大なるオーストラリアはウィーンの皇帝一族。
じかにエリザベートにヒステリックに罵倒された侍女も噂に口を挟む。
「素敵な女王さま。気立てねぇ。女王さまが優しいかな?なんだかわかんないけど」
短気で気難しいっ。
礼儀作法はことのほかきめ細かい。
「ヒステリック?信じられない」
『素晴らしい女王さま』
女王エリザベートの面の顔みてフアンになる下僕らの生娘たち
『侍女の顔を見るなり罵倒し不快なクズなお姫様』
エリザベートの表裏に異なる顔を浮き彫りにしていくのである。
「女王さまは朝はダメなのよ」
低血圧だから機嫌が悪いの
「晩餐の侍女の私たちには優しく貴婦人よ」
化粧室の女王エリザベートはだから違っていなさるわ
「ヒステリックに叫ぶわ。気に食わないと侍女だろうが下僕だろうが平手打ちをするわ」
まったく人格が異なっている。
「ヒステリック?そんな嘘はいけないわ」
エリザベートフアン
アンチ-エリザベート
侍女の意見は真っ二つに分かれてしまう。