婚約破棄されたので身を引いたら、なぜか元婚約者が縋りついてきます
「セレナ・アーヴェル!お前との婚約を破棄する!」
王城の謁見の間に、王太子グレイ殿下の声が響き渡った。居並ぶ貴族たちがざわめく中、私はゆっくりと顔を上げる。
……来たのね。
「理由をお聞きしても?」
「お前は地味で華がない。それに比べてリリアは聡明で愛らしい!」
そう言って、殿下は隣の令嬢の肩を抱き寄せた。周囲からは気まずい空気が漂う。
私は一度だけ目を伏せ、そして小さく頷いた。
「承知いたしました。では婚約は解消ということで」
あまりにもあっさりとした返答に、殿下が眉をひそめる。
「……それだけか?」
「はい。それ以上、何か必要でしょうか?」
静かに問い返すと、殿下は言葉に詰まった。
その様子を見て、私は心の中で苦笑する。
――本当に、何も知らないのね。
「では、失礼いたします」
軽く礼をして踵を返す。そのときだった。
「待て!」
鋭い声が背中に飛ぶ。
「勝手に話を終わらせるな!お前はこれから――」
「王家の事業からも手を引きます」
振り返らずに告げる。
一瞬の静寂。
「……は?」
殿下の間の抜けた声が響いた。
「これまで担当していた交易管理、資金調整、そして魔導具の供給、すべて停止いたします」
ざわ、と場が揺れる。
「な、何を言っている……」
「申し上げた通りです。婚約者として行っていた業務ですので、解消される以上、継続する理由はありません」
私はそこで初めて振り返った。
「問題はございませんよね?」
にこりと微笑む。
その瞬間、宰相の顔色が変わった。
「で、殿下……それは……まずいのでは……」
「なにがだ!」
「現在の王家の収入の七割は、彼女の管理によるものです……!」
空気が凍りつく。
グレイ殿下の顔が一瞬で青ざめた。
「な……に……?」
「さらに魔導具の供給も止まれば、防衛体制にも影響が――」
言葉が続かない。
私は静かに視線を逸らした。
「ご安心ください。すべて契約通りですので、違約はございません」
淡々と告げる。
その言葉が、完全に現実を突きつけた。
「ま、待て……セレナ……!」
殿下が一歩、こちらに近づく。
「それは……困る……!」
「なぜでしょう?」
私は首を傾げる。
「私は“地味で華のない女”なのですよね?」
ぐっと言葉に詰まる殿下。
周囲の視線が痛いほど集まる。
「そ、それは……」
「新しい婚約者様がいらっしゃるのですから、問題はないはずです」
冷静に言い切る。
もう、情は残っていない。
そのときだった。
「――その令嬢、こちらにいただいてもよろしいかな」
低く穏やかな声が響く。
振り向くと、銀髪の青年が立っていた。整った容貌と、余裕のある立ち振る舞い。
「私は隣国ルミナスの第二王子、アルベルトだ」
場が再びざわめく。
彼はゆっくりと私の前まで歩み寄ると、優雅に一礼した。
「話は聞かせてもらった。実に優秀な方のようだ」
「……過分なお言葉です」
「いや、事実だろう」
彼は微笑む。
「もし行き場に困っているのなら、我が国に来ないか?」
一瞬、息をのむ。
「待遇は保証しよう。それに――」
彼は少しだけ声を落とした。
「君の価値を、正しく理解する者のもとにいるべきだ」
その言葉に、胸が静かに揺れる。
……この人は、ちゃんと見ている。
私はゆっくりと頷いた。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
その瞬間だった。
「待ってくれ!!」
グレイ殿下が叫ぶ。
「やっぱり婚約破棄はなしだ!今のは冗談だ!」
場が凍る。
「お前がいないと、この国は……!」
「申し訳ありません」
私は静かに言った。
「冗談で切り捨てられるほど、軽い立場ではありませんので」
一歩、距離を取る。
「私はもう、あなたのものではありません」
その言葉に、殿下は崩れ落ちた。
アルベルト殿下がそっと手を差し出す。
「行こうか」
「はい」
その手を取る。
もう振り返らない。
背後で誰かが何かを叫んでいたが、どうでもよかった。
新しい場所で、新しい人生が始まる。
そして隣にいるこの人は――きっと、それを共に歩んでくれる。
そう、確信できた。
※この作品の続き(長編版)を連載開始しました。
「婚約破棄されたので身を引いたら、なぜか元婚約者が縋りついてきます ~王家を支えていた私、隣国で溺愛されながら本領発揮します~
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婚約破棄されたので身を引いたら、なぜか元婚約者が縋りついてきます ~王家を支えていた私、隣国で溺愛されながら本領発揮します~
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