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婚約破棄されたので身を引いたら、なぜか元婚約者が縋りついてきます

作者: 1315
掲載日:2026/03/23

「セレナ・アーヴェル!お前との婚約を破棄する!」


王城の謁見の間に、王太子グレイ殿下の声が響き渡った。居並ぶ貴族たちがざわめく中、私はゆっくりと顔を上げる。


……来たのね。


「理由をお聞きしても?」


「お前は地味で華がない。それに比べてリリアは聡明で愛らしい!」


そう言って、殿下は隣の令嬢の肩を抱き寄せた。周囲からは気まずい空気が漂う。


私は一度だけ目を伏せ、そして小さく頷いた。


「承知いたしました。では婚約は解消ということで」


あまりにもあっさりとした返答に、殿下が眉をひそめる。


「……それだけか?」


「はい。それ以上、何か必要でしょうか?」


静かに問い返すと、殿下は言葉に詰まった。


その様子を見て、私は心の中で苦笑する。


――本当に、何も知らないのね。


「では、失礼いたします」


軽く礼をして踵を返す。そのときだった。


「待て!」


鋭い声が背中に飛ぶ。


「勝手に話を終わらせるな!お前はこれから――」


「王家の事業からも手を引きます」


振り返らずに告げる。


一瞬の静寂。


「……は?」


殿下の間の抜けた声が響いた。


「これまで担当していた交易管理、資金調整、そして魔導具の供給、すべて停止いたします」


ざわ、と場が揺れる。


「な、何を言っている……」


「申し上げた通りです。婚約者として行っていた業務ですので、解消される以上、継続する理由はありません」


私はそこで初めて振り返った。


「問題はございませんよね?」


にこりと微笑む。


その瞬間、宰相の顔色が変わった。


「で、殿下……それは……まずいのでは……」


「なにがだ!」


「現在の王家の収入の七割は、彼女の管理によるものです……!」


空気が凍りつく。


グレイ殿下の顔が一瞬で青ざめた。


「な……に……?」


「さらに魔導具の供給も止まれば、防衛体制にも影響が――」


言葉が続かない。


私は静かに視線を逸らした。


「ご安心ください。すべて契約通りですので、違約はございません」


淡々と告げる。


その言葉が、完全に現実を突きつけた。


「ま、待て……セレナ……!」


殿下が一歩、こちらに近づく。


「それは……困る……!」


「なぜでしょう?」


私は首を傾げる。


「私は“地味で華のない女”なのですよね?」


ぐっと言葉に詰まる殿下。


周囲の視線が痛いほど集まる。


「そ、それは……」


「新しい婚約者様がいらっしゃるのですから、問題はないはずです」


冷静に言い切る。


もう、情は残っていない。


そのときだった。


「――その令嬢、こちらにいただいてもよろしいかな」


低く穏やかな声が響く。


振り向くと、銀髪の青年が立っていた。整った容貌と、余裕のある立ち振る舞い。


「私は隣国ルミナスの第二王子、アルベルトだ」


場が再びざわめく。


彼はゆっくりと私の前まで歩み寄ると、優雅に一礼した。


「話は聞かせてもらった。実に優秀な方のようだ」


「……過分なお言葉です」


「いや、事実だろう」


彼は微笑む。


「もし行き場に困っているのなら、我が国に来ないか?」


一瞬、息をのむ。


「待遇は保証しよう。それに――」


彼は少しだけ声を落とした。


「君の価値を、正しく理解する者のもとにいるべきだ」


その言葉に、胸が静かに揺れる。


……この人は、ちゃんと見ている。


私はゆっくりと頷いた。


「では、お言葉に甘えさせていただきます」


その瞬間だった。


「待ってくれ!!」


グレイ殿下が叫ぶ。


「やっぱり婚約破棄はなしだ!今のは冗談だ!」


場が凍る。


「お前がいないと、この国は……!」


「申し訳ありません」


私は静かに言った。


「冗談で切り捨てられるほど、軽い立場ではありませんので」


一歩、距離を取る。


「私はもう、あなたのものではありません」


その言葉に、殿下は崩れ落ちた。


アルベルト殿下がそっと手を差し出す。


「行こうか」


「はい」


その手を取る。


もう振り返らない。


背後で誰かが何かを叫んでいたが、どうでもよかった。


新しい場所で、新しい人生が始まる。


そして隣にいるこの人は――きっと、それを共に歩んでくれる。


そう、確信できた。


※この作品の続き(長編版)を連載開始しました。

「婚約破棄されたので身を引いたら、なぜか元婚約者が縋りついてきます ~王家を支えていた私、隣国で溺愛されながら本領発揮します~


1315で投稿しています。


気に入っていただけた方は、ぜひ続きも読んでいただけると嬉しいです。


婚約破棄されたので身を引いたら、なぜか元婚約者が縋りついてきます ~王家を支えていた私、隣国で溺愛されながら本領発揮します~

https://ncode.syosetu.com/n7099ly/

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― 新着の感想 ―
冗談で切り捨てられるほど、軽い立場ではないと言い切るの、すごく格好いい!! 破棄する王子は色々軽んじすぎですよね。
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