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【第4章追加しました!】「荷物は全部持って行け」と言われた悪役令嬢、城の中身を空にしました。  作者: 月雅
第4章

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第7話 惑星規模の転送



ピ、ピ、ピ……と、電子音が静寂な制御室に響き渡りました。


それは、私たちが世界と繋がろうとしている鼓動の音でした。

凍りついた魔力炉の前で、ベータが必死に空中のキーボードを叩いています。


『通信回線、確保。帝都地下「第4ターミナル」および、皇宮通信室へ接続します』


空中に巨大なウィンドウが開きました。

ノイズ交じりの画面がクリアになると、そこには懐かしい顔が映し出されました。


『こちら帝都、アルファです。マスター、ご無事ですか?』


「ええ、元気ですよ。少し寒いですが」


私はアルファの無機質な声を聞いて、ホッと息を吐きました。

画面の分割されたもう一方には、豪奢な執務室にいるエリーゼ皇女の姿があります。


『ヴィオラ! あなた、今どうなっているの? 北の大陸から異常な魔力反応が検出されているわよ』


「お久しぶりです、殿下。少々トラブルがありまして、世界の暖房器具が壊れてしまったのです」


私は手短に状況を説明しました。

魔力炉の凍結。

再起動に必要な熱量の不足。

そして、それを解決するための、とんでもない作戦について。


『……正気?』


エリーゼ殿下が扇子で口元を覆い、絶句しました。


『南の砂漠の熱気を、収納魔法で北へ転送するですって? 物理法則を無視するにも程があるわ』


「物流とは、本来そういうものです。必要なものを、必要な場所へ。距離など関係ありません」


私は強気に言い放ちました。

無理だと言われて引くようなら、最初からここまで来ていません。


『それに、私には優秀なスタッフがいますから』


私は画面の向こうのアルファに呼びかけました。


「アルファ。南の大陸にある物流拠点――『第9ターミナル』の状況は?」


『検索中……。確認しました。現在は「灼熱のダンジョン」と呼ばれ、内部温度は摂氏五〇度を超えています。管理者は不在。システムはアイドリング状態です』


「好都合です。そのダンジョンのゲートを、フルオープンにできますか?」


『遠隔操作によるハッキングが必要です。こちらのメインサーバー経由で、私がロックを解除します』


「頼みましたよ。それが今回の『吸気口』になります」


作戦はシンプルです。

南のダンジョンのゲートを開け放ち、そこを私の「収納」の入り口として設定する。

溢れ出る熱気を根こそぎ吸い込み、次元を超えて、ここ北の大陸の魔力炉へ吐き出す。

惑星の裏側と表側を、私の魔法で直結させるのです。


『……わかったわ。協力するわよ』


エリーゼ殿下が立ち上がりました。


『皇宮魔導師団を総動員して、空間転送の際の魔力ブレを観測させるわ。座標がずれて熱気が帝都に降ってきたりしたら、たまったものじゃないからね』


「助かります。座標補正はベータにお願いしていますから、万全です」


私は横にいる少年のホログラムを見ました。

ベータは複雑そうな顔をしながらも、忙しなく作業を続けています。


『計算領域、占有率99パーセント。……貴女の思考は非論理的だ。だが、シミュレーション結果は「成功率・測定不能」と出ている』


「ゼロではない、ということですね?」


『ああ。やってみる価値はある』


ベータがニヤリと笑いました。

頑固だった彼も、今では頼もしい共犯者です。


「ルーカス様、準備はいいですか?」


私は隣に立つ夫の手を握りました。

彼は杖を構え、全身から青白い魔力を立ち上らせています。

今回は、彼には「冷却」を担当してもらいます。

熱気を放出する際、急激な温度変化で塔が崩壊しないよう、周囲を氷でコーティングして守るのです。


「いつでもいいよ。君の無茶には慣れているからね」


「ふふ、頼りにしています」


全ての準備が整いました。

南のゲート、開放準備完了。

北の座標、固定完了。

世界中の仲間たちが、固唾を飲んで見守っています。


私は「黒い木箱」を高く掲げました。

これが、世界を救うスイッチです。


「アルファ、南のゲートを開放!」


『了解。第9ターミナル、ゲート・オープン!』


画面の向こう、遠い南の地で、地響きと共に古代の扉が開く映像が流れました。

陽炎が揺らめくほどの熱気が、画面越しにも伝わってきそうです。


収納インベントリ、接続開始!」


私は箱に魔力を注ぎ込みました。

意識を研ぎ澄ませ、遥か彼方の空間を掴み取ります。

距離など関係ない。

私の管理領域は、いまやこの星そのものです。


「対象――『熱エネルギー』。全量吸引!」


ゴオオオオオオオッ!


空間が唸りを上げました。

私の頭上に、巨大な黒い渦が出現します。

それは南のダンジョンと繋がるワームホール。

渦の向こうから、焼けるような熱風が吹き荒れ、こちらの世界へと雪崩れ込んできました。


「熱っ……!」


一瞬で、絶対零度の制御室がサウナのような暑さに包まれました。

頬が焼けつくようです。


「逃がしません! 転送先、目の前の魔力炉へ!」


私は扇を振り下ろし、暴れ狂う熱気の奔流を、凍りついた球体へと誘導しました。

目に見えない熱の塊が、物理的な質量を持って炉に叩きつけられます。


ジュワアアアアアアアアッ!


凄まじい水蒸気が爆発しました。

氷と炎の衝突。

視界が真っ白に染まり、耳がつんざかれるような轟音が響きます。


「うおおおおっ!」


ルーカス様が叫び、氷の結界を全開にしました。

彼がいなければ、私たちは蒸し焼きになっていたでしょう。

熱風と冷気がせめぎ合い、嵐となって塔の中を吹き荒れます。


『エネルギー充填率、上昇中! 30パーセント……50パーセント!』


ベータが叫びます。


『もっとだ! もっと熱をくれ! 炉の芯まで溶かすには、まだ足りない!』


「わかっています! 在庫なら、南に売るほどありますから!」


私は歯を食いしばり、さらに魔力を込めました。

意識が遠のきそうになります。

惑星規模の転送は、私の精神力を削り取っていきます。

でも、負けられません。

ここで手を離せば、全てが終わります。


「姉御! 頑張れ!」


通信機からレオンの声が聞こえました。


『ヴィオラ、あなたならできるわ!』


エリーゼ殿下の声も。


『マスター、システム安定しています。いけます!』


アルファの声も。


みんなが、私を支えてくれています。

一人じゃない。

私は孤独な管理者ではありません。


「収納、最大展開! 世界の体温を、ここに!」


私は叫びました。

限界を超えて、箱が輝きます。

南の太陽の恵みが、砂漠の熱気が、赤道直下のエネルギーが、全てこの一点に集束していきます。


パリィィィン!


何かが割れる音がしました。

魔力炉を覆っていた分厚い氷に、亀裂が走ったのです。

その隙間から、ドクン、と赤い光が漏れ出しました。


心臓が、動き出したのです。


「いけぇぇぇぇッ!」


私の絶叫と共に、最後の熱波が炉に吸い込まれていきました。



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