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【最終章スタート!】「荷物は全部持って行け」と言われた悪役令嬢、城の中身を空にしました。  作者: 月雅
第3章

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第9話 中央制御室の真実


「どうぞ、お進みください。マスター」


アルファが恭しく頭を下げ、重厚な扉のロックを解除しました。


プシューッという排気音と共に、数百年もの間閉ざされていた扉が左右にスライドします。

そこから漏れ出したのは、カビ臭い空気ではなく、清潔で冷ややかな空気でした。


「……すごい」


私の口から、感嘆のため息が漏れました。


そこは、まるでガラス細工の中に迷い込んだような空間でした。

壁一面を埋め尽くす、黒く艶やかな鏡面パネル。

天井には、星座のように瞬く幾何学模様の照明。

そして部屋の中央には、玉座のように鎮座する白い椅子が一脚。


瓦礫の山だった通路や、カビだらけの階段とは別世界です。

ここだけが、時を止めたまま「完璧な状態」で保存されていました。


「おいおい、宝の山じゃねぇか! この壁の板、全部宝石か!?」


ザックが目を血走らせてパネルに駆け寄ろうとしました。


「触らないでください」


私は冷たく制しました。


「それは宝石ではなく、古代の表示装置ディスプレイです。剥がしてもただのガラス板ですよ」


「ちぇっ、なんだよ。金にならねぇのか」


ザックはつまらなそうに鼻を鳴らしました。

価値がわからない人には、ただのガラクタに見えるのでしょう。

ですが、私にはわかります。

ここにあるのは金銀財宝よりも価値のある、「情報」と「管理」の集大成です。


私はコツコツと靴音を響かせ、中央の椅子へと歩み寄りました。

不思議と、恐怖はありません。

新婚旅行先の骨董店で「黒い木箱」を拾ったあの日から、私はここに導かれていたような気がします。


「ヴィオラ」


ルーカス様が私の隣に並び、不安そうに顔を覗き込みました。


「大丈夫かい? 顔色が少し青いよ」


「平気です。ただ、少し圧倒されているだけですから」


私は強がって見せましたが、指先は震えていました。

この椅子に座れば、もう後戻りはできない。

ただの公爵夫人ではいられなくなる。

そんな予感があったからです。


でも、私は管理者です。

散らかったものを放置して逃げるなど、私のプライドが許しません。


私は意を決して、白い椅子に腰を下ろしました。

体に合わせてクッションが沈み込み、吸い付くようにフィットします。

右のアームレストには、あの箱と同じサイズの窪みがありました。


私はポシェットから「黒い木箱」を取り出し、その窪みに嵌め込みました。


カチリ。


小さな音が、静寂に響き渡りました。


ブォン……!


部屋中の空気が震え、壁面の黒いパネルが一斉に点灯しました。

無数の光の文字が、滝のように流れ落ちていきます。


『ハードウェア接続を確認』

『生体認証、クリア。精神波長、同調率98パーセント』


部屋全体から、荘厳な機械音声が響きました。


『ようこそ。新たな管理者、ヴィオラ・エルロッド様。システム「アカシック」全権限を譲渡します』


瞬間。

私の脳内に、膨大な情報が雪崩れ込んできました。


「っ……うぁ……!」


視界が白く染まります。

この迷宮の構造図、古代の歴史、魔力の流れるルート、在庫の数々。

数千年分のデータが、私の小さな頭の許容量を無視して叩き込まれてきます。

自我が押し流されそうになる感覚。

私が私でなくなってしまうような、情報の奔流。


「ヴィオラ!」


温かい手が、私の手を強く握り締めました。

ルーカス様です。

彼の手の熱が、冷え切った私の意識を現実へと引き戻してくれました。


「僕がいる。君は一人じゃない」


「……ルーカス、様」


私は荒い息をつきながら、彼の手を握り返しました。

視界が戻ります。

情報の波は収まり、私の頭の中には整理されたインデックスだけが残りました。

彼がいなければ、危ういところでした。


「ありがとうございます。……落ち着きました」


私は顔を上げ、正面の巨大なメインスクリーンを見ました。

そこには、世界地図が表示されていました。

私たちが暮らすレグルス帝国、隣のオウェル王国、そして海を隔てた遠い異国まで。


しかし、その地図は異様でした。


「……赤い?」


地図上の至る所に、警告を示す赤いランプが点滅していたのです。

特に、北の大陸のあたりは真っ赤に染まっています。


『警告。惑星循環システムに深刻なエラーが発生中』


システムの声が、淡々と告げました。


『各地の物流拠点ダンジョンにて、機能不全および魔力枯渇を確認。このままでは、環境維持システムがダウンします』


「環境維持システム?」


私は問いかけました。

このシステムは、単に物を運ぶだけのものではなかったのですか?


『肯定します。本システムは、星の血液である「マナ」と「資源」を循環させ、世界のバランスを保つための装置です』


画面が切り替わりました。

映し出されたのは、干ばつに苦しむ隣国の砂漠、冷害に襲われる北の地、そして魔物が溢れる南の森。

これらはすべて、自然現象ではなく、物流の滞りによる「栄養失調」だったのです。


そして、画面の中央に、最も残酷なメッセージが表示されました。


『現在、世界の在庫総量は危険域に達しています』

『推定残り時間:365日』


「これって……」


私は言葉を失いました。

つまり、あと一年で、この世界のリソースが尽きるということです。

水も、食料も、魔力も。

すべてが枯渇し、世界が終わる。


『システムより、新規管理者へ通達』


無機質な声が、絶望的な事実を突きつけました。


『世界は現在、在庫切れ寸前です。直ちに補充、および流通経路の修復を行ってください』


私は椅子の上で、呆然と赤い地図を見つめました。

地下迷宮の整理整頓をするつもりで来たのに。

突きつけられたのは、世界規模の「在庫管理ミス」でした。


「……冗談ではありません」


私は震える声で呟きました。

恐怖からではありません。

あまりにも杜撰な管理体制への、激しい怒りからです。


「こんなに散らかして……! 前任者は何をしていたのですか!」


私はバンとアームレストを叩きました。

世界が終わる?

在庫がない?

そんな管理不全、私が許しません。


「やりますよ。やってやります」


私はルーカス様の手を離し、スクリーンの赤い光を睨みつけました。


「私が管理者になった以上、この世界の在庫切れなど絶対にさせません。徹底的に、立て直してみせます」


私の宣言に応えるように、黒い木箱が力強く脈打ちました。

地下での戦いは終わりました。

しかし、本当の仕事は、ここからが始まりだったのです。


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