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【最終章完結!】「荷物は全部持って行け」と言われた悪役令嬢、城の中身を空にしました。  作者: 月雅
第3章

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第7話 浮遊する回廊と古代の物流網


重力という概念が、ここでは休暇を取っているようです。


開いた扉の先へ一歩踏み出した瞬間、私の体はふわりと宙に浮きました。

落ちるのではありません。

まるで水の中にいるように、空間そのものに支えられている感覚です。


「うわぁっ!? なんだこれ!?」


レオンが手足をバタつかせて叫びました。

ザックも上下逆さまになりながら、必死にカバンの紐を掴んでいます。


「落ち着いて。ここは無重力エリアみたいだよ」


ルーカス様だけは冷静でした。

彼は飛行魔法の要領で姿勢を制御し、私の手を取って引き寄せてくれました。

ドレスの裾がふわりと広がり、まるで海月くらげのようです。


「……壮観ですね」


私はルーカス様の腕に掴まりながら、周囲を見渡しました。


そこは、底の見えない巨大な縦穴でした。

青白い光が蛍のように舞う空間に、無数の「透明なチューブ」が張り巡らされています。

チューブは複雑に交差し、遥か上層から深淵へと続いていました。

まるで、巨大な生物の血管か、あるいは精緻なガラス細工のようです。


『案内します、マスター』


アルファが背中のスラスターを噴射し、優雅に飛んできました。

無重力下での彼女の動きは、水を得た魚のようです。


『ここは中央搬送シャフト。この透明なパイプラインこそが、かつて星中の物資を運んでいた大動脈「リニア・チューブ」です』


「この中を、荷物が通っていたのですね」


『はい。空気圧と磁力により、音速に近い速度で輸送していました。現在は停止中ですが、メンテナンス用通路として人が移動することは可能です』


音速で移動する物流網。

なんと魅力的な響きでしょうか。

地上の馬車輸送が、急に色あせて見えます。


「行きましょう。制御室はこの底にあるのですね?」


『肯定します。チューブに入れば、誘導気流に乗って最深部までショートカットできます』


アルファが手近なチューブのハッチを開けました。

プシュッ、と空気の抜ける音がします。


私たちは恐る恐る、透明な管の中へと滑り込みました。

中は大人が三人ほど並んで通れる広さです。

足をつけると、微かな風の流れを感じました。


「行きますよ」


私が合図すると、風が強まりました。

次の瞬間。


ヒュンッ!


「うおぉぉぉぉぉ!?」


レオンとザックの悲鳴が重なりました。

私たちは見えない力に背中を押され、猛スピードでチューブの中を滑り落ちていきました。

落ちているというより、滑空しています。

目の前の景色が高速で後方へと流れていきます。


「きゃあ……っ!」


最初は驚きましたが、すぐに恐怖は消え、高揚感に変わりました。

透明な壁の向こうには、青く輝く遺跡の全貌が見えます。

まるで遊園地の絶叫マシーンです。

いえ、それ以上に美しい。


「楽しいかい、ヴィオラ?」


隣を流れるルーカス様が、風の中で微笑みかけてきました。


「ええ、最高です! なんて効率的で、無駄のない移動手段なんでしょう!」


私は目を輝かせました。

これほどの技術が、今は失われているなんて。

もし地上で再現できれば、隣国への支援物資も一瞬で届けられるのに。


「もったいないですね。このシステム、絶対に再稼働させましょう」


「君ならやりそうだね。世界中にチューブを張り巡らせて」


私たちは笑い合いました。

古代の物流への感動と、未来への希望。

この滑空がずっと続けばいいのにとさえ思いました。


しかし。

快適な空の旅は、不穏な影によって遮られました。


『警告。前方に異常反応』


先頭を行くアルファの声が鋭くなりました。

彼女が指差す先、チューブの分岐点付近に、何か黒いものがへばりついています。


「……汚れ?」


最初はすすかカビかと思いました。

ですが、近づくにつれて違和感が強まります。

それは、チューブの外側ではなく、内側を侵食していました。

黒いモヤのようなものが、空間を蝕むように脈打っています。


『データ破損コラプションを確認。物理的な障害物ではありません。論理的な「バグ」が実体化しています』


「バグが実体化?」


アルファの言葉を理解する間もなく、私たちはその黒い領域へと突っ込んでいきました。

避けられません。

速度が出すぎています。


「構えて!」


ルーカス様が叫び、氷の障壁を展開しました。


ズズズッ……!


私たちが黒いモヤを通過した瞬間、耳障りなノイズ音が頭の中に響きました。

まるで、黒板を爪で引っ掻いたような不快な音。

そして、チューブの透明な壁が、黒く濁ってひび割れ始めました。


「な、なんだこれ!? 生き物か!?」


ザックがツルハシを構えます。

黒いモヤは私たちの通過に合わせて形を変え、粘着質な触手のように伸びてきました。


『回避不能。接触します!』


ドンッ!


衝撃と共に、私たちはチューブの出口から放り出されました。

無重力の広場に、全員が転がり出ます。


「いっ……」


私はすぐに体勢を立て直しました。

背後を振り返ると、チューブから溢れ出した黒いモヤが、広場の床に広がり、一つの巨大な影を形成しようとしていました。


不定形で、ドロドロとした闇の塊。

そこから、無数の赤い目がギョロリと開き、私たちを見据えました。


「……あれは、ゴミではありませんね」


私は扇を構え、冷や汗を拭いました。

あれは、システムそのものを食い荒らす、悪性のウイルス。

排除すべき「最悪の汚れ」です。


「グルルルル……」


黒い影が、飢えた獣のような咆哮を上げ、私たちに襲いかかろうとしていました。


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