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【最終章完結!】「荷物は全部持って行け」と言われた悪役令嬢、城の中身を空にしました。  作者: 月雅
第3章

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第5話 ダンジョン・グランピング


「おい、正気か? ここはダンジョンのど真ん中だぞ?」


ザックが呆れ果てた声で叫びました。

彼の目の前で、私は殺風景な石造りの広間を、極上の居住空間へと変貌させていたからです。


「ええ、存じております。ですから、休息の質には妥協できません」


私は「収納」を展開し、次々と家具を配置していきました。


まず、床には毛足の長い絨毯を。

オウェル城から持ち出した私の私物で、防寒性と防音性に優れています。

その上には、ふかふかのクッションが置かれた猫脚のソファ。

部屋の隅には、天蓋付きのキングサイズベッド。

そして中央には、純白のクロスをかけたダイニングテーブルと、人数分の椅子。


最後に、天井から魔石式のシャンデリアを吊るせば完成です。


「本気かよ……。俺様は十回以上ここに来てるが、こんな光景は初めてだ」


ザックは口をあんぐりと開けています。

レオンも慣れているはずですが、苦笑いを浮かべていました。


「姉御の『準備万端』はレベルが違うな」


「当然です。劣悪な環境で睡眠不足になれば、判断力が鈍ります。それは管理者として失格です」


私はエプロンを着け、テーブルに料理を並べ始めました。


メインディッシュは、以前の旅行先で仕入れた魚介を使ったブイヤベース。

収納内の時間停止機能のおかげで、鍋から湯気が立ち上っています。

サイドには、焼きたてのパンと、新鮮なサラダ。

そして、よく冷えた白ワイン。


無機質な古代遺跡に、食欲をそそる香りが充満しました。


「さあ、皆さん座ってください。アルファもどうぞ」


私は案内役のロボットにも席を勧めました。


『当機は食事を必要としません。また、有機生命体との同席はプロトコル違反……』


「今は休憩時間です。それに、私の管理下では『全員で食卓を囲む』のがルールです」


私が微笑むと、アルファは困惑したようにカメラアイを点滅させましたが、おずおずと椅子に座りました。

錆びついた金属の体が、柔らかなクッションに沈みます。


「いただきましょう」


ルーカス様の合図で、奇妙な晩餐会が始まりました。

公爵夫妻、元スラムの孤児、トレジャーハンター、そして古代のロボット。

接点などないはずの面々が、同じスープを啜っています。


「……うめぇ」


ザックが一口食べて唸りました。


「なんだこれ、魚が溶けるぞ。こんなもん、地上の高級レストランでも食えねぇ」


「ええ。素材の鮮度が違いますから」


私はワイングラスを傾けました。

ザックの粗暴な態度が、美味しい食事の前で鳴りを潜めています。

衣食住の充実は、人の心を豊かにする。

これもまた、私が物流を重視する理由の一つです。


食後のハーブティーを飲みながら、私はアルファに尋ねました。


「アルファ。あなたは『このフロアの保全を担当していた』と言いましたね。ここは元々、何の施設だったのですか?」


アルファはカップを両手で包むような仕草をして、静かに答えました。


『ここは、星の物流センター。正式名称は『大深度地下搬送網・第4ターミナル』と記録されています』


「星の、物流……」


『はい。かつては、この惑星全土から資源が集められ、必要な場所へと自動搬送されていました。水、食料、エネルギー。あらゆるものが、ここのパイプラインを通って循環していたのです』


その言葉に、私は胸の高鳴りを覚えました。

やはり、私の予想は当たっていました。

ここは巨大な倉庫であり、世界を巡る血管の要所だったのです。


『ですが、管理者が不在となり、システムは停止しました。在庫は滞留し、施設は腐敗し……当機のような末端ユニットだけが、無意味な清掃を続けていたのです』


アルファの声には、深い哀愁が漂っていました。

本来あるべき機能が失われ、ただ形だけが残る虚しさ。


「……直しましょう」


私は力強く言いました。


「滞った血流を流し、この場所を本来の姿に戻す。それが、新しい鍵を持つ私の役目ですから」


『マスター……』


アルファが私を見つめ、その瞳の光が柔らかく明滅しました。


「へっ、大きく出たな」


ザックがニヤリと笑い、カップを置きました。


「だがまあ、あんたならやりかねねぇな。俺様も、ここが綺麗になるのを見てみたくなったぜ」


夜が更けていきます。

ルーカス様が氷魔法で周囲の気温を調整してくれたおかげで、地下とは思えないほど快適な夜でした。


翌朝。


私たちは完璧な睡眠と朝食をとり、気力十分で出発しました。

目指すは最深部、中央制御室へのゲートです。


アルファの案内で回廊を抜け、巨大な隔壁の前に到着しました。

ここを抜ければ、中枢エリアです。


「開けますよ」


私はポシェットから「黒い木箱」を取り出し、認証パネルにかざしました。

昨日、アルファを仲間にした時と同じように、スムーズに開くはずでした。


しかし。


ブブッ!


不快な警告音が響き、パネルが赤く点滅しました。


『エラー。アクセス権限不足。セキュリティレベル5以上の認証が必要です』


「……え?」


私は箱を見つめました。

反応しません。

どうやら、この先へ進むには、私の持っている鍵だけでは権限が足りないようです。


『警告。不正アクセスを検知。防衛プロトコル、強制執行』


無機質なアナウンスと共に、通路の壁から無数の銃口が出現しました。

昨日までの「掃除機」とは違う、明確な「兵器」の殺気が私たちに向けられます。


「ヴィオラ、下がって!」


ルーカス様が叫び、私の前に飛び出しました。

優雅なグランピングから一転、私たちは命懸けのシステムエラーに直面することになりました。


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