第3話 粗雑な同業者との遭遇
耳障りな金属音と、男の怒鳴り声が響いていました。
駆けつけた先は、天井の高い広間でした。
そこには、全身にジャラジャラと工具をぶら下げた男が一人、空中に吊り下げられています。
「くそっ! 離せ! 俺様を誰だと思ってやがる!」
男は光の網のようなものに絡め取られ、もがいていました。
どうやら、部屋の警備システムを作動させてしまったようです。
床にはツルハシやハンマーが散乱し、壁の一部が暴力的に破壊されていました。
彼が無理やりこじ開けようとして、罠にかかったのは明白でした。
「……騒々しいですね」
私は眉をひそめました。
男の身なりは薄汚く、カバンの中身はぐちゃぐちゃ。
整理整頓とは無縁の人物のようです。
「おい、そこの! 見てねぇで助けろ!」
男が私たちに気づき、逆さまの状態で叫びました。
「どうする、ヴィオラ。自業自得に見えるけど」
ルーカス様が冷ややかに言いました。
確かに放置してもいいのですが、彼が暴れるせいで周囲の遺跡がさらに傷ついています。
あれは「ノイズ」です。
速やかに処理しましょう。
「助けます。あのままでは景観を損ねますから」
私は光の網の発生源を見定めました。
壁に埋め込まれた小さなレンズ。
あそこから魔力供給がされています。
「収納、遮断」
私はレンズの前に、収納から取り出した「古代金属のプレート」を出現させました。
先ほど解体したゴーレムの装甲です。
物理的な遮断です。
光の供給を絶たれた網は、フツリと消滅しました。
「うわっ!?」
ドサッ。
男は床に落ち、痛そうに腰をさすりました。
「いってぇ……。だ、だが助かったぜ」
彼は立ち上がり、埃を払うこともなくニカッと笑いました。
「俺様はザック。この辺りで一番腕の利くトレジャーハンターだ。礼を言うぜ、嬢ちゃん」
「ヴィオラです。……ザックさん、その道具類、もう少し整理してはいかがですか?」
私は床に散らばった彼の道具を指差しました。
彼は「ああん?」と鼻を鳴らし、適当にカバンに放り込みました。
ガチャガチャと嫌な音がします。
中で何かが壊れたかもしれません。
「細かいことはいいんだよ。金目のもんさえ手に入ればな」
ザックは再びツルハシを構え、先ほどまで壊そうとしていた壁に向かいました。
そこには、精緻な彫刻が施された扉があります。
「この奥にすげぇお宝の反応があるんだ。だが、鍵がかかってやがる。だからこうして……」
ガガン!
彼は思い切りツルハシを扉に叩きつけました。
美しい彫刻の一部が欠け、破片が飛び散ります。
私の頭の中で、何かが切れました。
「やめなさい!」
私は扇を抜き、彼のツルハシの柄を叩きました。
「な、なんだ!?」
「それはただの壁ではありません! 古代の貴重な配電盤パネルです! 壊したら二度と開きませんよ!」
「はぁ? 壊して開けるのが手っ取り早ぇだろうが!」
「野蛮すぎます! 構造を理解し、正しい手順でアクセスするのが管理者としてのマナーです!」
私は彼を押しのけ、傷ついた扉の前に立ちました。
酷い有様です。
数千年の時を超えて残っていた遺産が、たった数秒の無知な暴力で傷つけられてしまいました。
「修復不可能……。なんてことを」
私は怒りで震えました。
オウェル王国の王子にゴミを返した時以来の怒りかもしれません。
私はポシェットから、あの「黒い木箱」を取り出しました。
帝都の地下を示す地図を映し出した、あの箱です。
「見ていなさい。開錠とはこうやるのです」
私は箱を扉の窪みにかざしました。
箱が青く発光し、扉の回路とリンクします。
『認証:マスターキー確認。アクセスレベル1。解錠します』
滑らかな機械音と共に、扉が音もなくスライドしました。
破壊など必要ありません。
正しい鍵があれば、道は自然と開かれるのです。
「なっ……! 触らずに開けた!?」
ザックが目を剥いています。
その拍子に、彼のポケットから一枚の紙切れが落ちました。
クシャクシャに丸められた、汚れた羊皮紙です。
「……それは?」
「あ? ああ、途中で拾った地図の切れ端だ。何の役にも立たねぇゴミだがな」
私はそれを拾い上げました。
私の収納魔法が展開している「3Dマップ」には、まだ未踏破の空白地帯があります。
この紙切れの線は、ちょうどその空白の一部と一致していました。
「ゴミではありません。重要なデータです」
私は羊皮紙を収納し、脳内の地図情報を更新しました。
これで深層へのルートが繋がりました。
この男、粗雑ですが、探索者としての勘と行動範囲は侮れないようです。
「ザックさん。あなた、この先へ行くつもりなら忠告しておきます」
私は開いた扉の奥、暗闇に続く通路を指差しました。
「これ以上、遺跡を傷つけるなら、あなたを『不用品』として収納しますよ?」
私の背後で、ルーカス様が肯定するように杖を光らせました。
ザックは顔を引きつらせ、ブンブンと首を振りました。
「わ、わかったよ! へっ、それにしても嬢ちゃん、いい度胸だ」
彼はツルハシを肩に担ぎ直し、ニヤリと笑いました。
「だが気をつけな。この先にはヤベェ奴がいる」
「ヤバイ奴?」
「ああ。俺様が逃げ帰ってきたエリアだ。そこには、問答無用で侵入者を排除する『掃除の悪魔』がいやがるんだよ」
掃除の悪魔。
その不穏な響きに、私はふと、先ほど処理した掃除機のようなゴーレムを思い出しました。
あれの上位種でしょうか。
だとしたら、きっと素晴らしい性能を持っているに違いありません。
「面白そうですね。行きましょう」
私は躊躇なく足を踏み出しました。
私の辞書に、掃除で解決できない問題はありませんから。




