第2話 暴走ゴーレムの「分別」方法
「ヴィオラ、下がって! 僕がやる!」
ルーカス様の鋭い声と共に、目の前に分厚い氷の壁が出現しました。
ドォォォン!
泥と瓦礫の巨人が振り下ろした腕が、氷壁に激突します。
凄まじい衝撃音が響き、氷の破片がキラキラと舞い散りました。
しかし、壁はヒビ一つ入っていません。
「……硬いな。古代の合金が含まれているようだ」
ルーカス様が杖を構え直しました。
周囲の気温が一気に下がります。
彼が本気を出せば、この地下空間ごと氷漬けにすることも造作もないでしょう。
「待ってください、ルーカス様」
私は慌てて彼の袖を掴みました。
「凍らせてはいけません」
「どうして? 襲ってきているんだよ」
「よく見てください。あれは私たちを襲っているのではなく、ただ『除去』しようとしているだけです」
私は冷静に巨人を観察しました。
泥人形のように見えますが、関節部分から覗くのは錆びついた歯車とピストン。
その動きは単調で、一定のリズムを刻んでいます。
私の目には、それが魔物には見えませんでした。
ゴミを吸い込みすぎて、排気口が詰まってしまった掃除機。
あるいは、メンテナンスを忘れられ、エラーを吐き続けている旧式の産業ロボット。
「あれはこの施設の防衛システムの一部……いえ、ただの自律清掃機です。きっと、散らかった瓦礫を片付けようとして、自分自身にゴミをくっつけてしまったのでしょう」
「清掃機……? あれが?」
ルーカス様が怪訝な顔をしました。
その隙に、巨人が再び腕を振り上げます。
「ゴゴ……異物……排除……」
「可哀想に。長年放置されて、処理落ちしているのですね」
私は一歩前に出ました。
破壊する必要はありません。
修理、あるいは停止させてあげればいいのです。
「姉御! 危ねぇぞ!」
レオンが悲鳴を上げますが、私は止まりません。
私の「管理領域」である半径五メートル以内に入れば、こちらのものです。
私は右手を巨人に向けました。
ポシェットの中の「黒い木箱」が、共鳴して微かに震えます。
「収納、スキャン」
脳内に、巨人の構造図が青いラインで浮かび上がりました。
やはり、中心核に動力源があります。
周囲の泥や瓦礫は、ただの付着物です。
「原因を特定しました。動力炉の暴走です」
なら、コンセントを抜いてあげれば止まります。
「対象抽出――『動力源(魔石)』」
私は指先を軽く弾きました。
シュン。
風を切る音と共に、巨人の胸元から、バスケットボール大の光る石が消え失せました。
それは瞬時に私の収納空間へと転送されます。
「……あ?」
巨人の動きがピタリと止まりました。
赤い光を放っていた目が、フツリと消灯します。
ズズズ……ガラガラガラッ!
動力を失った巨人は、ただのゴミの山へと戻りました。
形を保てなくなり、その場で崩れ落ちます。
もう動きません。
「す、すげぇ……」
レオンが腰を抜かしたまま呟きました。
ルーカス様も、杖を下ろして苦笑しています。
「君にかかれば、古代の守護者もただの粗大ゴミか」
「ええ。分別すれば、資源にもなりますから」
私は収納リストを確認しました。
先ほど回収した動力源。
それは、地上では見たこともないほど高純度な、透き通るような青色の魔石でした。
『名称:高純度魔力結晶』
『状態:極めて良好』
これほどのエネルギーがあれば、帝都の全街灯を一年は灯せるでしょう。
商会の資産として計上しておきます。
もちろん、この迷宮の管理者権限を得た暁には、再利用するつもりですが。
「さて、道を塞いでいた『動くゴミ』も処理しましたし」
私は崩れ落ちた残骸を、手際よく収納していきました。
貴重な古代金属が含まれています。
リサイクル可能です。
綺麗になった通路を見て、私は満足げに頷きました。
「先へ進みましょう。この調子だと、奥はもっと散らかっていそうですが」
「……ヴィオラ、君は本当に頼もしいね」
ルーカス様が私の髪についた埃を優しく払ってくれました。
私たちは再び、薄暗い回廊の奥へと足を進めます。
コツ、コツ、と足音が響きます。
先ほどまでの騒音が嘘のような静寂。
ですが、その静けさは長くは続きませんでした。
「助けてくれぇぇぇ!」
通路の奥から、切羽詰まった男の叫び声が聞こえてきました。
私たちの他にも、誰かいるようです。
「……悲鳴?」
「先客みたいだね。行ってみよう」
ルーカス様が警戒して杖を構えました。
私たちは顔を見合わせ、声のする方へと走り出しました。




