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【最終章完結!】「荷物は全部持って行け」と言われた悪役令嬢、城の中身を空にしました。  作者: 月雅
第3章

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第1話 地下迷宮は在庫の山


重たい石の扉を、軋む音と共に押し開けました。


むっとした湿気と、古いカビの臭いが鼻をつきます。

帝都のスラム街、その一番奥にある廃教会の地下。

そこに、忘れ去られた「入り口」はありました。


「へへっ、こいつを開けるのは久しぶりだぜ」


先頭に立つレオンが、煤けたランタンを掲げました。

赤毛が揺れ、彼の少年の顔に影を落とします。


「昔、ガキ仲間とかくれんぼした時に見つけたんだ。まさか、伝説の地下迷宮に繋がってるなんてな」


「お手柄ですよ、レオン。あなたの情報がなければ、入り口を探すだけで数ヶ月はかかったでしょう」


私はハンカチで口元を覆いながら、暗い階段を見下ろしました。

公爵夫人のドレスではなく、今日は動きやすいパンツスタイルです。

もちろん、この服も自分でデザインし、特注で作らせた「作業着」です。


「足元に気をつけて、ヴィオラ」


後ろから、ルーカス様が私の腰を支えてくれました。

彼は杖の先に、青白い魔法の光を灯しています。

その光は頼もしいのですが、同時に周囲の汚れを克明に照らし出してしまいました。


蜘蛛の巣。

積もった埃。

何十年も掃除されていない石階段。


「……ううっ」


私は思わず呻きました。

整理整頓マニアの血が、早くも騒ぎ出しています。

今すぐ箒と雑巾を取り出して、この階段をピカピカに磨き上げたい。

ですが、今日の目的は清掃活動ではありません。

もっと奥にあるはずの「中央制御室」へ行くことです。


「我慢、我慢です……」


自分に言い聞かせながら、長い階段を降りました。


やがて、視界が開けました。

そこは、想像を絶する広大な空間でした。


「な、なんだここは……?」


レオンが息を呑みました。

高い天井には、発光する苔が星空のように張り付いています。

その下には、かつての文明の痕跡と思われる、巨大な石造りの建物が並んでいました。


いえ、「並んでいた」と言うべきでしょうか。


建物は崩れ、道路はひび割れ、至る所に瓦礫が山積みになっています。

さらに、得体の知れない金属の塊や、腐った木箱が散乱し、通路を完全に塞いでいました。


まるで、巨大なゴミ捨て場です。


「ひどい……」


私は絶句しました。

古代文明の遺跡と聞いていましたが、これではただの不法投棄現場です。

かつての栄華など見る影もありません。


「こりゃあ進めねぇな。道がないぞ」


レオンが瓦礫の山を蹴飛ばしました。

崩れた柱や、錆びた歯車が複雑に絡み合い、高さ数メートルにもなる壁を作っています。

これを乗り越えて進むのは、骨が折れそうです。


「引き返しますか、姉御?」


「いいえ」


私は一歩前に出ました。

そして、腕まくりをしました。

私の目には、これは「障害物」ではなく、「片付けるべき対象」にしか映りません。


「道がないなら、作ればいいのです。いえ、本来あるべき姿に戻すだけです」


私は右手を瓦礫の山にかざしました。

ポシェットの中にある「黒い木箱」が、私の意志に応えて熱を帯びます。

新婚旅行の先で見つけ、審問会で真実を照らし出したあの箱。

今は、この迷宮の「鍵」としての役割を果たしてくれています。


収納インベントリ、一括処理」


シュンッ。


風を切る音と共に、目の前の瓦礫の山が消え失せました。

崩れた石材も、錆びた鉄屑も、全て私の亜空間倉庫へと吸い込まれました。

後で「素材」として分別しましょう。

今はとにかく、通路の確保が最優先です。


「うおっ!? 相変わらずデタラメだな!」


レオンが目を丸くしました。

ルーカス様は慣れたもので、感心したように頷いています。


「さすがヴィオラ。物理的にどかすよりずっと早いね」


「当然です。ゴミを跨いで歩くなんて、公爵夫人のすることではありませんから」


綺麗になった石畳の道を、私たちは進みました。

私が手をかざすたびに、数百キロの瓦礫が消え、道が開けていきます。

快感です。

散らかった部屋が片付いていく時と同じ、あのスッキリとした感覚。


ふと、露出した壁面に目が留まりました。

埃が落ちた石壁に、微かに光る文字が刻まれています。


『警告:セクター4、物流システム停止中』

『在庫過多により、自動搬送ライン凍結』


「この文字……」


私は壁に触れました。

見覚えがあります。

あの大観衆の前で、ガストンの不正を暴いた時に表示された「ログ」の文字。

それと全く同じ、幾何学的なフォントです。


やはり、間違いありません。

私の収納魔法と、この遺跡は、同じシステムで動いています。

そしてこの遺跡は、かつて何かを「運ぶ」ための場所だったようです。


「在庫過多、ですか。どうりで散らかっているわけですね」


数百年、あるいは数千年分の荷物が、行き場を失ってここに滞留しているのでしょう。

管理者がいなくなった倉庫の末路。

それがこの惨状です。


「かわいそうに」


私は壁を撫でました。

物流に携わる者として、この滞りを見て見ぬ振りはできません。


「行きましょう。私が新しい管理者として、この滞りを解消してあげなくては」


私は再び前を向き、次の瓦礫の山へ向かいました。

その時です。


ズズズ……ッ。


瓦礫の下から、重く低い音が響きました。

地面が微かに振動します。


「姉御、危ねぇ!」


レオンが叫びました。

私が手をかざそうとしていた瓦礫の山が、ひとりでに盛り上がり、崩れ落ちました。

中から現れたのは、ただの石塊ではありません。


泥と金属と瓦礫が融合した、巨大な人型。

虚ろな眼窩に赤い光を宿した、古代の守護者でした。


「ゴ、ゴゴ……排、除……」


軋んだ機械音と共に、それがゆっくりと腕を振り上げました。

掃除の邪魔をする、招かれざる客の登場です。


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