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【最終章完結!】「荷物は全部持って行け」と言われた悪役令嬢、城の中身を空にしました。  作者: 月雅
第2章

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第9話 収納ログは嘘をつかない


真実とは、どこに隠されていると思いますか?


帝都の中央広場は、立錐の余地もないほどの人だかりでした。

公開審問会。

それは娯楽に飢えた市民にとって、最高の見世物です。


壇上には、審判役のエリーゼ皇女が冷ややかな表情で座っています。

その前で、ガストンが勝ち誇った顔で演説をしていました。


「市民の皆さん! この女狐がいかにして我々の血税を貪ったか、この帳簿が全てを物語っています!」


ガストンが掲げた捏造帳簿に、群衆がざわめきます。

彼の手回しでしょう、客席からは「恥を知れ!」「公爵夫人失格だ!」という罵声も飛び交っていました。


私は壇上の端で、静かにその様子を眺めていました。

隣には、今にも広場全体を凍らせそうな顔をしたルーカス様が立っています。


「……そろそろ黙らせてもいい?」


「まだです。彼が頂点まで登り詰めるのを待ちましょう。落ちる時の音が大きい方が面白いですから」


私は小声で彼をなだめました。

手の中にある「古代の箱」が、熱を持った生き物のように脈打っています。


「では、ヴィオラ。弁明はあるかしら?」


エリーゼ皇女が扇子を向けました。

ガストンが鼻で笑います。


「弁明など無意味です! 証拠は揃っている!」


「いいえ。証拠と言うなら、こちらにもあります」


私は一歩前に進み出ました。

そして、手の中の黒い木箱を高く掲げました。


「私の『収納魔法』は、単なる倉庫ではありません。いつ、何を、どれだけ出し入れしたか。その全てを記録する『履歴ログ』が存在するのです」


「はっ、口先だけでなら何とでも言える!」


「口先ではありません。お見せしましょう」


私は箱を強く握りしめました。

昨晩、この箱が熱を帯びた時、私の脳裏に「鍵となる言葉」が浮かび上がっていたのです。

今なら、扱えます。


「……起動ブート


私が魔力を流し込むと、古代の箱が激しく振動しました。

箱の表面に刻まれた幾何学模様が青白く発光し、上空に向けて光の束を放ちます。


ブォォォン……!


光は空中で広がり、巨大な半透明のスクリーンを形成しました。

そこには、光る文字が高速で流れていきます。


「な、なんだこれは!?」


会場がどよめきます。

魔法による幻影魔法とは違う、あまりにも精緻で無機質な光の羅列。


『3月20日 14:15:30:乾燥ハーブ 300キログラム 収納』

『4月05日 16:40:10:水(淡水) 50,000,000リットル 収納』

『4月07日 10:05:22:隣国国境地点にて 30,000リットル 放出』


リストには、新婚旅行中の仕入れから、今回の支援物資を扱った正確な時刻と量が、秒単位で記録されていました。

湖一つ分に相当する五千万リットルの水を確保し、現地でタンク一杯分だけを放出した事実が、ガストンの提示した「横領日時」を完全に否定しています。


「こ、こんなもの! ただの幻術だ! 騙されるな!」


ガストンが叫び、群衆もざわめき始めます。

確かに、見たこともない魔法をすぐに信じる者はいません。


しかし、次の瞬間。

壇上のエリーゼ皇女が持つ「導きの杖」が、カッと目映い光を放ちました。

それは私の箱が放つ光と、完全に呼応し、混ざり合っています。


「あ、あれは国宝の杖が……共鳴している?」

「王家の秘宝が認めているというのか!?」


疑いのざわめきが、畏敬の念へと変わっていきます。

私は冷ややかに笑いました。


「では、これはどう説明しますか?」


私はログをスクロールさせました。

表示されたのは、峠道で盗賊たちから徴収したアイテムのリストです。


『4月06日 23:15:00:鉄の剣×20 収納』

『解析結果:製造元・ガストン商会工房、ロット番号B-302』


画面に、収納した剣の所有者情報までもが大写しにされました。

ご丁寧に、ガストン商会の刻印まで解析されて表示されています。


「あ……」


ガストンの顔色が、土気色に変わりました。


「峠で私を襲った盗賊たちが持っていた武器です。なぜ、あなたの商会の刻印が入っているのでしょう? まさか、商会長自ら盗賊のスポンサーを?」


「ち、違う! それは……盗まれたもので……!」


「往生際が悪いわね」


エリーゼ皇女が立ち上がりました。

その手には、私の箱と共鳴し続ける「導きの杖」が握られています。

彼女は光り輝くその杖を、ガストンに突きつけました。


「この光の文字は、遥か昔に失われた古代魔法の記録。現代の魔法技術では、再現はおろか解析すら不可能な『ロストテクノロジー』よ。つまり、現代人であるあなた達に、この映像を捏造することは不可能。これこそが、絶対の真実よ」


皇女の言葉は、死刑宣告に等しい重みを持っていました。

ガストンは膝から崩れ落ちました。


「う、嘘だ……こんな、こんなことが……」


「連れてお行きなさい」


皇女の合図で、衛兵たちがガストンを取り囲みました。

あれほど威勢の良かった彼は、今や抜け殻のように引きずられていきます。

群衆の罵声は、一転して彼に向けられました。


「素晴らしいわ、ヴィオラ」


エリーゼ皇女が私に微笑みかけました。


「その箱……やはりただの骨董品ではないようね。後でじっくり話を聞かせてもらおうかしら」


「ええ、喜んで」


私は箱の光を消そうとしました。

その時です。

消えゆくスクリーンの最下部に、奇妙な一行が表示されているのが目に入りました。


『警告:未登録の生体反応を検知。地下領域にて待機中』

『対象名:マスター・コード“■■■■”』


一瞬で文字は消えました。

私にも読めない、文字化けしたような名前。

それに「生体反応」?

私の収納の中に、生き物が入っているというのでしょうか。

そんなはずはありません。収納内は時間が止まっているのですから。


「ヴィオラ? どうしたの」


ルーカス様が私の肩に触れました。

私はハッとして、箱をポシェットにしまいました。


「いえ、なんでもありません」


ガストンは失脚しました。

商会の潔白は証明され、私たちは勝利しました。

ですが、私の胸には小さな棘が刺さったままでした。


あのログの意味。

そして、この箱が指し示した「地下領域」という言葉。

スラムでレオンが言っていた「地下遺跡」の話と、奇妙に重なる気がしてなりません。


平和な日常が戻ってくるはずでした。

けれど、それは新たな、そしてより巨大な謎への入り口に過ぎなかったのです。


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