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【最終章スタート!】「荷物は全部持って行け」と言われた悪役令嬢、城の中身を空にしました。  作者: 月雅
第2章

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第6話 盗賊? いいえ、荷物です


ヒュオオ……と、乾いた風が荒野を吹き抜ける音がしました。


帝都を出て二日目。

私たちは隣国へ続く峠道を、馬車でひた走っていました。

「収納」の中に湖一つ分の水を抱えて。


日はとっぷりと暮れ、月明かりだけが頼りです。

ゴツゴツとした岩場が続くこの辺りは、盗賊が出没する難所として知られています。


「……来るね」


隣に座るルーカス様が、静かに目を細めました。

彼の魔力感知に引っかかったようです。


「数はおよそ二十。完全に包囲されている」


「二十人も? ただの盗賊にしては多すぎますね」


私が答えると同時に、前方の岩陰から松明を持った男たちが現れました。

左右の崖上からも、弓を構えた影が見えます。


「止まれぇ! 荷物を置いていけば命だけは助けてやる!」


下品なダミ声。

馬車が急停車しました。

御者台の騎士が剣を抜きますが、多勢に無勢です。


私は馬車の窓から顔を出しました。


「あいにくですが、荷物はありませんよ。ご覧の通り、小さな馬車一台です」


「嘘をつけ! ガストン様から……っと、おっと」


男は慌てて口を押さえましたが、手遅れです。

やはり、ガストンの差し金でしたか。

支援物資の輸送を妨害し、任務を失敗させる気満々ですね。


「へっ、まあいい。女は高く売れるし、その横の優男も身代金になりそうだ。やっちまえ!」


号令と共に、男たちが一斉に襲いかかってきました。

殺気立った形相です。


「……面倒だ。全員凍らせる」


ルーカス様が不機嫌そうに指を上げかけました。

しかし、私は彼の手をそっと抑えました。


「お待ちください。ここで彼らが氷像になったら、馬車が通れません」


「でも、君に手出しさせたくない」


「大丈夫です。一瞬で終わらせますから」


私は馬車から降り立ち、襲い来る男たちの前に進み出ました。

男たちが嘲笑を浮かべます。


「なんだぁ? 降参か?」

「へへっ、可愛い嬢ちゃんだ。痛くしねぇよ」


汚い手が、私に伸びてきます。

距離、五メートル。

私の「管理領域」内です。


私は扇を開き、優雅に宣言しました。


「業務連絡です。あなた方の所有権は、ただいまより放棄されたものとみなします」


「あ?」


収納インベントリ、一括徴収――対象カテゴリ『武器』および『衣服』」


シュンッ。


風を切るような音が、一度だけしました。


次の瞬間。

男たちの動きがピタリと止まりました。


「……え?」


振り上げていた剣が、ありません。

構えていた弓も、矢も、短剣も。

そして何より。


彼らが身につけていた鎧も、服も、下着さえも。

全てが消え失せていました。


月明かりの下、二十人の屈強な男たちが、生まれたままの姿で立ち尽くしています。

夜風が容赦なく彼らの肌を打ち付けました。


「さ、さみぃぃぃ!?」

「なんで!? 服がねぇ!?」

「剣もねぇ! どうなってんだ!」


悲鳴と混乱が広がります。

崖上の弓兵たちも同様です。

武器も服も奪われ、岩肌に裸でへばりつく羽目になり、寒さと恥ずかしさで震え上がっています。


「きゃあ、見苦しい」


私は扇で目を覆いました。

もちろん、隙間からしっかり確認していますが。


「これが私の『武装解除』です。戦う意志があるなら、その格好でどうぞ?」


「ひっ、ひぃぃ! 化け物だ!」

「逃げろぉ! 凍え死ぬ!」


男たちは戦意を喪失し、股間を押さえながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出しました。

誰一人として、私に指一本触れることすらできずに。


「……ふぅ。片付きましたね」


私は地面に落ちていた一枚の紙切れを拾い上げました。

男たちが逃げる際、唯一「収納」しなかったものです。

それは盗賊の頭が持っていた指令書でした。


『エルロッド商会の馬車を襲撃し、必ず足止めせよ。報酬は弾む。――G』


G。ガストンの頭文字ですね。

決定的な証拠です。


「ヴィオラ……」


背後から、ルーカス様が呆れたような、それでいて感心したような声を出しました。


「君、本当に容赦ないね。僕が魔法で倒すより、精神的ダメージが大きそうだ」


「あら、慈悲深い方だと思いますよ? 命までは奪っていませんから」


私はニッコリと微笑み、指令書を収納にしまいました。

これでガストンを追い詰めるカードが一枚増えました。


「さあ、先を急ぎましょう。干ばつに苦しむ人々が待っています」


私は再び馬車に乗り込みました。

夜風は冷たいですが、私の心は燃えていました。

妨害など、私の歩みを止める小石にもなりません。


馬車は再び走り出しました。

その背後には、裸で震える盗賊たちの情けない声だけが残されていました。


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