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【最終章スタート!】「荷物は全部持って行け」と言われた悪役令嬢、城の中身を空にしました。  作者: 月雅
第2章

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第4話 鮮度が武器の「海鮮革命」


帝都において、魚とは「塩辛い保存食」のことを指します。


海から遠く離れたこの街まで、生の魚を運ぶ手段が存在しないからです。

どんなに急いでも馬車で一週間。

到着する頃には腐臭を放つゴミに変わっています。

だからこそ、帝都の人々は本当の魚の味を知りません。


「いらっしゃいませ! 獲れたての魚だよ!」


レオンの威勢のいい声が、店内に響き渡りました。

開店と同時に雪崩れ込んできた客たちは、陳列棚を見て息を呑みました。


「な、なんだこれは……?」

「目が澄んでいる! それに、臭くない!」


目の前に並んでいるのは、銀色に輝くアジ、赤く透き通るようなタイ、そして殻付きのホタテ。

どれも、まるで今しがた海から上がったばかりのように瑞々しいのです。


それもそのはず。

これらは全て、私が新婚旅行中に「収納」したものです。

収納内は時間が止まっていますから、鮮度は一秒たりとも落ちていません。


さらに、陳列棚の下には、キラキラと輝く氷が敷き詰められています。


「ヴィオラ、氷の追加はいる?」


カウンターの奥から、エプロン姿のルーカス様が顔を出しました。

帝国筆頭魔導師である彼が、指先一つで高品質な純氷を生成しています。

なんという才能の無駄遣いでしょう。

いえ、贅沢な活用法です。


「ありがとう、ルーカス様。十分ですよ」


「君のためなら、氷山だって作るよ」


彼は満足げに微笑み、また裏方へ戻っていきました。

彼がいるおかげで、店内はひんやりと涼しく、魚の鮮度も保たれています。


「こ、これをくれ! 全部だ!」

「私もよ! 今夜の晩餐に出すの!」


貴族の料理人や、裕福な市民たちが殺到しました。

飛ぶように売れていきます。

レオンが素早い計算で代金を受け取り、私が商品を渡す。

完璧な連携です。


その様子を、店の外から苦々しい顔で見つめる男がいました。

ガストンです。

彼の経営する高級食材店は、今ごろ閑古鳥が鳴いていることでしょう。


彼は数人の柄の悪い男たち――おそらく雇われのゴロツキか、買収された下級貴族――に目配せをしました。

男たちが店に入ってきます。


「おい! こんな生臭いものを売るな!」

「腐っているんじゃないか? 衛兵を呼ぶぞ!」


男の一人が、商品を地面に叩きつけようとしました。

典型的な営業妨害です。


私は一歩前に出ようとしましたが、それより早く、店内の気温が急激に下がりました。


ピキキ……ッ。


男の手が、空中で凍りついたように止まりました。

いいえ、実際に霜が降りています。


「……僕の妻の店で、何をするつもりだ?」


カウンターから出てきたルーカス様が、冷徹な瞳で男たちを見下ろしていました。

その体から溢れ出る魔力は、ただの「冷気」ではなく、生物としての格の違いを見せつける「畏怖」そのものでした。


「ひっ、こ、公爵閣下!?」

「し、知らなかったんです! ここが公爵家の店だなんて!」


「知らなかったで済むと思っているのか? その汚い手を、二度と使えなくしてやろうか」


ルーカス様が指を鳴らそうとすると、男たちは悲鳴を上げて逃げ出しました。

外で見ていたガストンも、青ざめた顔で人混みに紛れて消えていきます。


「……やりすぎですよ、ルーカス様」


私が苦笑すると、彼はふいっと顔を背けました。


「君が作った大事な売り場を、あんな奴らに荒らされたくない」


「ふふ、頼りにしています。最強の用心棒さん」


騒ぎが収まると、客たちの興奮はさらに高まりました。

「公爵様が保証する品質だ!」と噂が広まり、行列はさらに伸びていきます。


閉店にしようかという頃。

店の前に、一台の豪奢な馬車が止まりました。

装飾された紋章を見て、店内の空気がピリリと引き締まります。


「あれは……皇族の紋章?」


馬車の扉が開き、一人の女性が降り立ちました。

縦ロールの金髪に、射るような眼光。

その手に持った扇子で、彼女は私の店を指しました。


「ここね。噂の『魔法の魚屋』というのは」


彼女はまっすぐに私の方へ歩いてきました。

その威圧感は、ガストンなど比ではありません。


「あなたがヴィオラ・エルロッド公爵夫人? 面白い商売をしているそうね」


彼女は扇子を閉じ、私の顔を覗き込みました。


「その力、帝国の役に立つかどうか、試させてもらってもよろしくて?」


海鮮革命の成功は、思わぬ大物顧客を引き寄せてしまったようです。

「鉄の皇女」と呼ばれるエリーゼ様の登場に、私の商人魂が、武者震いにも似た高ぶりを感じていました。


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