表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第4章追加しました!】「荷物は全部持って行け」と言われた悪役令嬢、城の中身を空にしました。  作者: 月雅
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/40

第1話 新婚旅行より仕入れ


私は市場の露店に並ぶ木箱を、端から順に指差しました。


「これと、これと、あちらの棚のオリーブオイルも。あ、そちらの乾燥ハーブは樽ごとお願いします」


店主のおじさんが、目を丸くして口を開けています。


「お、お嬢ちゃん。そんなに買ってどうやって持って帰るんだい? 馬車は何台連れてきた?」


「馬車は一台ですが、問題ありません」


私はニッコリと微笑んで、購入した大量の瓶や樽に触れました。


シュン。


一瞬で、山積みだった商品が消え失せます。

店主の顎が外れそうになるのを尻目に、私は代金の入った革袋を置きました。


「毎度あり。さあ、次のお店に行きましょうか」


私はリストを片手に、活気あふれる港町の通りを歩き出しました。

南の地方都市、ポルト。

海風が心地よく、日差しは明るい。

絶好のハネムーン日和です。


でも、私の目はロマンチックな景色よりも、市場に並ぶ見たことのない食材に釘付けでした。


「……ヴィオラ」


背後から、少し恨めしそうな声が聞こえました。

振り返ると、つばの広い帽子を目深に被ったルーカス様が、むすっとした顔で立っていました。

日除けの帽子も、麻のシャツも、私が選んだリゾートファッションです。

とても似合っていて、すれ違う女性たちが振り返るほどですが、本人の機嫌は斜めでした。


「僕たち、新婚旅行中だよね?」


彼は私の手を取り、わざとらしくため息をつきました。


「ここに来て三日目だけど、観光らしい観光をしてない気がする。君が見ているのは僕じゃなくて、魚と野菜ばかりだ」


「あら、誤解ですわルーカス様」


私は彼の手を握り返し、精一杯の笑顔を作りました。


「あなたとの甘い生活を長く続けるためには、経済基盤が必要なんです。この街の特産品は、帝都では十倍の値がつきます。これを逃す手はありません」


「……君のその、転んでもタダでは起きないところ、嫌いじゃないけど」


彼は苦笑して、私の頬をつつきました。


「少しは僕にも構ってよ。嫉妬しちゃうよ、オリーブオイルに」


「ふふ、可愛い旦那様ですね」


私たちは腕を組んで、石畳の坂道を歩きました。

新婚旅行。

それは愛を深める旅であり、同時に未知の商材を発見する絶好のチャンスです。


この国の物流は、驚くほど遅れています。

こんなに美味しい魚介類や柑橘類があるのに、帝都へ運ぶ手段がないため、ほとんどが産地で消費されるか、腐らせて捨てられています。

もったいない。

私の「収納」なら、鮮度そのままで運べるのに。


「見てください、ルーカス様。あそこ」


私は路地裏の、少し薄暗い一角を指差しました。

観光客は寄り付かないような、古びた骨董品店が並ぶエリアです。


「またお店? 今度は何を買うの?」


「いえ、何かが呼んでいる気がして」


私の「収納魔法」には、時々不思議な感覚が働くことがあります。

整理すべきもの、あるいは収めるべき場所があるものを、直感的に感知するような。


私たちは蜘蛛の巣が張ったような店に入りました。

店主は居眠りをしています。

棚にはガラクタのような壺や皿が並んでいました。


その奥に、ホコリを被った小さな木箱がありました。

手のひらサイズで、黒っぽい木でできています。

表面には、見たことのない幾何学模様が彫り込まれていました。


「これ……」


私が手を伸ばすと、指先がピリリと痺れました。

魔力ではありません。

もっと異質な、波長のようなもの。


「ヴィオラ、触らない方がいい。変な気配がする」


ルーカス様が警戒して私の肩を抱きました。

さすが帝国の筆頭魔導師、危険察知能力は抜群です。


「大丈夫です。ただの箱……ではないようですが」


私は店主を起こし、その箱を購入しました。

驚くほど安値でした。

店主いわく、「海岸に漂着したゴミ」だそうです。


店の外に出て、私は箱を太陽にかざしました。

継ぎ目が見当たりません。

どうやって開けるのかも不明です。


収納インベントリ、解析」


小声でコマンドを呟きましたが、私の脳内リストには『名称不明:古代の箱』としか表示されませんでした。

中身の情報も出ません。

私の収納魔法で解析できないなんて、初めてのことです。


「面白いですね」


私はそれを「重要調査物」のフォルダへ収納しました。

今はただの旅の土産ですが、いつか何かの役に立つかもしれません。


「さて、買い付けも十分しましたし」


私はルーカス様に向き直り、背伸びをして彼の帽子を直しました。

不満げだった彼のアイスブルーの瞳が、私を映して揺れます。


「ホテルのバルコニーで、買いたてのワインを開けませんか? 夕日を見ながら」


「……やっと、僕の番?」


「ええ。夜までずっと、あなたの時間です」


「言ったね。寝かせないから覚悟して」


彼は嬉しそうに笑うと、私の腰を抱き寄せて歩き出しました。


帝都への帰還は明日。

私たちの馬車……いいえ、私の収納の中には、この旅で得た大量の特産品と、夫婦の思い出、そして一つの謎めいた箱が収められていました。


けれど私はまだ知りませんでした。

帝都に戻った私たちが、甘い新婚生活ではなく、ドロドロとした商売敵との戦いに巻き込まれることになるなんて。


私の戦いは、城を出てもまだ終わっていなかったのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この国の物流は驚く程遅れてる〜の解決法が私の「収納」ならって全然解決してなくない?主人公がしんだら終わりでは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ