番外編:Another Story of Joker② ~幼き日の惨劇~
砲弾や銃弾は豪雨のように大地に降り注いだ。
炎を纏って踊り狂う人々、銃に撃ちぬかれ絶命する人々、兵士たちに犯される女たち。
叫び声と怒号と悲鳴が錯綜する地獄のような空間が生まれる。
何分、何時間それが続いたのかは分からない。
俺は死体の下に埋もれていたから、銃で撃ちぬかれることがなかった。
幸運にも砲弾での爆撃を受けることもなかった。
爆音と轟音が止んだのを知ると、俺は生まれ育った地を見つめる。
赤色に染められ、人々がボロ雑巾のように殺され、北京民主共和国軍兵士が我が物顔で闊歩していた。
俺の知る地はそこにはない。
兵士たちは金目のモノを取り尽くすと、さっさと引き上げにかかる。
「おい、このガキまだ生きてやがるぜ」
ほとんどの兵士が引き払った後、わずかに残った兵士が俺を見つけた。おそらく、ここの警備担当の兵士だろう。
「何だこのガキ、気に入らねえな。ちょっといたぶって殺してやるか」
ごつい銃を持って俺に歩み寄ってくる。
「ケケケ、どんな殺し方してやろうか? 腕と足をまず引きちぎって、それから指を全部切り落として食わしてやろうか?」
「待て待て、まずは全身切り刻んでだな」
「いやいや、初めは磔だろ。それから縛り首にするんだ」
兵士たちは残虐な笑みを浮かべている。
怖い。怖い。怖い。
このままだと俺は殺される。
もうまともな思考は出来ていない。
逃げようにも恐怖が俺を支配して逃げられない。
足が動かない。
手も動かない。
頭も機能しない。
兵士の一人が口を開いた。
「そういやよ、ジャパニーズの夫婦いただろ。あいつらも馬鹿だよな。こんな辺境に来なければ殺されることもなかったのによ」
「まったくだ。女の方は絶品だったぜ。あの女を押さえつけて犯し尽くしたのは最高だった。まあ、強姦しすぎて最後は壊れちまったけどなククク」
「日本はまもなく日本自治区になって、俺たち北京民主共和国のものになるんだ。女をどうしようが、何しようが俺たちの勝手なんだぜ。鳩川友愛首相と小川一郎司令官さまさまってやつだ」
ぶつん。
俺の中で何かが切れた。
壊れた俺を優しく包み込んでくれた人たちをよくも殺しやがったな。まるでモノを扱うように汚し、獣のように。
多分その時俺の瞳は人間のものではなかったのだろう。よく覚えていないが。
「……す」
「あん? なんだこのガキ」
「こ……す」
俺は地面に落ちている銃を拾った。
「お前ら!! 全員殺してやるぞ!」
自分が放ったとは思えないくらいの大声で叫んだ。
そして気付いたときには俺の周囲には死体しか転がっていなかった。
「俺、人を……殺した……」
ぺたんとその場に座り込む。
自己防衛のためとはいえ、足が震えた。
心も震えた。
そして次に涙が出てきた。
大声で泣く。
やっぱり心が痛い。本当は本当は人殺しなんかしたくなかったのに。
親に殴られるだけでこんなに痛いのに、銃で撃ちぬかれたらどれだけ痛いのだろう。
道半ばにして倒れるのはどれだけ心が痛いのだろう。
俺にはまだわからない。
事件後しばらくして、俺は東アジア連邦政府に保護された。
偶然倒れているところを連邦政府のお偉いさんに発見されたのだそうだ。
そこで俺は孤児院に入り、学校に入って教育を受けることになる。
十七歳になった頃、政府のお偉いさんから話があった。
「お前、銃の腕は確かだな。どうだ、私の用心棒になってみないか?」
そのお偉いさんはアンコール軍務大臣。
あらゆる面で今まで、俺の世話を焼いてくれた人だ。
「はい! 喜んで」
俺は二つ返事で快諾した。
あの日の、ジャパニーズのことが忘れられなかった。
弱い俺に手を差し伸べてくれたことが。だから、俺も強くなっていつか誰かに手を差し伸べることが出来るようになりたいと思うようになった。
力がほしい。もっと強い力が。
アンコール大臣のためもあるが、力を求めて俺は用心棒になった。
獲物はもちろん銃。軍部の誰よりも銃の扱いは長けていた。
そして、ある日俺は伝説の暗殺者に出会う。
世界最強とも言われ、ターゲットを恐怖に陥れる『零』という暗殺者に。
こんばんは、Jokerです。
書き溜めておいた番外編をアップします。
ジョーカーの過去をこれから少しずつ明かしていきます。
零との出会いも。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……