第十四話:西へと吹く風
紫電と室賀は広島県に入った。
広島市内は大阪府と同じように破壊されつくしている。広島市のシンボルでもある原爆ドームは一部崩れ、高層ビルは外装がどろどろに溶かされていた。おそらくは爆撃によるものだろう。
「ここは久しぶりだろう?」
紫電は室賀に歩きながら問うた。言葉に力がない。その脚も幾分か筋肉を失い、痩せてきている。
「はい。かつての……大戦以来です。ところで、あの建物は何ですか?」
原爆ドームを指差した。
これを知らない者はそういない。しかし、このことが大きな手がかりになった。
紫電は息を飲み込む。
(間違いない。この男は戦時中の人間だ。しかし、何故今の今まで生き延びたのだ?)
それに第零機関が関わっていることは火を見るよりも明らかだ。
集めた情報には第零機関は人体の能力を限界まで引き出すことが出来るというものがある。おそらく、この延命はこの影響だろう。
「ああ、あれは原爆ドーム。かつて原子爆弾が広島に投下されたときに、残った建物だ」
「そうですか。……負けたのですね」
室賀は悟ったようだった。
「しかし、我が使命は終わっていません」
紫電は一旦思考を中断した。室賀に顔を向ける。
「何だ、その使命とかいうのは?」
「とある文書の回収と、真人の抹殺、です」
重苦しい声が響く。
真人という言葉を紫電は初めて聞いた。
「で、文書というのは何だ? ついでに真人についての情報も欲しい」
「いえ、これはお答え出来ません」
軍人らしいきっぱりとした言い方だ。
「貴様が守るべき軍務も上官もいない。死人は生き返らんぞ」
「それでもいいのです。我が任務は上官より賜りしもの。それを遂行するまでは決して部外者にお教えすることは出来ない」
それきり会話は途絶える。
二人はずっと無言で歩き続けた。
ジョーカーは東京都へ入った。西日本は激闘の爪あとが残っていたが、関東以東はまだ戦火に晒されていない。
まず初めに政府へ向かい、依頼者の官僚から大まかな状況を聞く。どうやら西日本、特に福岡で戦闘が続いているらしい、とのことだった。アルベルトは政府及び首脳部を掌握をしているが、一般官僚までは拘束していない。一応、首脳にも意見を聞いておこうと総理大臣の執務室へ入る。もっとも、首脳部はアルベルトの手が入っているから、あまり参考になると考えてはいなかったが。
そこには鳩川紀夫がいた。
「おお、ジョーカーか。ボクの愛のために来てくれたんだな? ボクの愛が金星を食べたんだな?」
二階にある総理大臣の部屋に鳩川がいるのを確認すると、げんなりした表情でジョーカーは口を開いた。
「いっそのこと地球から出て行ってくれればよかったのに」
「はっはっは、ボクの愛がなくては地球はもたないだろう。友愛の伝道師として、ボクは地球に君臨するのだからなふははは!」
「テメエは一生不思議の国で生活してろ」
豪快に一発散弾をぶっぱなして、部屋を出る。高価な花瓶や壁にかけてあるモナリザの贋作が粉々になったが、おかまいなしだ。
「ままま、待ってくれッ! ボクは愛の特殊部隊を結成したんだ。見てくれ」
「冗談はその腐った脳みそだけにしてくれ」
もう一発ぶっぱなす。今度は天井に。
硝煙の臭いが漂った。
へなへなと腰を抜かす鳩川に背を向けて、ジョーカーは出て行った。行き先は、西日本。
去り際に
「そろそろ舞台から降りる頃合なんじゃないか?」
というセリフと一緒に小形爆弾を鳩川にプレゼントしていった。
ジョーカーが窓から飛び降りると、鳩川の部屋は景気のいい爆炎に包まれた。爆風で長く紅い髪が揺れる。焦げ臭い臭いが運ばれてくる。それは西へと向かう風にのって、空に舞い上がった。
こんばんは、Jokerです。
練習用に作品を書き始めています。
なかなか上手くいきません(涙)
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……