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影追う者  作者: 星見流人
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第十三話:死界

 紫電は血まみれの街を這いずるように歩いた。

 鋭かった瞳はやがて生気を失っていき、足どりは重くなっていく。

「誰か、いないのか」

 誰もいない。生きている人間は大地にはいない。

 風が空気を切り裂く音だけが響く。美しかった海は灰色に染まり、別世界のようになっていた。

 太陽はぎらぎらと荒れ果てた大地を照らす。

 紫電の顔からは汗が流れ落ちる。ぼたぼたと大粒の水滴を垂らしながら、大阪府から京都府まで歩き続けた。その間も灼熱の太陽は紫電の体力を奪い続ける。

 京都府に入ると、京都駅の前で一人の男が倒れているのを発見した。ぼろぼろの軍服を纏っている。

 紫電はその男に向かって歩を進める。

「生きているか?」

 返事はない。ただ、鼓動は聞こえた。どくん、どくんと力強い脈動がする。

「仕方ない。これでは日干しになるな」

 紫電は男を抱えて駅ビルに入った。

 駅ビルはアルベルトたちの空爆の被害を受け、外装がぼろぼろとなっていたが、内部は比較的損害を被っていなかった。

 紫電は男を地下一階にあったベッドに寝かせる。

「やれやれ。こいつだけが生き残り、というわけか」

 手近にあった椅子を引き寄せて、身体をそこに放り出した。

 二時間ほど経つと、男は目を覚ました。

 黒の短髪を揺らして起き上がる。

 紫電が想像していた言葉と全く異なるセリフを彼は口にした。

「実験は……成功したのか」

 何の実験のことか、紫電には分からない。

「貴様、実験というのは何だ?」

 男は精悍な顔を暗殺者に向けた。

 細い目の奥には強い意志を宿した光が見える。アジア人にしては高い鼻も特徴的だ。

「ああ、これは失礼。あなたが助けてくださったのですね? 申し訳ありませんが、答えるわけにはいきません」

 見た目は三十代のようだ。口ひげと頬ひげが濃いせいで、老けて見える。

「答えられない、だと」

 紫電の鋭い眼光にもひるまない。

「はい。軍人として答えるわけにはいきません」

 穏やかな口調の中には確固たる意志が見え隠れする。

「察しはつく。『第零機関』だろう?」

 男は一瞬だけ目を見開いて

「よくご存知ですね。その通りです。私は第零機関を埋め込まれた実験体です」

 と答えた。

「ジャパニーズが実験体になっているのか」

「私が日本人だとよく分かりましたね」

「同郷なら分かる」

「なるほど」

 男は苦笑すると、ベッドから立ち上がる。

「私は室賀軍平むろがぐんぺいと申します。陸軍少尉です」

「紫電だ」

 いつもどおりに愛想のない挨拶をする。

 室賀はそんなことを気にせずに微笑んでみせた。

「ところで、貴様を実験体にしたのは誰だ? アルベルトとかいうヤツか?」

 灰色の壁紙は所々破れている。

「いや、思い出せないのです。誰が私を実験体にしたのか」

「どこから記憶がないんだ?」

「大阪府のとある施設でカプセルに入れられていたところからです。そこから数日前に脱出して、ここで倒れたのです」

 紫電は顔をしかめて考えた。

 今の日本には陸軍なるものがない。第二次世界大戦後に解体されたからだ。

 その陸軍を名乗っているのが一つ目の疑問である。

 二つ目の疑問は記憶がないということだ。アルベルトの仕業ではないとすると、アルベルトの他に第零機関を扱っている人間がいるということになる。

 二つの疑問が浮かび上がったとき、紫電は事態が想像以上に複雑化していることに気付いた。

「どうかされましたか?」

 紫電は室賀の目を見た。瞳が黒ではなく、灰色である。

「いや、何でもない。それより、俺に協力してくれないか?」

「何をすれば?」

「とりあえずは侵略者どもを日本から叩き出す。次に第零機関に関する情報を得る」

 室賀は痩せた身体に力を入れた。

 紫電はまだ警戒を解いていない。この男がアルベルトの差し金である可能性もあると思っているからだ。

 疲れた身体を引きずって、二人は西へと脚を向けた。

こんばんは、Jokerです。


今日は参院選でしたね。投票に行きました。

結果はどうなるか。日本が心配です。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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