番外編:Another Story of Joker⑤ ~ひとときの会話~
「今、世界は泣いている。そして人類は生まれ変わるべき時に生きているのだ」
零と俺以外の観客はいない。
アルベルトとかいう変な野郎は自己陶酔している。
「興味はないかね? 究極の理性、思考力。そして戦闘能力」
何が言いたいんだ?
「我らの祖先である新人、クロマニョン人が旧人どもを滅ぼしたのは優れた知性と戦闘能力があったからだ。人間を進化させうる能力はこの二つ。つまり、この二つを進化させれば人類は新たな境地に至ることが出来る」
くだらない内容だ。
そんなロボットみたいな人間を作りたいのか。
考えている暇はない。
まだここに戦火が及ぶ可能性は充分ある。
俺と零は狂った男を放って、大臣を街の外まで運び出すことにした。
戦闘機は俺と零がかなりの数を倒したので、減ってはいた。
それでも機関銃やミサイルを遠慮なく、大地に振り撒いていく。
「少年、先に行け。ここは俺が食い止める」
戦闘機が二機、逃げる俺たちの目の前に現れた。
零は『羅刹』を抜く。刀身が緑色に輝いた。
柄についた引き金を引くと、淡い緑色の光が刀身から発射される。
それは獲物を貫通し、巨大な爆発が起こった。
「どうした? 逃げろと言ったはずだぞ」
「アンタを置いて逃げられない。アンタも一緒に生き延びるんだ」
「甘いヤツだな。俺はお前の敵なのに」
零は苦笑すると再び俺たちと街の外を目指した。
無事に退避を終えると、俺は街の中心部から数キロ離れたところにあった木造の空き家に大臣を運んだ。
家の周りは森に囲まれている。そのせいか、薄暗い。
兵士たちに手当てをさせて、俺は家の薄汚れた外壁にもたれかかる。
空はもう暗くなっていた。
星が冷たく光っている。
「やあ、ジュチ」
零は穏やかな口調で話しかけてきた。
「何だ」
「お前はこれからどうするんだ?」
「言うまでもないだろ」
「そうだな。お前は護衛には勿体無い。そんな気がするよ」
「殺し屋にでもなれ、というのか」
「いいや。お前の行き先にあれこれ言う気はない。ただ」
空を見上げる。優しい瞳。暖かい。
「『考える』人間になってほしいと思うんだ」
「考えてるよ」
「そうじゃなくて、例えば自分の生き方。お前にだって意志はあるだろう。目標はあるだろう。それを叶えて生きてほしいと思うんだ」
「……」
「試練は乗り越えられない人に襲い掛かりはしない。そして、出来るとか出来ないじゃなく、可能性じゃなく決断できる人間になってほしいんだ。これは俺の弟子にも言っていることなんだが」
こいつの弟子か。幸せ、なんだろうな。
「今、『クィーン』に支配されているのも多分俺たち人間が『考える』ことを放棄したからだと思う。俺たちの祖国である日本が北京民主共和国や朝鮮連王国の支配下に入ったのも。だから、己自身が後悔しないために多くのものを見て、多くの何かを感じて、生きてほしい」
「年寄りの繰言みたいだな」
「違いない」
笑った。
やっぱりコイツは暗殺者なんかに向かない。
「じゃあな。明日、改めて任務を果たさせてもらう。覚悟しておけ」
その台詞を発すると同時に街へと戻っていった。
明日になった。
大臣は昨日のショックからか起き上がれない。
「大臣、この家は俺が警備します。ご安心を」
その日、俺の人生は大きく変わることになる。
そのことを当時の俺は全く知らなかった。
そして、これが紫電との接点になるのだとも知らなかった。
こんばんは、Jokerです。
ここには載せていませんが、応募用に書いている小説があります。
描き方に四苦八苦しながらですが。
納得できる出来に仕上がったらこちらにもあげようと思います。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……