番外編:幸せになるために①
少年は老人に尋ねた。
「僕はこの力を持って生まれてきた。けど、僕は幸せじゃない」
老人は柔らかな物腰で憂鬱な顔をしている少年に答える。
「そうかな。君は何でも出来る。将来の希望そのものではないのかな」
少年は老人の言葉どおり何でも出来た。わずか十歳の時に遺伝学で有名な大学に入学し、十二歳で博士号を取るに至った。文字通り天才である。
「誰も僕のいう事を理解してくれないんだ。誰も僕に利益以外の目的で近づこうとしないんだ」
「そうか。確かにそれは寂しいことだね。でも」
老人は少年を見つめる。
「君は間違いなく、両親に愛されているよ。そして私だって君の話を聞くくらいはできる」
「でも」
「今見えている、君の行く道はランプのない船で真夜中の海をたった一人で渡るような、寂しい道かもしれない。でも君は両親に愛されて生まれてきた。君はいつだって一人じゃない」
「そんなの詭弁に過ぎないよ。僕は辛いんだ」
「君は何が欲しい?」
「僕は『普通さ』が欲しい。僕は普通の人間に生まれたかった。普通に学校に通い、普通に友達を作り、普通の仕事に就く。そんな人生が欲しい」
少年の目には涙が浮かんでいる。
「どうして僕は普通じゃないの? どうして僕はこんな頭をしているの? どうして僕はずっと一人なの?」
問は止まらない。
しかし、その問に老人は答えることが出来ない。誰も答えることは出来ない。
「お爺さんも僕に答えを与えてはくれないんだね」
「答えは自分で見つけ出すものだ。君の人生は君が切り開くもの。誰も助けられない。君を救えるのは君だけだ。すまない、私では君の求める答えは出せないんだ」
「……」
少年は一度俯いて立ち去った。
「あの子に祝福があらんことを……」
老人は少年の背を見送ると、ステンドグラスの前に立つ聖母像に祈りを捧げた。
こんにちは、Jokerです。
哲学的な話題になってしまいました。
というのも私が研究しているテーマだからです。
どうすれば人は幸せになれるのか。
ところで、この少年とは一体誰でしょうか?
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……