第九話:剣部隊
ジョーカーの元に一通の手紙が届いた。
『愚かなる銃撃士に告ぐ。今夜十二時にベルリン博物館館長室まで来られたし』
「こんな熱烈なファンがいるとは困るね」
へらへらとジョーカーは笑う。
「どう見ても挑戦状じゃないですか」
逆にコレットは呆れている。
「どうするんですか?」
「行くよ。差出人の名前見てみな。アルベルトってあるだろ。間違いなくアイツだ」
ジョーカーは得物のショットガンを背負うと、ギルドから出て行った。
アルベルトは正午頃には博物館へと入り込んでいた。
職員を皆殺しにし、館長室で優雅にコーヒーを含む。
銅を削って作られたマリア像が紅い涙を流しながら彼を見つめている。
「ふむ。まだ時間があるな」
館長専用の椅子に座り、足は机の上に放り出した。
「ああ、私だ」
携帯を取り出す。
「おや、これはこれは鳩川様。いかがなさいましたか?」
適当に相槌を打った。
「そうですか。ではすぐに『剣部隊』を派遣します。ええ。大丈夫です。『羅生門』のデータは完璧ですから」
会話を終えると狂ったような笑いを浮かべた。
「あんな愚物のために『剣部隊』を使うとでも思ったか」
そして夜が訪れた。
ジョーカーはベルリン博物館へと歩を進めた。深夜にも関わらず灯りがついている。
赤レンガで囲まれた三階建ての古風な博物館である。
木造のドアを開けて、入り口から入ると最初に目にとまったのは職員たちの死体。
「……何があったんだ」
死臭がひどい。
壁にかけてある聖母子像は紅く染められ、ルネサンスの巨匠レオナルド=ダ=ヴィンチの作品はずたずたに切り刻まれている。
ジョーカーを迎えたのは顔を失った彫刻や価値と芸術性を失った絵画だった。
瞳をくりぬかれたモナリザ、胴体を失った聖母絵画が壁から来訪者を見下ろす。
そんな風景の中、赤いじゅうたんが敷かれた道を歩く。
館長室の前に着くと、部屋の中から声がした。
「ボクの愛を受け入れないというのかッ! ボクの友愛は世界を超えて宇宙へと飛び立つんだ! 普天間問題? 知ったことかッ! ボクの腹案を受け入れないアメリカが悪いんだ」
「このクソ間抜けな声は鳩川紀夫か。ちょうどいい」
ジョーカーは木造の扉を蹴り開けた。部屋の面積は一軒家がすっぽりと入りそうなくらい広い。豪奢な造りで、クリーム色で彩られた壁には歴代館長の写真が飾ってある。四方には観葉植物が、部屋の隅には来客用の机と椅子が置かれている。
「邪魔するぜ」
ショットガンを構える。
「鳩川、そこまでだ。大人しく捕まってもらおうか」
鳩川はジョーカーを見た。
目が今までになく虚ろだ。
「お前は、愛の使徒イソジンか?」
白色の光を放つシャンデリアが少しだけ揺れている。
「馬鹿野郎。よく見ろ」
「これはこれは。よく来てくれたね、ジョーカー。いや、ウィーゲルの生き残り、ジュチ=ハルディア」
アルベルトは椅子から立ち上がった。
白いワイシャツの上に白衣を纏っている。そして、下はグレーのスラックス。
「てめえ、どうして俺の名前を?」
「昔お会いしたことがあるだろう? そうそう、『剣部隊』もいるんだが、挨拶するかね?」
ジョーカーの背後に一人の男が現れる。
「主役のボクを無視するなッ! 愛の帝王鳩川紀夫は普天間を乗り越えて友愛の国を世界に開くのだッ! 強行採決? 法律違反? 知ったことかッ! ボクの愛は」
男は一瞬で抜刀すると、鳩川に得物を突きつけた。
鳩川はその場にぺたんと座り込む。
「アンタは……」
「そう。君が最もよく知る男だよ」
かつての最強の暗殺者がジョーカーの目の前にいる。
「馬鹿な。アンタはあの時……」
「君の言いたいことは分かるよ。彼は死んだはずの人間だからね」
アルベルトは腹をよじって笑う。
「『烈風』『月光』『疾風』『秋水』そして、『零』。かつての最強暗殺部隊、剣部隊の再現というわけだ。これに紫電や雷電が加わればよかったのだがね。雷電はまだ開発中だ。楽しみにしていたまえ」
四つの影がゆらりとアルベルトの背後に現れた。
「おお。血に飢えているようだ。さあ、諸君! この男を存分に嬲り殺すがいい。久々の戦闘にゾクゾクしているだろう」
そこに一筋の閃光が走る。
こんばんは、Jokerです。
鳩川がこれからブレイクします。
It's 鳩川タイム!(笑)
ではまた次回(が鳩川のブレイクタイムです)お会いできることを祈りつつ……