第一話:死神
皆様こんにちは、Jokerです。
この小説は前作『種蒔く者』の続編、第二部となっております。
第一部を読まなくてもストーリーは分かるようにしてあります。
第一部を読むのが面倒くさい!という方はこちらからどうぞ。
月並みな設定ですので、読まずとも大丈夫なはずです多分。
では、第二部開幕です。
ドイツには日本とは違った風景がある。
西洋独特の橋梁や建物が古代の趣を残したまま時間を越えて存在している。
灰色のレンガで作られた水道はローマ帝国時代の名残として機能している。
アジアでは味わえない雰囲気だ。
ドレスデンはドイツ東部、東欧諸国との国境付近に位置する都市として知られている。
ザクセン選帝侯のお膝元としての顔を持っており、そのためか中世や近代に造られた宮殿が多く保存されている。これを目当てにくる観光客も多い。
エルベ川を通してマイセンなどとの交通もあり、観光都市であると同時に工業都市として今は栄えている。
ジョーカーはまず日本政府から案内された暗殺ギルド(ここでは同業者組合のことを指す)に行くことにした。彼は北京民主共和国の北西部にあるウィーゲル地方出身の青年である。ショットガンなど銃器を得物としてアサシン(暗殺者)として世界各国から依頼を請負い、生計を立てている。彫りの深い整った顔立ちと褐色の肌が目立つ。
しばらく歩いていると、爽やかな風が肩までかかる赤毛と白いシャツの上に着ている紺色のブルゾンを揺らす。
ギルドに入ると、若い娘が出迎えた。
年は二十歳ほど。ブロンドの腰まで届く長い髪を三つあみにしている。大きな茶色の瞳、頬にはそばかすがある。美人ではないが、気立てのよさそうな子だ。緑色のチュニックに黒のタイトスカートもスリムな体型に似合っている。
「ようこそ」
「ああ」
ギルドの内部は企業のオフィスのように整然としていた。内装は清潔感を出すためか白で統一されており、観葉植物が部屋の隅にいくつか置かれている。部屋の中央部には事務員たちの机があり、彼らはそこで忙しなくパソコンのキーを叩いている。
ジョーカーと娘は入り口の近くにあった机に向かい合うようにして座った。
「鳩川紀夫の件ですね?」
「ああ」
「少し厄介なことになっています。実は『ゲシュペンスト』という組織が動き出していまして……この組織のことは知っていますか?」
『ゲシュペンスト』とはドイツ語で『亡霊』あるいは『幽霊』という意味だ。
「いや、全然」
「でしょうね」
娘はため息をつくと、話し始めた。
「ドイツの暗殺組織、犯罪組織とでも言いましょうか。まあ、かなり危険な組織です。それが活動を始めたんです。鳩川がその背後にいる、と言われています」
「ってことは、今までは活動していなかったのか?」
「ええ。『クィーン』事件発生から全く動きがなかったのですが、事件解決後に……」
「それなら普通に取り締まればいいだけの話じゃないか」
「取り締まれる、なら。『ゲシュペンスト』に腕利きの殺し屋が入ったらしいんです。ここでは『ドレスデンの死神』と呼ばれている」
ドレスデンの暗殺ギルドは国家と連携していることもある。というのも、国家お抱えのギルドだからだ。
ジョーカーは数秒、視線を机の上に落として考え込んだ。
「へえ……で、その死神は確かに存在するのか? 目撃情報は?」
「いいえ、ありません」
「おいおい、情報が曖昧だな」
がたりと椅子から立ち上がる。
「とりあえず、調べてくる」
「仕事は請けるんですね?」
「ああ。ただし、俺は俺なりのやり方でやるからな。文句は言わせない」
「わかりました。『ゲシュペンスト』の調査及び鳩川紀夫の拘束を依頼します」
ジョーカーはそれを聞くと、勢い良く外へと出て行った。
鳩川紀夫はドイツ地下街で『クィーン』事件解決前から設置しておいた組織を拡大していた。
鳩川紀夫は日本の元首相だった男である。しかし、巨額の金に目がくらみ、北京民主共和国の傀儡となっていた事実があった。
結果、鳩川は躊躇なく日本を蹂躙させ、日本の主権を北京民主共和国に明け渡した。日本では日本史上最も愚昧な人物として知られている六十五歳の男である。
「ボクちんは愛の皇帝鳩川紀夫様だ。カエサルやトラヤヌス帝以上の大帝になる男だ」
訳の分からない言葉を撒き散らしながら、街の中を闊歩する。
ドレスデンでは狂った男として有名である。しかし、一方では謎の大富豪として知られている。その財産の出所が母親ということから『マザコン財閥』とあだ名されてもいる。
鳩川は昼間から酒を飲み、べろべろに酔っ払ってアジトに戻った。
「おい、小川一郎ッ! ボクの愛の本を持って来いッ!」
叫ぶように鳩川は小川に言いつける。
小川一郎とは元日本国の政治家で、かつて日本を北京民主共和国と朝鮮連王国に売り渡した稀代の悪党である。ヤクザ顔負けのいかつい顔と、でっぷりした体型から威圧感を放つ男だ。
「……」
軍服姿の小川は生気のない瞳をして、静かに鳩川に本を手渡した。
「おお、これはボクの書いた『友愛真理教経典』だ。紫電は死んだみたいだし、ボクが世界の愛の使者になるのも遠くないぞ!」
馬鹿笑いをしていると、迷彩色の軍服姿の中年兵士が一人歩み寄ってきた。
「鳩川様、今日の活動はどうしましょうか?」
「ウム。ボクの愛を否定する連中を片っ端から友愛すのだ! それから、強化兵士の性能テストもしなくちゃいけないね」
「はっ。強化兵士を使い、ギルドを襲撃いたします」
「標的はギルドにするのお?」
鳩川は依然虚ろな目をしている。
「はい。最近ギルドの犬どもが我が『ゲシュペンスト』を嗅ぎ回っているらしいですから」
「まあいいや。ボクの愛をしっかりと知らしめるんだぞ。そうしたら、子ども手当てをやろう」
上機嫌で鳩川は言うと、兵士を下がらせた。
夜になった。
闇に紛れて、十数個の人影が街を駆け抜ける。
それらはギルドの前に集結すると、一斉に銃口を入り口のドアに向けた。
こんばんは、Jokerです。
第二部開幕しました。
これもですが、第一部と同様以前に投稿していたものを書き改めたものです。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……