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絵本  作者: ゆきまる
3/4

グリとグラ-3章-

茂みから現れた影の獣は、思っていたよりもずっと大きかった。

クマより大きく、狼よりしなやかで、鳥のように金色の目が光っている。


だけど、不思議と“悪いもの”には見えなかった。

むしろこちらを観察しているような、そんな知性を感じる。


「ひ、ひな先生……あれ、襲ってこないよね?」


背中に隠れているあすかが、小さく震えながら囁く。


「わからない。でも、じっとしていて。」


私は息をのんだまま、ゆっくりと獣を観察した。

その腕には、大きな卵。

白くてつるりとしていて、絵本『グリとグラ』に出てくる“あの卵”にそっくりだけど……どこか模様が違う。


すると獣が、私たちを見つめながら低い声で言った。


「……そなたら、この世界の者ではないな。」


「しゃ、喋った!?」


私とあすかの声が見事にハモった。


獣は落ち着いた様子で、森の風のような声音で続けた。


「この卵……我が巣から盗まれたものだ。

 しかし気付けば見知らぬ森に飛ばされていた。

 そなたらも、この世界に迷い込んだのだろう?」


私は息をのみ、こくりと頷いた。


「私たち、元の世界に戻りたいんです。方法を知りませんか?」


獣は金色の瞳を閉じ、しばらく考えるように黙った。


そして再び口を開く。


「戻る方法は──“物語の中心”に向かうことだ。」


「物語の…中心?」


「そうだ。この世界は“読み手の心”によって形を変える。

 本来の物語から外れた混乱が起きているのだろう。」


私はハッとした。


「……まさか、私がこの本を読んでいたから?」


獣はゆっくり頷いた。


「そなたの心の揺らぎ。

 そして、この子供……“あすか”の強い感情が混ざり、

 世界が変質してしまったのだ。」


あすかは驚いて私を見上げる。


「わ、私のせいなの……?」


「違うよ。責めてるわけじゃない。」


私はそっとあすかの頭を撫でた。


「気持ちが強いほど、この世界は影響を受けちゃうんだって。

 むしろ“あすかがいるから”私もここで一人じゃないんだと思う。」


獣が続ける。


「物語の中心へ向かえば、いずれ“門”が見つかる。

 そこを通れば、元の世界に戻れるはずだ。」


「その場所はどこにあるんですか?」


獣は巨大な爪で森の奥を指し示した。


「森を抜け、丘を越え、光る川を渡れ。

 そこに“カステラの釜”がある。

 本来ならば“グリとグラ”がたどりつく場所だ。

 そこが、この物語の中心だ。」


あすかが小さく息を飲む。


「……じゃあ、グリとグラもいるの?」


獣は静かに笑った。


「会えるだろう。だが、物語が乱れている今の姿は分からぬ。」


私は深く息を吸い込んだ。


やるしかない。

この世界から帰るために。


「あすかちゃん、行こう。必ず帰ろうね。」


あすかは不安そうにしながらも、ぎゅっと私の手を握った。


「……うん。ひな先生がいるなら、大丈夫。」


獣がゆっくりと頭を下げる。


「旅路に気をつけよ。

 ──この卵を取り戻してくれた礼に、一つ“加護”を授けよう。」


その瞬間、獣の瞳が眩しく光った。

金色の光が私とあすかの体を包み込む。


胸が温かくなり、心が強くなったような気がした。


「これは“道を見失わぬ加護”。

 心が折れぬ限り、そなたらは進むべき方向を感じ取れる。」


「ありがとう……ございます。」


獣は卵を抱えたまま、静かに森へと消えていった。


残されたのは、私とあすか。


そして——

“物語の中心”へ向かう旅が、いま始まった。

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